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大規模言語モデル(LLM)の力で人類の可能性を広げる。Spiral.AIの挑戦

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ChatGPTやBingAIなどの登場で、現代では徐々にAIとの協働が求められるようになりました。特に、ライティングや文章要約などはすでに仕事が置き換わっている企業もあり、今後も文章生成AIの需要は高まっていくと予想されます。

しかし、Spiral.AI代表取締役 佐々木 雄一(ささき・ゆういち)氏は、汎用型のAI・言語モデルではビジネス面において大きな市場の成長は見込めず、今後は「特化型のAI・言語モデル」が重要になると話しました。

今回の記事では、そんな佐々木氏が目指す未来と取り組んでいるサービス、そしてこれから必要とされるAI・言語モデルについて伺います。

ビジネス、AIを学び集大成の起業へ

これまでのキャリアと起業のきっかけを教えてください。

もともと素粒子物理学を研究していて、博士課程ではスイスのCERN(セルン)という研究所で3年間ほど研究に従事していました。ちょうどその時期にノーベル賞につながる粒子であるヒッグス粒子の発見があり、私もその発見に一部関わりましたが、結果として一旦素粒子物理学はやり尽くしたのではと思いました。この先の人生では、ビジネスの知識を身につけないと振れ幅をつくれないと考え、コンサルティング会社であるマッキンゼーに勤めることを決めました。

マッキンゼーではビジネス面で新たな領域を学び、その後複数社を経験した後、クロスコンパスというAIスタートアップに入職しました。4〜50件ほどのプロジェクトに携わり、AIについて学びました。マッキンゼーではビジネス、クロスコンパスではAIについて経験することができた上で、次は創業段階の企業に挑戦してみようと考え、ニューラルポケットというAIスタートアップのCTOとして初期からの参画を決めました。同社には5年ほどいたのですが、その間に上場を経験したり、M&Aを行なった関係で社員数もどんどん増えていき、海外展開などさまざまな経験をさせてもらいました。

そこでまた自信がついたことと、やはり最終的には自分で会社を起こしたいという気持ちがあったため、独立するタイミングだと感じて、現在のAIスタートアップを立ち上げました。

なぜLLM(大規模言語モデル)を取り上げたのでしょうか。

まず前提として、起業する上でやはり一生かけられるトピックを選びたいと思いました。ビジネスの面では、同じテーマに取り組み続けることは有利に働くことが多いですし、私自身としても進化し続ける技術の世界に貢献したいと考えてきました。

そんな中、去年の8月にメタが発表したギャラクティカ(Galactica)という大規模言語モデルに衝撃を受けたんです。そのモデルは科学技術に関する知識が詰まっており、さまざまな学術分野の情報が網羅されていました。その網羅性は凄まじく、例えば私は物理学を学ぶ際に数学や法律などの周辺知識が必要だと感じていましたが、一から学ばなくてもLLM(大規模言語モデル)がこれらの知識を提供してくれるんです。LLMは技術進歩を促進し、人間の可能性を広げるための手法になり得るのではと考え、LLMを取り上げました。

三つのミッションについて教えてください。

  • Spiralに自ら巻き込まれる
  • Spiralに仲間を巻き込む
  • Spiralに世界を巻き込む

まず、「Spiralに自ら巻き込まれる」というのは、自分をいかに変化させていけるかという部分になります。昨今ではChatGPTをはじめさまざまな技術が日々生まれていますが、その技術に対して意欲を持ってキャッチアップしていき、自分で適応していくのが重要です。

次に、「Spiralに仲間を巻き込む」というのは、自分でキャッチアップした情報を共有していったり、仲間を助けて、仲間に助けられてという関係でチームを形成していく考え方です。周りを巻き込んでいくことで、お互いに気づきを与えられる存在になれればと思っています。

最後に、「Spiralに世界を巻き込む」は、やはり世界を変えていきたいという思いです。日本は個人情報の保護など革新に慎重になってしまう側面が大きく、世界に出遅れている印象です。もちろんそのような話し合いも重要ですが、いかにして世界の技術的進化を加速させられるかを意識していきたいです。

