JP STARTUPSJP STARTUPS日本発スタートアップを紹介、応援するメディア

The web magazine that introduces and supports Japanese startups

SDGsの次に抑えるべきはサーキュラーエコノミー!新たなビジネスモデルに対応するスタートアップを紹介

Share:

2015年9月の国連サミットで、加盟193カ国が2016年から2030年の間に達成すべき目標として採択された、SDGs(Sustanble Development Goals/持続可能な開発目標)における17の目標&169ターゲット。これにより、各国でサステナビリティ、ダイバーシティについて語りあう機会が増えた。例えば、サステナビリティでは有限な地球資源の節約といった環境配慮の点、ダイバーシティは国籍、年齢、性別といった人間の特性の違いを踏まえ、各人に平等な機会が与えられるよう配慮するという点が、主に掲げられている。映画をよく観る人の中には、アカデミー賞でもその余波が広がっていることをご存知の方もいるだろう。

そのうち、環境配慮の文脈で、トレンドワードの一つとして注目されているのが「サーキュラーエコノミー(Circular Economy/循環型経済)」だ。従来の生産、消費、廃棄という直線的な流れを「リニアエコノミー(Linear Economy/直線型経済)」と呼ぶのに対し、気候変動や生物多様性、廃棄物や汚染などの環境・社会の課題に対応するため、製造段階からリサイクルを意識して、これまで廃棄材となってきたものを再利用する流れをこう呼ぶ。

また、循環経済への移行は、企業の事業活動の持続可能性を高めるため、ポストコロナ時代における新たな競争力の源泉となる可能性を秘めており、現に新たなビジネスモデルの台頭が国内外で進んでいる。

ゴミ排出前提の3R、ゴミを出さないサーキュラーエコノミー

サーキュラーエコノミーに似た概念としては、2004年に開催された主要8カ国首脳会議(G8サミット)で当時の首相であった小泉氏が提案し、承認された「3Rイニシアチブ」がある。

  • Reduce(ごみ削減)
  • Reuse(繰り返し使う)
  • Recycle(再利用)

3Rはごみが出ることを前提としているが、より持続可能な社会の実現のため、サーキュラーエコノミーではもう一つ進んで、ごみがそもそも出ない循環型経済を目指している。

英国を本拠地とし、国際的に活動するサーキュラーエコノミー推進団体である「エレン・マッカーサー財団」では、次のようにサーキュラーエコノミーの3原則を掲げる。

  • Eliminate waste and pollution (廃棄と汚染をなくす)
  • Circulate products and materials(at their highest value)(原材料を最も高い価値のまま循環)
  • Regenerate nature(自然再生)
出典:https://ellenmacarthurfoundation.org/topics/circular-economy-introduction/overview

ヨーロッパでは、2015年に欧州委員会が、行動計画として「サーキュラー・エコノミー・パッケージ」を発表し、翌年には具体的なアクションプランまでが定められている。

経済産業省中心に推進、プラスチック新法成立も

日本におけるサーキュラーエコノミーに関する政府活動はどうなっているか。

2020年5月、経済産業省が日本の循環経済の道標として「循環経済ビジョン」を発表した。以下の文章のように、デジタル技術を用いたサーキュラーエコノミーの普及という文脈も織り込まれ、スタートアップ等への期待も読み取れる。

1999 年循環経済ビジョンから 20 年が経過した今、我が国の3Rは進展し、最終処分場残余年数の緩和、リサイクル率向上等の成果を挙げてきたが、線形経済システム1から循環経済システムへの転換は道半ばである。
(中略)
大量生産・大量消費・大量廃棄型の線形経済モデルは、我が国のみならず、世界経済全体として、早晩、立ち行かなくなるのは明白であり、株主資本主義の下、短期的利益と物質的な豊かさの拡大を追求する成長モデルからの転換が求められているのではないか。
(中略)
こうした新たな循環経済への移行の鍵となるのがデジタル技術の発展と市場・社会の環境配慮要請の高まりである。

