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技術で産業の変革を起こす。検品を起点にモノづくりを進化させるアダコテックの挑戦

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「モノづくりの進化と革新を支える」

穏やかな口調でスケールの大きな言葉を紡ぐ河邑 亮太(かわむら・りょうた)氏はこう語る。

一見地味だが、製造業の品質を支えている検品作業。95%が未だに人力で行われている検品作業を、世界一のAI技術で自動化させようとしているのが、アダコテックだ。Deep Learningにはない強みを持つ機械学習の特許技術を活用している株式会社アダコテック CEOの河邑氏に話を伺った。

検品の自動化を目指し産総研からスピンアウト

アダコテックの事業概要を改めて教えてください。

私たちは、AI技術を活用して検品作業を自動化するサービスを開発しています。
検品とは、できあがった製品が正常か異常かを確認する作業です。人手不足もあり、検品の工程の自動化ニーズは大きいものの、技術的なハードルが高いため、検品作業の95%は未だに人が行っているのが現状です。そこで、産業技術総合研究所(以下:産総研)の特許技術を活用することで、検品作業を自動化していくAIサービスを展開しているのがアダコテックです。

アダコテックの前身となる会社が2006年に産総研発ベンチャーとしてスピンアウトした際の経緯について教えてください。

産総研では世界最先端の技術を多数研究開発していますが、社会実装させるには多くの時間を要してしまうという課題がありました。そこで、「産総研認定ベンチャー制度」という産総研の技術をベンチャーとしてスピンアウトし、事業化を進める取り組みを行っています。アダコテックはこの制度を活用し、特許取得者である研究者とエンジニア2名で産総研発ベンチャーとして歩みはじめました。

テクノロジースタートアップは近年増えてきていますが、今から15年以上前にそのような取り組みがあったのですね。その後、アダコテックが2012年に設立、2019年にVCからの資金調達を実施していますが、どのような経緯だったのでしょうか。

もともとアダコテックは受託開発を主軸にして売り上げを立てていました。そんな中VCの方から「アダコテックの特許技術は非常に素晴らしく、マーケットも大きい。プロダクトをしっかりつくり、世界中にこの技術を届けましょう!」とお声がけいただき、東京大学エッジキャピタル(UTEC)とDNX Venturesから総額4億円を調達しました。そして資金調達と時を同じくして、VCからの紹介という形で私が参画しました。
(※河邑氏は、2019年9月に参画。2020年4月より代表取締役CEO)

河邑さんが2019年7月にアダコテックに参画してから大変だったことを教えてください。

優れた技術があっても事業化することは大変だということを痛感した3年間でした。テクノロジーベンチャーはプロダクトアウトの発想になりがちですが、生み出されるプロダクトがユーザーの抱えるペインとずれることはよくあります。お客様がどのような方々なのか、どんなペインを抱えているのかを徹底して掘り下げました。製造業と一言でいっても幅広く、いろいろな工程もあるので、どの領域であればアダコテックの技術が貢献できるのかということを探していく過程が大変でした。

顧客のペインに向き合ったプロダクトをつくり上げていく中で、工夫したことはありましたか?

製造業の現場は奥深く、誇りを持って取り組んでいる方ばかりです。現場を私自身が知らないと何も始まらないと考え、お客様の工場にお願いし、1週間泊まり込みで実際の検品作業を私がやりました。

実際に検品作業を行う河邑氏
(Credit: アダコテック)

1週間工場に泊まり込みですか?!とても大変な作業だと推察しますが、どのような気づきを得られましたか?

大きく二つの気づきがありました。

1点目は、検品は思ったより人間離れした技術が必要な作業であると実感できたことです。検品作業は一見簡単そうに見えますが、実際に体験してみると職人技で、作業者への負荷も大きい作業であることがわかります。そして、職人技であるが故にその技量は定量的に示されておらず、実は再現性もあまりありません。このように、品質保証は意外に危うい前提のもとで成り立っている点を実感し、自動化させる必要性を再確認できました。

2点目は、検品という工程を取り巻く組織内の力学です。泊まり込みをする前は、検品は一つの部署がマネジメントする工程だと考えていましたが、そうではありませんでした。製造部・生産技術部・品質管理部・営業部など、多くの部署が関連する工程なのです。例えば不良品を検品の工程で見逃した際に問題になるのは、品質保証を担う部署です。一方で、製造部門は生産量をKPIに掲げるので、検品の工程で弾かれる部品はなるべく減らしたい。このように製造現場の中には相反する利害が存在します。この気づきを得た後は、どの部署にとってもちょうどいい落としどころをつくり上げる提案を心がけるようになり、営業の数字も改善しました。

今後、海外市場への参入についてどのように考えていますか?

