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「これからの人生は社会のために使う」 iiba・逢澤奈菜氏が子育てMAPアプリを立ち上げ、社会変革を目指す理由

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子育て世代の抱える課題の解決に挑むサービスは多いが、子育て世代と企業、行政までを含めた大規模な経済圏構築までを見据えたサービスは珍しい⸻。

事業構想に関する話を伺う中で、そのように感じた株式会社iiba代表の逢澤 奈菜(あいざわ・なな)氏へのインタビュー。逢澤氏は、子育て世代が外出しやすくなるような子育てMAPアプリ「iiba(イイバ)」を企画し、事業を立ち上げた人物である。

「なんだ、MAPアプリか」と思われた方もいるかもしれないが、性急な判断は待ってほしい。「iiba」は、ただのMAPアプリでは終わらない非常に大きな構想を持っている。いずれはWeb3.0 や獲得したデータも活用しながら、行政や企業もターゲットに、「iiba」を中心とした子育て世代向けの経済圏をつくろうというのだ。

そのような難易度の高い事業に挑む背景には、逢澤氏自身の「産後うつギリギリライン」の子育て経験や、生死の境をさまよったことで「今後の人生を社会のために使う」と決めた強い意志があった。

子育て世代が本当に欲しい情報を提供する、子育てMAPアプリ「iiba」

改めて、どのようなアプリを手がけられたのか教えていただけますか?

「iiba」は、子育て世代に必要なあらゆる情報や機能が集約されたプラットフォームを目指す「子育てMAPアプリ」です。

私も子どもを育てているのですが、子育て中は「場所」に紐づいた細やかな情報が実は重要な役割を果たしています。例えば、休日に外出しようと思っても、すぐには出かけられません。子どもの年齢や興味関心・成長度合いを考慮することはもちろん、授乳やおむつ、食事や買い物などさまざまなことを考慮する必要があります。

そうしたことを考えるためには、事前に外出先をリサーチすることが不可欠。しかし、現在は子育て世代が欲しい情報が一括で手に入る場所はほとんどありません。多くの方はInstagramやGoogleマップ、個人ブログなどを活用しながら情報を集めており、大きな手間がかかっています。気軽にちょっとおでかけしたいだけなのに、そこには大きなハードルがあるんです。

Credit:株式会社iiba

もちろん、子育て世代にとっての「場所探し」の課題はおでかけだけではなく、保育園探し、習い事、日常利用するスーパーマーケット、病院など多岐にわたります。これらを解決するために、子育て世代の抱える「場所」と「情報」にまつわる課題を解決し、地図上で子どもと出かけるのに「いい場所」がとにかく見つかるアプリをつくりたい。そう思って開発したのが「iiba」という子育てMAPアプリなのです。

具体的には、どのような機能がついてるのでしょうか。

現在の機能を一言で言えば、「子どもと訪れて良かった場所の情報をユーザー同士でシェアする口コミマップ」が近いですね。

子育て世代のユーザーは基本的に無料で利用でき、マップを見るだけであれば会員登録も必要ありません。アプリ上に表示されるマップには、公園などの情報が登録されていますので、気になる場所をタップすると、その場所の写真やおすすめポイントなどの情報を確認できるようになっています。

ユーザーも実際に訪れた感想や設備情報などを登録できますので、これからはキャンペーンなども定期的に開催しながら、登録情報数を少しずつ増やしていく予定です。

口コミを登録できる場所に制限はありますか?

いえ、ありません。必ずしも公園や美術館といった整備された場所でなくとも良く、電車が見える橋とか金魚鉢が置いてある路地裏とか、子育て世代にとってうれしい情報であれば些細なものでも登録できるよう構成しています。

また、現在は遊び場を中心に情報を集めていますが、病院やスーパー、保育園、習い事などに関する情報も、今後増やしていくつもりです。習い事や保育園に関する情報は、誰もが知りたいと思っているにもかかわらず、リアルな口コミを得ることが難しいもの。そうした情報も「iiba」で探せるようにしたいと思っています。

Credit:株式会社iiba

アプリには、ポイント機能やデータ活用の構想も

「iiba」ならではの特徴や競合優位性を教えてください。

大きく三つの特徴があります。一つ目は、場所にまつわる情報をマップ上に簡潔にまとめた点です。「iiba」は「マップで情報を探せる」ということにこだわって開発を進めてきたため、情報の鮮度も含めて、子育て世代に本当に必要な情報が集約されたアプリになっていると自負しています。

