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All in one Solutionで全てがConnectする世界を創るビットキー

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テクノロジーの力であらゆるものを安全で便利に気持ちよく「つなげる」 をミッションにした株式会社ビットキー。2018年に設立された同社では、ソフトウェアからハードウェアの横断的なプロダクト開発と、他社とのコラボレーションによって大きなエコシステムを共創することに取り組む。

このエコシステムは「bitkey platform」という、ID連携/認証/権利処理を行うための独自のプラットフォームが中核を担っている。あらゆるものをつなぐ「コネクトテック・カンパニー」として成長を続ける同社だが、このような構想を持ったきっかけは何だったのか。代表取締役CEOの江尻 祐樹(えじり・ゆうき)氏にお話を伺った。

日本のスタートアップとしてGAFAMレベルを目指す

これまでのキャリアと起業までの経緯をお伺いできますか。

はい。大学時代は建築/デザインを専攻していました。 新卒で1社を経験したのち、2009年にワークスアプリケーションズに入社しました。数億〜数十億規模の複数のプロジェクト責任者やコンサルティングサービス組織の統括を経験し、並行してプライベートでは先進テクノロジー研究会を立ち上げました。2018年8月に、同会のメンバーを中心にビットキーを創業しました。私は、経営者になりたいという動機で起業したわけではありません。会社員の時代から、広く、深く、遠く、普通では到底成し得ないようなことを実現することこそ、最も充実感のあることだと感じていて、それを自分が住んでいる日本でやってみようと思ったんです。でも見つけられなかったんです、そのような場所を。だから、自分でつくってみようと思いました。

私は、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoftの頭文字を取った米国の代表的ITカンパニー群)のように、新興企業であっても、彼らのサービスが”ない”世界と”ある”世界を比較した際に、誰もがその差を明確に感じるような成し遂げたものを、スタートアップと呼べる世界観であってほしい。でも日本はそこまでビフォーとアフターの世界が明らかに変わるようなスタートアップがほぼいないのではと感じています。だからこそ私は、日本発のスタートアップでも、ここまでのレベルを肌で感じたい、それをむしろ牽引したい、と考えています。しかし、起業のタイミングは偶発性もあります。先ほどお話した先進テクノロジー研究会では、社会人としての傍ら、プライベートでエンジニアと技術トレンドなどを学び、アウトプットを重ねていました。その時から、IDやConnectというコンセプトに対してテクノロジー観点で面白いな、実現できるなという手応えを感じ、2017年頃には事業を考案できるレベルになっていました。共同創業者でありCCOの寳槻(ほうつき)とニューヨークで火鍋を食べながら話をしたことがありまして、ちょうどその時はAirbnbやUBERなどのシェアリングエコノミースタートアップが、ゲームチェンジャーになろうかという時期でした。シェアエコの代表格の一つであったWeWorkについてもいち早く体験をしていたのですが、ユーザー体験にまだ改善の余地があるよね、という雑談をしながら、鍵や空間を繋げたらもっと生産性が上がるのでは、という話に発展したんです。この頃はスマートロックという言葉すら知らなかったわけですが、今のビットキーの構想の種が生まれた瞬間でした。

実際に起業してから大変だったことを伺えますか。

たくさんありますね。
創業から4年で約150億円を調達していますし、弊社にはすでに多様なプロダクトがあるため、誤解されやすいですが、去年でやっとゼロイチフェーズが終わったかな、と感じているくらいです。
目指している世界観が壮大だからこそ、ゼロイチの準備に要する時間も人材もプロセスも膨大にあります。クライアントにサービスを提案する時も、単体のプロダクトの紹介ではなく、複雑な世界観から説明をして理解をしてもらわないといけないので、全てを伝えるのが難しいですね。ただ、大変ではありつつも、とてもエキサイティングでした。

きっと、これでやっとスタート地点であるというスタートアップは日本ではまだ珍しいと思います。とはいえ、米国市場であれば珍しい話ではなかったりします。

なぜ、ここまで壮大な事業を日本でやることができるのかというと、やはり目指している世界観が大きいからかなと思います。
私は、デジタル化やDXの延長にあるような規模の事業をスタートアップがやっても、ゲームチェンジャーにまではなれないのではないかと思っています。業界地図を明らかに塗り替える存在というのは、教科書をなぞるのではなく、今まで市場に存在しなかったビジネスモデルである、ということが必要です。ビットキーが描いているようなハードウェアもソフトウェアもある、その提供製品も広い、自社製品だけでなく他社ともつなぐ、さらに課金形態もスマートロックのサブスクもあれば、パートナー事業者とのレベニューシェア、家事代行などのサービス事業者が利用することで発生するトランザクション費用など、様々ある。こんなに複雑なことを日本のスタートアップシーンでやろうとするプレイヤーはとても少ない。だからこそ、ここに挑戦することにやりがいを感じるのです。日本にGAFAMレベルで世界を変えるスタートアップが一つでもできれば、日本市場はきっと大きく変わります。NASDAQの上場時価においてもGAFAMの割合は大きい。日本でも、東京証券取引所の、マザーズ市場ではなく東証一部市場で1兆円クラスの上場がある、こういうレベル感のスタートアップが必要で、弊社もそこまでの企業に育っていけるようでありたいと思いますし、日本にはそうした企業を生み出すポテンシャルがあるとも信じています。だからこそ、私たちがまずそこに挑んで、体現していくことに使命感もあります。

