2022年もそろそろ終わり。今年は「セールスSaaS」「Web3(特にNFT、メタバース)」「サステナビリティ」といったキーワードに注目が集まりました。JP Startupsでも毎週の注目調達ニュースをお出ししておりますが、来年はどういったカテゴリーが注目を集めるのでしょうか。各界の有識者にお伺いしてみました。
編集部コメント
トレンドキーワードは、事業成長ひいては調達にも影響してくるもの。従前から事業展開してきた企業が、事業分野がトレンドになることで一気に成長するといったことも。
Web3が特にアツかった2022年、さて来年のキーワードは!?
有識者にコメントをいただきました。
※掲載は敬称略・氏名50音順としております
厳しい時にこそ、新しいビジネスの種が生まれる
2023年はアメリカを中心とした景気後退の波が日本にも押し寄せることになり、厳しい時代になる可能性があると思っています。ただ逆に、これは日本に千載一遇のチャンスです。なぜなら、不景気や事業環境の厳しい時にこそ、新しいビジネスの種が生まれるのがビジネスの歴史だからです。SlackもUberも誕生したのはリーマンショックの時です。
フィンランドにテックベンチャーが台頭しているのは、苦境のノキアがマイクロソフトの資本参加を得て、大リストラを行い、そこでノキアを離れた人々が多く起業したのです。その意味では、来年こそ、様々な既存企業や産業が変革に見舞われ、結果として2030年辺りに向けて日本が面白い時代になる萌芽を加速させてくれるのではないでしょうか。というか、そういう年にしないといけないと思います。
入山 章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学 大学院経営管理研究科 早稲田大学ビジネススクール 教授
・Twitter
国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表。メディアでも活発な情報発信を行っている。 著書は「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社)他
2023年は「DAO(分散型自律組織)と開疎化」に注目
2023年は「DAO(分散型自律組織)と開疎化」に注目しています。たとえば新潟県山古志地域「錦鯉NFT」プロジェクトは、名産である錦鯉のNFTアートをデジタル住民票として「DAO」化することで過疎地域の関係人口を増やす取組みです。他にも、ふるさと納税の返礼品にNFTを採用した北海道余市町や大阪府泉佐野市など、NFTやDAOなどのWeb3技術で地域課題などを解決する取組みは2023年に増加すると思います。このような社会課題に挑戦しているWeb3スタートアップやDAOプロジェクトなどは注目度が高いです。
また、ニューノーマルな生活が日常になったことで、安宅和人氏などが推進する「風の谷を創る」プロジェクトのように都市部を離れて「開疎化」する実験的取組みや、各地域に根ざしたイノベーションなどは徐々に浸透していくでしょう。これに関連して多拠点生活やワーケーション支援、リスキリング支援やフリーランス支援ツール、分身ロボットやVRなどを活用した遠隔コミュニケーション技術などのスタートアップにも改めて注目が集まると思います。
小塚 仁篤(こづか・よしひろ)
株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ
エクスペリエンスデザインセンター/SCHEMA クリエイティブ・ディレクター/クリエイティブ・テクノロジスト
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デジタルやテクノロジー分野での経験を武器に、未来志向のクリエイティブ開発やデザイン・コンサルティング、SFプロトタイピングを得意とする。 最近の仕事に、障害者の社会参画をテーマにした「分身ロボットカフェDAWN」、ブラックホール理論が導く“役に立たない未来のプロトタイプ”を空想した「Black Hole Recorder」など。Cannes Lions、D&AD、Ars Electronica、ACC、メディア芸術祭、グッドデザイン賞ほか受賞歴多数。クリエイター・オブ・ザ・イヤー2020メダリスト。
「自律分散型」を具現化する動き、サービスの増加
2023年は「自律分散型」Web3、DAO思想を具現化する動き、サービスが増えると予想しています。2022年は経団連のWeb3ワーキンググループを始めとするいくつかのWeb3 / DAO研究グループに呼んでいただきましたが、Web3 / DAOの持つ自律分散思想が我々日本人に馴染みある「共助」と近しい思想であると理解すると、大企業・個人を問わずに既存のビジネスや行政の行き詰まりを感じているところへのオルタナティブとしてWeb3、DAOアプローチが積極的に語られる現場を多く見てきました。まだ技術面・セキュリティ面・法的側面及び運用ルールにも問題があることは重々承知しつつも、興味関心が高まっている日本から新たなサービス、組織のあり方が世界に提案できる日々も近いのではないか?とワクワクしております。
西村 真里子(にしむら・まりこ)
株式会社HEART CATCH
代表取締役 / プロデューサー
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ビジネス・クリエイティブ・テクノロジーをつなぐ“分野を越境するプロデューサー”として自社、スタートアップ、企業、官公庁プロジェクトを生み出している。2020年には米国ロサンゼルスにHEART CATCH LAを設立、米国でのプロジェクトも進行中。MeebitsDAOファウンディングメンバー。
Web3のほか、エンベデッドファイナンスやGenerative AIにも注目
2022年はFTXの件などから、クリプト氷河期に入りつつありますが、岸田政権が成長戦略にWeb3.0を入れていることから引き続きルール整備含め注目の領域ではないでしょうか。 また給与のデジタル化解禁の流れもありエンベデッドファイナンス領域や、Generative AIなども大きな潮流の起点となると考えています。
矢澤 麻里子(やざわ・まりこ)
