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サステナビリティを企業活動のあたりまえに。テクノロジー活用で日本のESG市場に挑むシェルパ・アンド・カンパニー 杉本 淳氏

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欧米を中心に世界で広がりを見せ、日本でも話題を集めている「ESG投資」や「ESG情報開示」。企業がESG情報開示を行う際、従来の財務情報の開示に加えて、経営戦略や人的資本の状況、人権方針といった非財務情報も投資家などに開示する必要がある。ただ、非財務情報の開示はこれまで社内で取得してこなかったデータを一から集めて開示情報としてまとめる必要があるため、ESG情報開示に取り組む企業には大きな負荷がかかっていた。

シェルパ・アンド・カンパニーは、そのような企業側の課題に対して、ESG情報開示支援クラウド「SmartESG」を提供。社内のESGデータをシステム上で一括管理し、複数の投資家や格付け機関に対して、システム上で調査やアンケートへの回答を済ませることができる。

今回、そのようなサービスを開発したシェルパ・アンド・カンパニー代表の杉本 淳(すぎもと・じゅん)氏にインタビューを実施。サービス内容や社風、ESG市場拡大に必要なことまで、幅広くお話を伺った。

企業のESG情報開示に貢献する新サービス「SmartESG」とは

まず、シェルパ・アンド・カンパニーの事業概要を教えてください。

弊社は大きく三つの事業を行っています。一つ目は現在私たちが主力事業として力を入れている、企業向けのESG情報開示支援クラウド「SmartESG」です。二つ目がESGやサステナビリティに特化したWebメディア「ESG Journal Japan」です。国内外のESG、サステナビリティの最新動向を発信するオウンドメディアとして運営しており、SmartESGのマーケティングプラットフォームの役割も兼ねています。三つ目が「ESGアドバイザリー」で、弊社の専門性に長けたメンバーが、ESGに関して企業にコンサルティングを実施しています。

主力事業である「SmartESG」について、もう少し詳しくお聞かせください。本サービスは、企業のどのような課題を解決しているのでしょうか。

SmartESGは、企業が「ESG情報開示(ESGに関連する非財務情報をまとめ、投資家に開示すること)」を行う際に生じる各種業務の手間を大きく削減できるサービスです。

昨今、欧米を中心に世界ではさまざまなESG情報開示の基準が整備され、ESG格付けが広く行われています。その結果、日本においても、これまでは売上や利益などの財務情報のみを投資家に開示すればよかったところ、最近では上場企業を中心に非財務情報の部分まで開示が求められることも増えてきました。

とはいえ、経営戦略やESG・CSRに関する取り組み状況、サステナビリティへの取り組み、経営者が認識しているリスクやガバナンス体制に関する情報といった社内に点在する非財務情報を一つひとつ取りまとめて、投資家や格付け機関に提供していくのは非常に骨の折れる仕事です。企業によっては、常に外部機関からの調査やアンケートに対応しなければならない状況にあるという話も聞いています。

そのような大きな手間のかかるESGデータの収集、まとめ、管理を一括で行えるようにしながら、外部調査への対応やESG関連のワークフローの最適化などにも役立つプラットフォームとして開発したのが2022年11月に正式版をリリースした「SmartESG」なのです。

ESGデータにはさまざまな種類があると思いますが、SmartESGで扱っているのは、具体的にどのようなデータなのでしょうか。

非常に幅広いデータを扱っています。CO2の排出量といった環境関連のデータから、女性の管理職比率といった人的資本に関するデータ、ガバナンス体制に関する情報、人権方針や生物多様性の方針など、定量的なものだけでなく定性的なデータにも対応しています。

これまではESGデータというと、気候変動に関連するものを収集・開示することが多かったのですが、最近では人的資本やガバナンスに関するデータ開示へのニーズも高まっている印象です。

2022年11月に「SmartESG」の正式版をリリースしてから、クライアントさんからの反響はいかがですか?