言語モデルで社会のグレードアップを図る

改めて事業概要を教えてください。

メインのプロダクトである「Spiral.Bot」は、「カスタムChatGPT」をつくることができる高機能AI言語モデルプラットフォームです。機能としては大きく二つあり、一つ目が独自の知識を持たせられる点です。例えばChatGPTではOpenAIのサーバー内にあるデータを全ユーザーが共通して使っています。つまり、登録されているデータの中で間違っている情報があるから直してくれ、というようなリクエストには逐一答えることができません。一方、Spiral.BotではWebページを読み込んだりすることで利用企業ごとに独自のデータを入力することができ、正しい回答の出力につながります。また、学習機能により間違った回答を減らしていくことも可能です。

そして二つ目は、独自の口調でチャットの文章が出力できる点です。チャットボット系のサービスでは、FAQページなどをつくる際に企業固有のキャラクターに喋らせたいなど、イメージキャラクターの口調に合わせたいというニーズがあり、現状のChatGPTのみでは難しいような課題があるんです。そこで、Spiral.Botでは独自の口調にできるカスタマイズ機能を実装しています。また、そのほかにも「Spiral.LLM」という分野特化型の言語モデルをつくるプロジェクトがあります。

例えば、特定の都道府県における行政に詳しいモデルや、もっと狭めると文京区のスイーツショップに詳しいモデル、またギャラクティカのように物理学に特化したモデルなど、特定の専門知識を持ったモデルです。中でも、需要として大きいのは社内データに特化した言語モデルをつくることで、社内のことをとりあえず聞ける存在としての活用が期待されています。

現代において、大規模言語モデルが持つ力とはなんでしょうか。

現代における言語モデルが持つ力は、ある意味ではドラえもんのようなイメージです。そこを動線にさまざまなサービスにアクセスできるほか、カスタマイズ性の向上によって個別具体性を深めることで、自分のことを知り尽くしている存在となります。

例えば、自身の興味関心をよく理解してくれている言語モデルが、自分の趣向を踏まえて記事を見つけてくれたり、ご飯屋さんを探してと言ったら自分の好きな食べ物やお店の雰囲気を踏まえて探してくれるなど、信頼できる秘書のような存在となります。このように、個別ドメインに特化していくことで得られる利便性、信頼性は言語モデルが持つ力と言えます。

新しい技術に適応していく人が時代をつくっていく

会社の育成環境について教えてください。

常に最新の技術、情報に追いつくことを重視しています。メンバーで論文を読む「論文読み会」もその一環で、最新のテクノロジーを理解し、メンバーの育成につなげています。また、言語モデルの使い方や海外のサービスとの連携など、最新の言語モデルを事業に活かす取り組みも行っています。

組織風土的には、一緒に考えるような文化を大切にしており、誰もが得意分野を一つ持ちながら、お互いに尊敬を持って教えあえる環境を意識しています。

今後、どういう人に入社して欲しいですか。

組織風土にもありましたが、お互いに尊敬できるかが重要だと思っています。私が相手を尊敬できるか、また相手が自分を尊敬してくれるかを考えています。また、最新の技術が好きな方は歓迎しており、ChatGPTひとつとってもプロンプトエンジニアリングの発達や、プラグインなどの周辺ツールなど情報はどんどん増えているので、そのあたりに抵抗なく順応できることは大事だと思っています。

学生時代はどのように過ごされましたか。

博士課程を出た方に研究はどうだったか聞くとつらかったと言う方が多いですが、私は楽しくてしょうがなかったです。冒頭で話したように一区切りだと思い研究はやめましたが、嫌なことは全然なかったです。なのでもう一度チャンスがあれば戻りたいとも思いますし、そのような気質は幼少期から変わっていないように思います。例えば、ニューラルネットワークについて初めて本を買ったのは小学校5年生のときなのですが、大学の工学部の方が読むような内容で、結構難しい数式などが含まれていたんです。それを一つずつ調べて、ひたすら書き込んでいくような小学生でした(笑)。