アダコテックの事業は絶対に海外に進出していくべき事業だと思っています。検品という工程は海外と日本で大きな差がないため横展開のハードルは低いです。また、去年ドイツで営業して気づいたのが、海外の方が検品に困っているということです。短期で離職してしまうことも多いので日本の検品作業員と比較してスキルが未熟だったり、ストライキで工場が止まる頻度も高かったりするため、検品工程の安定化のための自動化のニーズが大きいのです。これまでは、自動車部品の検品をメインターゲットにしてきましたが、電子部品や半導体の分野にも取り組み始めているため、台湾や韓国の市場にも拡大させていきたいと考えています。

Deep Learningにはない強みを持つHLAC

技術的な部分についてもう少し詳しく聞かせてください。まずは、アダコテックが活用している特許技術、HLAC(高次局所自己相関特徴)について教えてください。

HLACとは、 画像の特徴を認識する技術で、機械学習と相性の良い特徴量抽出の手法です。HLACは、画像の局所的な自己相関を多次元的に計算することで、ある画像に対する不変特徴量を計算します。アダコテックではHLAC特徴量を画像から抽出し、その情報をもとに検品業務における異常検知を行っています。

HLAC(高次局所自己相関特徴)の説明
(Credit: アダコテック)

HLAC自体はとてもシンプルな手法であり、使い方を理解すれば100枚程度の良品画像からであっても高い検出精度を達成する学習モデルが作成可能です。

具体的には、3×3のマスクパターンを25種類活用し、特徴量を取得します。その後、正常画像の特徴を捉えているマスクパターンを選定しモデルを定義します。正常モデルから逸脱したものを異常値と判断し、異常検知しています。

25種類のマスクパターン
(Credit: アダコテック)

少しずつ理解してきました。ここ10年の機械学習のトレンドはDeep Learningですが、HLACはどのような点が異なるのでしょうか。

Deep Learningは、大量のデータを集めて正常品と異常品の差分を捉え、適切な線引きをNeural Networkで行います。HLACの場合は、徹底的に特徴量を正確に掴むということをやっている。「正常品とはこういうものです」という特徴量を抽出する技術に特許があります。

また、Deep Learningの場合は、教師データとして大量の不良品画像が必要です。しかしHLACの場合は、100枚程度の正常画像のみでモデルを構築可能です。特に製造業の場合、不良品の発生割合はごく僅かなので正常画像を集める方が簡単であり、現場のニーズにマッチしています。また、Deep Learningの場合は高価な計算資源で長時間の計算が必要ですが、HLACの場合は、普通のノートパソコンでも短時間でモデルを構築できます。

もちろん、HLACにも苦手な部分はあります。りんごやトマトなど、個体によっての違いが大きい食品などはDeep Learningが有効です。

プロダクトであるAdaInspector Cloudの特徴
(Credit: アダコテック)

実際に導入されている現場の方々からは、どのような声が届いていますか?

ただ検品を自動化するだけでなく、現場の人が使いやすいUIをとても評価いただいています。また、代表的な事例として、ホンダの自動車エンジンの検品を自動化するための共同実証を実施しています。世界を代表する企業に技術を認めていただいたことは、我々の顧客開拓スピードの加速にも繋がっており、今年の4月にリリースした資金調達でも投資家にとても評価いただいた点です。

商社・メガベンチャーでの経験がスタートアップのCEOに活きる

河邑さんは、どんな学生だったか教えてください。

学生時代、ラクロス部に所属しキャプテンを務めていました。部活でキャプテンを務め、実際に結果を出すという経験が楽しかったため、社会人でも同じような経験をしたいと考えていました。そんな中、経営者としてのキャリアパスをぼんやり描いていたのですが、早い段階で経営に触れることができるのではと考え、新卒で商社に入社しました。

河邑さんは、商社・メガベンチャーを経てアダコテックに参画していますが、過去の経験で今に活きている点はありますか?

