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アジア13カ国のEC・マーケティング業界を牽引するグローバルリーディングカンパニーAnyMind、その誕生までの軌跡

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人口が増え続けるアジアでは、SNSやECの成長が目覚ましい。それに対し、アジア13カ国19拠点で、インフルエンサーやブランド企業、メディア向けに、商品生産、EC構築、マーケティング、物流をワンストップで支援するプラットフォームを展開するのがAnyMind Groupだ。

M&Aを繰り返し巨大に成長した同社は、資金調達規模も大きく、入社した社員も若くしてグローバルで働くチャンスがある珍しい企業。代表取締役CEOの十河 宏輔(そごう・こうすけ)氏はどのような経緯でこのリーディングカンパニーを興すに至ったのだろうか。

マイクロアドで経験を積み、東南アジアを舞台に起業

これまでのキャリアと、起業のきっかけを教えてください。

私は1987年生まれ、香川県の出身です。後半でお話しますが、父方、母方ともに祖父が起業家ということもあり、起業や経営は自分に身近なことでした。そのため、自分も成長したら事業を興して仕事をしていくのだという意識は割と幼少期からありました。

大学生時代も、起業に向けた準備として、位置情報アプリ「30min.(サンゼロミニッツ)」を運営する株式会社サンゼロミニッツというスタートアップでインターンをしていました。優秀な社長のもとで仕事を見ることが仕事を覚える一番の近道であろうと、様々な会社を調べた上で、直談判で飛び込んで採用いただきました。当時、アメリカではTwitterやFoursquareが流行し、位置情報事業がホットな時代。自分自身も元々食べることが好きで、位置情報ベースで飲食店を検索する事業などを構想していて、ここでの経験に親和性や面白みを感じていました。社会人として必要なことは、サンゼロミニッツ創業者の谷郷 元昭(たにごう・もとあき)氏に教わったと思っています。ここでは営業も私がやっていたのですが、まず情報が足りなかったため、RSSでニュース情報を収集するといった習慣も身につけ、このスキルは後に会社員になった時にも活きています。

大学卒業にあたり、まっすぐ起業する道、そしてサンゼロミニッツからも声をかけていただき迷いましたが、先輩から「違うと思ったら辞めればいい」と背中を押されたこと、入社したからこそ得られる経験があると思ったことから、株式会社マイクロアドに新卒入社しました。当時、同社は海外展開を強めており、結果を出せば海外勤務にさせてくれるというフェーズだったのも魅力でした。学生時代にいろいろな国を見ようとバックパッカーの定番ルートであるインドやタイを巡っていたのですが、その国の熱量やビジネスチャンスを肌で感じ、東南アジアでの事業をやってみたいと考えていたのです。起業するならば、自分の好きな飲食系で事業をやりたいと当時は思っていて、予約サイトなども検討しましたが、詳細なアイデアまでは行きついていませんでした。

入社後は東南アジア支社の立ち上げに次々に関わっていらっしゃいますね。

最初はビジネス開発部に着任。まずは営業で成果をあげようと予算的な体力や将来性のある会社に連絡し、入社3ヶ月で営業として全社MVPを受賞。私はコミュニケーション能力が高いほうではありませんが、サンゼロミニッツでのインターン時代から続けていた情報収集力が強みだと考えていました。英語のインプットも欠かさず行っていたので、情報量だけでいえば新卒ながらに2~3年目の社員に匹敵していて、そこから戦略を練りました。特に読みが当たったのは新規で日本に参入する外資企業をターゲットにした営業です。当時は、航空券や宿泊予約サイトのExpediaや、集団割引サイトのグルーポンが日本に参入してきていた時期。英語でインプットをしていたので、日本に参入するくらいの有名サービスであれば私はもちろん把握していました。日本語でリサーチして営業先を探す方が多い中で、サービスを理解した上でいち早くそういった外資企業へ提案に行ったら案件を取得できるのではないかと考え、その読みが的中した形です。

