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どん底から勝ち筋を見出し、成長企業へ。PR Table共同創業者の兄弟が「talentbook」で届けたい価値とは

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一つの組織を運営するということは、いつの時代も大変で、悩みが尽きないものである。特にスタートアップは、事業成長に向けてやるべきことが山積みだ。かなり早いスピードで会社のフェーズが変わっていくからこそ、なおさら組織体制の構築に難しさを感じる局面も多い。

採用マーケティングの領域で「働く人のストーリー」に特化したプラットフォーム「talentbook」を運営するPR Tableも、そのような組織運営の難しさに1年ほど前まで直面していたスタートアップの一つだ。

2014年の創業当初は「PR Table」という広報向けツールを提供していたが、2020年に採用広報向けのプラットフォーム「talentbook」へと方向性を変更。そのまま成長フェーズに向かうかと思われたが、社内にあった複数の小さなほころびが絡み合い、組織運営も事業も「どん底」の時期を経験したという。

今回、そんなPR Tableの共同創業者である大堀 航(おおほり・こう)氏大堀 海(おおほり・かい)氏にインタビューを実施した。約2年続いたという「どん底」の時期に、いったい何があったのか。兄弟で起業したという二人が事業にかける想いや今後の展望も含めて、詳しく話を聞いた。

働く人のストーリーを集めたプラットフォーム「talentbook」とは

改めて、PR Tableの事業内容を教えてください。

大堀 航(以下、航):弊社は、企業の採用マーケティング支援の領域で事業を行い、「talentbook」という「働く人のストーリー」に焦点を当てたプラットフォームを運営しています。企業の人事担当者向けには、記事の執筆と入稿、読者データの分析などを行える「taletbook CMS」を提供。自社の従業員のキャリアをさまざまな角度から深掘りした記事を公開していただき、それらを今後の仕事や人生について考えている方にお届けしています。

さらに、「talentbook」に掲載する記事の制作や動画の制作など、採用マーケティング活動のPDCAをワンストップで支援するサービスも手がけています。

Credit: 株式会社PR Table

貴社サービスの利用を決めた企業は、具体的にどのような課題やニーズを抱えていることが多いのでしょうか。

「攻めの採用をしていきたい」というニーズを持ったお客様が多いと感じています。というのも、現在の日本は労働人口が減少している上に、雇用形態も含めて働き方が多様化しています。それゆえ、人材紹介会社を利用しても、うまく採用につながらないケースが増えているんです。自社にマッチした方と出会うためにも、会社の魅力を積極的に発信していきたい。そのような想いを、私たちに聞かせてくださる企業が多いですね。

メディアの読者層についても教えていただけますか。

大堀 海(以下、海):「talentbook」に載せているのは、「求人情報」ではなく、あくまでも働く人のストーリーです。そのため、読者は大学生から20代後半と幅広く、今後のキャリアや働き方について考えたい方が多く訪れるメディアとなっています。

メディア運営では、コンテンツ数と読者数を確保することが成功の鍵となるように思います。その点については、どのような戦略を描いて今日まで進んでこられたのでしょうか?

:当社の場合はまず、大手企業を中心に「talentbook」の導入社数を増やすところから着手し、会社のほとんどのリソースを注いでいきました。しかし、これからは読者数をさらに伸ばすフェーズにあると考えています。

自分のキャリアに本当に役立つ情報が載っている。「talentbook」という場所がそのような存在になれるよう、自分と似たような境遇の人の記事を探しやすくする仕掛けなどを現在考えているところです。

右が兄の大堀 航さん、左が弟の大堀 海さん

WantedlyやPR TIMES STORY、noteなどが類似サービスにあたるかと思います。差別化のポイントは、どのような点にあると考えていますか?

:そもそも「目的」の部分からして、他社と異なるサービスだと考えています。当社のサービスは、あくまでも「働く人のストーリー」を掲載し、企業の採用広報に役立てながら、読者に今後のキャリアを考えていただくという部分が主目的となります。良い人材をスカウトするために利用するWantedlyや、より多くの方に自社や商品などの情報を伝えるために利用するPR TIMES STORY、多くのユーザーが思い思いに記事を書くnoteとは使われ方が違うのです。

兄も弟も、それぞれがPR業界で経験を積んだ20代

事業アイデアは、どのようにして生まれたのでしょうか。

:「talentbook」が企業の採用広報に貢献可能なプラットフォームとして稼働し始めたのは、2020年6月からです。それまでは「PR Table」という名称で、人事ではなく、広報担当者向けのサービスとして提供していました。

「PR Table」をつくろうと思ったのは、僕と海がもともとPR業界出身で、広報ネタのひとつとして自社の社員が持つストーリーを社会に発信することの有用性を感じていたからです。

広報活動を行う中で、プレスリリースとしてメディア向けに発信できるネタはそう多くはありません。でも、社員が入社してから今日までの物語であれば、より多くのネタを発見してコンテンツ化することができます。そうした社員のストーリーに特化した新しいプラットフォームがあれば、世の中で広く利用してもらえるのではないかと可能性を感じ、事業化することに決めました。

