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アフターコロナの新文化「メタバース」を推し進めるVARK、その波乱の遍歴

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SNSが浸透して久しいが、2020年から次の10年でさらに広まると考えられているのが、バーチャル空間だ。FacebookがMetaに社名を変更したこともあり、一気にその名が浸透した「メタバース」。アバターを用いてバーチャル世界で様々なことができるオンラインサービスを指す。

どんな人でもバーチャルで活躍できる世界があれば⸻
そんな想いで生まれた企業が、『エンターテイメント特化型メタバース VARK』を手掛ける、株式会社VARKだ。

アーティストが目の前でパフォーマンスをしているかのような臨場感あるバーチャルライブ。メッセージボードやボイスチャット、カラオケなど様々な機能で、SNSのように他ユーザーとの交流や自己表現を楽しむことができるメタバース。この二つの機能を軸に、まさに「仮想現実」と言える深い没入感の中、様々なエンターテイメントを発信・体験することができるのが、『エンターテイメント特化型メタバース VARK』である。

ハイクオリティな「バーチャルライブプラットフォーム」として人気を博していた『VARK』が「エンターテイメント特化型メタバース」へと生まれ変わったのは、2021年12月のこと。そこからわずか10日で、来場者数は1万人を超えた。VRデバイスを販売するMeta Questが選ぶ『ベストオブ2021年 日本版』で大賞を受賞するなど、今、日本のバーチャル界で最も注目を集めるアプリと言っても過言ではない。

これからますます加速すると思われるバーチャル世界。なぜ、いつから、これを手がけようと考えたのか。株式会社VARK代表取締役の加藤卓也(かとう・たくや)氏にお話を伺った。

「活躍する力を持った人が活躍できる世界」の実現を目指しバーチャルの世界へ。挫折の先で見つけた、新たなビジネスモデル。

これまでのキャリアと、創業のきっかけについてお聞かせください。

最初からバーチャルの道を志していたわけではなく、学生時代はスポーツに力を注いでいたんです。高校時代には卓球に打ち込んでいて、部活漬けの毎日を送っていました。卓球は高校で辞めましたが、大学でも体は動かしたくて。どうせやるならトップを狙えることに挑戦したいと考え、スポーツチャンバラにチャレンジしました。

練習を積み重ね、海外遠征などで経験も積み、大学4年生の時にアジア大会で優勝しました。でも、競技人口の少ない分野だったことから、アジアチャンピオンになっても達成感を得られなくて。更に上のリーグを目指すことも考えましたが、スポーツチャンバラのプロ選手の道を諦めて、就職活動を始めました。

それまで個人競技のスポーツに打ち込んできたので、「個人で何かを頑張るよりも、多くの人を感動させ、世界に影響を与えるようなことをしたい」と考え、サービス作りに興味を持ちました。サービスと言っても色々ありますが、ちょうどその頃『パズドラ』が大ヒットしていて、周りの誰もが『パズドラ』をやっていたんです。社会現象になるほど人々に影響を与えている様に感銘を受けて、ソーシャルゲームの道を志しました。ただ、自分が活躍できなければ、世界に影響を与えるという目的は果たせません。まだソーシャルゲームが軌道に乗りきっていない会社なら、若手の自分にもチャンスが来るのではないかと考え、カプコンに入社しました。

結局ソーシャルゲームではなくコンシューマーゲームの担当として勤めることになり、4年目を迎えようとした頃、起業を意識し始めました。このままカプコンにいても、世界に影響を与えることができないのではないかと考えたんです。そこで、これから世界に影響を与えそうなトレンドとして、ソーシャルゲーム、AI、IoTやドローンといったハードウェア関連、そしてVR/ARに注目し、リサーチしました。

AIやブロックチェーンといったディープテック(Deep Tech)市場の特性やドローンの法規制など、他の候補に事業としての難しさを感じたというのもありますが、カプコンでVRアーケードゲームの企画に携わって、業界に関する知見があったことも大きかったと思います。当時のVR業界がうまくいっていない様子を見て、「自分ならもっとうまくやれる」という自信を感じ、VR業界で勝負することを決意しました。
そして、2017年8月。25歳で、VARKの前身であるActEvolveを立ち上げました。

転職してどこかの企業でVR事業に携わることも考えましたが、大手企業よりもスタートアップの方が尖ったものを作りやすいというVR業界の背景も、起業の道を選択した理由の一つです。

創業してみて大変だったことは何でしたか?

