現在の日本におけるスタートアップの資金調達は、ベンチャーキャピタルや個人投資家、企業などから株式による調達を行うことが主流である。ただ、資金調達の方法はなにもエクイティだけに限られない。企業の事業戦略によって、金融機関からの融資を受けるという選択肢もあり得るものだ。
そのような資金調達の方法に、近年、新たな方法が加わったのをご存知だろうか。アメリカを中心に発展した「RBF(レベニュー・ベースド・ファイナンス)」という、将来収益予測を基に、資金調達できる手法がある。そんなRBFを日本でも実現し奮闘しているのが、株式会社Yoiiの宇野 雅晴(うの・まさはる)氏だ。今回、宇野氏にインタビューを実施。RBFの特徴やメリットデメリット、Yoii Fuelの事業アイデアにたどり着いた背景、今後のビジョンなどをたっぷりと語っていただいた。
資金調達に新たな選択肢をもたらす「Yoii Fuel」とは
まず、Yoiiの事業内容について教えてください。
弊社はスタートアップの資金調達に「RBF」という第三の選択肢を提供する「Yoii Fuel」を運営しています。RBFとは、エクイティとデットのいいとこ取りをした資金調達手段の一つで、RBF企業が過去の売上データから将来収益を予測し、資金調達する企業は、その予測を基にして資金が調達できる方法です。主な顧客はSaaS企業やDtoC企業を中心としたスタートアップ向けに、サービスを展開しています。
RBFは、株式や借入による調達とどのように異なるのでしょうか。
株式による調達では、会社の所有権(株式)の移転が発生しますが、RBFでは創業者の株式持ち分は希薄化しません。また、財務データと売上データと連携することですぐに審査を始められるため、借入のように何枚も書類を作成し、やり取りを重ねる必要もありません。個人保証や担保も不要です。資金調達コストも株式と借入の中間くらいなので、株式よりもコストを抑えつつ、借入よりも素早い資金調達を実現できます。
もちろん、メリットばかりではなく、RBF利用前に検討しておくべきデメリットもあります。例えば、RBFは将来発生する売上を予測しますから、売上(MRR)が積み上がっていない場合、期待した資金調達ができない場合があります。過去の売上の価格変動が大きい場合も同様です。また、売上がほとんど立っていない企業の場合、エンジェルラウンドよりも小さな額しか調達できない可能性もあります。
貴社サービスならではの強みや特徴についても教えてください。
Yoii Fuelの特徴は、大きく二つあります。一つ目が、申し込みから着金までのスピードが速いという点です。審査に必要な会計・決済システムとの連携と売上データや財務情報のアップロードを行っていただければ、その時点から6日以内、最短で2営業日で契約締結と送金が可能です。
二つ目は、API接続によるUI/UXの使いやすさです。会計ソフトfreeeなどとのAPI連携ができますので、売上のトランザクションなど、必要なデータをソフトから引っ張ってくることができます。お客様のほうでわざわざ資料を用意いただかなくても良いため、審査書類の準備にかかる手間を大きく減らすことができます。
売上予測の部分に関しては、貴社ならではの技術を使っていると聞きました。
そうですね。金融領域の研究論文や金融の専門家によるアドバイスなども参考とさせていただきながら、伝統的な金融審査の手法にRBFとマッチするような手法を組み合わせ、弊社独自のアルゴリズムで将来売上の予測値を算出しています。
事業モデルはアメリカの先行事例を参考に。「RBF」に着目した背景
そもそも、Yoii Fuelの事業アイデアはいつごろからあったものなのでしょうか。
弊社は2021年4月の創業なのですが、その年の1〜2月には事業アイデアが固まっていたと思います。
スタートアップの資金調達にまつわる課題に着目したのはなぜですか?
