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三十にして立つという孔子の言葉を胸に起業を決意、新しい法人決済の未来を創るHandii

法人を設立したはいいものの、法人クレジットカードは申込が煩雑で、すぐに発行できない……
起業後は事業に集中したいのに、バックオフィスでつまずいてしまうという思いをした経営者は少なくないのではないだろうか。

その中でも、法人カードにまつわる悩みを解決するのが「paild(ペイルド)」だ。法人カードを管理画面上からいつでも何枚でもワンクリックで発行できる、法人カードのクラウド発行・管理サービスだ。事前チャージで部門ごとに予算管理ができ、経費精算もスムーズ。
外資系金融キャリアから起業を選んだ、株式会社Handii代表取締役の柳 志明(りゅう・しめい)氏。彼はいかにしてこの道を選んだのだろうか。

「三十にして立つ」を自分の中の一つのマイルストンに

これまでのキャリアと、起業のきっかけを教えてください。

昔から社会の役に立つことをしたい、と考え、大学では工学部の応用科学科に属していました。一方、液体より固体の方が性に合ったこと、理論研究よりも実装性が高いものがいいと考え、大学院では物質科学を専攻。ただ、アカデミアというのはクローズドな世界で、つながる人脈は近しい人ばかり。どうせ何かをやるのなら、広い世界で最先端のイノベーションに携わり、新しいものをつくり出したいと考えていました。また、親からは「どの国でも生活できるようにしなさい」と言われ育ってきたこともあり、改めて将来のことを考えた際、グローバルで活躍できる外資系企業で、なおかつ様々な業界に関わることができる金融業界が自分には合うのではないかと考え、ちょうど声のかかったJPモルガン証券投資銀行部に2011年に入社しました。

外資系金融はとてもハードで、正直申し上げると早いタイミングで自分には向いていないとも感じたのですが、所属したならば何か成し遂げてから去りたいと思い、一区切り着いたと思えるまで在籍を続けました。投資銀行では、国内外の電機メーカーやテック企業を中心にM&Aや資金調達のアドバイス業務に従事。SHARPのホンハイ買収案件などエポックメイキングな案件もいくつか経験でき、やりきったと感じたのが30歳頃でした。これは私にとって一つの節目で。バイト時代の先輩が、彼が30歳になった時にFacebookに書き込んでいた「齢(よわい)三十にして立つ」という孔子の言葉が、なぜか深く心に刻まれていまして。私自身も30歳になり、ただ勉強や仕事ができるというフェーズから、自分自身の足で立って、何かを成し遂げたいと考えてとうとう退職することにしました。

その後、2017年8月にHandiiを創業されていますね。

はい、実は設立当初は何をやるか決めていなかったんです。JPモルガン卒業を決めた頃、今HandiiでCTOを務めてくれている森が、当時務めていた会社を辞めようとしていたので、なんかやろう!と声をかけて会社をつくりました。とりあえず設立するだけなら誰にでもできるのです。今思うと一番難易度の低い意思決定だったかもしれません。今のように従業員がいるわけでもないですし、今までの貯金は人生のために有効に使おうと考えて設立に踏み切りました。

当時はフィットネスアプリをつくろうと考えられていたとか。

はい、最初は会社のハコがあっただけの状態でした。起業後は、資金提供のあるアクセラレータを探して説明会に参加しました。日本のアクセラレーションプログラムでは資金提供が行われるものが少ないのですが、500万円を提供してもらえるニッセイ・キャピタルのアクセラレーションプログラム「50M(フィフティー・エム)」の説明会に参加したのが一つの契機でした。投資部長の方が、「どんな人を採択したいか」と聞かれて「飲みに行きたい人」と答えていらっしゃるのが面白いと感じて。彼が言うには、創業者とは勇者なのだそうです。何か突出した特技があるわけでも、パラメーターが高いわけでもないのに、なぜか僧侶や魔法使いを仲間にして、最終的に魔王を倒してしまう。つまり、誰かに「面白い」と思ってもらえる素質が創業者には必要だ、ということなんですね。

この時は説明会に参加しただけで何の資料もまだ準備していなかったのですが、参加者への事後連絡で電話をいただき、急遽プレゼンが決まりました。急いで資料を用意して発表したら、なんと採択されることになりました。プログラム期間中は「柳は一体何で勝負をするのか」と問われ続け、当初描いていたフィットネス事業に納得がいかず、DEMO DAYの時にピボットを決意しました。その後、それまで自身が経験してきた金融領域、かつ法人化の際に苦労した法人カードで事業をしたいと考え直して今に至ります。

金融は、多くのステークホルダーを納得させなければスケールしない事業です。ほとんどのIT事業は自己完結するような展開も可能ですが、私自身のそれまでの経験として、M&A案件などの巻き込む相手が多い事業にやりがいを感じてきていたので、起業後も金融に飛び込むことに決めました。

法人カードのどのあたりに課題を感じられたのでしょうか?

