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45兆円の巨大市場に挑む、TERASS創業者 江口 亮介氏の原体験|不動産仲介を働き方から変え、不動産をもっと自由に

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進学、就職、転職、結婚、出産、子どもの独立、親の介護。ライフステージの変わり目に関わる、どんな家に住むのかというトピック。誰にでも必要で使うお金も大きいが、物件を探して選ぶのも、契約周りも、どうにも難しく感じるのが不動産だ。一方、不動産を探す人と不動産オーナーを仲介する不動産エージェントも課題を抱えている。会社員の立場でも、独立して自分でやろうにも、エージェントとしての力を発揮しづらい日本の不動産市場。

そんな状況を打破しようと立ち上がったのが株式会社TERASSだ。優秀な不動産エージェントが顧客提案に注力できる環境を揃え、エンドユーザー側は相性の良いエージェントから提案を受けられる。参画する不動産エージェントは、2022年9月時点で約250名。四半期の取扱⾼も1年で約6倍の約90億円に成長しているという。

不動産取引を検討している人や、従事している人はその名前を聞いたことがある人も少なくないだろう。リクルートに新卒入社し、不動産サイトSUUMOの企画を担当してきた経歴を持つ代表取締役CEOの江口 亮介(えぐち・りょうすけ)氏。不動産業界に関わる方法は他にもあったであろう中で、彼はいかにしてスタートアップという道を選んだのだろうか。

プロ経営者を目指す道の途中で原点回帰したスタートアップ起業

これまでのキャリアと、起業のきっかけを教えてください。

慶應義塾大学経済学部を卒業し、2012年に株式会社リクルート(現・リクルート住まいカンパニー)へ入社しました。不動産サイトSUUMOの広告企画営業として、約100社以上の不動産ディベロッパーを担当。その後、売買領域のメディアプロデューサーとして、SUUMOの商品戦略策定・営業推進・新商品開発などに関わりました。

リクルートに入社してすぐのころは、3年くらいで辞めて起業するだろうと考えていました。私の家系は、祖父と父が事業家、叔父も建築士、従兄弟は心理学の助教授、他にもバンドマン、油絵画家と、個人事業主や事業家が多く、むしろ会社員はマイノリティー。そういった環境で育ったため、自分自身も事業家として生きていくイメージを持っていたものの、学生時代は特にやりたい分野が見つからなかったため、社会人を経験してから起業をしようと思っていました。また、当時はサイバーエージェントの藤田さんなどが注目されはじめた時期でもあり、インターネット事業での起業を考えるようになりました。

リクルートでは、扱う金額が大きいものがいいなと思い、人材か不動産、かつ東京勤務の希望を出しSUUMOに。リクルートは営業が強いことで有名ですが、同期が3ヶ月で営業目標を達成していく中、私はかなり苦戦して、はじめて営業数字を達成するのに12ヶ月かかりました。実はそういった経験の中で、起業したいという思いが薄れていきました。スタートアップもすごいけれど、大きな会社で顧客の会社をより良くする仕事をするということも、社会にインパクトがあるんだなとも思いました。大きいものを良くするということは非常にやりがいを感じることができ、SUUMOの企画開発はとても面白かったです。

そんな中、約5年後の2017年には、戦略コンサルティングのマッキンゼー・アンド・カンパニーに転職されていますね。

当時、『V字回復の経営』などの経営改革に関する本をよく読んでいまして。0から1をつくるより、1を10にするほうが社会へのインパクトが大きくなるのではと考えが変わっていきました。起業家というよりも、プロの経営者を目指した方がいいのではないか、と思うようになったんです。そうなってくると、M&Aや組織設計を経験しておかなければならない。とはいえリクルートに在籍していると、部長やそれ以上に昇進しなければ、そういった案件にはなかなか携われない。プロの経営者と呼ばれるような人たちはどんなキャリアを歩んでいるのかと調べてみると、戦略コンサルティング出身が多く、マッキンゼーへ転職することにしました。

マッキンゼーには経営戦略コンサルタントとして入社し、関わった会社のほとんどがBtoCの企業で、メーカー、飲料、銀行、通信と業界はバラバラでした。プロジェクトとしては新規事業開発、マーケティング戦略、M&A、PMI(合併後の統合)を経験。コスト削減よりはトップラインを伸ばす方が向いており、グロース戦略に携わって大きな案件を担当させていただきました。

その後、2019年4月に株式会社TERASSを起業されましたね。起業に至るきっかけはなんだったのでしょうか。

当時私は28歳、プロの経営者になるにも、管理職を目指すにも、道が長いと感じ、ネクストキャリアを模索するために1ヶ月程度休みをいただいていました。起業というよりは海外スタートアップが日本進出する際のカントリーマネジャーや、スタートアップのCXOのキャリアを模索していたのですが、このころに出会った方から起業を勧められたのです。

