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CO2回収・再利用技術で未来をひらく。環境スタートアップ大賞 事業構想賞に輝いたEプラス Supported by 一般社団法人産業環境管理協会

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大阪府の環境技術企業・Eプラスが開発した低コストかつ高効率のCO2回収・再利用技術「CCFR法」が、環境省主催の「令和6年度環境スタートアップ大賞」で環境スタートアップ事業構想賞を受賞した。同技術は、CO2の回収から燃料・肥料への再利用までをコンパクトな設備で実現。従来、技術の課題であった設備の大型化や運用コストの問題を解決し、すでに200社以上の企業から導入検討の引き合いを受けている。同社はIPOも視野に入れ、国内外での普及拡大を進めていく方針だ。創業者の廣田 武次(ひろた・たけじ)氏に環境技術や入賞への思いを聞いた。

低コストかつ高効率でCO2の回収、再利用を実現できる「CCFR法」とは

改めて、Eプラスの概要をお聞かせいただけますか?

当社は、大阪湾にほど近い大阪府高石市に本社を置く企業です。2012年5月に法人を設立して以来、二酸化炭素(CO2)に主眼を置いた環境技術の開発と関連製品の製造・販売を行ってきました。

特に力を入れているのが、CO2削減技術の開発です。排気ガスや大気中に含まれるCO2を回収するのはもちろん、回収したCO2をもとに燃料や肥料を生み出す資源化技術も手がけてきました。気候変動の一因となっているCO2を集め、空気中から減らし、新たな資源として活用していく。そうした一連の循環をつくり出せるよう、事業を構築しています。

コア技術についても教えてください。

今回、『令和6年度環境スタートアップ大賞』で環境スタートアップ事業構想賞をいただいた「CCFR(Carbon dioxide Capture Fuel Recycle)法」が当社のコア技術です。

この技術が何なのかを簡単に説明すれば、工場や発電所などから出る排ガスからCO2を回収し、燃料として再利用するというもの。CO2の吸収には、アミン溶液を使います。排気ガスをアミン溶液に触れさせてCO2を吸収させた後に電気分解することで、CO2の電気による解離と炭化水素生成を進め、燃料化していくのです。

アミン溶液を用いたCO2の回収技術には、すでに「CCUS法」というものがあり、各所で使われています。しかし、この方法では大型設備が必要となるうえに、アミン溶液におよそ120℃の熱を加えてCO2を分離させるため、溶液の劣化が進み、いずれは新しい液体へと入れ替えることが必須です。全体的なコストパフォーマンスや、CO2の分離・回収にかかるエネルギー効率の点で大きな課題がありました。

当社のCCFR法であれば、従来手法の課題点はほぼ解消できます。独自開発した添加剤をアミン溶液に加えることで、溶液の沸点を超えない70〜80℃程度の温度でCO2の分離を実現。また、これまでは劣化して廃棄せざるを得なかったアミン溶液も、当社が特許を取得した手法で電気分解を行うことで長期間使用でき、最終的には燃料として活用することもできます。ごくわずかな電気で大量のアミン溶液を処理し、分離・回収したCO2を燃料化することや肥料として使うとともに、溶液そのものも捨てる必要がない。そして、小型設備でこうしたCO2の回収・資源化サイクルを実現できる。こうした技術は、他にはない当社ならではの強みだと自負しています。

環境スタートアップ大賞での入賞に寄せて

環境スタートアップ大賞 環境スタートアップ事業構想賞の受賞では、事業や技術のどのようなところが評価されたと考えていますか?

技術の実装確度の高さと、多くの企業から期待を受けていること。今回の環境スタートアップ大賞では、この2点を大きく評価していただいたと捉えています。

現在、当社では石灰石を用いた製品開発を行う奥多摩工業株式会社の瑞穂工場でCCFR法の実証実験を行っています。この実験は社会実装を見据えた本格的な設備とスケールで実施しており、CO2の回収と再利用について一定の成果を得られている状況です。それが環境対応に力を入れている企業の間で評判となり、これまでに200社を超える国内企業・団体から製品に関するお問い合わせをいただきました。海外企業からも引き合いが増えており、非常に多くの関心を寄せていただいていると感じています。