成績が評価され、2012年にはマイクロアドのベトナム支社を立ち上げ、2016年3月まで代表に就任。実は、ベトナム支社の立ち上げに挑戦する前に転職活動をしていて、新規事業開発に強い事業会社から数社内定をいただいていました。しかし、海外支社立ち上げの経験ができるということで残留することにしました。以前からAPACの中ではインド市場が最も熱いと思っていましたが、ベトナムはサイズ感、親日さ、国民性のいずれをとっても、APAC進出のPDCAを回すのに最も適した市場であったと今では思います。1年で黒字に転じ、あとは他国で横展開していき、2013年6月にシンガポール、2014年2月にフィリピン、2015年3月にタイと次々とアジア拠点を設立。2015年4月にはMicroAd GroupのAPAC事業責任者にもなり、これらの実績が認められ本社取締役にも抜擢いただきました。

そしてこれらのご経験も踏まえ、満を持して、2016年4月にAdAsia Holdings(現・AnyMind Group)を設立されたのですね。

はい、インターネット領域で王道のアドテクをやろうと、広告領域で現CCO(Cheif Commercial Officer)の小堤 音彦(こづつみ・おとひこ)と起業に至りました。当時はSNSが盛り上がっていたため、各国のインフルエンサーを簡単に探せる広告一元管理ツールをつくっていました。東南アジアでは様々な広告プラットフォームや解析ツールのローカライズが行われていなかったため、一元管理ツールに商機があると感じていたのです。現在はECに舵を切っていますが、アドから入ってクロスセルする構想は最初から持っていました。

小堤とは、私がフィリピン担当であった2012年頃にベトナムで出会いました。彼は当時KDDIグループの株式会社medibaのベトナム担当。マイクロアド・ベトナム拠点の発展に伴い、自分の右腕となる人をベトナム支社に置こうと思っていた時にご縁があり参画してくれることに。当時から一緒に仕事をする中で起業をしたいという話はしていました。二人ともデジタルマーケティングとインフルエンサーマーケティングのAPACにおける成長を信じて疑わず、マーケットシェア獲得のためがむしゃらに働いていました。

デジタルマーケティング、インフルエンサーマーケティング、いずれの領域でも様々なサービスをリリースなさっていますね。

2016年5月にプログラマティックバイイング及びレポーティング機能を一つのダッシュボードで管理することが可能になるサービス「AnyDigital Platform」(旧名:AdAsia Digital Platform)と、その一機能として「AnyDigital Premium Marketplace」(旧名:AdAsia Premium Marketplace)の提供を、2016年8月にはアジア全域で利用可能なインフルエンサーマーケティングプラットフォーム「AnyTag」(旧名:CastingAsia)の提供を開始。

その後、2018年1月にAdAsia HoldingsからAnyMind Groupに組織改変しました。アジアのインターネット広告業界でトップ企業となることを中間目標としていた私たちが、マーケティング業界の外にも進出するという、強い意志と決意を持った大きなアクションとして組織の再編を行っています。

その後も、2019年〜2021年にかけて四つのサービスをリリース。2022年に入ってからは、3月に会話型コマースプラットフォーム「AnyChat」を、そして4月には複数ECチャネルの一元管理でEC運営を最適化するECマネジメントプラットフォーム「AnyX」をローンチしました。“Make every business borderless”のミッションのもと、誰もがボーダーや障壁がない状態でビジネスができる「次世代のビジネスインフラ」を創造することを目指しています。

この快進撃はM&Aによる影響が大きかったのでしょうか。

はい、現地の企業をM&Aしていき、優秀な人材をそのままカントリーマネジャーに据えていけたことが大きく成長に寄与しています。M&Aは創業社長を仲間にできるほぼ唯一の方法ですので、その点でも積極的に行っています。

2018年8月には香港においてパブリッシャーグロース支援企業のAcqua Mediaを子会社化。
2019年3月にタイ最大級のインフルエンサーネットワークを擁するMCN(マルチチャンネルネットワーク)企業のMoindyを買収。2020年3月にはインドでグローバルに動画広告プラットフォーム事業を展開するPOKKT Mobile Adsを子会社化。インドは熱い市場ながら入り込むのが難しいのですが、M&Aを介することで、ローカルでゼロから始めるよりもずっと早く現地に浸透できたと思います。