二つ目が、データ活用によるレコメンド機能です。これは「iiba」の全体構想にもつながってくるのですが、私たちは今後、データを積極的に活用していこうと考えています。その一環として考えているのが、各ユーザーが登録した場所の情報をもとに、出かける場所の提案を行うプッシュ型の機能です。「最近は公園に行く回数が多かったので、美術館に訪れてみるのはどうですか?」といったレコメンドを行うことで、子育て世代の行動と経済活動を促していければと考えています。

三つ目ですが、ゆくゆくはポイント機能をつけたいと考えています。「iiba」に情報を登録するとポイントが貯まり、そのポイントをクーポンやギフトに交換できるような仕組みにする構想です。ポイント機能が実装され、熱量の高いユーザーを核に独自の経済圏・コミュニティをつくりたいと考えています。

「iiba」の基本コンセプトとして「見つかる」「知らせる」「貯める」という三軸を考えており、そのうちの「見つかる」の部分を今回リリースした形です。

アプリのリリースに際し、マップ内の登録情報はどのように準備したのですか?

自社でのコンテンツ作成に加え、弊社で運営しているInstagramを通じてつながった11名の「おでかけママインフルエンサー」の皆さんに協力していただきました。1ヶ月間、インフルエンサーの方にクローズドでアプリを使用していただくことで、都内を中心に2,000箇所の情報を集めることができました。

2,000箇所とはすごいですね。アプリリリース後の反響はいかがですか?

ユーザー数の初速の伸びが非常に良く、子育て関連アプリの中でも悪くないスタートダッシュを切れていると思います。

アプリの認知獲得については、どのような施策を行いましたか?

広告などは特に出しておらず、先ほどお話したママインフルエンサーの皆さんが、Instagramでご自身のフォロワーにアプリのリリースをお知らせしてくれました。11名のインフルエンサーのフォロワー数を合わせると、およそ50万人にもなります。彼女たちも「こういうアプリが欲しかった」と、自身のフォロワーに対して「iiba」を積極的にシェアしてくださっていて、そのおかげもあって、このような好調な滑り出しが実現したのだろうと思っています。加えて、もともと市場に存在していたニーズの強さも、アプリをダウンロードしてくださる方の多さにつながっていると分析しています。

ユーザーは基本的に無料で使えるとのことでしたが、マネタイズはどのように行うのでしょうか。

現在は完全無料のアプリとしているのですが、今後はユーザーによる課金でのマネタイズも検討しています。また、ビジネスモデルに関しては広告モデルも含めて、toCだけでなく、toBやtoGへの展開も考えているため、今後は複数のキャッシュポイントで収益を得る構造にしていくつもりです。

二十歳で「死の淵」を見た。人生の価値観の変化が、創業のきっかけに

逢澤さんが「iiba」の事業アイデアにたどり着いたのは、やはりご自身の子育て経験が大きいのでしょうか?

そうですね。特に一人目の出産・育児の経験は大きく影響していると思います。

私は大学卒業まで基本的に関西に住んでいたので、一人目を生んだころは東京の土地勘もなければ友人・知人もほとんどいなくて、あまり頻繁に外に出かけることはありませんでした。でも、家でまだ言葉も話せない子どもと二人きりでいると、だんだんと精神的にきつくなってくる。今は社会的に「産後うつ」が問題視されていますが、私も当時は本当に産後うつになるギリギリのラインにいたなと思います。

当時の私は、無理やりにでも外出するようにしていました。近所のコーヒーショップで店員さんからコーヒーを受け取るだけでも救われていて。子どもも外の世界に触れることでより一層成長するように感じられることもあり、親子にとって、外に出かける時間が双方にいい影響を及ぼすのではないかと思っています。だからこそ、子育て世代がもっと気軽に外出できるよう、少しでもハードルを下げられたら。そんな思いでおでかけアプリを着想しました。

ただ、そもそも社会の役に立つ事業を自分でやろうと思うようになったきっかけは、また別なところにあります。

私、実は二十歳のころに、ギラン・バレー症候群になって生死の境をさまよったことがあるんです。一度失くしたかもしれない命だからこそ、この先の人生をどう生きるかを深く考えてたどり着いたのが、「誰かのため、社会のために何かを残すことができる人生を歩みたい」という本心でした。その想いに従って自分にできることを突き詰めていった結果、「子育ての課題を解決する」という人生のミッションが見えてきた。それで「iiba」を生み出すに至ったのです。

