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「世界で勝負をかけたい」UCLAでの研究成果からアメリカで創業。Neural X・仲田真輝氏の挑戦

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「世界で勝負をしてみたい」 そんな野望を持ち、アメリカでDeep Techスタートアップに挑むNeural X仲田 真輝(なかだ・まさき)氏

生命活動の原理原則を解き明かし、それをシミュレーションモデルとして再構築することで、メタバース上にリアルな生命の姿を再現する。そのようなテーマの研究を続けてきた仲田氏は今、フィットネスや漁業の分野でその技術を発揮している。しかし、決して一足飛びで現在のNeural Xの事業にたどり着いたわけではなかった。

仲田氏がNeural Xを創業した経緯、AR事業の失敗経験から得た学び、アメリカで日本人が起業するメリットやデメリット、今後の展望などについて詳しく伺った。

Neural Xを立ち上げるきっかけとなった「人工生命」の研究

Neural Xの事業は、仲田さんがカリフォルニア大学ロサンゼルス校(以下、UCLA)で10年近く行っていた研究の内容がもとになっているそうですね。

そうなんです。僕はUCLAで、ざっくりと表現すれば「人工生命」をテーマに研究をしていました。その成果で特許を取得し、現在アメリカでDeep Techスタートアップをやっています。

「人工生命」の研究とは、どのようなものなのでしょうか。

私たち人間やそのほかの動物などの「生命の仕組み」を明らかにし、その原理原則に基づいて、コンピューターの中で生命を再現する。分かりやすく言えば、そのような内容の研究です。

昨今話題のAIは、「吐き出すアウトプットがいかに人間らしい知的さを持っているか」という点に大きな注目が集まっていますが、我々の行う人工生命の研究は、人間の身体の動きや仕組み全体が研究対象です。関節の動きや筋肉の収縮によって生まれる動力、眼球の構造とそれによって生じる視力の仕組み、そういったものをすべてコンピューターでモデル化することで、メタバース上に人間のレプリカをつくることが可能になるのです。

僕はその研究内容から得られた技術の一部について特許を取得し、社会実装を実現すべく、弊社で事業に取り組んでいます。

人工生命の研究に取り組み始めたきっかけは、何だったのでしょう?

もともとは、人間をシミュレーションしたかったんです。「人間を二足歩行のロボットで再現する」ということをやりたくて。でも、僕が大学で学び始めたころのロボットは、まだまだ実際の人間とはほど遠いクオリティのものでした。動きは全然スムーズではありませんし、知能も人間に及ばなければ、よく転ぶ。工学的なアプローチでは、僕の思い描く人間のようなロボットの実現は難しいと感じました。そこで目を付けたのが、人工生命の研究でした。

そのような研究をもとにしたNeural Xの事業内容を、改めて教えてください。

弊社は現在、私の研究内容をもとに技術開発を行いながら、オンライン・フィットネス・サービス「プレゼンス・フィット(Presence.fit)」を提供しています。これは、運動を解析し、人間を生体力学の観点からシミュレーションする技術を用いて、AIが各個人の運動内容に合わせたフィードバックを行うというアプリケーションです。アメリカで、ToC向けに提供しています。

Credit:Neural X, Inc.

貴社のサイトを拝見すると、2022年11月には魚のシミュレーションシステムも発表したそうですね。

そうなんです。SIGGRAPH Asiaという世界最高峰の学会で科学論文を発表しました。

一見、人工生命の研究とは全く違うことをやっているように思えるのですが、実は根底ではつながっています。人間は構造も欲求も複雑で、シミュレーションモデルの作成は容易ではありませんが、魚は機能や欲求が非常にシンプルです。それゆえ、モデル化しやすい。魚と海洋のシミュレーションモデルをつくることができれば、AIの学習教材を無限に生み出すことが可能です。魚や海で起こりうる多様な状況をシミュレーションし、その結果をAIに学習させておけば、海でこれから起こりうることを精度高く予測できるようになります。現在、養殖業を営む方々にそのシミュレーションシステムを提供しています。

「人生を自分の色に染めたい」と、学生時代に起業を決意

先ほど、大学では人型ロボットについて研究していたというお話がありました。人型ロボットに興味を持つようになったきっかけは、何だったのでしょうか?