出典:循環経済ビジョン 2020

翌年1月には、経産省が世界初となるサーキュラーエコノミーに特化した企業と投資家等の対話・開示ガイダンスとなる「サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス(開示・対話ガイダンス)」を公表している。関連団体としては、2021年3月に経済産業省・環境省・日本経済団体連合会(経団連)により「循環経済パートナーシップ(J4CE:ジェイフォース)」が設立された。

また、2022年4月には、通称・プラスチック新法と呼ばれる「プラスチック資源循環促進法」が施行されている。プラスチックを資源として再利用・循環させる取組みを促進するための措置が定められている法律で、法施行まで至った大きな取組みとして注目を集めた。

サーキュラーシティ計画も注目されるオランダ

世界規模で見た時に先駆的な国は何を行っているのか。欧州の中でも特に取組率が高いといわれているオランダの事例を見てみよう。

首都アムステルダムでは「サーキュラーシティ」として2050年までに100%循環型都市になるという目標を掲げ、サーキュラーエコノミー移行の5年計画「Amsterdam Circular 2020-2025 Strategy(アムステルダム市サーキュラー 2020-2025 戦略)」を公表している。

欧州全体のサーキュラリティは12%で、国別に比較してみるとオランダ(31%)が最も高く、ベルギー(23%)、フランス(22%)が続く一方で、最も低いルーマニアは1%など、実は国によってかなり差があります。

出典:https://www.ibm.com/blogs/solutions/jp-ja/iot-harch/

オランダに本拠地を多く金融大手の「ING(アイエヌジー)グループ」では、他メガバンクと共同で、金融業界におけるサーキュラーエコノミーの理解のためのガイドライン「Circular Economy Finance guidelines」を作成している。

オランダは施設も充実している。特にアムステルダム市内北区にある「De Ceuvel(デ・クーベル)」が有名だ。汚染された造船所の跡地を使用し、ハウスボートをアップサイクル。オフィス、コワーキングスペース、ラボ、イベントスペース、ホテル、カフェとして活用できるようになっている。元々、アムステルダムが10年間の土地利用プロジェクトとしてキックしたものであり、ソーラーパネルやコンポストトイレも設置され、そこから肥料を生成、野菜を育てて、カフェで提供するという循環経済も実践されている。計画の中心にいるMetabolicが運営する「Metabolic Lab(メタボリック・ラボ)」ではサステナブル関連のイベントも多く開催されている。

同じくアムステルダム北部にあるのが「NDSM(エヌディーエスエム)」だ。1984年に閉鎖された造船所跡地を用いた施設で、アーティスト、エンジニアなどが、サーキュラーエコノミーに関するプロジェクトを行う。ここで毎年4月に行われるテクノフェス「GDLT Festival」も、フェス会場でペットボトル、提供食品などのサイクルが循環経済で設計されているそうだ。

アムステルダムに次いでオランダ内で人口2位の都市ロッテルダムには、古いプールを利用した施設「Blue City(ブルー・シティ)」がある。いわばサーキュラーエコノミー事業者向けインキュベーション&コワーキング施設で、30社以上のスタートアップ・SMEのほか、アーティストや研究者も入居する。
欧州のスタートアップニュースを配信するドイツのメディア「EU Startups」では国別のニュースをチェックできる。オランダの動向が気になる人は見ておくといいだろう。

サーキュラーエコノミースタートアップ

そうなると次に気になるのが、日本でサーキュラーエコノミーに関する事業を営むスタートアップのこと。ちょうど、サーキュラーエコノミー専門のメディア・プラットフォームであるCircular Economy Hubと、BtoB Techを支援するアーキタイプベンチャーズから、2023年1月にカオスマップ(第1版)が発表されている。ここにピックアップされているのは11社だ。カテゴリに分けていくと主に以下のようになる。(編集部による分類)

  • 循環素材の開発:fabula株式会社 / 株式会社ファーメンステーション
  • 循環型製造の設計:Synflux株式会社
  • 消費者側への働きかけ:株式会社Sanu / 株式会社クラス / 株式会社ソーシャルインテリア / 株式会社DATAFLUCT
  • 製品循環のトレーサビリティ:レコテック株式会社 / 株式会社digglue
  • シェアリングエコノミー:株式会社カマン
  • アップサイクル(リサイクルにとどまらずさらに別製品へアップグレードすること):ユアマイスター株式会社