Yazawa Ventures 代表
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ニューヨーク州立大学を卒業後、BI・ERPソフトウェアのベンダにてコンサルタント及びエンジニアとして従事。
国内外企業の信用調査・リスクマネジメント・及び個人与信管理モデルの構築などに携わる。
その後、サムライインキュベートにて、スタートアップ70社以上の出資、バリューアップ・イグジットを経験した後、米国Plug and Playの日本支社立ち上げ及びCOOに就任し、150社以上のグローバルレベルのスタートアップを採択・支援。出産を経て、2020年 Yazawa Venturesとして独立。
エコシステムに関わる脱炭素系スタートアップの急成長に期待
脱炭素を中心としたESGテーマに取り組む当ファンドとしては、なんといっても2022年は、カーボンクレジットマーケットの拡大に向けた、様々な試行錯誤が国際的に行われ、今後の伸びに向けて海外プレイヤーを中心とした下準備が、着々と行われた一年でした。特に、カーボンクレジットの先物取引に関する営み、莫大な森林が生み出すカーボンクレジットを計測する衛星による探索技術など、機関投資家から流れる資金を背景とし、「購入しても良い」カーボンクレジットの供給体制が整ってきました。
2023年は、これら品質の高いカーボンクレジットの取引が急増することが予想され、このエコシステムに関わる脱炭素系スタートアップの急成長が期待されます。
吉沢 康弘(よしざわ・やすひろ)
インクルージョン・ジャパン株式会社 取締役
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東京大学工学系研究科修了。P&Gを経て、ライフネット生命保険株式会社(当時 ネットライフ企画)の創業に参画。 同社上場後は、ベンチャーキャピタルである、インクルージョン・ジャパン株式会社を創業し、ベンチャー投資と、大企業での新規事業開発コンサルティングに従事。主な支援先ベンチャーに、日本最大級のC2Cマーケット「ココナラ」や、累計210億円以上を調達した国内最大の宇宙開発ベンチャー「アイスペース」などがある。 現在は、ESGに特化したVCファンド「ICJ2号ファンド」の立上げ・運営に従事し、ゼロボード社・サステナクラフト社を初めとした脱炭素・ESG領域で高い成長を誇る企業への投資・支援を行っている。
インクルージョン・ジャパンの投資先でもあるゼロボードの記事はこちら!↓
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B向けSaaS、産業DX、Z世代向けサービスの3本柱が引き続き固い
2022年の半ばから週次で、その週注目の資金調達ピックアップニュースを書かせていただきました。多くのニュースがある中、これまでの日本におけるスタートアップの上場・成長トレンドといえば、安定的な収益が期待できるエンタープライズ向けSaaS。2022年は特に営業の効率化に関するサービスが増加傾向にありました。また、それとは別に製造業、医療など独自産業における現場効率化SaaSがどんどん出てきている印象があり、各業界からスタートアップ創業者が出てくるトレンドは今後も続くと思います。
2022年一番のトレンドといえばWeb3ですが、2023年はルール整備に伴いNFT、メタバースなどの事業は整理されていくでしょう。また、Web3に限らず、主にZ世代向けのシェアリングエコノミー、TikTokなどを介したインフルエンサー化支援は若い世代を中心に起業が続いており、投資家も応援する形でプレイヤーは増加するとみています。
野中 瑛里子(のなか・えりこ)
JP Startups 副編集長
・Twitter
三菱UFJ銀行(市場部門)、SoftBank(SVF/Fintech事業開発)を経て2019年より一般社団法人Fintech協会事務局長。2020年より合同会社N.FIELD 代表。TechCrunchJapanライターを経て2022年よりJPStartups副編集長。
事業とチームは「グローバル」、出口戦略は「M&A」に注目
2022年はソフトバンク・ビジョン・ファンドが本格的に日本企業に投資を始め、海外投資家からの大型調達も複数話題になった一年。JP Startupsの取材からも、グローバル展開を前提としているスタートアップの増加を感じました。特にシードでは、海外バックグラウンドを持つ創業メンバーの存在や、グローバル展開ありきでの事業開発やファイナンスをしているチームが目立ちました。ミドル・レイターのスタートアップでも海外投資家を上手く巻き込んでいく動きがさらに加速していくと予想します。その流れの先に、2023年はどのスタートアップが戦略的に成功パターンをつくっていくのか注目です。
また、日本の出口戦略は従来IPO偏重と言われてきましたが、2023年は岸田政権のスタートアップ政策と市況の影響もあり、M&AでのEXITが徐々に存在感を増していくのではと予想しています。
2022年4月のJP Startupsローンチから、100社近くのスタートアップの経営者の方に取材を行ってきました。インタビュイーとして登場いただいた経営者の皆様はもちろん、たくさんの方の温かいご厚意で成り立っているメディアです。取材にご協力いただいた皆様、そして何よりJP Startupsをご覧いただいた皆様に感謝申し上げます。2023年も、JP Startupsはスタートアップエコシステムの皆様のお力を借りながら、メディアとしての情報発信を通して日本発のスタートアップの挑戦を応援して参ります。
大島 恵子(おおしま・けいこ)
JP Startups 編集長
東京工業大学大学院修士課程修了。東京都の創業支援拠点Startup Hub Tokyoの立ち上げに参画後、2018年からはプロトスター株式会社にて起業家向けWebメディア「起業ログ」など複数の事業立ち上げを行う。2022年4月からは日本発のスタートアップを応援するWebメディア「JP Startups」を立ち上げ、編集長としてスタートアップの魅力発信に注力している。
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