何か特別なきっかけがあったわけではありません。SF映画を観たり、もともとメカニック関係のものが好きだったりしたことから、自然とロボットに興味を持つようになりました。

ロボットについて学び考えるために大学で専攻したのは、応用物理学です。高校生のころは、ロボットがソフトウェアとハードウェアで成り立っていることを知らなかったので、物理学を勉強しておけば、その先の道が広がるかと思い、早稲田大学の理工学部応用物理学科に進学しました。

でも、大学で勉強を進めていく中で、ロボットをソフトウェアで制御する分野に大きな可能性を見出すようになって。もともと起業志向があったことから、ソフトウェア制御の知見を蓄積しておけばビジネス化につながるかもしれないと、学部の卒業論文と修士論文では、「ソフトウェアの制御によって、ロボットがつまずいたときにどうバランスを保たせるか」というテーマで研究を行っていました。

起業志向も持っていたのですね。これは何かきっかけが?

強いて言うなら、社会への反骨精神でしょうか。僕は、一般的に見れば「裕福で幸福な家庭」に育ちました。有名な大学を出た父は、世間的に見ても評価の高い企業でサラリーマンをしていて。でも、僕が子どものころに、両親が離婚をしてしまったんです。

当時の世の中は、優秀な大学を出て、一流企業に入社して、サラリーマンとして偉くなっていくことが「幸せな人生」だと思われていましたが、自分の幼少期の体験から、決してそれが幸せの全てを定義しないのではと感じました。

僕は、敷かれたレールを着々と歩んでいくのではなく、自分の人生を自らの足で歩き、自分の色で染めていきたい。そう思ったとき、企業に就職するのではなく、独立して会社を経営するという道に憧れを抱くようになりました。

Credit:Neural X, Inc.

早稲田大学大学院の修士課程を終えた後は、そのままUCLAに留学を?

いえ、4ヶ月ほどですが、株式会社インテルに就職しました。将来起業するならグローバルにビジネスをやっていきたいという思いがあったので、アメリカ系の企業で働きたいと思ったこと、修士課程で研究していた技術の内容も活かせることから、インテルへの入社を決めました。

就職活動の段階で、すでにグローバルを視野に入れていたのですね。

そうですね。グローバル規模のビジネスに目が向くようになったのは、修士のときに1年間、UCLAに研究留学をしたことがきっかけです。UCLAで過ごした1年はあっという間で、アメリカを少しなめた程度の経験しかできませんでしたが、それでも「自分の実力をもっと伸ばさないと世界で勝つのは難しい」と感じることができたんです。このときの経験が就職先を選ぶ基準の一つになりましたし、博士課程でUCLAに留学する大きなきっかけにもなりました。

UCLA在学中、AR事業に挑戦するも時期尚早で失敗

Neural Xを立ち上げる前に、すでに起業経験があると聞きました。

そうなんです。UCLA在学中に、ARに関連した事業で起業しました。僕が研究を通じてコンピューターグラフィックスに強みを持っていたことから、ARやVRが伸び始めたタイミングでスタートアップを立ち上げました。

結果的に1社目を畳むことになったのは、どうしてですか?

「技術の面白さ」と「ユーザーが求めるもの」の間にある大きなギャップに、僕が気づけていなかったことが大きな理由です。

僕ら研究者は、技術で物を考えてしまいやすいものです。面白い技術、世の中の最先端を行く技術を使って勝負をかければ、ビジネスとしても良いものができると思っている。でも、世間の大半のユーザーは、技術なんてどうでもいいんです。ソフトウェアの裏側でどのような技術が活かされているのか、知らないことのほうが多いと思います。ユーザーにとって大事なのは、サービスの使いやすさや、使ったときに感じる高揚感です。ユーザー体験を良いものにしなければ、ビジネスとして成り立たないのです。

しかし、約10年前にAR事業をスタートさせたとき、僕はそのことに気がついていませんでした。ARは非常に面白い技術ですが、当時はまだ、今ほど良いユーザー体験を届けられるものにはなっていなかったのですね。そのため、ユーザーから支持されるようなビジネスをつくることができず、結果として事業は失敗に終わってしまいました。

でも、コンペなどに参加すると、技術は面白く斬新だったため、勝ててしまうんです。僕はそれで満足してしまって、疑似成功体験を得てしまったんですよね。ビジネスとしての成功を考えれば、本当はユーザーの声を聴かなければなりませんでした。それができず、気づいたらコンペの審査員のほうばかりを向いていたのが、1社目の大きな敗因だと思っています。

Credit:Neural X, Inc.