環境スタートアップ大賞でも、こうした事業の発展性に着目していただき、受賞に至ったのだと思います。

受賞への想いをお聞かせください。

今回の受賞は、当社の取り組みやビジョンをより多くの方に知っていただく機会となりました。また、環境省からお墨付きをいただいた技術として、より多くの企業に信頼していただく一助となったように思います。

受賞の知らせを聞き、設備の設置に向けて検討を進めてくださっていた企業が前倒しで導入を決定してくださったり、新たな企業との打ち合わせの実施が決まったりと、事業を前進させるうえで弾みがつきました。本当にありがたい機会をいただいたなと、感謝しております。

今回受賞したCCFR法によって、どのような社会の実現を目指しているのでしょうか。

CO2の回収と再利用のサイクルを構築することにより、事業活動の中でCO2をほとんど排出せずとも済むような未来を実現したいです。

そのためにも、当社ではコスト削減にこだわりたいと考えています。いくら企業が環境対策に力を入れたくとも、CO2の回収・再利用に莫大な費用がかかってしまっては、事業活動にマイナスの影響が出てしまいます。そうした状況を避け、いずれはCO2対策が事業の黒字化につながるような、企業としても大きなメリットを享受できるような取り組みにしていきたい。そうしたビジョンを描きながら、技術や製品の開発、磨き上げに引き続き尽力していきたいと思っています。

CO2の再利用については、現在新たな資材を開発中だと伺いました。

そうなんです。アミン溶液の電気分解で分離したCO2を、コンクリート資材やアスファルト資材、地盤改良材として活用する手法を開発しています。

CO2をカルシウムと反応させ、炭酸カルシウムをつくることでコンクリート資材やアスファルト資材にできないか、現在は大手ゼネコンやアスファルトメーカーと適用試験を行っているところです。もう少しで調整が完了し、販売に向けて加速できる見込みなので、引き続き協力先企業と連携をとりながら製品開発を完了させたいと思っています。

また、CO2を固定した中性固化材も独自で開発を行っています。CO2を固定した地盤改良材自体は既存製品があるものの、それらは地盤強度を出すことが難しいという点が大きな課題となっていました。当社が開発した改良材では、CO2をたっぷりと固定させることで土を中性に保ち、なおかつ地盤強度も担保できるという製品になっています。これを本格リリースすることができれば、日本の国土全体がCO2を貯蔵できる場所となりますから、CO2削減に向けた新たな可能性を見出すことができると考えています。

次世代が生きる社会のために創業を決意

廣田さんはなぜ、CO2回収技術に着目し、Eプラスを創業したのですか。

環境技術に着目して事業を起こしたのは、社会や身近にいる次世代の人たちの役に立ってからこの世を去りたいという想いが強くなったからです。

私はもともと高卒で三和銀行に勤めていました。13年ほど勤務して退職した後、自分でいくつかの事業を手がけてきたのですが、次第に利益を得るだけでなく、芯の強い会社をつくり、もっと社会の役に立つような仕事がしたいと考えるようになったのです。

特に50歳の誕生日を迎えてからは、意識が大きく変わりました。私には子や孫がいます。それに、30年近くにわたって500名以上の中学生に野球を教えてきました。そうした子どもたちの顔が浮かぶたび、このままの社会を彼らに引き継いでしまって良いのか、私の人生が終わりの日を迎えるまでに、彼らに対してできることはないのかと深く考えてしまいました。

その結果、今後気候にさらなる悪影響を及ぼすだろうCO2に着目。環境対策に貢献できるような技術開発を目指して、物理や化学を勉強し直していきました。

年齢を重ねてからの挑戦だったのですね。

そうですね。実は最初はずっと独学で研究を行っていたのですが、さらなる技術開発に向けて、63歳のころに福岡大学大学院の修士課程に進学しました。改めて大学院生として研究に取り組んだことで、大学との協働研究や企業などとの連携もしやすくなりましたね。

全く未知の分野で技術開発に挑戦されたことで、難しさや苦労などもあったのではないでしょうか。

実は今日まで、大きな苦労は感じたことがないんです。むしろ非常に楽しく技術開発に取り組んできました。

Eプラス創業に至るまでの過程で、最も難しい学問を理解できれば、そのほかの分野にも応用が利くはずだと考えたことから、量子力学や量子理論から学び始めたのですね。それが功を奏したのだと思います。技術開発で化学反応について検討する際も、目には見えない、化学式では表現されない電子の動きなどに意識を配って仮説を立てられるようになりましたし、そうした仮説があったからこそ、技術をうまく開発・構築することができました。