大病を患った経験が、人生の大きな転換点となったのですね……。

そうなんです。私自身、まさか自分がこんなことになるとは思ってもいませんでした。ギラン・バレー症候群は突発性の難病で原因も分からないことが多いのですが、私の場合は少し重症化してしまい、成人式のころに少し風邪を引いたかなと思った3日後には、意識を失っていました。2ヶ月の間自発呼吸ができず、全身麻痺で呼吸器につながれて。今でもその痕が首元に残っています。

今はもう完治して元気に過ごしていますが、この経験がなければ、自分で会社を興そうと思わなかったかもしれないですし、早くに結婚して子どもを持とうとも思わなかったかもしれません。

先ほど、お子さんがいるとおっしゃられていましたよね。早くに結婚したとのお話ですが、差し支えなければ、いつ頃ご結婚されたのか伺っても?

2017年です。大学卒業と同時に結婚をしています。その後、2018年に第一子を出産、2020年に第二子を出産しています。

少し生き急いでいるように見えるかもしれないのですが、私の中では結婚と出産が人生で本当に叶えたいことの一つだったんですよ。病室で全身麻痺で動けずにいる中、看護師さんに「将来は何になりたい?」と聞かれたとき、はじめて将来はいつか子どもが欲しいと思いました。病気の自分からは想像もつかないことでしたから、対極にある姿を願うようになったんだと思います。

イベント目白押しの濃密な20代。子育ての合間に創業準備を進めた

病気、大学の卒業、結婚、就職、出産と、非常に密度の濃い20代を過ごされていますね。

たしかに、今日まで本当にいろいろなことがありました。プライベートでの出来事もそうですが、仕事もいろいろと変化してきたので……。

そのあたりのお話も、ぜひお聞きしたいです。2017年4月にブライダル業界の企業に入社してから、どのようなキャリアを歩んできたのですか?

長男の妊娠期間がとてもハードだったため、2018年には最初の会社を退職しました。ただ、仕事はしていたいタイプだったので、業務委託で人事やバックオフィスの仕事をしたり、子どもを連れてWebデザインのスクールに通ったりしていました。その後、娘の出産を経てリクルートに入社。営業職として仕事をしながら、起業に向けた準備を進めて、2022年5月に起業したという流れです。

逢澤さんは自分で事業をやるにあたり、必要な知識をどのように身につけたのでしょうか。

知識を得るきっかけとなったのは、コミュニティですね。おでかけアプリの着想を得たとき、とにかくノーコードでプロトタイプを制作してみようと思って、ノーコードのサービスやプロダクトづくりについて学べるコミュニティに参加したんです。運営の方たちの中には、VC関係者や事業家がいて、新規事業立ち上げの知識を得ることができました。活動を通して自分に足りていない知識を把握し、本や記事を読んだり、セミナーを聞いたりして勉強していきました。

一時期は子育てと本業の仕事、事業立ち上げに向けた準備の両立と「三足の草鞋」状態だった逢澤さん。時間のやりくりが大変だったのではないでしょうか?

昼間はフルタイムで営業をし、起業の準備は基本的に子どもたちが寝た後に行っていたのですが、子どもを寝かしつけてから、布団から起き上がってパソコンと向き合うことに慣れるまでがすごく大変でした。でも1ヶ月くらい続けると慣れてくるんですよね。

子育てをしているとどうしても仕事ができない時間が発生しますが、このリズムをつくれたことは今でもとても良かったと思っています。ただ、当時は子育てだけではなく会社員との兼業。なかなか思うように事前準備が進捗しなかったため、思い切って退職して起業に踏み切りました。

現在も起業家と家庭を両立されています。それはそれで、大変さもあるのではないかと思いました。

もちろん大変な部分もあります。うちは夫もかなり多忙な仕事なので、週の半分くらいは今もワンオペですし、体力的に疲れることもあります。でも、大前提として、自分がやりたくてやっていることなので楽しいですし、こうしてサービスをつくって世に出す機会を得られていることに本当に感謝をしています。

また、夫婦が二人ともそれぞれ忙しくしているからこそ、お互いに助け合いながら、自由に生きることができているような気もするんです。仕事に思いっきり取り組むからこそ、家族との時間がかけがえないものになっていると感じますし、我が家の場合はそれでいいバランスをとれているのかなと思います。

サステナブルに働ける組織をつくりたい

アプリの全体的な構想が固まるまでには、VCをはじめとした多様な人材とのメンタリングも経験されてきたのではないでしょうか。逢澤さんは人からアドバイスを受けるとき、どのような意識や姿勢でいらっしゃいますか?

