国内最大規模のシード投資実績を持つ老舗VC、インキュベイトファンド。
10月某日に同ファンドが主催した経営合宿「Incubate Camp 15th」の最終日に、編集部が潜入取材。当日の様子や、実際に参加した起業家の声をお届けします。
起業家と投資家がペアを組む経営合宿「Incubate Camp(インキュベイトキャンプ)」とは
10月中旬、関東某所で開催された、インキュベイトファンド主催のIncubate Camp 15thに潜入取材してきました。Incubate Camp(インキュベイトキャンプ)とは、創業期の起業家に向けて、インキュベイトファンドが2010年から開催している、歴史あるシードアクセラレーションプログラム。2022年10月で15回目を迎えます。
過去の参加者の中には、当プログラムを経て資金調達を成功させ、急成長を遂げたスタートアップも多数います。スタートアップの創業・飛躍の場として、また起業家とキャピタリストが熱い議論を繰り広げることができるコミュニティとして活用されています。
インキュベイトキャンプの最大の特徴は、投資決定権のあるキャピタリスト16名と本気で資金調達を目指す選抜起業家16名が参加し、ペアを組んで1泊2日で資金調達用のピッチのブラッシュアップを行う点です。非常に熱気もあり密度も濃いプログラムであるため、「起業家/投資家合同経営合宿」と呼ばれることも多いようです。
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優勝は建機レンタル品管理のDXに挑むArch
最終ピッチも、他のイベントと少し違う点が何点かあります。まず、起業家のピッチの前に、ペアを組んだキャピタリストからの応援コメントがあります。一泊二日のメンタリング期間の中で見えてきた起業家の魅力を、キャピタリストがユーモアを交えて紹介します。
また、審査員の方も投資決定権をもつキャピタリストが多くを占めるため、投資可否に関わる鋭い質問が多く、会場は一定の緊張感を保っていました。
そして、最終ピッチの順位は以下となりました。
1位 株式会社Arch / 北山 太志氏(担当:XTech Ventures / 手嶋 浩己氏)
事業概要:建設業と建機レンタル業をつなぐ業務管理サービス「Arch」の開発・販売
2位 株式会社CYBO / 新田 尚氏(担当:JAFCO / 沼田 朋子氏)
事業概要:AIで細胞を高速解析・処理する技術を開発
3位 株式会社ザブーン / 戸高 克也氏(担当:グローバル・ブレイン / 立岡 恵介氏)
事業概要:海事産業のデジタル化を進める船舶管理SaaS「MARITIME 7」の開発・運用
4位(タイ) Tensor Energy株式会社 / 堀 ナナ氏(担当:グロービス・キャピタル・パートナーズ / 福島 智史氏)
事業概要:再エネルギー・蓄電池のクラウド運用管理プラットフォーム「Tensorプラットフォーム」を提供
4位(タイ) 株式会社Quollio Technologies / 松元 亮太氏(担当:伊藤忠テクノロジーベンチャーズ / 中野 慎三氏)
事業概要 :データカタログSaaSの開発
3名の起業家へのショートインタビュー
今回は、最終ピッチを終えたばかりの起業家と投資家のペア3組に、簡単なインタビューを実施。リアルな声をお聞きしました。
株式会社ザブーン 戸高 克也氏
ペアキャピタリスト:グローバル・ブレイン 立岡 恵介氏
事業概要:海事産業のデジタル化を進める船舶管理SaaS「MARITIME 7」の開発・運用
まずは最終ピッチお疲れ様でした。終わってみて率直な感想をいただけますか。
そうですね。やはり優勝を狙っていたので悔しいです。
ありがとうございます。今回のインキュベイトキャンプで一番変わったことを教えてください。
たくさんあるのですが一番は、今回ペアを組ませていただいた立岡さんからのメンタリングを通じて、事業に対する視座が上がったことです。
今回の経験を今後の事業にどのように生かしていきたいか教えてください。
船員労務管理の課題は国内にとどまらず、グローバルな課題です。海外を見据えて積極的に事業を拡大させていきたいと考えています。
ありがとうございます。今回ペアを組まれた立岡さんにも質問させてください。立岡さんの視点からみて、ザブーンと戸高さんを特に評価されている点を教えてください。
一番は、戸高さんが海事産業というニッチな業界に対して深い知識を持っていることです。業界への深い理解があるからこそ、この業界でどのようなポジショニングをとり、どうやって勝つべきかが分かっています。まさに、FMF(Founder Market Fit)です。この観点が、今後の資金調達や事業拡大に必ず寄与すると考えています。
ありがとうございました!