商社時代の経験で今に活きていることは2点あります。
一つは、商売の基本が身に付いたことです。会社を経営していく上で必要になる実務を一通り経験できたので、アダコテックのCEOに就任した後もあまり困ることはありませんでした。もう一つは、南米のチリで3年程度、子会社のCFOをやっていたことです。当時の私は25歳でしたが、突然160名の会社のNo.2になりました。社長と自分が日本人でそれ以外全員チリ人という環境で、文化が違う人々とどう向き合いマネジメントするかを試行錯誤した経験が、今にとても活きています。

メガベンチャーでの経験で今に活きていることも2点あります。
一つは、テクノロジーを活用した事業をつくるということをしっかり学べたことです。40以上の事業の大半がテクノロジー関連の事業で、商社時代とは違う感覚をつかむことができました。もう一つは、エンジニアと共に働く経験ができたことです。商社マン時代は仕事の中でエンジニアと会うことは稀でしたので、エンジニアを採用したりマネジメントしたりする経験は今にも活きています。

1年以上内定辞退者0人。誠実さを第一に、ギャップを生まない採用にこだわる

河邑さんは、アダコテックに2019年に参画した後、既存メンバーとの信頼関係をどのように構築していきましたか?

入社して最初の1ヶ月で、Mission・Vision・Valueを決めるワークショップをやりました。今まで受託開発を中心に取り組んできた企業から、テクノロジースタートアップに変革するために、視座をしっかり上げることが重要だと考えたからです。「アダコテックはグローバルなAIカンパニーを目指すんだ」というビジョンを共有しました。その後は、SlackやNotionなどのツールの導入を進め、それまでスーツで出勤していた創業メンバーには「明日からジーパンで来てください!」と伝えました。それから、ブランディングの観点から格好良く見えるような写真を撮ったり、採用広報やHPづくりにも力を入れてカルチャーの醸成に取り組みました。

今思うと、チームに非常に大きな変化を求めたなと思いますが、創業メンバーの3名はとても謙虚で、変わることに対して寛容でした。彼らは、アダコテックが持っている世界一の技術を十分に社会に活かすことができていないという忸怩たる思いを13年間感じていました。自分たちの技術を社会に出せるのであれば、どんな変化も受け入れますというマインドセットあったので、私が参画した後の信頼関係はすぐに構築できました。

2022年4月にシリーズBの資金調達を発表し、採用も加速させていくかと思いますが、具体的にどのような人材を獲得していきたいですか?

まさに、今は採用に力を入れています。現在の社員は19名で、2年で60名まで増やそうと考えています。

製造業という日本のお家芸の市場で、日本発のグローバルAIカンパニーとして挑戦する、そういった意欲を持っている方とぜひご一緒したいと考えています。

私は実は帰国子女で小中学生の時期はアメリカで過ごしました。当時は異文化に馴染めないこともありましたが、SONYのウォークマンやトヨタの車は多くのアメリカ人が使用しており、子どもながらに誇らしい気持ちになったことを今でもよく覚えています。

私自身、日本は最高だと思いたいですし、日本の技術は誇らしいと思える事業を本気でつくっていきます。アダコテックのようなテクノロジースタートアップが海外に挑戦し、日本の技術力を世界に出していくことはロマンしかないと思っています。少し暑苦しいかもしれませんが、私たちのビジョンに共感してくれる人とはまずお話したいです。

熱いメッセージありがとうございます。今後、より強い組織にしていくためにCEOの立場で大事にしていきたい点を教えてください。

採用にはとてもこだわっていて、内情を徹底的にすり合わせることを大事にしています。候補者の方には面談の段階から私たちについて包み隠さずお伝えするようにしていて、ギャップをゼロにするということはとても意識しています。

ギャップをゼロにしようということを決めたきっかけはありますか?

「わからない」という感情は、仕事に取り組む上で思わぬブレーキになると考えているからです。意思決定が難しくなりお互いが不幸になります。入社してみたらイメージが違った、わかっていないことが多かったという事態が起きないようにして、入社いただく方のご家族を含めて納得してもらうことを大切にしています。

具体的に、アダコテックが採用候補者とどのような面接をしているかと言いますと、NG質問なしで、会いたいメンバーがいたら全員に会ってもらい、会社のことはほぼ全て共有するようにしています。
優秀な候補者はすぐに実態を見抜きますし、我々が変に着飾る意味はありません。株主やお客様だけでなく、採用候補者へも誠実さは忘れないようにしています。これがアダコテックの良さだと思っています。

「アダコテックのこの部分は凄いと思っているが、この部分はまだ足りていない。あなたの力がこの部分で必要だから一緒に挑戦しよう!」というコミュニケーションです。どういう価値提供が自分はできるのか、会社の課題解決をどのように進めるのかがクリアになった上でアダコテックに入社いただきます。そのおかげもあってか、11人連続で内定承諾をいただいており、1年以上内定辞退されていません。

アダコテックに内定をもらう壁はかなり高いと思いますが、内定を出した人が必ず入社してくれて短期離職も今まで1件もないというのは、本当にすごいカルチャーですね。

日本発の技術で社会に変革点を起こす

2020年にIVS LAUNCHPAD に出場されていますが、どのようなメリットがありましたか?

