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災害大国・日本を守れーあらゆるデータで災害を予測、検知する防災テックのSpectee

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地震に津波、台風…災害大国の日本では「防災スタートアップ」というカテゴリが存在する。その中で活躍する1社がSpecteeだ。SNS、気象データ、自動車の走行データ、道路や河川のカメラデータ等から解析した災害情報を、配信プラットフォームである「Spectee  Pro」を通じて、600社以上の企業と100以上の自治体に届けている。市民の安全はもちろん、天候の影響を受けやすい物流や小売店への影響予測にも使われる。

さらに、2D/3Dマップを用いて洪水時の浸水状況をシミュレーションをしたり、道路の路面凍結状況を画像解析で判定したりする。最近では、自衛隊が出動することもあるくらいの豪雪地帯である福井県で、人の代わりに路面状況判定をしてくれる「AI路面状態判別技術」を用いた実証実験も行われた。

誰かを守りたい、けれど守る人の健康や安全も確保したい。そんな彼らを助けるSpecteeは今日もどこかで災害を検知し、予測し、誰かの命を守っている。

Specteeは、いつ構想され、どのように成長してきたのだろうか。代表取締役CEOの村上建治郎(むらかみ・けんじろう)氏にお話を伺った。

これまでのキャリアと、創業のきっかけをお伺いできますか。

私は東京都で生まれ、アメリカのネバダ大学理学部を卒業しました。新卒でソニーの子会社であるエー・アイ・アイに入社。そこではソニー製品のゲームコンテンツ配信の企画、事業開発、法人営業などに携わりました。2005年にアメリカのCharles River Laboratoriesに転職し、日本企業向けにマーケティングを、2007年にはシスコシステムズに転職し、在職中に早稲田大学大学院でMBAを取得しました。その後、2011年に独立して現在のSpecteeの前身となるユークリッドラボを起業しています。

Specteeは防災SaaS。私が起業した2011年は日本で東日本大震災が起きた年でした。当時は会社員でしたが、ボランティア休暇と有給休暇を使い被災地ボランティア活動をしていました。現場で感じたのは、マスメディアで流れている情報と、現場の声に随分と乖離があるということ。これまでは、テレビやラジオからの情報収集が中心だったかと思いますが、スマートフォンの普及により、FacebookやTwitterなどで情報を発信、収集する人が増えました。自分の肌感覚としては、現場の状況を知るために便利だったのはマスメディアではなくSNSのほうでした。それならば、災害発生時にはSNSのリアルな情報をまとめれば役に立つのではないか、と思ったのがSpectee起業のきっかけです。

学生の頃から誰かの役に立ちたいというモチベーションが強い方でした。私自身は、阪神大震災の時には神戸におり、地震の被害というのを目の当たりにしました。発生後には現地でボランティアをしていました。その体験があったからこそ、東日本大震災のときは、単に義援金を送るといった間接的な手伝いだけではなく、現場できちんと状況を見て、自分の手を動かして手伝いたかったんです。Specteeの起業にあたっても、私自身はエンジニアのバックグラウンドではありませんが、何かできることはないかと考え、仲間を集めて動き始めた、というスタートになっています。

実際に起業されてみていかがでしたか。

現在のSpecteeをリリースしたのは2014年でしたが、スタートアップ市場は今ほど盛り上がっていなくて、資金調達も簡単ではない時期でした。最初の頃は事業計画を立てるのが大変でした。防災テックは今でも数が多くありませんが、当時は市場にほとんどサービスが存在しない領域でした。投資を受けようにも、投資家側にもまだ知見がなく、銀行融資と同じように堅実な形で調達を進めなければなりませんでした。2016年にフジ・スタートアップベンチャーをリードにシード調達。2017年10月にはYJキャピタルなどから2.6億円。2019年には従来からの販売パートナーでもあるソニー・ビジネスソリューションと資本業務提携をさせていただきました。調達の裏側としては、PMF(プロダクトマーケットフィット)を目指して地道な営業を続け、顧客との契約が取れて、と段階を踏んで実現の可能性が見えるようになっていき、それにつれて出資も決まっていった、という状況でした。

社風や、採用方針についてお伺いできますか。

弊社は防災を含めた危機管理の企業なので、採用方針としては、社会貢献意識を強く持ち、自分たちの仕事が人命に関わっているということを理解いただいている方が望ましいです。被災をしたといった原体験があるかどうかではなく、防災分野そのものにどういう思いをもっているかというところを重視しています。実際に、今在籍中のメンバーは思いが強い人が多いですね。

ミッションは「危機を可視化する」。可視化とは、現在だけではなくて未来も見えるようにしていくものだという意味を込めています。世界中で発生するさまざまな危機に対し、情報の可視化、予測をしていくことを目指しています。

グローバル展開について方針をお伺いできますか。

実は、2014年当初に事業内容の発表をしたのは欧州のルクセンブルクにおいてでした。駐日ルクセンブルク大使館が日本からルクセンブルクへスタートアップを連れていくというグローバルITスタートアップピッチプログラムを定期開催していまして、偶然それにジョインした形でした。