Yoii Fuelのアイデアにたどり着いた背景には、三つの理由があります。一つ目が、自分のキャリアとして、これまでフィンテック領域に長く携わってきたからです。得意でもあり、興味関心の高い領域でもあるため、これから心血を注いで事業を行っていくのなら、自分が本当に熱中できる事業アイデアに取り組みたいと思っていました。
二つ目が、スタートアップで会計まわりを担当していた際、キャッシュフローの管理が企業経営で非常に重要な要素であると感じたからです。三つ目が、日本のスタートアップの資金調達における選択肢を広げたいと考えたからです。スタートアップといえば資金調達がつきものですが、銀行の融資は今でこそ環境が少しずつ変わってきているものの、以前は日本政策金融公庫などの一部の金融機関からの調達がほとんど。スタートアップが銀行から融資を受けるのには高いハードルがありました。一方でVCからの資金調達は、時間もコストもかかるうえに、議決権を渡す必要もあります。エクイティかデットかという二択ではなく、そこに第三の選択肢を与えたいと思いました。投資さえできれば伸びる事業なのに、お金がないから伸ばせないという非常にもったいない状況を改善したかった。その結果生まれたのが、Yoii Fuelの事業アイデアでした。
スタートアップの資金調達やフィンテックの領域は、アメリカが先進国ですよね。事業アイデアを練るにあたっては、やはりアメリカの先行事例なども参考にされたのでしょうか。
まさしくその通りで、アメリカはフィンテックや金融の領域が圧倒的に進んでいるので、今回のRBFに関してもアメリカの事例や金融関係について書かれたブログなどを参考に事業モデルを構築していきました。とはいえ、アメリカと日本では金融関係の法律も異なるため、RBFを日本の法律や環境に合わせていくにはどうするのが良いか、慎重に進めました。起業前から弁護士チェックなども行い、ビジネスとして整えていった形です。
具体的に、日本とアメリカではどのような部分が異なるのでしょうか?
RBFは国によっては金融ライセンスが必要なのですが、アメリカでは明確に規定する法律がないため、グレーゾーンのままRBFのサービスを展開している企業が多いようです。一方で日本では、債権譲渡という民法規定のやり方があるため、「将来発生する債権の譲渡」という形でRBFを実現しています。弊社は今後、海外展開も考えています。海外に出ていくフェーズになった際は、進出する国の法律なども調査しながら、その国に合ったやり方でサービスを展開させることができればと思っています。
博報堂プロダクツから、スタートアップ3社で築いてきたキャリア
先ほど、Yoii Fuelの事業アイデアにたどり着いた背景には、宇野さんのこれまでのキャリアも影響しているというお話がありました。ここで改めて、宇野さんのご経歴についても教えてください。新卒で博報堂プロダクツに入社されたのは、どうしてですか?
実はもともと、ベンチャー・スタートアップへの就職を考えており、あるスタートアップ企業から内定をいただいていました。ですが、最終的にファーストキャリアは規模の大きい会社のほうが良いのではないかと考え、広告制作の現場に携われる博報堂プロダクツへの入社を決めました。
もともとベンチャー志向があったのですね。
そうなんです。「鶏口牛後」という言葉が座右の銘のように自分の中にあって、社会に出て仕事をするのなら、なるべく小さい組織で自分の責任を大きくして活躍したいと思っていました。それで、就活時は裁量権が大きそうなスタートアップ企業を中心にエントリーしていましたね。
博報堂プロダクツには、何年ほど在籍していたのですか?
2011年に入社して企業のデジタルマーケティングに携わり、約4年在籍して転職しました。転職先は決済スタートアップのOmise(現・Opn)です。
転職理由は、やはりスタートアップ企業で責任を持ちながら、いろいろな仕事に携わってみたかったからです。私が博報堂プロダクツで働いていた当時は、アドテクが全盛期。グノシーなどのスタートアップとも関わる機会があって、彼らの勢いや仕事の仕方に、改めてスタートアップ・ベンチャーへの憧れを呼び覚まされました。やはり自分もスタートアップの世界に行きたいと思い、転職活動をした結果、ご縁があってOmiseに入社しました。
Omiseではどのような業務を担当されていたのでしょうか。
Omiseはちょうど日本支社を立ち上げたタイミングだったため、何もない空っぽのマンションの一室で家具を組み立てるところから、本当に何でもやりました。グローバルのヘッドオフィスの助けを得ながら、市場開拓やパートナーシップの締結、カード会社との連携などにも携わりました。
その後、Omiseとグローバル・ブレインというVCのジョイントベンチャーとして立ち上がった、ブロックチェーン関連の新会社・BUILDの事業統括も兼任。採用など組織の組成部分から携わり、BUILDがアメリカのSTOの会社Securitizeに買収されたタイミングで転職し、Web3.0領域の事業を展開するStake Technologiesに取締役COOとして入社しました。同社では組織マネジメントや財務、社内のルールづくりといった管理業務から、営業活動に暗号資産取引所との共同研究、企業開発案件のディレクションまで担当していました。
そして、Stake Technologiesの後、Yoiiを起業されたと。起業志向はもともとあったのですか?
