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「気候変動リスク」の予測で、企業・自治体の意思決定をサポートする。東大発スタートアップGaia Visionの挑戦 Supported by 一般社団法人産業環境管理協会

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気候変動の影響により、異常気象がもはや常態化しつつある昨今。「災害をいかに予測し、被害を最小限に抑えるか」という課題は、企業の長期的な戦略を考えるうえでも無視できないものになっている。そんな中、気候変動リスクのシミュレーションを提供するスタートアップとして2021年に立ち上がったのがGaia Visionだ。

同社は、膨大な気象データに基づき、信頼性の高いリスク予測を実現。企業が知りたい、「自分たちの所有している施設や物件が、どれだけのリスクに晒されているか」という情報を、直感的なWebアプリケーションで提供している。最初にリリースされた「Climate Vision」は、すでに複数社で実務に導入されているという。

また昨年、創業3年目にして「令和5年度環境スタートアップ大臣賞」を受賞。同社の高い技術力と社会的なインパクトが評価される結果となった。気候変動リスクへの関心が世界的に高まる中で、なぜGaia Visionは頭ひとつ抜けた成果を出せたのか。同社代表の北 祐樹(きた・ゆうき)氏と出本 哲(でもと・さとる)氏に話を聞いた。

最先端の気象シミュレーションをビジネスへと橋渡しする

Gaia Visionの事業内容について教えてください。

気候変動の長期的な影響をシミュレーションし、企業が持つ工場や店舗などの洪水リスクを評価する「Climate Vision」というプラットフォームを提供しています。これを使うと、例えば「気温が数℃上昇した場合には、この地域はこのぐらい水没します」といったことが可視化できるようになります。さらに各企業ごとに必要な情報を入力すれば、その洪水による経済損失なども算出することが可能です。

出本実際に使っていただいているのは、主にメーカーやデベロッパー、インフラ系の企業様です。大型の施設や工場、店舗などを保有する場合、災害リスクはたとえ長期であっても無視できません。それに一般的なハザードマップでは、将来の気候変動の影響の予測まではできないなどの制限があります。

Climate Visionで予測している場面のスクリーンショット等
Credit:株式会社Gaia Vision

そうしたリスク評価の信頼性については、どのように担保されているのでしょうか。

気候変動の予測自体は世界中の研究機関主導で何十年も前から行われており、一定の信頼性があることは確認されています。2010年代以降の異常な気温上昇についても、1990年代の時点ですでにある程度予測できていたんです。そして実際に気温が上昇し、異常気象が頻発するようになったことで、世の中的な関心も高まっていったという流れです。

過去のデータをもとに、ある程度信頼性の高い予測ができるのですね。

:そうですね。細かく言えば、雨量がどの程度増えるかといった気候変動側のシミュレーションと、河川からあふれた水がどのように広がるかという洪水側のシミュレーションとを組み合わせて、何パターンもシミュレーションを回していきます。こうすることで初めて「個別の地域や施設がどのように被害を受けるのか」が見えてくるのです。

出本:こうしたシミュレーションを各企業ができればそれに越したことはないのですが、予測の元になる過去の気象データは、とても門外漢の人間が扱えるようなものではないんです。単純なデータ量だけでも数百~数千テラバイトというサイズになりますし、分析にも知識が必要です。私たちはそれをWebアプリケーションに落とし込み、企業の担当者の方々が気軽に使えるような形で提供しています。研究成果をビジネスに活かすためには、こうした橋渡し作業が不可欠になります。

企業が気候変動リスクに関心を持ち始めた理由

近年、メーカーや不動産といった、災害によって直接損害を被る業界だけでなく、広く企業一般において気候変動リスクへの関心が高まっていると感じます。背景にはどのような理由があるのでしょうか。

出本:パリ協定やTCFD/ISSBをはじめとする国際ルールの変化を受けて、環境問題への取り組みがステークホルダーからの評価に関わるようになったことの影響が大きいと思っています。特に、投資家や金融機関が大企業に対してサステナビリティレポートの開示を求めるようになったことで、「気候変動リスク」の評価の重要性が増しました。

:とはいえ単純に義務づけられているから対応するという話でもなく、実際にリスクに対する耐性を身につけたいというニーズが明らかに大きくなっていると感じます。というのも、リーマンショックやパンデミックを経験したことで、「不確実なシナリオ」に対するリスク意識が世界的に高まっているからです。「前例のない事態にどう対処すればよいのか」について、真剣に考え始めている企業が増えているのです。

今のお話は、現在準備されている新たなサービスにもつながると思いました。

:ありがとうございます。現在開発しているのは、リアルタイムの洪水被害を予測する「Water Vision」というサービスです。Climate Visionは長期スパンのリスク評価を行うものでしたが、こちらは実際に大雨が予見される際の洪水をリアルタイムに予測するサービスです。

例えばある地域に大雨洪水警報が出たときに、企業や自治体の方々が知りたいのは「実際にどこからどこまでの範囲が、どれだけ沈んでしまうのか」というピンポイントの被害予測なのだと思われます。それがなければ、工場の操業停止や住民の避難指示といった意思決定も的確に行えません。被害を甘く見積もるのはもちろんよくないですが、慎重すぎる判断も無駄なコストにつながってしまいます。そこで、災害発生時にリアルタイムな被害予測を確認できるサービスがあればよいのではないかと考えたのです。