大規模な事業ですが、特に大変であったことを挙げるならどのようなポイントでしょうか。

国もサービスも分断されているため、管理はとても大変です。社員数は1,000名に上りますが、東南アジアは転職で年収を上げていく文化なので流動性も高い。そこで、キーマンに長く勤めてもらうため、人事チームを強化したり、成長意欲をかき立てるような施策を設定したりと工夫しています。特に採用は各国でチームをつくり、人材エージェントなどの外部の力に頼るのではなく、ダイレクトリクルーティングをメインとして独自の人材プールを持つようにしています。

日本では珍しい、挑戦環境のあるインターネット事業グローバルカンパニー

事業規模が大きいこともあり資金調達も大規模にされていますね。

2017年4月にAPACのJAFCOから1,200万米ドル(約13.6億円)、9月シリーズA2で250万米ドル(約2.8億円)を調達しています。2018年10月にはプレシリーズBとしてLINE、未来創生ファンドよりシリーズBラウンドで1,340万米ドル(約15億円)、続いて2019年3月にソリューションプロバイダであるVGI Global Mediaと東京センチュリーから800万米ドル(約9億円)の追加調達。現時点で総額約119億円を調達しています。

調達資金は事業成長もそうですが、やはりM&Aに費やしているところが大きいです。GoogleもFacebook(現・Meta)も、YouTubeやInstagramの買収戦略があったからこそあそこまで大きくなったのだと考えていて、起業前からM&Aによる成長は戦略に入れていました。中国のAlibabaや、日本だとソフトバンクグループもそうですね。グローバルで強い会社になるためにはM&Aが自社でできる経営チームをつくる必要があると考えていて、CFOにも投資銀行出身者を採用しています。

グローバルに展開されているとブランディングにも配慮が必要になりそうですが、広報戦略で留意されていることはありますか。

はい、サービスはグローバルで同一なので、グローバルで統一したメッセージを出すために各国にPR担当を置いています。ブランディングのほかに、採用広報にも注力しています。エンジニアはグローバル一括採用ですが、コーポレートやセールス、マーケティングは各国法人で採用していて、優秀な人に魅力的に思ってもらえるような発信をそれぞれの国に合わせて行っています。

実は弊社は東南アジアでは学生からの人気が非常に高い会社になってきています。弊社はGoogleのパートナーであり、取引も頻繁にあるのですが、過去にタイのGoogleでインターンを終了した人に就職したいGoogleの取引先会社の投票をしてもらった際に、弊社が1位になったこともありました。タイに限らずですが、ブランディングのためにオフィスに投資をし、立地が良いのはもちろん、ベトナムのオフィスだとシーリングライトがAnyMindのロゴの形になっていたりと内装にも気を配っています。

グローバル採用のお話が出ましたが、組織風土や採用について伺えますか。

ダイバーシティに富んだメンバー構成になっています。アジア圏のみならず欧米を含めて25以上の国籍のメンバーが在籍。日本でも毎年20名以上の新卒を採用し、様々な国で活躍してもらったり、若くして事業責任者を任せるなど、成長の土壌を用意しています。

社員同士も仲がよく、例えば、現在は時世的に難しい拠点が多い状況ではあるものの、Google同様に月に1回、TGIF(金曜夜の飲み会)を各国で実施しオープンカルチャーを醸成しています。世界中の社員を一箇所に集めた「All-Hands Meeting(オールハンズ)」という全社員総会も開いてきました。前回は約500人が参加しました。1年の振り返りをしたり、今後の方向性を伝えたり、グローバルに活躍した人を表彰したりします。そういった場で普段会えないメンバーとも直接のコミュニケーションができます。