おっしゃる通り、私はこれまでに数十人の方にメンタリングをしていただきました。私の場合、基本的には相手からいただいた言葉を一度すべて素直に受け取ります。自分が実践してきた内容と照らし合わせながら、ありがたく頂戴するアドバイスと、今後の課題として意識すべきポイント、新しい発見としてインプットする情報という形でアドバイスを整理して、指摘されたことは全部実践する意識でメンタリングに臨んでいますね。

ちなみに、貴社の社風はこれからつくっていく部分も大いにあると思うのですが、今後はどのような会社にしていきたいですか?

今、弊社には「優しい雰囲気なのに芯がものすごくしっかりしている」というメンバーが多い気がしています。会社として目指す方向を一緒に見据えながらも、一人ひとりが意思を持って自律して動ける組織でありたいと思っていて。

それから、個人的には弊社のメンバーには常に笑顔でいてほしいです。社員が幸せなら、きっとサービスを使う人も幸せになっていき、事業者や自治体にも「幸せの輪」が広がっていくと思います。幸福度高く働いてもらうためにも、制度や福利厚生もしっかり整えていきたいと思っています。

それこそ、子育て中のママも積極的に採用していきたいと思っているんです。いずれは、週休3日制だったり、子どもの習い事に合わせて時短が使えたりと、子育てをしながらでもサステナブルに働ける制度を取り入れたいなと思っています。

これから特に採用を強化したい職種などはありますか?

やはり開発メンバーは常に人手不足なので、技術を活かして子育ての課題解決に挑戦したい方はぜひお会いできたら嬉しいです。ビジネスサイドもこれから採用を強化していく予定です。大きなビジョンに向かって一緒に進んでいける方に、ぜひ参画していただけたらと思います。

「iiba」を中心とした経済圏をつくり、子育てしやすい世の中に

今後の展望と事業を通じてつくりたい世界観を教えてください。

今後は、「iiba」を子育てにまつわるプラットフォームへと育てていき、「iiba」を中心とした経済圏をつくりながら、子育てしやすい社会をつくることに貢献していきたいです。

子育て世代が必要とする支援は、行政や民間など、さまざまなところから手が差し伸べられています。しかし、子育て世代は常に忙しい。だから、差し伸べられた支援の手にも気づいていないことが実は多いんです。「iiba」は、そうした忙しい子育て世代とさまざまな支援をつなげる存在でありたいと考えています。「iiba」を使えば、各家庭に合った支援とすぐにつながれる。「iiba」が中心となって、子育て世代と支援者との間に好循環が生まれていけばと思っています。

そのような取り組みを続け、子育て世代が抱える大きな負荷を取り除くことができたとき、社会の子育てに対する考え方も変わっていくはずです。現在は子育てと聞くと「大変そう」「つらそう」というイメージを持つ方も多いですが、幸せそうに、楽しそうに笑う子育て世代が増えれば、子どもを持つことにも前向きになれる方が増加するのではないでしょうか。それはひいては、日本が長年抱えてきた少子化という課題の解決にもつながるかもしれません。

最後に、読者へメッセージをいただけますか。

スタートアップをやっていて、この経験が無駄になることは絶対にないだろうなと、よく思います。すごく目まぐるしくて、不確実性が高い環境ではありますが、大企業にいたときには経験できなかったことがたくさんあります。

スタートアップを経験する人生と経験しない人生、どちらが楽しいかと考えてみたとき、私は経験する人生を選びました。スタートアップにはすごく面白い世界が広がっている。興味のある方は、ぜひ飛び込んでみていただけたらなと思います。

また、解決したい課題がある方は、少しずつ行動をしてみて欲しいなと思います。周りの起業家と話すたびに、起業家の数だけ社会は良くなっていくんだろうなと感じるんです。それはとても尊いことだと思いますし、私自身もそのうちの一人として一緒に頑張っていきたいなと思っています。私もたくさんの方に助けられ、教えてもらいながら日々事業と向き合っているので、皆さんのために何かできることがあれば、ぜひSNSなどでご連絡いただけたらと思います!