この時にプレゼンした初期のSpecteeは個人向けだったんです。そこから法人向けにピボットし、今の「Spectee Pro」の形になっています。元々海外志向は強かったです。新聞社などの報道機関向けの情報配信サービスも展開しているのですが、AP通信やロイターと事業提携して海外向けにも配信をしています。海外で発生する災害情報も扱うため、英語や中国語など外国語圏の人材も採用していますし、アメリカ、欧州、アジアと様々な地域に社員がいます。情報配信サービスとしてはすでに海外向けに事業を展開していますが、防災情報や予測については、現在計画を進めており、これからが本格的な海外進出と考えています。

事業を継続させるのは、資金でも人でもなく起業家の情熱

学生時代についてお伺いできますか。

私はアメリカの大学を卒業していますが、学生時代はアメリカにとりあえず行ってみたいという気持ちで留学しました。当時はシリコンバレーがまさに盛り上がり始めた頃で、大学生でも起業する人が多かったです。日本にはそんな風潮がまだ全然なかったので新鮮でした。自分が起業したいかはともかく、とにかく面白くて、イベントに参加するなどして界隈の方々と関わっていました。ちょうどマーク・ザッカーバーグがハーバード大学でFacebookを始める直前くらいの頃です。起業したいというよりは、シリコンバレーのスタートアップに就職してみたい!という気持ちが強かったですね。

大学卒業後は、一度帰国をして、まずは日本で就職活動をすることにしました。一方で、スタートアップへの憧れもありましたので、IT関連の会社を探して当時ソニーからスピンアウトしたばかりのエー・アイ・アイという会社への入社を決めました。この会社は今でいうNetflixのような存在です。例えば、今でこそ韓流ドラマが流行していますが、当時のIP(知的財産権)を整理して、日本市場でのコンテンツ配信の流れを作った会社の1つです。その後の転職先の一つであるシスコシステムズはシリコンバレーにある企業です。そういった意味だと、転職を経てシリコンバレーの会社で働きたいという希望を途中で叶えて、それから起業に至っていると言えるのかもしれませんね。

週末や空き時間などにされていることを教えてください。

土日を含めてほとんど仕事をしていますね。去年の9月頃からジムに行きはじめて、1週間に2度のペースで水泳をしています。1時間くらい泳いでいますが、無心になれて良いですね。コロナ禍になってから飲み会も減りましたし、経営者同士で色々と情報交換をして切磋琢磨するフェーズも過ぎましたので、最近は社内の仕事に没頭している気がします。

プレシード期からシード期のスタートアップへメッセージをいただけますか。

自分を信じること、でしょうか。未来を正確に予想できているのは、投資家よりも起業家であると私は思っています。未来を作っているのは起業家本人なので、本人が諦めさえしなければ、起業家の描く未来というのはやがて実現するのです。私自身も資金調達をするとき、防災市場は広くないといったコメントを頂いたこともありました。ですが、市場は自分で開拓することもできますし、実際に広がってきてもいます。当事者にしか見えていない景色があるからでしょう。自分のビジョンを疑わず、実直に、言われたことも参考にしながら、自分が何をしたいか、そのために何が必要か、にフォーカスしていくのが良いのではと思います。

そして大切なのは、続けるための情熱を持ち続けられるかだと思っています。会社を畳む起業家を何人も見てきましたが、その一番の理由は、お金がなくなったとか、チームが解散したとかからではなく、起業家本人の情熱が無くなってしまったから、だと思うのです。情熱があれば、課題があっても諦めるのではなく、課題を解決する方法を考えるはずです。30代前半くらいまでなら、資金調達をしなくてもアルバイトでもしながら生活を支え、事業を継続することはできます。弊社も資金調達で悩んだことはありましたが、事業を停止しようとは思いませんでした。資金が溶けていき、周囲からもいろんなことを言われると、自分の当初の思いを見失いがちです。自分が本当に実現したいことがあったはずなのに、何が優先なのか分からなくなっていきます。自分自身が目の前の事業に情熱を持てているか、そういう自問自答をしなければならない局面がやってきます。そうなったとしても続けられるよう、自分でやろうと思ったことに全力を投じることが大切ですし、その情熱、あるいは情熱が途切れないための環境づくりをコントロールができる人がスタートアップの経営者に向いていると言えるのかもしれません。

これから自分達が目指していく世界と、読者へのメッセージをいただけますか。

日本は、地震、津波、台風、異常気象と、世界でも類を見ないほどの災害大国です。この国には、いかに被害を最小限に抑えるか、被災する人を少なくしていくかという課題がまだまだ残されています。スタートアップにもぜひ防災分野に挑んでほしい。日本はやれることも多く、災害大国だからこそ防災意識が高くポテンシャルのある土壌。防災領域は欧米ではユニコーンが登場している市場でもあります。日本からの防災スタートアップの輩出、ぜひご一緒できればと思います。