私の息子も大学で物理学を専攻していたのですが、以前私が「技術開発に挑む際は、電子・分子の気持ちになって考えてみる」という話をしたら、「何をやっているんだ親父」と笑われてしまいました(笑)。でも、そんな風にして今も楽しみながら技術を開発し、事業を運営しています。

唯一、苦労したことがあったと言えば、資金調達の部分かもしれません。実験設備を手配する費用や研究資金を工面する点では、銀行やベンチャーキャピタルなどから支援をしていただけないなど、難しさを感じる場面が多々ありました。しかし、私のことをよく知っている株主の皆様に助けていただいて、なんとか乗り越えることができました。これまで合計で数億円規模となる研究資金を提供していただいたので、株主の皆様には本当に頭が上がりません。

株主からの支援が得られたポイントは、やはり技術の将来性の部分だったのですか?

いえ、どちらかというと私の人柄の部分に賭けていただいた形です。実は昨日も株主の何名かとお会いしたのですが、皆さん一様に「技術に関する知識は持ち合わせていないけれど、廣田がやるなら大丈夫だろう。きっと事業の成功までやり切ってくれるだろうと判断して、資金を出し続けてきた」と話してくださったのですね。10年、15年の付き合いになる株主も多く、これまで築いてきた関係値をもとにこんなにも信頼してくださっていたのかと、ありがたい気持ちでいっぱいになりました。

廣田さんがこれまで知り合ってきた方々をいかに大切になさってきたのか、今のエピソードからうかがい知れる気がします。

利害に関係なく、知り合った方々と人として長くお付き合いを続けてきたこと。これは結果として大きな財産になっていたのだなと感じます。

グローバル市場への挑戦とIPO、その先に描く未来

今後の事業展望をお聞かせください。

まずは当社のCCFR法を活用した製品・サービスの販売と普及に力を入れていきたいと考えています。メーカーの工場だけでなく、清掃工場や発電所、そのほかコストやスペースなどの制約によってCCUSの導入が難しいあらゆるプラントにCCFR設備の導入を進めていければと構想を検討しているところです。

実は今、国内だけでなく海外企業からも問い合わせが相次いでいます。今年10月にはアメリカの展示会に出展する予定で、シリコンバレーにある企業ともプロジェクトが進行する見込みです。また、ベルギーの企業からも声をかけていただいており、国内市場への展開と同時並行で海外展開も進めていければと思っています。

国内外で当社の評価を高めたうえで、IPOも実現させたいと考えています。上場を叶えることができれば、これまでさまざまな場面で助けていただいた株主の皆様にも恩返しができます。廣田を応援してきてよかったと思っていただけるように、引き続き事業に邁進していく所存です。

そして、最終的には、当社の技術を通じて地球環境の保全に少しでも貢献ができれば。便利で豊かな社会を次世代に引き継いでいけるよう、この命が尽きるまで努力を続けていきたいです。

最後に、環境分野で挑戦する方々に向けてメッセージをいただけないでしょうか。

事業を進める中で、困難に直面することもあるかと思います。そんなときは、時には自分をポジティブに「だます」ことも大切です。「明日になれば、きっとうまくいく」と信じたり、「この技術をここまで開発できれば、きっと理解し、評価してくれる人が現れるはずだ」と前を向いたりすることが、前進する力になります。

私自身、前向きな気持ちを持ち続けることで、実際に良い方向へと進むことができ、なんとか今日までやってこられました。悩み始めるとキリがなく、後ろ向きになってしまうもの。だからこそ、ポジティブな思い込みを大切にしてほしいと思います。

そしてもう一つ大事なのは、事業や技術に誠実に向き合うことです。「自分の事業や技術は人の役に立つ」と、まずは自分自身が強く信じることが何よりも重要です。信じて突き進んでいれば、きっとどこかで誰かが理解し、支援してくれるはず。自分を信じて、目の前のことに全力で取り組み、最後までやり抜いてほしいと思います。