事業創出にはお二人のキャリアが大きく関わっているとのことで、改めて、航さんと海さんのこれまでのご経歴を教えてください。

:私は新卒でオズマピーアールというPR会社に就職し、自治体や企業の広報活動に対してコンサルティングなどを行っていました。経験を重ねる中で、次第に事業会社での広報ポジションを経験してみたいという想いが強くなり、転職を決意。転職エージェントから紹介していただいたレアジョブに2012年に入社し、PRチームの立ち上げに携わりました。この会社では、2014年6月に東証マザーズへの上場を経験。会社が生まれ、上場してパブリックカンパニーへと変わっていく過程を見る中で起業に対する興味が湧き、2014年12月に弟の海とPR Tableを共同で創業しました。

航さんはそもそもなぜ、新卒でPR業界に行こうと思われたのですか?

学生時代にロンドンに留学し、現地で知り合ったスイス人と日本で共同プロジェクトを立ち上げたことが大きなきっかけです。そのプロジェクトを進める中で、広報の必要性を強く実感しました。

その経験を経てPR会社に興味を持ち、オズマピーアールでアルバイトを開始。そのままオズマピーアールの新卒採用試験を受け、入社したという流れです。

オズマピーアールといえば、業界大手の企業ですよね。そこからレアジョブへと転職される際は、当時は大手からベンチャーへの転職が珍しかったからこそ、周囲からの反対もあったのではないでしょうか。

:おっしゃる通り、周囲の猛反対にあいました。オズマピーアールでお世話になった先輩方も、「やめたほうがいい」と心配してくださって。でも、レアジョブでは、広報PRチームの立ち上げを担うことが決まっていました。広報の仕事をゼロからつくっていく経験はなかなか得られるものではありません。「おもしろそう。やってみたい」という気持ちが勝って、転職を決意しました。

海さんはどのようなキャリアを歩んできたのですか?

:僕は、兄とはまた違った道をたどってきました。新卒では、就職浪人をしても自分が心からやりたいと思える仕事が見つからなかったため、知人づてに紹介してもらった読者モデルが働くカフェを手がける企業に入社しました。

その会社では、広告代理店への営業や広報などを経験。1年ほど働いた後、自分で商売をやってみたいと思い立ち、2012年に24歳で独立起業して今で言うインフルエンサーマーケティングのような仕事を行う一人会社を経営していました。

その後、兄と話す中でPR Tableの構想に共感。2014年に兄とともに創業しました。

小さなほころびが大きな不協和音に。組織運営が「どん底」だった2年間

企業広報向けの「PR Table」から、採用広報向けの「talentbook」へと方向性をシフトさせたのは、どうしてですか?

「PR Table」は、自分たちが期待したほどには伸びなかったというのが大きな理由です。最初は興味を持って導入いただけても、大きな予算をかけてまで利用を継続してくださる企業は少なかったんです。

そんな中、軸を変えて人事担当者に話を聞いてみると、採用広報や社内のコミュニケーション活性化に課題を抱えている企業が多かった。ここならビジネス的にも勝機があるかもしれないと、採用広報の領域で力を発揮するプラットフォームへと輪郭を変えていきました。

サービス内容を変更してからは、順調に成長拡大を?

:いえ、全然そんなことはありません。サービス内容を変更しても、どうしたらサービスをより拡大させていけるのか、試行錯誤の連続でした。特に2020年から2022年の間は、組織運営の観点からも、ある意味「どん底」の時期で。

何かトラブルが起きたのですか?

:一つの大事件が起きたというよりも、さまざまな不備・不具合が積もりに積もって一気に火を噴いてしまった時期でした。今振り返ると、当時、事業推進における各チームのミッションの定義や適切なリソース配分の精度が低く、組織体制がいびつなまま人材採用を続けてしまったんです。
さらに、コロナ禍に突入。事業の勝ち筋も見えておらず、会社の先行きに不安を覚えたメンバーが大量に退職し、社員数の3分の1が辞めてしまうという状況に陥ってしまいました。

:改めて振り返ってみると、当時の僕らは何も見えていなかったのだなと思います。事業をいち早く大きくしたい一心で、勢いでいろいろな物事を動かしていくことも多かったなと。

:勢いで進んできた結果、気がつかぬ間に生まれていたほころびが、次第に会社の動きを逆回転させてしまい、僕や海が多くのメンバーから「進むべき方向性が違ったじゃないか」「何をやっているんだ」と責められる事態になってしまいました。

あのころは本当に辛かったです。僕も精神的にダメージを負ってしまって、2022年は3ヶ月ほどの休養期間をもらっていました。

:そのようなどん底の時期を一緒に乗り越えてくれたメンバーからは、「あの時の航さんと海さんは、二人の事業へのこだわりや想い、二人ならではの良さがずっと消えていましたよね」と言われたことがあります。

