「1兆円企業の創出を通じて国力向上を目指す」
キャピタリストとして創業初期の起業家への投資に取り組む永井 研行(ながい・けんこう)氏はこう語る。
第一号ファンドながらも、その規模の大きさで注目を集めている100億円ファンド「KUSABI1号投資事業有限責任組合(以下、KUSABI)」を運営する永井 研行氏に話を伺った。
経験豊富なパートナー3名で立ち上げたKUSABI
KUSABIの1号ファンドの概要を改めて教えてください。
永井:KUSABIは、総額100億円の純投資型のファンドです。約2年をかけて資金集めを行い、ちょうど2022年12月末に100億円(ファイナルクローズで総額106億円)が集まりました。
基本的にリードインベスターとして出資し、ハンズオン型(※)の支援をしています。
これまでに21社に出資しており、7割がシードおよびアーリーフェーズのスタートアップです。
#ハンズオン型
スタートアップに出資したのち、積極的に経営に介入して事業の成長に寄与する支援スタイルのこと。ファンドの出資者が社外取締役として参画することもある。
どんな起業家に出資したいと考えているか、具体的に教えてください。
永井:KUSABIはパートナーが3人いるので少しずつ方向性は異なりますが、共通しているのは、地頭が良くて柔軟、そしてやりきる力がある起業家です。8〜9割程度がIT系の企業ですが、良いと思ったスタートアップに出資しているので、業界は絞っておりません。
それぞれ異なるVCで経験を積んできた3名がパートナーとして結集したKUSABI。設立のきっかけをぜひお伺いしたいです。
永井:分かりやすく言うと、日本の産業を再興したいという想いが強い3人です。元々キャピタリストとして仲の良い間柄でした。吉田と渡邉は、年下ではあるもののキャピタリストとしては先輩にあたり、VC業界に飛び込んで何も分からなかったころからたくさんアドバイスをもらっていました。
そんな3人で、今後の日本経済について議論していた際、広く経済政策を実施するよりも、孫さんや柳井さんのような起業家を10人輩出したほうが経済振興に寄与するのでは、という話をしていたのが一番最初ですね。そこから実際に1兆円起業を生み出そうと考えた時に、既存のVCの中にいると制約が多く限界もあるので、独立して3人でファンドをつくった。そんな背景です。
永井さんの過去のご経験が、今のKUSABIでの業務にどのようにつながっていますか。
永井:基本的に全部がつながっています。私の前職のニッセイキャピタルは、キャピタリスト一年目から投資をさせてもらえるファンドです。800億規模を10名程度で運用していました。過去には色々な失敗がありましたが、いわばスタートアップの失敗を擬似的に経験させてもらっているので、その経験を起業家に還元できることに大きな価値があると思っています。
そして、パートナー3名に共通する観点だと、全員500億円以上の規模の大きなファンドに関わり、シリーズA以降の投資も経験しています。シードラウンドとは投資の判断軸が異なるミドル・レイターへの投資を経験し、一人あたり数十億単位で数十社を支援し、成功も失敗も知っている。そのような経験を持ったうえでシードフェーズの投資に挑戦するキャピタリストは意外に少ないのです。ここは、我々パートナー3人の過去10年の積み上げ実績があるからこそ提供できる部分ではないかと考えています。
注目を集めた100億円ファンド、その狙いとは?
そもそも、どうして1号ファンドから100億円を集めようと思ったのでしょうか。
永井:まず前提として、シードフェーズの投資を主軸にしながらミドルフェーズでも追加出資することを念頭におくと、リードインベスターとして1社に対して最低5億円程度の投資は必須です。したがって、20社程度への出資を想定したときに、実は100億円ファンドというのは最低条件なのです。
100億円と聞くとかなり大きいイメージですが、皆さんが描いている大きな未来図から逆算すると最低規模なのですね。では、100億円を実際に集めるうえではどんな苦労がありましたか?
永井:出資に関する制度の観点から、50名以下の投資家からしか公募はできません。私たちも、ガバナンスの観点から、最初は最低限の人数にして資金集めをしていました。しかし初号ファンドであるKUSABIは立ち上げ前で「KUSABI」としての実績がない状態だったので、最初の20〜25億円程度の資金集めが一番苦労しました。何か大きなきっかけがあって100億円規模のファンドレイズができたというわけではなく、地道に色々な方とお話をし続けた結果、調達することができました。
KUSABIがミッションとして掲げている「VC業界の進化の布石、礎となる」には、どのような想いを込めていますか。
永井:1兆円カンパニーを10社輩出するというのが、我々の使命だと思っています。そのために、できるだけ最短最速で1,000億円ファンドを創出したいと考えています。ファンドを組成するたびに規模を3倍にしていくのが一般的なのですが、1号ファンドが100億円で、次は300億円。さらにその次が1,000億円へとステップアップしたいと考えると、あとさらに2回ファンド組成しないといけない。ファンドの償還期限が10年で、今我々パートナーの年齢がちょうど40歳前後なので最速でいきたいんです。1,000億円ファンドを目指してアクセルを踏んでいます。
1,000億円ファンドが目標なのですね!