資金調達で苦労したことを伺えますか。

日本に弊社のビジネスモデルの類似例がないことがハードルだったかなと思います。ベンチャーキャピタルへの調達相談も行いましたが、類似例がないことやその複雑なビジネスモデルからDD(デュー・デリジェンス)が難しいというご反応が少なくありませんでした。そのため、メジャーメントの有無ではなく、ビットキーの事業が生み出す価値やメリットそのものを評価いただける事業会社の方にお声がけしていきました。特に当初、住宅やオフィスの「扉」向けの事業が主軸であったため、扉を持つ不動産業界の方々に、どのようなユーザーメリットがあるかご説明し、シード調達をクロージングしました。説明をする時はAppleのモデルを例にしました。iPhoneがあり、その上にAppStoreやApple Musicといったアプリがあり、AppStoreにはその先に無数のアプリが広がっており、Apple Musicにもたくさんの楽曲が並びますよね。単にスマートフォンを販売するメーカーではありません。この世界観はビットキーと近く、例えばSpotifyなどの単体アプリケーションを量産していくというアプローチとは異なるのです。シリーズAでは大手不動産の方々にもご出資いただいていますが、これはシード調達時の人脈に助けられたところが大きかったです。シード期から意図的に理解者を集めていくことは、その後の調達に大きく寄与するのでお勧めします。

グローバル展開について方針をお伺いできますか。

ニューヨークでの雑談が事業構想につながっているのも象徴的なのですが、かなり初期からグローバル展開を念頭に事業を進めてきました。一般的に日本のスタートアップでは、日本市場での顧客獲得に成功してから次は海外に展開をする、という進出の仕方をするところが少なくありません。しかし、国ごとにカルチャーは異なり、日本のものをそのまま持ち込むことが必ずしも有効ではないと考えます。ビットキーはここまで、あらゆるものとConnectするために、汎用化・構造化したパーツとして、主要なソフトウェアプロダクトを作り上げてきました。そのため、日本で完成した製品で顧客を獲得して、そのまま海外に展開して、チューニングするのではなく、そもそもパーツの組み合わせを変えることで、各国のマーケットに合わせた完成品をつくるアプローチを考えています。

また、日本のスタートアップは単独で海外に飛び出すのも特長の一つだと思います。一方で私たちは、全てを自社でやる必要はないと考えています。日本にはすでに海外展開を進める名だたる有名企業様がたくさんいらっしゃいます。現地にもその国のユーザーや市場環境を熟知するパートナー候補が居るはずです。我々のみで海外展開するのではなく、皆さんとのシナジーを活かしつつ、進出したいと考えています。
弊社は、経営陣に海外就業経験がある人間が多いのも強みの一つです。

現在は、新型コロナウイルスの影響による渡航制限で導入が一部止まってはいますが、一部の国ではPoCレベルのプロダクト提供をすでにしています。ハードウェアもソフトウェアもあり、フィジカルとデジタルのコネクトをしていくものなので、対面でもちゃんと説明して導入を推進したほうが望ましい。私が在籍している間に、世界の約半分に展開できたらいいなという展望を持っています。

学生時代はどのような過ごし方をされましたか。

専攻は建築デザインでした。テクノロジーに触れたのは25〜26歳の頃。ITの世界に触れた時、建築ととても似ていると感じました。建築には構造計算とか設備設計があるんですが、データベースの構造設計ととても近しい。就職活動は2007年頃だったのですが、学生は引く手数多だったためどこに行こうかと悩みました。しかし、建築業界は検討しませんでした。実はこの業界は、新人賞の取得者が50歳前後という長期スパンな世界。私はもう少し早いスパンでしびれる経験をしたいと思っていたため、コンサルティング業界やIT業界を中心に見ていました。根本的には、挑戦したい、クリエイティブな人間でいたいという気持ちがあり続けているので、人間の在り方としては今とあんまり変わらないかもしれません。取り組んでいるテーマが少し若かったかな。音楽、建築、テレビ局のアート系の部門でニュースの画面やテロップをつくるなど様々なプロジェクトに関わりました。

週末などの空き時間にされていることを教えてください。

基本的に、仕事もプライベートも心が動かされるものに没頭したいと考えています。教養を必要とするもの、例えば料理やワイン、アートなどがとても好きで、それらの教養を深めたり、体験したりするという時間の使い方をしています。もちろん旅行に行ってインスピレーションを得ることもあります。とにかく、自分が知らないことや、今までにないものに触れるようにしていますね。仕事を義務やつらいものだと捉える方にはリフレッシュが必要かもしれませんが、私は仕事がとても楽しいと感じているので、疲れを取ることを目的とした過ごし方より、新しいものへ触れる時間を大事にしているかもしれません。

プレシード期、シード期のスタートアップでアドバイスをいただけますか。

目先の売上や資金調達に囚われず、うまいことやろうと思わずに、5年後や10年後のビジョンに向き合って、ぜひ広大なビジネスにこだわっていただけたらと思います。悩まれる方がいらっしゃれば、ぜひご一緒したいです。私は、起業というのは手段の一つであると思っています。ファンドにお金が余っている時期であれば資金調達の環境は良くなるわけですが、それで調達ができてスポットソリューションを開発した先に夢はあるでしょうか。ぜひ、世界地図を塗り替えるような、広く、深く、遠く壮大なことを成し遂げようとする人、あるいはご一緒できる人に出会えたらと思っています。

最後に、読者のみなさまへ一言お願いできますか。

前例がないことを具現化する存在が、スタートアップだと思っています。海外から始めることも検討をしましたが、現状の日本には類似プレイヤーがいないためまずは自身のよく知るマーケットから始めようと、日本で起業をしました。グローバル視点、世界地図を塗り替えるような展開を計画されているみなさんと、日本市場を牽引できればと思っています。ぜひご一緒しましょう。