:たしかに、当時は自分たちが何を言っても、あらゆる方面から「違う」と否定されてしまいそうで怖くて、社内でもあまり発言ができていなかったように思います。常に追い込まれている感覚がありました。以前のように前向きに経営と向き合えるようになったのは、この一年ぐらいのことです。社外のメンターや仲間とのコミュニケーションを通じて、自身のメンタル・コンディションを整えることは事業成長のためにはすごく必要なことなのかもしれないと、当時を振り返って改めて思います。

そのような「どん底」の時期からはい上がり、「talentbook」を成長させることができた理由を教えてください。

起死回生の突破口があったというよりも、周囲の方に助けていただきながら、当たり前のことを粛々とやってきたことで少しずつ上昇傾向に持っていくことができました。投資家の皆さまにはつらい時期も根気強く支えていただいて。例えば株主として入っていただいているエッグフォワード社には、ビジョン、ミッション、バリューの再考を手伝っていただきました。

会社として描く方向性を明確にし、混乱のさなかでも辞めずに残ってくれたメンバーにマネジメントのポジションを少しずつ引き継いで、新しい人材を採用して。本当に少しずつ進化していった形です。

:僕としては、やはり「事業の勝ち筋」を見出せたことは大きかったですね。2022年6月ごろに、どうすればサービスを拡大させていくことができるのか、僕らが進むべき道筋をようやく見つけることができたんです。全ての失敗がつながって成功に転じることができたのが、この一年だったなと思います。

「talentbook」が誰にとっても当たり前の存在となった世界をめざして

ちなみに、航さんと海さんは、どのような役割分担で経営に携わっているのですか?

:僕が主に社内を見て、組織づくりを行っています。

:僕はわりと自由な動きをさせてもらっていて、勝ち筋を見つける役割というか、将来のことを考えていることが多いです。

貴社にはどのようなカルチャーがあるのでしょうか。

ドライ過ぎず、ウェット過ぎず、成果にこだわる部分もあるけれども、殺伐とはしていない。そんな絶妙なバランスの雰囲気があると思います。このカルチャーは、今後も保っていきたいですね。

社内の平均年齢は35.2歳で、20~40代まで幅広い年齢のメンバーが活躍しています。もともと求人広告を扱っていた人材業界出身者や広告代理店、メディア業界で働いていた方も多いですね。

今後、どのような方と一緒に働きたいですか?

:当社の働き方はフルリモートなので、自律している方に来ていただきたいです。また、サービスの性質上、「人の持つストーリー」に関心がある方でないと、当社の仕事を楽しんでいただくことはできないかもしれません。仕事とプライベート、両方で幸せを感じて生きようと考えている方を採用するケースが多いですね。

今後の展望を教えてください。

「talentbook」を誰にとっても当たり前の存在にする。これが今、我々の目指しているところです。

これまでは大手企業を中心に採用支援を行い、コンテンツを蓄積してきましたが、今後はその幅を広げ、日本全国のあらゆる企業が持つ「働く人の等身大のストーリー」を掲載したプラットフォームにしていきたいと思っています。そうすることで、「talentbook」を見にきてくださった方が「こういうキャリアもあるのか」と学びを得て、その人らしい未来をつくるきっかけになればと思っているんです。

大手人材会社の調査によれば、現在国内には転職希望者が1,000万人もいることが明らかになっています。その大半は「自分に合った仕事が分からない」と、転職を思いとどまっているそうです。しかし、これからの日本は、雇用の流動性がますます高まってくるはずです。そうした中で、次の仕事を最も幸せな形で選ぶための一助となるようなサービスにしていければと考えています。

僕らがつくりたいのは、真の意味でキャリアに役立つ情報が掲載されたプラットフォームです。メディアについては、今は20代の読者が中心ですが、いずれは小中学生が将来の進路を学ぶために訪れるものになってもいいと思っています。

:こうした目的意識を持つサービスは、ほかにないと思うんです。10年以内に3万社の企業に「talentbook」を導入していただき、国内の転職希望者1,000万人が当社のメディアに何らかの形で触れている。そのような世界観をつくれたらと今後の展望を描いています。

プレシード、シード期のスタートアップに向けて、応援メッセージをいただけますか。

:プレシード、シードの時期は、いつも暗闇の中にいるような感覚がしている方も多いのではないでしょうか。光が見えない時間もかなり長いと思うのですが、走り続けているうちに、段々と不安がなくなってきます。せっかく始めたことを諦めずに、やり続けてほしいですね

:あとは、勝ち筋が見えるまでは、むやみやたらに人材採用に注力しないこと。そして、ニッチな領域でも構わないので、事業に対して、自分たちが一番強いのだと誇れるものを見つけることが大切だと思います。

最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。

:ステージにもよりますし、人にもよりますが、スタートアップに入社してみると、もしかすると思っていた以上に「カオスだ」と感じるかもしれません。そのカオスさを残念がらずに楽しめるかどうか。そこに自信がある方は、絶対にスタートアップに向いているので、チャレンジしてみたほうが良いと思います。