そうですね。就職活動を経験していろいろな企業をリサーチする中で、新卒のころから、いつか起業しようと考えていました。ただ、新卒でいきなり起業というのは現実的ではないと思ったため、一度どこかの企業に就職してしっかりと勉強してからと思っていました。
公用語は英語、外国籍メンバーも多数。グローバルを見据えた組織運営のあり方
ここからは、貴社の社風などについても、お話を聞かせてください。貴社は創業時から、社内の公用語が英語だと伺いました。
そうですね。創業時から将来的な海外進出を視野に入れていたため、英語を公用語に採用しました。日本のスタートアップが海外に出ていく際、最も苦労することの一つが言語の壁だと考えています。言語はカルチャーを規定する作用がありますから、最初から英語を使っていたほうが、海外展開を行うフェーズになったとしても、ドキュメントや社内コミュニケーションをスムーズに適応させることができると思いました。
なるほど。最初からグローバル展開を視野に入れて、組織体制をつくっているのですね。
スタートアップとして社会的インパクトの大きい事業を手がけていくなら、私としては国内市場にとどまらず、いずれ海外に出るというのは当然の選択肢でした。自分の時間をすべて投下して頑張るのなら、もっと大きいことにチャレンジして、日本だけでなく世界でプレゼンスを出していきたいと思っています。
ということは、貴社で働くメンバーには、海外在住の方もいらっしゃるのですか?
いえ、今は海外在住者はいません。ただ、国籍を問わず多様な人材がジョインしています。最初に採用したメンバーがフランス人で、社内の約半数が外国籍を持つメンバーですね。
多様なバックグラウンドを持つメンバーを一つの組織としてマネジメントする上で、大切にしていることはありますか?
会社としての大きな方針をしっかりと繰り返し伝え続けるという点と、各メンバーが育ってきた環境・文化が大きく異なるので、物事を進める際になるべく詳しく説明したり、相手の言動の背景を考えたりすることを大切にしています。例えば、出身国によっては、人前で注意することを極度に「侮辱だ」と感じる人もいるんです。そういった相手の感じ方や行動の仕方、考え方は宗教や文化、習慣の違いからくることも多い。そのため、メンバーのバックグラウンドに思いを巡らせながら、相手にどう伝えれば良いのか、どういう態度で接すれば良いのかを日ごろから注意深く考えるようにしていますね。
そういったマネジメントのあり方は、宇野さんのこれまでの経験から培ってきたものなのでしょうか。
まだまだマネジメントに改善点は多いと感じるものの、大学時代に1年ほどフランス留学をしていた経験は、組織運営に大きく役立っていると感じています。現地ではフランス人はもちろん、韓国などアジア出身の人とも多数交流があって。育ってきた文化の異なる学生とディスカッションした際に、世界にはいろいろな考え方があるのだと知りました。そのときの経験があるからこそ、Yoiiでもメンバーの背景の違いを想像してコミュニケーションしようと気をつけているのだと思います。
貴社の社風についても、教えていただけますか?