先ほどお話したようなESG情報開示業務にかかる手間やコスト削減の部分で、お客様に貢献できているように思います。SmartESGのシステム上に社内のESG関連の情報をデータベースとして保管しておけるため、データ集約や開示に向けた業務を属人化させることなく行うことができます。投資家や格付け機関から似たような内容の問い合わせや調査・アンケートへの回答依頼が来ることも多いため、業務効率化に役立っているという声をいただくことは多いですね。

credit:シェルパ・アンド・カンパニー株式会社

また、ESG情報の分析機能についても、お客様から評価いただいています。ESGに関連する取り組みについて、ベンチマークしたい企業の情報をAIで分析することができるんです。他社が優れた情報開示をしていた場合、それらをベストプラクティスとしてシステム上に表示させることもできるため、自社のESG情報開示の質向上に向けて、取り組みを推進させることにもつながります。他社との比較分析の中で、自社の位置づけを知ることができる点も、SmartESGをお客様に重宝していただいている理由の一つかもしれません。

投資銀行部門で身につけた「やり抜く力」が起業に活きた

ESGという、今後世界でさらに伸びていくであろう分野で起業された杉本さんですが、もともと学生時代から起業志向があったのでしょうか。

慶応義塾大学に在学していたころから、漠然とですが、いずれは起業できたらと考えていました。大きな志があったというよりも、世の中の流れを見て「これからは一つの会社にずっと勤め続ける時代ではない」と感じたことが大きな理由です。20代のうちに何かのスキルを身につけて、将来的な起業に結びつけられるよう、就職活動ではプロフェッショナルファームなどを目指していました。

スキルがいち早く身につく環境を求めた結果、新卒で証券会社の投資銀行部門に入られたのですね。

そうですね。投資銀行部門では、国内外の大型M&A案件や資金調達案件を動かしながら、IR・コーポレートガバナンスに関するアドバイザリー業務に従事していました。

投資銀行部門での経験が、現在に活きていると実感する機会はありますか?

精神的な部分で、前職の経験が大きく役立っていると感じます。起業して一つの事業を成功に導くためには、やはり「やり抜く力」が大切です。投資銀行部門時代、上場企業を相手に数兆円規模の案件を動かすなど、さまざまな負荷やプレッシャーのかかる中で、一つひとつの業務をしっかりとやり切る経験を積んできました。非常にやりがいのある仕事であった反面、本当に大変なことも多かったです。苦境を何度も乗り越えてきた経験は、起業家としてのグリット力に大きな影響を与えていると思います。

UI/UXやコンセプトが評価され、資金調達はスムーズに

2023年がスタートしてもうすぐ半年になりますが、今年に入ってから「頑張って良かったな」と感じた場面は何かありますか?

「頑張って良かった」と毎日思っているので、なかなか一つのエピソードを選ぶのが難しいのですが、今年最大の話題としてはやはり、6月に資金調達を無事に終えることができたことかもしれません。

私たちの望む形で資金調達ができるよう、まずはしっかりと初期の数字をつくることが必要と考えました。そのため、私自身がトップ営業の形で大手企業との商談に臨みましたし、導入していただいたお客様に対しては、プロダクトを継続的に利用していただけるようカスタマーサクセスの体制も強化しました。そのような地道な取り組みを積み重ねた結果、総額4億円超を調達できたことは、本当に嬉しかったですね。

今回の資金調達では、投資家にどのような点を評価されたのでしょうか。

最も評価していただいたのは、大手企業に次々と導入が決まるような、弊社サービスのUI/UXの良さやコンセプトの良さの部分です。実際に、2022年11月にプロダクトをローンチしてから比較的すぐに、時価総額が数千億から1兆円ほどもあるプライム市場の上場企業に次々とSmartESGの導入を決めていただくことができました。弊社のようなSaaSのプロダクトで、「超」がつくほどの大手企業のお客様への導入がスムーズに決まることは珍しい。弊社ならではのUI/UXやコンセプトをお客様に支持いただいていることが、資金調達を行う上でも大きく影響したと感じています。

なるほど。では、6月の資金調達は迅速に話が進んだのですね。

そうですね。弊社がESGデータマネジメントの領域で先駆けのスタートアップだったことも、資金調達がスムーズに進んだ大きな要因の一つだったかもしれません。

今後の資金調達に向けて、達成したいKPIなども教えていただけますか。

次の資金調達に向けては、国内のESG情報開示といえばSmartESGと想起していただけるような、ESG領域におけるデファクトスタンダードツールになった状態を実現できたらと考えています。すでに多くの著名企業、大手企業のお客様に導入いただいており、ESG領域での認知度は少しずつ高まりを見せています。まずはしっかりと導入社数の実績を増やし、いずれはSmartESGを通じて評価機関や投資家といった評価者と企業を結ぶ大規模なプラットフォームへと発展させていきたいです。

ESG・サステナビリティが”あたりまえ”になる世界を目指して

現在、貴社の従業員数は何名ほどいらっしゃるのですか?