永井:はい、実際、シリコンバレーのトップVCのファンド額が1,000億円です。過去の歴史を見ても、1,000〜3,000億円程度の規模が最大と考えています。一社に100億円程度出資しないと1兆円カンパニーにはならないことを想定して、10年後の1,000億円ファンドの組成 を目指しています。
KUSABI α 参加者インタビュー
株式会社WAND 代表取締役CEO 黒﨑 悠一氏
株式会社WAND:https://thewand.jp/
第0期生として「KUSABI α」のプログラムに参加して、一番恩恵を受けたのはどのような点でしょうか?
キャピタリストとのメンタリングを通じて、事業の立上げの方法を身につけることができた点が一番役に立ちました。毎週のメンタリングを通じて、事業を0から立ち上げる際に必要なインプットとアウトプットを、スピード感を持って学ぶことができました。
黒﨑さんから見て、KUSABIのプログラムはどのようなスタートアップにおすすめでしょうか?
KUSABIのプログラムは、ピポット大歓迎で中長期的に大きくスケールするビジネスをつくり出すことが参加者に求められます。柔軟に仮説検証を繰り返し、「偉大な会社を生み出す」ことに一番関心があり高い熱量を持っている方におすすめだと思います。
ありがとうございました!
株式会社シンシア 代表取締役社長 徐 聖博氏
株式会社シンシア:https://corp.xincere.jp/
第0期生として「KUSABI α」のプログラムに参加して、一番恩恵を受けたのはどのような点でしょうか?
私はもともとソフトウェアエンジニア出身で、ビジネスはあまり分かっていませんでした。市場はどう分析するのか?求められるプロダクトとはどのように考えるのか?といった事業づくりにおいて不可欠な視点を、永井さんとの毎週のメンタリングを通じて教えていただいた点が一番役に立ちました。
徐さんから見て、KUSABIのプログラムはどのようなスタートアップにおすすめでしょうか?
起業したての時は「これがうまくいく!」と盲目的になっていることが多いのではないのかなと思います。そういった部分へのフィードバックをしっかり受け止め柔軟に成長し、事業を成長させたいと本気で考えている方におすすめです。
ありがとうございました!
株式会社ケミカルベース 代表取締役 山田 将也氏
株式会社ケミカルベース:https://chemical-base.com/corporate
第0期生として「KUSABI α」のプログラムに参加して、一番恩恵を受けたのはどのような点でしょうか?
私は起業して約3年が経っているのですが、我流の経営から脱却できた点が一番恩恵を受けました。具体的には、社員の採用基準の引き上げや、BizDev戦略の解像度の向上などが実現できました。
山田さんから見て、KUSABIのプログラムはどのようなスタートアップにおすすめでしょうか?
やはり、キャピタリストからのフィードバックに柔軟に対応できてアップデートできる方が一番マッチすると思います。
ありがとうございました!
起業家なら、ホームランを目指そう!
今のスタートアップエコシステムについて、率直な感想を教えてください。
永井:まずはポジティブな感想ですが、「スタートアップ」という単語が10年前よりは市民権を得てきたと感じています。スタートアップを扱ったドラマが生まれたり、様々なバックグラウンドの方が起業する世の中になってきています。こういった観点は、確実に良い変化だと思います。
では、その結果新たな産業が生まれたのか、第二のTOYOTAやHONDAが生まれたのかというと、まだ道半ばではないでしょうか。そして、スタートアップエコシステムの既存の取り組みの継続だけでは、実現は困難なのではと感じています。新たなものを生み出して次世代へつないでいくことが重要で、そのような起業家を輩出することがKUSABIの役目だと感じています。
最後に、全ての起業家へメッセージをお願いします!
永井:シンプルですが、起業家ならホームランを狙いに行って欲しいです。事業規模などは、ぜひ大きいものを目指して欲しいです。現代社会に適した「企業理念」や「組織文化」にフォーカスした起業というのも大事だとは思うのですが、「世界を具体的にどのように変えているか」は分かりづらいですし、継続させることも難しいなと感じています。ただ、「企業価値が1兆円規模の会社」が新しく生み出されているのであれば、少なくとも世の中に何かしらの変化をもたらしていると思うのです。そして、多くの方から本当に愛されるサービスであるならば、そういった大きな規模まで企業を成長させることが可能です。
特に、シード向けのアクセラレータプログラムに参加されるような、ゼロから始める事業であれば最初から大きいビジョンと目標を掲げてほしいです。我々のKUSABI αでも、そのような起業家を募集しています!
ありがとうございました!
編集部コメント
インタビューを通じて、世界を代表する1兆円規模の企業となるスタートアップを輩出することへの強い意気込みを感じた。
日本でも多くのスタートアップとVCが生まれ、ここ数年で大きく変わってきたともいわれる日本のスタートアップエコシステム。
KUSABIが展開する100億円規模のファンドから、世界に大きな変化をもたらすスタートアップが生まれるのが楽しみだ。
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