バーチャル自体を普及させるためのハードルが、予想より高かったことです。
VR事業を検討する中で、才能を持っているのに様々な事情で埋もれてしまっている人々がいる状況に注目し、「活躍する力を持った人が活躍できる世界を作りたい」という想いを抱くようになりました。現実世界で活躍が難しい人でも、バーチャルの世界でなら才能を発揮できるのではないかと考えたんです。でも、当時の日本はまだ、バーチャルへの関心が低い状態でした。

まずは舞台としてバーチャル自体が盛り上がっていないと、活躍するための場だけ用意しても普及しません。だからこそ、流行もきちんと押さえた上で、徐々にバーチャル・エンターテイメントに触れる人を増やしていこうと考えました。

バーチャルを普及させる方法を考えた結果、初めにゲームセンターから普及させていこうと考えました。ただ、交渉に慎重な傾向のある日本のゲームセンターに普及させていくためには戦略が必要です。そのため、バーチャルゲームが既に普及していて決済も早い韓国や中国の市場から事業を進めていくことで、日本のゲームセンターでも人気となりそうなゲームの要素を探っていくことにしました。どういったユーザーが利用するのか調査すべく、1ヶ月のうち3 週間は韓国のゲームセンターの近くに泊まりこんだりもしていましたね。

バーチャルゲームが普及していると思い、乗り込んだ韓国でしたが、調査の結果を見ると、ユーザーの分布が意外にもまばらだったんです。これは長期的ユーザーとなるコア層をしっかり確保しているというより、瞬間的流行として薄利多売が成立している状況だと分析しました。日本で言うと、パンケーキやタピオカと同じような現象ですね。

この流行がいつまで続くだろうと考えていた矢先に韓国の方針が変わって、VR機器を導入するゲームセンター向けの補助金が打ち切られました。経営が傾くところはあれど、すぐに市場ごと無くなることはないだろうと思っていたのですが、韓国の事業者は撤退も早かった。市場自体の活況がなくなり、取引していたクライアントも事業をたたみ始めたことで韓国での事業継続が不可能になってしまい、日本への帰国を余儀なくされました。

韓国での事業がダメになっても、企業経営の存続のためには次の事業を手がけないといけないわけで。次はどこからバーチャルを普及させようかと考えながら帰国してみたら、日本ではVTuberが流行っていたんです。

その頃はちょうどVTuber黎明期で、多様なプレイヤーが存在し、混迷していた時期でした。そこで、様々なVTuberに「今抱えている課題は何か」と訊いてみたところ、「お金がない」「目標がない」「人気のYouTuberに勝てない」という、VTuberたちの厳しい現実が浮かび上がってきました。

それならば「お金が稼げて、目標になって、バーチャルならではのものを作ろう」と考え、誕生したのが『VARK』です。そこからはVTuberの皆さんと意見交換しながら、様々なアーティストの方が活躍できる場所を作るべく、事業を育成してきました。

会社存続の危機からの大逆転。地道な企業努力とコロナ禍の追い風で成し遂げた、6億円の資金調達。

資金調達で大変だったことはありましたか?

起業してからこれまで、様々な企業様にご支援いただいてきました。
ActEvolve設立後には、Tokyo XR Startupsが運営するXR特化型アクセラレーターの3期に採択され、ゲームセンター事業をおこなっていた頃には、シードラウンドとしてクルーズやUFJに投資していただきました。
しかし、先ほどお話ししたように事業をピボットしなければならない状況となり、『VARK』の原型ができ始めた2018年9月頃には新たな資金調達をすべく、『VARK』のMVP(Minimum Viable Product)と当時発売されたばかりのVR機器を持って「これからVRの時代が来ます」とプレゼンして回っていました。その結果2018年10月にgumiから資金調達させていただくことができ、2018年11月、ついに『VARK』をリリースすることができました。

ただ、リリースはできたものの、翌年2月にはキャッシュが苦しくなることが見えていました。そのため、2018年12月24日に、『VARK』で初の有料ライブを開催しました。そのライブで露出を増やすことで投資家に注目していただき、バリュエーションをつけて資金調達したいという計画だったんです。ところが、ライブは成功したものの、投資家にはほとんど相手にされませんでした。

こういった流行のあるコンテンツは人気に波があるため、中長期的な計画を説明しづらいのが難点でした。一度掴んだユーザーも、数ヶ月後には飽きてしまう可能性もあります。人気が続く保証が無いため、普及に向けた理解を得ることがなかなか難しいんです。

また、ライブが成功したと言っても、ライブ単体の売上だけでは、さすがに運営を続けていくには足りない数字でした。そのため、新規での調達だけでなく、既に出資済みの企業様に追加出資もしていただきながら、何とか会社を続けていました。危機感を抱いて辞めていく従業員もいて、辛い時期でしたね。

そんな状況の中でも、ライブを重ねるうちに徐々にコア層の定着が見えてきました。その結果、投資家たちの評価を得ることができ、2020年3月にANRIから2億円を調達させていただいたことで、シリーズAの資金調達がようやく終了しました。