休日の過ごし方、リフレッシュ方法などはありますか。

休日は子供と遊ぶことが多いですね。公園に行ったり、電車を見に行ったりというようなことが多いです。あと趣味としては、始めて間もないですがロードバイクに乗っています。

プレシード期からシード期のスタートアップへメッセージをいただけますか。

まずはお互い頑張りましょうというところですが、僕が唯一言えるのは、信頼できる人をアドバイザーにつけるという点です。私の場合はニューラルポケットの元CFOに相談していますが、多くのスタートアップではプレシード期になかなか相談できる人がいないと思います。VCの方で手伝いますよと言ってくれる方もいらっしゃいますが、やはりビジネスとして利害関係が発生し得る相手なので、100%信頼するのは難しくなってきます。なので、先輩起業家など、インセンティブが発生しなくても相談に乗ってくれる方をアドバイザーにつけて、信頼できるアドバイスをもらえる関係をつくることが重要だと思います。

これまで、ご自身や事業の成長に寄与したものは何かありましたか。

ニューラルポケットの経験は大きく関わっていると思います。特にAIの社会実装については学ぶことが多かったです。例えば、防犯カメラに画像認識のAIを導入して、車の認識に使うというシンプルなアイデアひとつとっても、北海道の雪に埋もれた車の認識や、沖縄の嵐で車が見えなくなった場合など、対応策が求められることもありました。このように、全国展開していると、個別の問い合わせに対応するだけでは限界があり、AIの性能そのものを向上させて、どんな状況でも対応できるようにする必要があったんです。このような点はアカデミアの研究とは異なる側面があります。言語モデルにおいても同じような問題に直面する可能性があり、経験が活きている部分です。

また、チームワークの重要性も振り返ると分かります。もともと全て一人でやってしまおうというタイプだったのですが、これまでの経験の中で、コミュニケーションの工夫や信頼関係の構築など、チームをつくることで一人ではできないことが実現できました。

今後の展望について上場なども含めて教えてください。

以前の経験から上場の難しさや複雑さを学んだため、上場しなくてもいいかなと思ったこともあります。しかし、経験としては非常に大きいできごとです。入社してくれたメンバーたちに上場を経験してもらいたいという思いから、目指すポイントの一つとしています。

また、中長期的な戦略として「Spiral.X」という新規事業開発を進めています。内容としては言語モデルの活用による新たなビジネスの創造と、技術の進化を目指す取り組みです。この構想では、我々のような組織が事業創造をすることに意味があると考えています。私たちは、従来の産業、サービスに言語モデルを導入することを進めていますが、それが結果的に雇用喪失につながるおそれがあるためです。例えば、英会話教室でチャットボットを導入して24時間レッスンが可能になったときには今まで雇っていた先生を解雇することになります。この例に限らずですが、言語モデルをフル活用して事業提供するには授業員を抱えずに新規参入する黒船的な立ち位置が良いんです。

そのため、我々が言語モデルによって新しいビジネスを創造し続ける存在になること。そしてより多くの人々が言語モデルの利益を享受できる社会を実現したいと考えています。

最後に、読者へ一言お願いいたします。

言語モデルは間違いなく社会を変える力を持つものだと考えています。言語モデルの存在だけでは世の中は変わらないという立場もありますが、間違いなく言えることは、言語モデルの賢さは今後も向上し続けるということです。社会がどう変わるかまでは分かりませんが、インターネットが当たり前になったように、さまざまな場面で言語モデル活用の必要性が出てくるはずです。

そこで重要なのは、変化を受け入れて活用する側になることです。例えば、ライティング業務がChatGPTによって40%代替されるとしたら、仕事を40%取られるのではなく、40%削減できるという考え方です。やはり変化を受け入れて使いこなした方が絶対お得だと思うので、その認識を持っておくのは重要だと思います。

最後に、ポジショントークをさせてもらうと、言語モデルによってさまざまなインパクトが起きていますが、やはりぶっ壊される側よりぶっ壊す側のほうが面白いと思います。Spiral.AIを含めて言語モデルを活用している会社は、そういう意味ではぶっ壊す側です。社会を変えていく側になっていきたいと思う方にとっては、転職先の候補として検討する価値があると思います。