現在は15名です。構成としてはエンジニアが半数以上で、開発チームが一番多くなっています。バックグラウンドとしては、弊社の事業の特性上、前職ではESGに関するコンサルティングや評価、事業会社でサステナビリティを担当していた方に入社いただくことがここ最近で増えていますね。セールスやカスタマーサクセスなどのビジネスサイドのメンバーも採用を強化しているところです。

貴社の社風を言語化すると、どのようなものだと言えそうでしょうか。

多様性に富んだ組織と言えるのではないでしょうか。メンバーは20代から40代まで、スタートアップにしては年齢層は幅広いですし、性別も男女半々、海外出身メンバーも所属していますから、国籍も多様です。ダイバーシティにあふれる組織をつくりたいという想いがあるので、採用を行う上では多様な価値観を持った方に入社していただけるよう意識しています。

今後、どのような方に入社してほしいですか?

弊社のパーパスに「サステナビリティとテクノロジーをすべての経済活動の“あたりまえ”に」と掲げている通り、ESGやサステナビリティを追求し、テクノロジーを用いて企業の当たり前の取り組みにしていきたいと考える方とぜひ一緒に仕事ができたらと思っています。この市場はまだ黎明期で、弊社としてもスタートアップという立場から市場を新しくつくっていかなくてはなりません。私たちと一緒に市場をつくり、企業経営の新しい常識を生み出したいと思っていただけたら、ぜひ弊社の門を叩いてほしいです。

日本のESG投資やESG情報開示は、世界と比べてまだまだ遅れているとも言われています。ESGの市場を拡大させるために、鍵となるものは何だと思いますか?

法制度と開示基準の整備ですね。まず、法制度という観点から言えば、2023年4月から有価証券報告書上で「気候変動」と「人的資本」の二点について情報の開示が義務化されることが決まりました。今後、上場企業が非財務情報を開示する流れはより一層加速していくと思います。

また、開示基準に関しては、弊社がアライアンスメンバーとして加盟しているISSB(国際サステナビリティ基準審議会)でつくった国際的な会計基準が2024年1月より実施されます。そういったものが決まると、企業側でどのような情報を開示しなければならないのかが明確になるため、これから1〜2年の間にESG情報開示の流れは国内でも弾みがつくと考えています。

ESG投資やESG情報開示については、世界のほうが進んでいる状況があるかと思います。貴社サービスは海外でも十分に戦えるモノではないかと思うのですが、今後海外進出などは考えているのでしょうか。

グローバル展開はもう少し先の未来の話かなと現時点では考えています。ただ、もし今後海外に進出する際は、アジアからスタートしていければと構想していますね。

ESGに関しては欧米が先進国というイメージがありますが、アジア地域に限定すれば、日本は取り組み内容が進んでいる国だと言えます。日本がアジアの中でESG関連のリーダーになることも不可能ではないと思うため、まずは国内企業によるサプライチェーン先の情報獲得機能の実装から始めて、いずれはアジアでも展開していければと考えています。

最後に、貴社が事業を通じてつくりたい世界観について教えてください。

先ほども少しお話した通り、日本ではまだまだ目先の利益などに目が行ってしまいがちな企業経営の中で、ESGやサステナビリティが当たり前のものとして考えられている世界をつくっていきたいです。そのためにも、ESGやサステナビリティに取り組む企業が、今後中長期的に見たときに大きな価値を生み出している企業に成長しているといった成果や、社会的に良いインパクトをもたらしているという証明が必要であると考えています。そういった成果や証明はまだできていないですし、これからテクノロジーを活用することで、データを可視化してESG推進に結びつけていければと思っています。そしていずれは、経済活動とESG、サステナブルを両立した企業経営が実現できている状態をつくることができたら、弊社の一つの使命を達成できたことにつながるのではないでしょうか。

(取材/長田大輝、JP Startups編集部 構成・文/市岡光子)