その反省を活かして、現在の事業ではビジネス目線を持てるメンバーをチームの一員に加えているそうですね。

おっしゃる通りで、現在の事業では、ビジネス目線で物事を考えられるメンバーにチームに加わってもらいました。なおかつ、自分でビジネスアイデアを決めることが大きく減りましたね。ほとんど携わらなくなりました。今は、マーケットの声を聞き、自分を疑うことを常に心がけています。

ちなみに、UCLAでの研究成果を日本に持って帰り、日本でグローバルスタートアップを目指すという選択肢もあったかと思います。それでもアメリカで起業する道を選んだのは、どうしてですか?

せっかく勝負するのであれば、世界を相手に大きく打って出てみたいと思ったことが一番の理由ですね。アメリカのマーケットで勝つことができれば、世界での勝負もしやすくなります。また、アメリカは、自分自身の成長も見込める場所なんです。僕は今、ロサンゼルスやニューヨークを中心に活動しており、さまざまな方に出会いますが、お会いするすべての人から文化や考え方の違いを吸収できると感じています。こちらにいると、勉強になることがすごく多い。まだまだ刺激を受け、成長していきたいと思うと、アメリカでビジネスをやるということは、自分の生き方としてもしっくりときたんですよね。

日本人がアメリカで起業するメリット・デメリットとは

アメリカで起業してみて、日本人起業家であることのメリットとデメリットをどのように感じていますか?

デメリットに関しては、いろいろありますね。日本はまだ単一民族の国ですから、言語の壁はもちろん、文化や風習、仕事観、人生観の違いなどを知るところから、超えるべきハードルがいくつも出てくると思います。あとは、現地での人脈づくりも、最初のうちは難しさを感じるかもしれません。

でも、これまで日本が世界で築いてきたイメージが、大きなメリットをもたらしてくれることも多いんですよ。例えば、「日本製品は高品質で安心」というイメージを持っている方が多いからこそ、日本人であることを伝えると、相手が無条件である程度の信頼感を持ってくれます。

あとは、文化的なところの影響も大きくて、アニメや漫画、ファッションなどに面白さを感じてくださっている方も多いため、「ユニークで面白い日本人」というイメージのもとに、勝負をかけやすい部分もある気がしています。

東京五輪の招致を行うプレゼンテーションで、滝川クリステルさんが「おもてなし」の精神をアピールしていましたが、ああいった文化も素敵なものだと捉えてくださっている方が多いので、「おもてなしが得意な日本人」というイメージがついていることは、ビジネスをする上でプラスに働く場面も多いはずです。

Credit:Neural X, Inc.

逆に、アメリカと比較したとき、日本で起業するメリットはどこにあると思いますか?

キャピタルの部分でしょうか。日本は経済規模が世界でも上位に入るにもかかわらず、アメリカと比べるとまだスタートアップが少ない国です。アメリカには猛者のようなスタートアップがたくさんいますから、VCなどもたくさんいる一方で、激しい競争にさらされます。

その点で言えば、日本のスタートアップはまだニッチな世界。資金調達などは、アメリカのスタートアップ市場と比べると、比較的やりやすい環境にあるのかなと思いますね。

「仲間集めは時間をかけるしかない」 研究シーズで起業する際に意識すべきこと

研究シーズを事業化する上で、意識すべきポイントがあれば教えてください。

研究の世界にいると、自分の研究内容は普通のもの、特に優れてはいないものと思ってしまいやすいものです。しかし、改めて自分の研究を客観的に振り返ってみていただきたいなと思います。ひとたびビジネスの世界に行くと、自分の研究テーマに対してユニークさを感じてくださる方も多いものだからです。

マクロな視点で見たときに、自分の研究がどのような面白さを持っているのかを把握し、その技術をどう社会に活かすのかを考えてみると良いかもしれません。ただ、ビジネスで達成すべき目的と研究で達成したい目標は一致しないことがほとんどです。研究シーズをもとにDeep Techスタートアップを立ち上げたいのであれば、ビジネス上の目的は再定義すべきでしょう。

そして、ビジネスの世界では2~3年で成果を出さなければならないからこそ、自分を過信するのは禁物です。研究者は研究では優れているかもしれませんが、ビジネス的な感性で言えば、自分よりも優れている方は世の中にたくさんいます。自分で全部をやろうとせず、ビジネス目線を持って事業化に取り組んでくれる仲間を探すのも、一つの方法として意識しておいていただけると良いのではないでしょうか。

仲間を探し、チームを組成するのにはかなり難しさも伴うと思うのですが、仲田さんが起業時に注意していたポイントなどは何かありますか?