13カ国・地域で事業をしているグローバルカンパニーで働いているという意識が社員にもあるのです。日本人同士は日本語ですが、全社的には英語を使っていて、全社会議では、タイで上手くいった施策をベトナムでも試してみようといった話題が飛び交います。新卒、中途、日本とそれ以外を問わず、インターネット事業でグローバル企業というのは東南アジアでは多くないので、弊社は魅力的に映ると思います。

弊社も成長に従い、必要なポジションに最適な人を集めてきました。一方、採用とはバランスでもあるので、いつか弊社の枠に収まらず独立起業してしまう人材だとわかっていても社内の刺激になるような人も欲しいフェーズ。学生インターンも採用していますが、描いている未来が根拠なく大きくて、将来への期待があるタイプに入ってきて欲しいと考えています。ワクワクしながら挑戦できるタイプが弊社には合っているかなと。

起業家の祖父の背中を見て育ち、自らも事業成長を牽引する存在へ

学生時代はどのように過ごされましたか。

1987年に生まれ、香川県で育ちました。両親はいずれも建設土木事業を営んでおり、両祖父共に会社の代表を務めていました。彼らの家は事務所と併設しており、祖父の家へ行くと、社長と呼ばれる祖父と従業員の方がいるのが当たり前の環境でした。彼らは今70代ですが、まだ現職。その背中を見て育っているからか、事業とは人の信頼を背負って生涯現役でやるものという認識があるかもしれません。

スポーツが得意で、高校ではスポーツ推薦入学をし、バスケットボールプレイヤーでいくか社長をするかで悩んでいました。私が高校生のころは、ちょうど堀江 貴文(ほりえ・たかふみ)氏らITヒルズ族に注目が集まっていた時期。彼らを見てぼんやりと、起業をするならばインターネットかと思うようになっていきました。そして、怪我を理由にスポーツを引退することになり、ビジネスでやっていくことを決意。日本大学の商学部へ進み、前述のインターンを始めました。現在、AnyMindでも学生インターンを雇っていて、過去の自分のように新卒採用を受け入れていなくてもここで働きたいと飛び込んでくる人もいましたね。その彼は大学中退後に入社し、すでに事業部長をしています。自分がしていただいたように、多くの若い方に門戸を開く会社でありたいと思っています。

常にお忙しそうですが、休日の過ごし方やリフレッシュ方法はありますか。

やはり食事でしょうか、365日外食をしています。最近はサウナにもハマっており、サウナ後に食べる食事は通常の1.5倍くらいおいしく感じますね。海外にいることが多いからか、反動で海外にいても和食を食べることが多いです。

プレシード期からシード期のスタートアップへメッセージをいただけますか。

僕はやや特殊かもしれませんが、実家の環境もあって、起業というのは短距離走ではなくマラソンのようなものだと思っています。リーディングカンパニーをつくり、一生をかけてそのグロースをやることだという感覚です。ビジネス自体も楽しくて好きです。この感覚があるかによって起業が合うかは相性があるでしょう。短期間で会社をつくって連続起業家として活躍されている方もいますし、それはそれで一つの形ですが、中長期的な視野を持つこと自体は心が折れにくくなるのでお勧めではあります。

最後に、これからつくりたい世界観と、読者へ一言お願いいたします。

私自身、自分の事業に対してとてもワクワクしています。これから5〜10年にかけて、アジアの未来は絶対に明るい。間違いなく伸びる市場でそれをリードできる会社でいたい。AnyMind Groupがそういうポジションでいることでワクワクもしたい。実際に海外で事業をしていると、日本人はまだまだ海外でプレゼンスを出せると感じます。私は学生時代のバックパッカー経験でアジアの熱量を直接感じ、事業にも希望を見出すようになった人間ですが、同じように若いうちから熱量ある市場に直接触れる人が増えてほしい。そういうチャンスを提供できる会社でありたいと思います。

テクノロジーを活用した仕組みづくりを通して、誰もが簡単にビジネスを展開できる環境をつくっていきたい。そして、そんな理想に向けて、AnyMind Groupを僕が大好きなアジアから、世界をリードする会社に育てていきたいと考えています。飛び込んで成長したいと思う方、ご入社をお待ちしています。