出本:最大1.5日先までの浸水状況を予測可能となる見込みです。現状では、特許申請や関連省庁の認可などが無事に終わればリリースできるというところまできています。

研究者とコンサル、補完し合うキャリアで難題に挑む

創業までの経緯を教えてください。

:気候科学の研究で博士号を取得した後、損害保険会社で災害リスクの分析に携わりました。日本の気候研究はレベルが高く、天気予報の精度も優れているのですが、気候変動の研究成果が社会にあまり伝わっていないように感じていて、社会実装の方に次第に関心が移っていったんです。もともと環境問題に関心があったので、「どうしたら気候変動の問題を解決できるのか」という問いに関心を持っていました。

当時、いわゆるDeep Tech(ディープテック)のスタートアップが日本でも話題になり始めていて、起業も一つの選択肢だなと思うようになったんです。もしほかに似たような事業をやっている企業があれば、そこに入っていたかもしれません。起業することに決めたときも、まずは「やりたいことをやってみよう」という感じで、あまり深くは考えていなかったと思います。

出本さんはどのような経緯でGaia Visionに参画されたのでしょうか。

出本:私ももともと東大で気候科学を研究していて、その後戦略コンサルティング会社に就職しました。充実はしていたものの、いつか気候科学系の領域で仕事をしたいという気持ちはずっと持ち続けていました。そんなときに、たまたま気象科学関係のコミュニティで出会った北さんが起業されたと聞いたんです。いろいろお話をしていくと、どうやら目指しているものも近いし、キャリア的にもお互いうまく補完しあえそうだとわかりました。それからすぐに、アドバイザーとして参画しています。

:創業して半年ぐらい経ったタイミングですね。そこからまた半年後に、正式に共同創業者として加わっていただくことになりました。

出本さんのキャリアとしては大きな転換点だったかと思いますが、不安はなかったですか。

出本:一定程度、戦略コンサルタントやスタートアップ経営のキャリアがあったので、さほど大きな不安はありませんでした。それよりも、今社会が気候変動リスク対応のソリューションを必要とし、今のチームを組むことでそのニーズに貢献できる可能性があることのほうが大きかったですね。

自分自身いろいろなスタートアップを見てきた中で、創業初期に良いチームを組めるかどうかは重要かつ難しいことの一つだと感じていました。そうした意味でも、北さんと出会えたのは本当に幸運でした。

現在、組織はどのような体制なのでしょうか。

:社員は我々2名のみです。ほかに業務委託のメンバーも合わせて約20名ほどになります。役割を分けるなら、研究開発、プロダクト開発、事業開発になります。

出本:研究開発は北さん、事業開発は私が主に担当しています。プロダクト開発については、二人で分担しながらも、実務的には優秀なエンジニアのチームに推進いただいています。

「環境スタートアップ大賞」受賞を弾みにさらなる飛躍へ

環境スタートアップ大賞の受賞、改めておめでとうございます。受賞の感想をお聞かせください。

:サービスの価値を認めていただけたのは率直に嬉しいですね。実は、応募は今回で3回目だったんです。今回受賞できたのは、サービスが実際に世に出て、お客様に使っていただけたからだと思うので、とてもありがたく感じています。また、歴代受賞者の皆さんはいずれも意義のある取り組みをされている方々ばかりなので、我々も環境系スタートアップ企業として、そうした先駆者の方々の仲間入りができたのかなと感慨深いです

出本:受賞を目指して開発していたというわけではありませんが、しっかりと結果がついてきてホッとしています。同時に、これまで以上に社会的責任が生じるということでもあるので、身が引き締まる思いです。

私たちは公共性の高い領域で事業を行っていますし、なかでも「予測」という一見不確実なものを扱っています。したがって、信頼性は非常に重要です。そうした意味でも、今回環境省さんから評価いただけたことは大変ありがたいです。

今後の展望について教えてください。

:今後ぜひ取り組んでみたいのは、猛暑や台風、高潮、水資源の不足といった、洪水以外の災害への対応です。衛星データの活用にも挑戦してみたいですね。私たちの予測はあくまでもコンピュータによるシミュレーションですが、人工衛星を使えば災害時に実際にどこまで浸水したのかを確認できます。そのデータを用いればシミュレーションの精度も高まりますし、データ活用の幅も大きくなると考えています。

出本Water Visionのリリースに向けて、実証実験的な取り組みを重ねていきたいと思っています。例えば自治体の方々が使うことを想定したときに、どんな情報がわかると嬉しいのか。災害発生時に、いつまでにどんな情報があれば意思決定に役立つのか。そこをもう少し詳細に詰められれば、広く使ってもらえるサービスになるんじゃないかなと。

:あとは安定的なサービス提供と事業の成長を両立するためにも、体制づくりに力を入れていきたいですね。現在、ちょうどフルタイムの採用を始めたところです。

協業を検討している方々に向けて、メッセージをお願いします。

出本:現在すでにご利用いただいている業種以外の方々からのお声がけも歓迎です。今日お話していなかったところですと、自治体や企業のDX関連部門の方々であったり、気候科学の領域で新規事業を立ち上げたいと思っている企業さんとの協業なども可能性がありそうだと感じています。

気象データを何かに使ってみたい、といったラフな相談でも構いません。そうしたお声がけは、私たちにとっても新たなニーズを捉えるチャンスです。研究とビジネスをつなぐ私たちのアプローチに共感していただける方がもしいたら、ぜひご一緒させていただければと思います。