そうして資金調達に光が見えた矢先に起こったのが、コロナ禍です。ライブは全てキャンセル。売上に苦戦する日々が数ヶ月続きました。しかし、終わりの見えないコロナ禍の中、世間の目が、接触を必要としないバーチャルの世界に向いてきて、弊社への問い合わせも増えていきました。

コロナ前よりもむしろ、VRが成長する絵を描きやすい背景ができたこともあり、2021年5月には、ジャフコや博報堂DYベンチャーズ、電通などからシリーズBとして6億円を調達させていただくことができました。

会社の成長と共に、MVVも成長させなければならない。アメリカ進出を目指し、グローバル展開も進行。

社内風土や採用についてお聞かせください。

最近、ミッション・ビジョン・バリューを変更したんです。
2021年にFacebookがMetaに社名変更し、メタバースそのものに注目が集まったこともあり、採用に関する問い合わせも一気に増えました。会社が成長し、人が増えると、ミッション・ビジョン・バリューは評価制度にも影響するようになってきますし、人が増えることで多様性が増し、何を重視するか人によってばらつきが出てきます。そのため、会社としての方針を制定する必要がありました。

新しいミッションは「世界中に新しい可能性を創り出す」というものです。「新しい大きなことで世界を良い方向に推進したい。そのために存在するのがVARKという会社」というメッセージを込めています。我々が考える「新しい」って何だろう?「大きなこと」って何だろう?という、単語の定義付けからしっかりと行いました。

バリューは現在、九つ存在します。例えば、「不完全を恐れるな」。これは、より早く、より良いものをユーザーにお届けするためのバリューです。
ものづくりをしていると、より完璧な仕上がりを求めたくなるものですが、自分たちが考える完璧なものが、必ずしもユーザーに評価されるとは限りません。「きっとこれをユーザーは求めているのだろう」という仮説に基づいて、100%の状態になるまでこだわってリリースするよりも、ある程度のクオリティでリリースし、ユーザーの評価を受けて改善していった方が、よりスピーディーに、ユーザーが本当に求めるものを提供することができます。

また、「健康であろう」というものもあります。エンターテイメントやクリエイターの界隈は、健康をおろそかにしがちです。会社と個人のサステナビリティのために、健康に配慮してもらおうと作ったバリューです。

【Value】

  1. 健康であろう
  2. 研鑽しよう
  3. 自主性を持つ
  4. 背景を知る
  5. 組織合理
  6. 不完全を恐れるな
  7. 目的思考
  8. ワクワクは自分から
  9. 遵法

グローバル展開についてはどのようにお考えですか?

事業としてはこの先、半年から1年のスパンでアメリカへの進出を検討しています。エンターテイメントは、民族的カルチャーを理解していないと普及しません。そのため、グローバル展開をするならば、ローカルのカルチャーを知るために、きちんとその国に拠点を構えてローカライズさせる必要があると感じていて、進出するならアメリカに支社をと考えています。実は、その準備としてライザップイングリッシュに通ったりもしています。

50億円まではシード投資。リスクを恐れず挑むことができるのも、スタートアップの醍醐味。

プレシードからシード期のスタートアップへメッセージをお願いします。

エンドユーザー向けのプロダクトで世界を変えたいというビジョンのある方々には、投資家と共に歩むことをおすすめします。起業をすると、本に書いてあるような、『従業員がいなくなる』とか『調達できない』とか、そういったハードシングスが、そのまま起きるんです。

その時に、周囲にスタートアップの状況を知っている人がいないと、自分だけがこんなことになっているのではという孤独を感じると思います。特にシード期は、周囲に起業家の人脈もまだありませんし、孤独を感じやすいです。そんな時は、投資家になんでもいいので話してみると良いです。

あとは、自身が孤独だと感じにくい生活を、あらかじめ設計しておくことをおすすめします。投資家との定例など、定期的に人と会う予定を入れるといった工夫をするんです。そうこうしているうちに、業界のプレイヤーやおすすめの投資家といった情報も入ってきます。一人で抱え込んで悩まないようにすることで、新たなチャンスを掴むこともできると思います。

最後に、読者へ一言お願いします。

最近様々な方に言っているのは「50億円まではシード投資」です。これはどの業界に対しても思っていることです。

世界的に、スタートアップの市場全体も、ファンドの組成金額や時価総額も日々成長していっています。特にエンターテイメント業界はその傾向が顕著で、人気コンテンツである原神、フォートナイト、荒野行動などは、リリースするまでに50億円は使っています。

そんな市場の中でこれから勝っていくには、やはり同程度のリスクマネーはかけていく必要がある。IPOを目指す固いサービスを作るのも良いですが、できれば起業家は、不確実性があろうと、自分の命をかけてでも挑みたいものに挑戦してほしい。安定性重視の企業では出来ないことをするのが、スタートアップの醍醐味です。我こそは、という情熱がある方のジョインをお待ちしています。