いろいろと悩みましたが、マッキンゼーでの昇進、スタートアップへの転職、起業の3択の中で、最も自分にグッとくる選択が起業でした。起業を決意してからは、清水さんにインキュベイトファンドでゼネラルパートナーをされている村田 祐介(むらた・ゆうすけ)氏を紹介いただき、毎週二人で起業アイデアについての定例をすることになりました。一番最初は、不動産、英会話、エンターテイメントビジネスのアイデアがありましたが、自分自身複数の不動産売買を経験しており、何よりSUUMOでの経験もありましたから、最も「Founder Market Fit」しやすい不動産領域に絞ることに。ライブコマース、管理人周りの課題などいくつか模索しましたが、アメリカでも流行していた不動産エージェントに着目したサービスに的を絞り、そこからはほとんどピボットはしていません。

TERASSの事業についてお伺いできますか。

TERASSでは、不動産エージェント向けプラットフォーム「Terass Agent」と、優秀なエージェントから不動産売買オファーが受けられる「Terass Offer(旧・Agently)」の二つを主幹事業として展開。コロナ禍はむしろ追い風となっており、非対面接客の増加、オンライン契約の解禁に伴い、月間取扱高10億円、提案件数4,200件、メッセージ総数23,000件を突破し、急成長を続けています。

特にご苦労なさったことは。

毎日苦労はしていますが、特に最初大変だったのは、Terass Agentのプラットフォームに参画いただき、パートナーとなっていただける不動産エージェントの方を見つけることでした。できるだけ広くアプローチしたい気持ちもありましたが、最初の方々には成功例になっていただかないといけないので、不動産エージェントとして圧倒的に優秀な方でなければならない。個人宛に手紙を出すなどいろいろと試行錯誤を重ねながらでしたので、中川さんというエージェントの方に一人目として入っていただけた時は非常に感慨深かったです。中川さんは不動産業界歴が長いながら、出社義務やエージェントへの報酬キャップなどの業界内の非合理性に疑問を持っていて、もっとお客さんや自分の家族にも時間を使いたい、という想いをお持ちでした。弊社サービスの価値と理念に共感いただいた形です。その後は中川さんを皮切りに、最初は本当にじわじわと増えていった形ですが、現在では月600人近くの応募をいただき、毎月新たに40人ほどの方にエージェントとして参画いただいている状態です。

エージェントになりたいという方も多いと思うのですが、なにか条件などはあるのでしょうか。

不動産仲介を経験されている方のほうがご活躍いただける可能性が高いというのはありつつも、本質的にはクライアントファーストの価値観をお持ちかという点を大事にしています。今までのご経験を通して、ご自身が介在することでどういった付加価値を出してきたか、出そうとしてきたか、徹底的に突き詰めてきた方とご一緒したいです。これからオンライン化が進み、AIで置き換えられていく部分も増えていく中で、不動産エージェントを人間が行うからこその付加価値があると信じています。最適な物件、資金計画などはかなりハイコンテキストな話であり、弁護士や人材エージェント、結婚相談所などと同様に、行間や人柄を読んでマッチングしていく能力が問われます。

アメリカでは、どの不動産の仲介を誰が手がけているかが全て開示されています。日本では情報開示の観点から難しいモデルではあるのですが、最適なマッチングのためにいずれ行えたらとは思っています。TERASSの中ではエージェント表彰制度なども設けています。

調達資金はTerassサービスの拡大に使われているとのことですが、足元ではちょうどシリーズBをクローズされていますね。

2021年にリードとなるグロービス・キャピタル・パートナーズ、インキュベイトファンド、三菱UFJキャピタルの3社より、シリーズAで2.2億円。2022年7月には、シリーズBで、グロービス・キャピタルパートナーズ、SBI インベストメントを共同リードインベスターとし、既存投資家のインキュベイトファンド、三菱UFJ キャピタル、新規投資家のスタートアップスタジオcomboの5社から10億円を調達させていただきました。資金調達は毎回大変ではありますが、シリーズA以降の事業実績もあり、シリーズBではおかげさまで前回より引き合いも多く、スムーズに資金調達は行えました。

組織風土、採用について伺えますか。

フルリモート、かつフルフレックスで働いているので、ミッションに共感して自律的にしっかりと働き、ストレスなく社内コミュニケーションが取れる方に入っていただきたいと考えています。特に当社のメンバーは少数精鋭で固めており、札幌、和歌山、九州などにメンバーがいますが、しっかりインパクトが出せるチームになっています。