弊社の社風は、新しいメンバーが加わるだけで雰囲気がガラッと変わる規模なので、まだ明確なものをお示しできないのですが、採用ではバリューに沿う人物かという点を重視しているので、バリューの内容は弊社ならではの雰囲気づくりに一役買っているように思います。
バリューでは、「Speed」「Execution in the right direction」「Communication」を掲げています。ただ、この三つだけだとアウトプットは増えるものの、かなり息苦しい社風になってしまう気がするため、四つ目に「Asobi gokoro」を加えてます、まさに遊び心や仕事に楽しみをもたらすことも大切にしながら、バランスの良い社内の空気づくりを心がけていますね。
貴社で活躍しているメンバーの特徴についても教えてください。
課題の認識と設定が明確にできる人は、やはり優秀で活躍しているように思います。あとは、すぐに行動できる人でしょうか。弊社の中ではこの二つの要素を持っていれば、ほかには何もいらないくらいです。
RBFを当たり前に検討する世界をつくり、海外でのサービス展開へ
2022年9月に資金調達を行われていますが、このときの調達はいかがでしたか?
弊社の手がけているサービスが国内では新しい領域に挑戦していることもあり、投資家さんにビジネス内容を理解していただくのにかなり苦労しました。フィンテックは法律も絡んでくるため、ビジネスモデルと法規制をいかに分かりやすく説明して、今後の需要や将来プランに魅力を感じていただけるかという点が前回の資金調達の鍵だったように思います。
リード投資家として、One Capitalに入っていただいていますよね。One Capitalさんとタッグを組むことに決めた理由についても、教えていただけますか?
One CapitalさんはSaaS領域を得意とし、さまざまなナレッジを保有されています。弊社のお客様にはSaaS企業も多いことから、今後いろいろと導いていただきたいと思い、リード投資家として入っていただきました。One Capital・代表の浅田さんは非常に明晰な方で、KPIの立て方から事業のドライブのさせ方などのアドバイスは、私としても非常に勉強になります。また、これまでにさまざまなスタートアップを見てこられた方ですから、今後弊社の規模が大きくなった際も、メンターとして頼らせていただきたいと思ったことも、One Capitalさんにリード投資家となっていただいた理由の一つです。
今後の目標や展望についても教えてください。
短期的には、日本でRBFがまだあまり知られていないため、認知拡大を進めていきたいと考えています。そして、スタートアップが資金調達を行う際、現在はデットかエクイティかで検討されている方も多いと思いますが、RBFも必ず選択肢に入るような世界をつくっていけたらと描いています。いずれは国内のすべてのスタートアップに「資金調達ではYoiiを使おう」と想起していただける存在へと成長し、Yoii Fuelを海外にも展開していきたいです。
プレシード・シード期のスタートアップに、応援メッセージをいただけますか?
プレシード、シード期のスタートアップは、資金調達をしても断られることがほとんどだと思います。それでもめげずに自分のピッチや事業内容をブラッシュアップして、自社の事業の意義や特徴をしっかりと伝える努力を続けていれば、きっとその可能性を見出してくれるベンチャーキャピタルや投資家が見つかると思います。ぜひRBFなども検討しながら、事業成長に向けて前向きに進んでいただきたいです。
最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。
大手企業など現職で身につけた知識や仕事のやり方は、スタートアップという環境でも十分に活かすことができます。もしスタートアップで自分のスキルが通用するか分からないと転職をためらっている方がいらっしゃったら、ご自身のこれまでの経験に自信を持って転職に挑んでいただけたらと思います。
スタートアップへの転職で大切なのは、どちらかというとマインドセットの部分だと思っています。スタートアップでは、仕事は待っていても降ってきません。とはいえ、やるべきことは大量にありますから、自ら前向きに仕事を取りに行くことが重要です。そして、スタートアップの経営環境は日々変化しているため、自分の業務内容が毎日変わるということもあるかもしれません。そういった変化の激しい環境下でも楽しめそうなのであれば、きっとスタートアップに転職しても生き生きと働けると思います。
一方で、仕事を誰かに振ってもらい、心穏やかに働くほうが好きなのであれば、スタートアップの仕事環境を苦痛に感じてしまうこともあるかもしれないため、転職は見直したほうが良いのかもしれません。ご自身の性格や今後やりたいことも踏まえながら、ぜひスタートアップへのチャレンジを検討してください!
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