法人用のクレジットカードを発行した経験がある方はわかると思いますが、与信審査があり、利用限度額が低いという課題があります。キャッシュレス化が叫ばれていますが、法人領域においては意外にも多くの人たちにとって手が届かないサービスになっています。しかし、よく考えてみると後払いだから与信が必要なのであって前払いであれば不要なはず。paildは、与信審査をスキップして多くの人が利用できるようにしようという発想の転換で、前払いカードとして誕生しました。この着想に至ったのは2018年8月で、その後に資金調達を実施しました。開発資金ができたので、プロダクト開発をCTOに任せ、私は前払式支払手段の登録を担当しました。前例がほとんどなく、金融庁との対話はなかなか難航しました。

2019年6月の調達時と同時に、paildのリリースに向けて株式会社オリエント・コーポレーション(以下オリコ)との提携を発表。2022年4月にはGMOあおぞらネット銀行と提携を発表しました。2022年の秋からは、ワンストップ型の「請求書支払いサービス」の提供開始を目指しています。これはGMOあおぞらネット銀行の「かんたん組込型金融サービス」で提供されている銀行APIを活用し、請求書データアップロード後の振込手続きを効率化するサービスです。こうした支払いに関連するペインを取り去っていく企業を目指しています。

金融領域は、独特のハードルがありそうですね。

そうですね、どの領域でもそうかもしれませんが、金融は特にライセンス要件が高い上に、待たされる時間が長い。不確実性も高いので、資金に限界のあるスタートアップはなかなか厳しいものがあると感じました。業界自体を変えなければならないのかもしれないと考えて、業界団体のFintech協会で2021年秋から7期の理事として就任し、そちらでも活動をしています。

ただ、スタートアップとして事業を進めていくにあたって、ライセンス取得や資金調達よりも、組織をつくって動かしていくことの方が大変だとも感じています。投資銀行時代は、地球の裏側の人といきなりチームアップして仕事ができていましたが、スタートアップでは、より多様なバックグラウンドの人たちと初めましての中で密に仕事をしていくことになる。事業の成長もその人間関係のシナジーに大きく影響を受けますから、与えられたお題に対して仕事を進めていけばいつかは終わるプロジェクトとは異なり変数が多い。組織づくりに注力していかなければならないというのは、独特の課題でもあり、一方でやりがいもあると感じています。

世の中の仕組みを知ることが面白い人と働きたい

TechCrunchやICC、Fintech Japanなど、ピッチコンテストに積極的に出場されておりますね。

はい、まずは露出を増やそうと、あちこちに出場させていただきました。有名なイベントであれば登壇できる時点で狭き門なので、1位になれずとも素直に喜んでいいところではあるはずなのですが、個人的には優勝を逃してしまったと少し落ち込んだりもしています(笑)。もうこういったピッチコンテストに出て優勝を目指すフェーズでもなくなってきましたが、出場時のプレゼンや記事を見て、共感いただけた方はぜひ仲間になっていただければと思います。

組織風土、採用について伺えますか?

ミッションは「新しい金融を切り拓く」、ビジョンは「“楽しい”がある明日を創る」。バリューも楽しむことに軸足を置いており、挑戦、本気、人と人であること、それぞれを楽しむ、としています。前職の上司ともたまに飲みに行くのですが、彼は「人って、楽しい時に一番パワーが出るよな」と言っており、私はこれに割と共感していて。起業は99%が大変なのですが、形にする瞬間の喜びがたまらないんです。この話をすると、オリンピックの金メダルを目指すアスリートみたいですね!と言われますけどね。

尊敬する経営者の一人がサイバーエージェントの藤田さんなのですが、彼が出している仕事中のテンショングラフにとても共感をしておりまして。彼は、普段はマイナスのテンションなのですが、AbemaTVをつくった直後もなんとマイナスだったそうです(笑)。その後麻雀リーグを立てた時のテンションがものすごく上がっているのを見て、自分も同じだなと。仕事はほとんどが憂鬱なもので、その中でうまくいくタイミングがあるとめちゃくちゃ嬉しい。そういう良い波を目指して頑張るということが好きで、社風にも影響しているかもしれません。

採用にあたって、金融知識は必須とは思っていません。例えばユーザーとしてQR決済を使ったことがある経験くらいはあったほうがいいと思いますが、ホリゾンタルなプロダクトで世間に大きな価値を出したいという気持ちがある方が大事です。私が金融領域にいる理由の一つは「発見」です。こうやって世の中が回っているのだという裏の仕組みを知ることがシンプルに楽しい。同じような感性のある方だと働きやすいかと思います。

社内ではどのような社長と認識されているのでしょうか?