毎週全体定例をしている他、半年に1回日本中から集まってオフサイトを実施しています。また、物理的に会えていれば移動中などで雑談が発生しますが、オンラインだと場を設けないとなかなか発生しないため、あえてプライベートな話をする「What’s new」というコーナーを毎週設けています。TERASSは個人を応援していきたいという想いを持っている会社なので、メンバーにも個性があって、それを尊重しあえるチームであってほしいと考えています。プライベートを侵食したいということではなく、自己開示により心理的安全性が確保されてほしいという発想です。地域ごとのコミュニティや部活もありますが、社員同士で遊ぶも遊ばないも本人の自由。選択肢が多い人生を提供することこそが私たちのあり方ですから。

広報戦略についてはいかがでしょう。

不動産というと取っ付きにくい印象で、さらに弊社のサービスはBtoBtoCモデルであることもあり複雑な印象になりがちです。しかし不動産の売買というのは多くの人にとって非常に重要なライフイベント。広い層の方に対して簡単に、わかりやすく伝わる広報戦略を心がけています。新しいサービスのため特にアーリーアダプター向けの発信を強化していて、NewsPicksプロピッカーとしても活動しています。代表の私をアイコンにしていくことも広報戦略の一つ。自分自身の影響力で、採用がやりやすくなるところもありますし、できることはやるようにしています。

戦略コンサルティング時代に培ったヒアリング力で着実な成長を

学生時代はどのように過ごされましたか。

東京都生まれの東京都育ちです。中学校受験をしたのですが、その時に志望校に落ちていまして、実はこれが人生初めての大きな挫折でした。中学校ではバスケットボール部で練習に打ち込みつつ勉強し、高校受験で慶應義塾志木高等学校に合格。高校時代は学園祭で実行委員長をしたり、バイトをしたり、大学入学後はAGESTOCKという学生団体を運営したりと学生時代にいろいろとやりました。

就職活動においてはリクルート以外にも内定をいただきました。新規事業に力を入れ、社内起業なども推進している、楽天、DeNA、サイバーエージェントなどの会社です。DeNAとサイバーエージェントが当時注力していたのはゲーム分野。楽天は配属による影響が大きいことが懸念で、自分が関心ある領域に配属させてもらえる可能性が高かったリクルートに決めました。

休日の過ごし方、リフレッシュ方法をお伺いできますか。

休んでいることに罪悪感を感じるタイプで、週に5日働くところを6日働けば、稼働が20%増やせるのにと考えてしまうんですよね。ですが、そうやって働きすぎて倒れては本末転倒なので、土曜日は必ず休もうと決めています。

気分転換でやっているのはゴルフで、社会人になってからはじめて10年くらいやっています。マッキンゼー時代につくったゴルフ部の仲間とも未だにコースへ出ていますし、TERASSのメンバーと行くこともあります。料理やサウナといった定番の趣味も持っていまして、休日はなるべくスマートフォンを見ないように心がけています。

プレシード期からシード期のスタートアップへメッセージをいただけますか。

至極当たり前かもしれませんが、先人の知恵を借りるのが一番大事です。初めての起業の場合は、資金調達も、人数が増えていくことも、何もかも初めて。とはいえ、初めてなのでわかりませんが通用する世界ではないので、先輩たちに教えを受けたり、本を読んだりして勉強すること。私はマッキンゼーに入社して人に質問することの大切さを学びました。検索だけだと不十分で、実体験を聞くことが最も学びになる。ただし、相手が話してくれることは相手の成功や失敗体験であり、そこで起こったファクトと、話し手の感情は切り分けて吸収するのがコツです。それは他人の体験であって自分の体験ではない。自分の体験をどう捉えるかは自分が決めることなので、ファクトを引き出す問いをいかにうまくできるかを磨いてみてください。

最後に、これからつくりたい世界観と、読者へ一言お願いいたします。

日本の不動産市場は世界で3番目に大きいといわれています。業界内には、今までの先人たちのすばらしい積み重ねもあります。日本の不動産仲介業を破壊するのではなく、よりエンパワーし、支えていきたい。私は自分の実体験がある上でサービスの成長に尽力しており、その分情熱もひとしおです。不動産を買う人、売る人、仲介するエージェント、その全てを自由にしていきたい。自由とは選択肢が沢山あるということ。これまで、不動産業務に従事する人にとっては、会社に正社員として勤務するのか、個人でリスクを負って独立するかしかありませんでした。でも、私たちは三つ目の選択肢としてサービスを提供しています。不動産を売る人に選択肢が増えれば、買う人にも選択肢が増える。多様な出会いにより、不動産取引がもっと自由に、鮮やかになっていってくれればと思います。この想いに共感いただける方はぜひご一緒しましょう。