カオスマップでは、著名なところだと、「NOT A HOTEL」とともに注目を浴びる、セカンドハウス・サブスクリプションの「Sanu」や、家具・家電のサブスクリプション「CLAS」、「ソーシャルインテリア」がリストアップされている。おそらく最も多くの人が認識しやすいのはシェアリングエコノミーで、まずは難しく考えずに、「アイカサ」、「Anyca」といったシェアリングサービスから利用し、物を購入・保有・廃棄というサイクルから外れてみて、保有したものについては「メルカリ」や「ジモティー」などで次の利用者に渡していくという生活が定着していけば、全ての製品は使い捨てではなく、次の利用者やアップサイクル後の製品のモトになるのだ、という概念が自分の生活にも染み付いていくかもしれない。

脱炭素サービスを提供するスタートアップたち

環境配慮の文脈でのスタートアップは日本でも着実に増加してきている。実際にJP Startupsでも取材を行った数社を紹介しよう。企業がこれから脱炭素などの環境配慮に対応していくことに向けて、自社製品の製造から販売に至るまでのプロセスで排出されたCO2量の可視化をサポートするツールが登場してきている。

【関連記事】CO2排出量算定SaaS「zeroboard」 創業者インタビュー

社会ニーズと創業者特性を活かしてたどり着いたCO2排出量可視化事業

「CO2が見えると、クリーンな未来が見えてくる」…… ”SDGs”や”ESG”という言葉は頻繁にメディアにも登場するよう…

CO2排出に関する配慮は企業相手に留まらない。特にサステナブルカルチャーの根付きが早い欧州ではさまざまな環境配慮目的サービスが登場しているが、例えば、スウェーデンのFintech企業「Doconomy」は、一般の消費者に向けて日々の購買品が生み出すCO2排出量を測定・管理できる「DO」を提供している。自分の消費活動がどのくらいのCO2排出につながっているか、簡単に見える化できる。プレミアムカードに切り替えを行うと、一定のCO2排出量に達した時に決済を制限できる機能が付与される。

このDoconomyならびにセゾンカードと連携し、日本版DOともいえるサービスを提供しているのが「DATAFLUCT」だ。データ活用全体を事業領域としているが、中でも「becoz」というサービスラインではカーボンニュートラルに注力している。日本においても個人レベルでCO2排出量を意識、管理できる体制が整ってきている。

【関連記事】「becoz」を開発するDATAFLUCT 創業者インタビュー

目指すのはデータ活用の民主化。データサイエンスで社会課題を解決するDATAFLUCTの挑戦

「世界標準の課題を解決する自社プロダクトを展開する」 脱炭素・スマートシティ・ダイナミックプライシング等、幅広い領域でデ…

最近だと、農業由来カーボンクレジットの生成・販売及びボランタリークレジットの調達サービスを提供する「フェイガー」が、2023年1月にシードラウンド調達を発表したことも記憶に新しい。

また、陸地に目が向きがちな環境問題だが、実は海の生物もCO2吸収を行う。これを、陸地植物ベースのグリーンカーボン(Green Carbon)に対し、ブルーカーボン(Blue Carbon)と呼ぶ。日本だとまだプレイヤーは少ないが、例えば、もともとは海洋関連DXを事業として営んでいた「ウミトロン」は、ENEOSから声がかかり、ブルーカーボン事業にも参入することになったそうだ。社会的責任の大きい伝統的企業が、動きの早いスタートアップを巻き込んで社会課題に挑もうとするオープンイノベーションの好事例といえるだろう。

【関連記事】持続可能な水産養殖の実現に取り組むウミトロン 創業者インタビュー

”捕る漁業から育てる漁業へ”。養殖現場訪問によるインサイト×テクノロジーで、ウミトロンが目指す世界とは

「捕る漁業から育てる漁業へ」 水産業の中でも養殖業の課題解決に挑む 藤原 謙(ふじわら・けん)氏はこう語る。 水産庁が発…

課題に上がるグリーンウォッシング(Greenwashing)