株式会社zooba 名和 彩音氏
ペアキャピタリスト:Bonds Investment Group 野内 敦氏
事業概要:情報システム部門が業務として行うSaaSのアカウント追加、削除、アクセス権管理を自動化するzoobaの開発
まずは最終ピッチお疲れ様でした。終わってみて率直な感想をいただけますか。
やはり悔しい気持ちでいっぱいです。
今回のインキュベイトキャンプで一番変わったことを教えてください。
自分がやりたい事業が、どんなマーケットでどう勝ちに行くべきなのか、視野が広がったことです。
今回の経験を今後の事業にどのように生かしていきたいか教えてください。
今回のインキュベイトキャンプに参加する前は、自分が見えている目の前の課題を解決したいと思っていました。しかし一歩離れて高い目線で、その課題が世の中から見てどう見えるのかが大事だという点が二日間を通じて身に染みました。3〜5年後もこの高い視座を持って事業に取り組んで行きたいです。また、沢山のお客さまに喜んでいただけるサービスを提供できるように頑張りたいと思っています。
ありがとうございます。今回ペアを組まれた野内さんにも質問させてください。野内さんの視点からみて、zoobaと名和さんを特に評価されている点を教えてください。
本当にたくさんありますが、一番は名和さんがとても素直なことです。起業家は周囲の人の意見にできるだけ耳を傾け、その意見をしっかり自分の中で昇華させることが何よりも大事です。この素直さがまさに名和さんの一番の強みだと二日間傍でメンタリングして感じました。
ありがとうございました!
株式会社Arch 北山 太志氏
ペアキャピタリスト:XTech Ventures 手嶋 浩己氏
事業概要:建設業と建機レンタル業をつなぐ業務管理サービス「Arch」の開発・販売
まずは最終ピッチお疲れ様でした。終わってみて率直な感想をいただけますか。
そうですね、優勝できて本当に嬉しいですし、手嶋さんをはじめ昨日メンタリングしていただいたキャピタリストの方に感謝の気持ちでいっぱいです。
ありがとうございます。今回のインキュベイトキャンプで一番変わったことを教えてください。
一番は、事業の解像度が上がったことです。特に、今後の事業を拡大させていくうえで具体的にどのように山を登るのかという観点で大きな学びがありました。また、Archの強みをしっかり理解し簡潔に伝えるプレゼンの仕方が鍛えられました。
今回の経験を今後の事業にどのように生かしていきたいか教えてください。
まずは、今回ペアを組ませていただいた手嶋さんから投資をいただくことです(笑)。そして、この二日間でお会いしたVCさんからのフィードバックや、起業家さんの情熱を受け、私も新しいアイデアを着想したので、そのアイデア実現に取り組んでいきたいと考えています。
ありがとうございます。今回ペアを組まれた手嶋さんにも質問させてください。手嶋さんの視点からみて、Archと北山さんを特に評価されている点を教えてください。
まずArchには、今後日本を代表する大きな2サイドプラットフォームとなる可能性を感じています。そして北山さんは、商売人としてのしたたかさとアントレプレナーとしての野心を持っている点がすばらしいと思います。プレゼンも大手を広げたような表現ではなく本質をしっかり突いた内容にできていたと横から聞いて感じていました。北山さんとArchの今後にとても期待しています。
ありがとうございました!