スタートアップが失敗する大きな理由の一つに、創業メンバーの瓦解があります。昨今日本でも研究シーズと起業家をマッチングする動きが活発化していますが、そうした取り組みはDeep Techスタートアップの成功確率を上げる側面がある一方、技術や能力だけでのマッチングではうまくいかないケースも出てくるのではないかと感じています。

やはりスタートアップの経営は人対人で行う部分も大きい。だからこそ、研究者が創業を目指す場合、仲間集めには時間をかけるべきだと思います。僕自身、会社をつくったときの共同創業者は、7年来の深い付き合いのある方にお願いしました。彼とはアクセラレーションプログラムで出会い、メンターとして僕のことを支えてくださっていて、よく食事に行く仲でもあったんです。人となりが分かっていたからこそ、共同創業者としてうまくやってこれたのではないかと思っています。

もし研究者として将来的な創業を考えているのなら、月に1回、四半期に1回の頻度で構わないので、起業家やビジネス人材と出会える場所に出かけていくのをおすすめします。2~3年の時間をかけて、じっくりと仲間を探してみてください。チームづくりを成功させる方法は、やはり「時間をかける」以外の方法はないのかなと感じています。

「世界での経験は必ず自分の糧になる」 世界を目指す若手起業家へのメッセージ

今後の展望と、つくりたい世界観をお聞かせください。

弊社は技術の会社なので、今後も動作解析を軸に、フィットネスだけでなく幅広い領域で事業を横展開させることができればと考えています。

そしていずれは、シミュレーション技術を活かして、メタバースの中にリアルを再現するということを実現したい。雨や風、山、海といった自然現象もそうですし、家具や建物、人間も含めてリアルな姿を再現し、メタバースの中で人が生活する未来をつくり出すことができたらと思っています。

そして、人間をシミュレーションで完全に再現できるようになれば、メタバースで人が暮らすという活用だけでなく、医療の発展などにも貢献できるはずです。さらに、シミュレーション上でさまざまな実験が精度高く行えるようになりますから、自動車や機械などの安全性をより高めることにもつながります。

技術の開発を通じて、シミュレーションで生命を再現し、社会に新たなインパクトを与える。そこに向かって、会社として進んでいければと考えています。

日本から世界を目指すスタートアップや起業家に向けて、応援メッセージをいただけないでしょうか。

私からは、特に若い起業家に向けてお話をしようかと思います。若いうちは、失うものがほとんどありません。時間と多少のお金、その時に就いていた仕事のポスト。もし失ったとしても、それぐらいのものだと思います。

であれば、世界を相手にビジネスをしたいのなら、自己投資だと思って今のうちに世界に出てみてください。例えばアメリカで勝負をしてみて、その後日本に帰る決断をしたとしても、アメリカで経験したことや感じたことは、ご自身の糧になると思います。現地の文化、風習、働き方などを知っていることは、日本で仕事をする中で自分を客観視するために大いに役立ってくるでしょう。

もし今、海外で勝負をかけてみることに悩まれている方は、一度アクションを起こしてみてはいかがでしょうか。どのような結果になろうと、自分のキャリアにとって良い影響しかないと思います。日本の中で悶々と悩んでいるよりも、まずは外に出て、そこで見聞きしたことをもとにこれからのことを判断してみる。それが何よりも大切なのではないかと思います。

最後に、スタートアップに興味のある読者に向けてメッセージをお願いいたします。

スタートアップで働くということは、多様な生き方のうちの一つです。新しいものが好きで、チャレンジ精神や好奇心が旺盛な方は、日々ダイナミックに変化するスタートアップでもきっと楽しく働けると思うので、ぜひ挑戦してみていただけたらと思います。一方で、安定が好き、波風を立てることがあまり好きではないという方は、もしかすると大手企業のほうが合っているのかもしれません。ご自身の性格や生きたい人生のことも改めて振り返ってみて、この先の道を決めていただけると良いのではないでしょうか。

とはいえ、今の時代は、大手企業でも倒産する可能性がゼロではありません。スタートアップは、自分の名前で、自分の責任で動いていかなければならない世界ですから、そうしたリスクのある時代においては、実力や柔軟性を高める上でメリットがあるように思います。どのようなキャリアを歩むにしても、自ら動ける人材になっておくことは、意識しておいたほうが良いのかもしれません。