サーキュラーエコノミーが推進されていく一方で、課題も噴出してきている。実態とは乖離した誤認を意図的に引き起こすことを「ホワイトウォッシング(Whitewashing)」と呼ぶが、このうち、科学的根拠がないままに環境配慮をしているように見せかける事象を「グリーンウォッシング(Greenwashing)」と呼び、問題視されている。

仕方のないことではあるが、従来、大量生産・大量消費で事業を行ってきた、エンドユーザー向け消費財メーカーは特に苦労をしているようだ。米国の認証事業企業ULに買収されたカナダのマーケティング・エージェンシーであるterrachoiceは、「the Seven Sins of Greenwashing(グリーンウォッシュ7つの大罪)」というレポートを出している。

通常よりも少ない量の砂糖を用いた緑ラベルのコーラ、リサイクルの実態が伴わない紙ストロー、循環素材含有量の表示がないサステナブルファッション、CO2関連値の表示がないままにゼロエミッションを謳うEV自動車。ストローが鼻に刺さった海亀の動画を受けて脱プラスチックストローに取り組み始めた馴染みのカフェで、水分を吸ってしわしわになる紙ストローを体験した人は少なくないだろう。環境を救うことになるならと受け入れたはいいが、実態が伴っていないとただユーザーが不便な思いをするだけになってしまう。

科学的根拠や従来比といった合理的な説明が示されていないのに「なんとなく環境に優しそうな雰囲気」を感じたら、それは本当に意味のある行動か、疑ってみると良いだろう。とはいえ、CSR活動に取り組まざるを得ない企業側の目線としては、意図していなかったとしても提示データが不十分な場合はグリーンウォッシングではないかと指摘されてしまう恐れもある。ファクトベースでの情報公開が求められるということは、CO2排出量といった非財務データの取得と開示の推進は今後ますます加速するだろう。

サーキュラーエコノミーをキーワードにしたプログラムに参加してみよう

スタートアップにおいても、アクセラレータープログラム等でサーキュラーエコノミーをキーワードにするものも登場してきている。

例えば、ロフトワークと世界中に拠点を持つクリエイティブコミュニティFabCafe Globalでは、第2回・循環型経済をデザインするグローバル・アワード「crQlr Awards (サーキュラー・アワード)2022」を開催した。同イベントは日本国内初のサーキュラー・デザイン分野のアワードとして、2021年にスタート。循環型経済をデザインするプロジェクトやアイデアをを募集し、「直線型ではなく循環型の評価を行う」 「名声ではなく、行動のためのアワード」「グローバル視点を獲得できる」の三つの指標を掲げる。

また、名古屋地域から社会起業家のエコシステム発展に向けた事業を展開するUNERIも、社会課題を解決する事でサステナブルな未来をつくりたい学生や学生起業家向けのインキュベーション型連続セミナー「DONUTS」を運営する。2022年9月から2023年1月の間に、社会起業家を招き全9回のセミナー、メンタリングを実施した。

自らソーシャルデザインを

実際に、法人化まではまだ至っていないが、渋谷QWSのプロジェクトの一つに、サーキュラーエコノミーに挑戦したものがある。それが「渋谷肥料」だ。

QWSチャレンジにおいては、まず第1段としてShibuya Scramble Sqare内の飲食店から出た生ゴミを用いて有機肥料を作り、2020年内にShibuya Scramble Sqare内の青山フラワーマーケットや東急ハンズ内での販売を目指します。ビル内での生ゴミを再利用して活用する取り組みによって、チキンの骨まで細かく分別するShibuya Scramble Sqareの分別の取り組みをアピールし、まずビル内から循環の仕組みを創出します。

出典:https://shibuya-qws.com/project/shibuya-hiryou

国際的にもカルチャー発信地として注目される渋谷、同時に、ハロウィンイベントなどで大量のゴミを排出することが問題視もされている。そんな都市で循環にチャレンジしたプロジェクトだ。

循環経済は意識したことがない、自分には関係がない……と思わずに、自分であればこんなソーシャルデザインをするのに、もっと良いアイデアを出せるのに、という視点に立ってみてはいかがだろうか。案外、あなたのアイデアが、30年後の地球を救う日が来るかもしれない。