企画責任者の南出さんからのメッセージ
最後に、「Incubate Camp 15th」の総責任者であり、今年の春から企画を進めてきた、インキュベイトファンドの南出 昌弥さんに、起業家の皆様への激励のコメントをいただきました。
ご参加いただいた16名の起業家の皆さま、大変お疲れ様でした。総勢600名を超えるエントリーから選ばれた起業家の方々と共に一つのイベント運営をできたことを嬉しく思います。一泊二日で国内の著名キャピタリスト達と事業プランについて向き合い続けるイベントはインキュベイトキャンプだけだと思いますし、今後とも起業家の皆さまにとって本イベントの参加を機に、更なる飛躍の原動力となる意義ある場になるように事務局一同含め引き続き努めてまいります。
以下、登壇企業一覧
株式会社LOCKON FZCO / 窪田 昌弘氏
ブロックチェーンの取引を分析し、継続的に利益を出し続けているウォレットアドレスを判定、取引を再現するWEB3プロトコル「LOCKON」の開発
株式会社ワナテクノロジーズ / 小野塚 悠氏
デジタルサイネージ付きEV急速充電器の設置および、急速充電網を提供するサービスの開発
株式会社renue / 山本 悠介氏
定期支出・サブスクのみに特化して検出するアルゴリズムの開発
株式会社CYBO / 新田 尚氏
AIで細胞を高速解析・処理する技術を開発
株式会社Magic Shields / 下村 明司氏
高齢者の転倒による骨折を防ぐ、転んだときだけ柔らかい新素材「ころやわ」を開発
株式会社Arch / 北山 太志氏
建設業と建機レンタル業をつなぐ業務管理サービス「Arch」の開発・販売
株式会社zooba / 名和 彩音氏
情報システム部門が業務として行うSaaSのアカウント追加、削除、アクセス権管理を自動化するzoobaの開発
株式会社adsai / 板井 龍也氏
システム導入・定着に関するコミュニケーションを変革するシステムデモ作成SaaS「selfdemo」を開発
株式会社BEAMING / 次呂久 博幸氏
自律的ファンコミュニティ「ファンダム」の立ち上げ&運営支援プラットフォームMUSERの開発
株式会社SHOCHU X / 橋本 啓亮氏
焼酎D2CブランドSHOCHU Xの立ち上げ
ベジベジ株式会社 / 櫻庭 弘貴氏
独自のクローラーとAI顔解析技術を活用した、デジタルバイオレンス特定アプリケーション「HIMEPA」の開発
Tensor Energy株式会社 / 堀 ナナ氏
再エネルギー・蓄電池のクラウド運用管理プラットフォーム「Tensorプラットフォーム」を提供
株式会社ザブーン / 戸高 克也氏
海事産業のデジタル化を進める船舶管理SaaS「MARITIME 7」の開発・運用
digipost(起業前)/ 森田 裕也氏
60年以上進化していない郵便受けを再定義し、「郵便のSaaS化」を目指すプロジェクト
株式会社Toremoro / 中野 凱仁氏
デリバリーオペレーションの一元化SaaS「Orderly」の開発
株式会社Quollio Technologies / 松元 亮太氏
データカタログSaaSの開発
編集部コメント
日本を代表するキャピタリストが一堂に会した今年のインキュベイトキャンプは、強烈な熱気に包まれていた。このような場を作り上げることができるのは、これまで10年以上日本のシード投資をけん引してきたインキュベイトファンドだからこそであろう。
そして、今回参加した16組の起業家のピッチを通じて印象的だった点が一つある。それは、創業陣のグローバル化である。海外の方をCXOに迎え入れているスタートアップが非常に多く、ピッチの中でも海外市場への参入を表明するスタートアップが多数派であった。
言語の壁もありグローバル市場への参入に一定のハードルがあると言われる日本のスタートアップだが、今年のインキュベイトキャンプに参加したスタートアップはそのようなハードルを軽々と乗り越えていくのかもしれない。
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