無邪気で素直な人だと思われるように気をつけています(笑)。悪気がなくても迷惑をかけてしまうことは人間なのであると思っていて。迷惑をかけているのに高飛車な性格だと、そこで信頼関係は終わってしまう。だから最低限、悪気はないし、助けてほしいということを素直に表現するようにしています。助けてくれる社員のみんなには本当にいつも感謝しています。

社会にとって大事でも課題の残る金融領域

学生時代はどのように過ごされましたか?

とにかく勉強が好きでした。幼稚園を卒業する時の文集でなりたい職業を書いたのですが、それがなんと「八百屋さん」でした。私には2歳上の姉がいるのですが、私が寝る時に彼女が隣で算数の勉強をしており毎日九九を唱えていました。それを聞いていたら自分も九九を覚えてしまって。八百屋さんの会計で暗算を披露してみたら褒めてもらえて、それが嬉しくて八百屋さんになりたいと思っていました。

勉強すれば点数が上がり、そしてそれが認められた。姉の学年の勉強を先に先にとやっていました。だから早く塾にも行きたくて、中学受験もしました。親は追い込まなくて良いよと言ってくれるタイプでしたし、自分自身気の向くまま好き勝手に勉強していただけなので、周囲が受験直前の追い込みをかけてきた時にはぼーっとしていて偏差値が急下降したこともありました(笑)。無事に第一志望の中学に合格して入学するわけなのですが、まあ追い込まれるまでなんとかできない、追い込まれるとなんとかできる、というのは今も昔も変わっていない私の個性ですかね。

私は国籍自体は韓国ですが日本で生まれ育っておりまして、中高は男子校、大学でも理系だったのでほぼ男子校の状態で過ごしてきていました。今でも少しそのカルチャーは引きずっている気がしていまして、割と思ったことを素直に口に出す、無邪気なところがあるかもしれません。良し悪しはあると思っているので気をつけつつ、どちらかと言えば素でぶつかり合える方のほうが、相性が良いのかもしれません。

当時の部活や、今の趣味は。

幼少期は水泳、中高はスキー部でした。最近は全然運動できておらず、年齢とともに体力が落ちるのは、起業家が気をつけないといけないポイントだと感じています。

最近は会社のことをずっと考えてしまわないように、料理をするようにしています。料理は時間制限もあり、常に何かに注意を向けなきゃいけないのでとても集中できます。サウナも流行っていますが、お風呂のようにゆっくりできる場所だと頭が空くので結局経営のことを考えてしまうんですよね。なので料理は起業家におすすめです。

プレシード期からシード期のスタートアップへメッセージをいただけますか

私自身ピボットもしてきているので伝えたいのですが、とにかく自分がやりたいことをやった方がいいです!やりたいことじゃないと続かない。だからこそ初期に大事なのは、「一緒にやろう」と周囲に持ちかけて、乗ってきてもらうことです。会社が大きくなったらあとは流れで進んでいきますが、そこにいくまでは何もない中で周囲を巻き込んでいかないといけません。そこにはやっぱ自分の「やりたい」という情熱が必要になってきます。また、周囲が簡単に納得するようなビジネスアイデアというのはある程度出尽くしているもの。多少困難がつきまとっても、オリジナルの課題に取り組む方がやりがいも出てくると思います。

最後に、これからつくりたい世界観と、読者へ一言お願いいたします。

社会の中でばらばらになっているつながりを再構築して、良く変えていきたいです。やり方は色々とあると思いますが、どこにでも必要なのにまだ接続できておらず、かつ、インパクトが大きい際たる領域が金融だと思います。私は金融領域の人のようでそうではない側面もありまして、投資銀行時代もメーカーや物流をクライアントとして担当している中、日経エレクトロニクスや物流などの専門誌を読んで、発注したものがどうやって届くのかを勉強しては世の中は面白いなと日々感じていました。

金融業界は変革の時期に差し掛かっていると感じています。最近では埋め込み型金融・Embedded Financeが発展してきて、より金融サービスを提供することのハードルが下がっています。舞台は整いました。あとは金融業界を変えて、社会全体を底上げするための事業者のガッツが必要です。伝統的金融機関は給与もよく、優秀な人も多く、仕事もエキサイティングで良い環境ですが、より良い社会を目指し、志高く柔軟なチャレンジをしたい人は、Fintechは向いていると思います。私たちはそんな向上心のある方々をお待ちしております。

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