IVS LAUNCHPADの優勝は、採用に非常に効果がありました。今はスタートアップも多数あるので、候補者の方が自分に合ったスタートアップを探すのは中々難しいのではないかなと思います。だからこそ、ピッチイベントの優勝はスタートアップへの転職を検討している方にとって安心材料になります。特にアダコテックは、Industry Co-Creation (ICC) サミットとIVS LAUNCHPADの両方で優勝したので、メディアでも多数取り上げていただき、良い出会いが多数ありました。

テクノロジーベンチャーが、スタートアップの世界で結果を出していくために、河邑さんの観点で一番大事だと考えていることを教えてください。

テクノロジースタートアップは他のスタートアップと異なり、長期間の戦いが求められます。だからこそ、技術のシーズをしっかり見極め、10〜15年という長期間サポート頂ける投資家の存在はとても重要です。アダコテックは本当にありがたいことに、UTEC・DNX Ventures・リアルテックファンド・Spiral Capital・東大IPCと、日本を牽引するディープテックVCの皆さんに支えていただいています。彼らのように、社会実装まである程度時間がかかる前提で、気概を持って投資してくれる方々がエコシステムに欠かせません。

また、技術で世界を変えたいという思いで飛び込んでいただけるビジネス人材がまだ足りないかなと思います。手前味噌ですが、商社マンはこのような生き方が向いている人も多いのではと感じるので、ぜひテクノロジースタートアップの世界に積極的に飛び込んでほしいなと考えています。

日本のスタートアップエコシステムに対して思っていることを教えてください。

非常に盛り上がっていると思います。VCの数もスタートアップの数もスタートアップに挑戦する人の数も、私がこの世界に飛び込んだ2019年と比べてもかなり増加しています。スタートアップは失敗の連続、試行錯誤の連続が当たり前の世界です。エコシステム全体で、失敗談を含めた様々な知見も蓄積されてきていますし、政府の支援も整ってきています。アダコテックもエコシステムの一員として、更なる盛り上がりに貢献していきます。

アダコテックの事業を通して数十年後に実現したい世界を教えてください。

アダコテックのミッションは、「モノづくりの進化と革新を支える」です。ここ10年で日本の製造業のプレゼンスは下がってしまっていますが、この状況を好転させたいという思いが根本にあります。

製造現場は、事故防止や品質管理の観点から失敗しないための保守的なプロセスがどうしても多くなります。保守的な部分はAI技術で自動化し、現場の方々には、創意工夫を凝らしながら、よりクリエイティブな業務に集中して欲しいと思っています。この流れこそ、日本の製造業が再興する鍵だと信じています。ハードウェアも、アジャイルに開発が進むソフトウェアのように製造ができると、世界がガラッと変わるはずです。製造業の現場における自動化を進め、PDCAのサイクルを短くすることで、楽しく、クリエイティブなものづくりの世界をつくっていきます。

最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。

世の中が大きく変わる変化点は、技術革新が起点となることが多いです。古くいえば産業革命ですし、最近だとスマートフォンやインターネットです。

テクノロジースタートアップは、まさに世界の変革点を自分たちの力で起こせる組織です。人生を振り返った時に、「世の中に変化を起こした」と誇りを持てる経験がここにあります。
しかも、そのような変革点を日本で誕生した技術で起こす、そういったチャレンジができることが面白いと個人的に考えています。もちろん、アダコテックにも課題は沢山あります。私たちが目指す世界に共感いただき、ポジティブスパイラルを同じ熱量で回していくことに興味を持った方がいればぜひご一緒したいと思います。

ありがとうございました!

編集部コメント

河邑さんから、製造業への愛をこれでもかというくらいに感じる1時間のインタビューだった。

検品という業務の自動化で、世界の製造業を再定義する道筋がそこにある。アダコテックの検品自動化サービスを活用することで、製造業の現場が更にクリエイティブな場所になる未来が楽しみだ。