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自らの事業売却経験を元に起業したM&Aクラウド、スタートアップと中小企業をブーストし日本経済と自社の両輪成長に挑む

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スタートアップといえば上場がゴール。スタートアップという言葉が一般に広まった今でも、まだその認識が根強く残るのが日本市場だ。一方、一つの会社を上場させるためには多大な労力がかかる。そして日本には魅力的な未上場企業、中小企業も多く存在するが、少子高齢化の中、各社の事業承継は非常に難航している。

そんな日本市場の根幹に影響するM&Aという課題をITで改善しようとしているのがM&Aクラウドだ。歴史に名を残したいという思いを持ちながら育ってきたという代表の及川 厚博(おいかわ・あつひろ)氏。学生起業を経て同社を設立しているが、その背後にはどういう変遷があったのか。

事業家の父から影響を受け、学外交流で起業の道が開く

これまでのキャリアと、起業のきっかけを教えてください。

北海道の札幌市出身です。高校まで地元にいて、大学から東京に出てきました。高校はスポーツ名門校。当時は空手をやっており、日本一を目指していました。しかし、高校3年生のときの全国大会で、高校1年生の子が優勝し、スポーツというのは才能が努力を凌駕してしまうのだと思ってからは、努力の量に比例して勝てる可能性が上がる領域で勝負したいと考えるようになりました。

実は、子供のころから「何かで歴史に名を残したい」と思っていたんです。最初のきっかけはクリスマスプレゼントに毎年もらう偉人の自伝本でした。最初がエジソン、次がベーブ・
ルースでした。さらに小学3年生の時、クラスの担任の先生が「読書量に応じてご褒美を出す」というプロジェクトを始め、私はここで徳川家康や三国志の漫画をたくさん読み、偉人の人生を知る機会にかなり恵まれました。中学生になってからは父の書斎に並んでいた司馬 遼太郎の本を読むようになり、「何かを成し遂げなければ」という思いが醸成されていったように思います。

その環境の中、実際にご家族が起業もされていたとか。

はい、私が中学3年生のとき、父が不動産領域で50名規模の会社を起こしました。当時の父は必要な資格を取得するために猛勉強してしていたそうです。そんな父を見て、努力をすれば自分も事業を起こせるのではと考え、まずは会計の知識をつけようと、大学入学後にダブルスクールで会計の専門学校へ通いました。

大学在籍中に1社目を起業されていらっしゃいますね。

大学時代は、会計士の勉強だけでなくビジネスサークルの立ち上げやゼミ長と、かなり真面目に学生をやっていました。就職活動もして、大手のコンサルティングファームから内定をいただきましたが、その就活の中で新たな発見がありました。他大学の学生と交流をし始めると、自分の想像よりも起業やIT、スタートアップに関心がある学生が多かったのです。現CTOの荒井ともそのタイミングで出会いました。当時集まったメンバーと、学生向けのイベントを集約したmixiのようなコミュニティアプリをつくろうという話になり、法人を立ち上げました。

それがマクロパス株式会社ですね。就職しようとは思われなかったのですか。

コンサルティングファームから内定をいただいていて、就職の選択肢もありました。ただ、自分の最終的な夢は起業だったので、就職せずそのまま起業家としてのキャリアを築いた方がいいと判断しました。就職してから起業するならば、同期No.1を取らないと仲間集めが難しい中、コンサルティング業界というフィールドでは難易度が高く、注目を集めやすい学生起業の方が合理的であると考えたからです。

学費は両親に出してもらっていたので、1年休学し、大学4年生の3月までに自分の会社で月額80万円の粗利が出なかったらもう一度就活すると約束して義理を通しました。結果は、目標の2倍以上。事業に専念する覚悟もでき、就職せずに会社経営を続けました。

その会社は4年で事業売却し、その後M&Aクラウドを起業されていますが、どのような変遷があったのでしょうか。

最初の会社では何度もピボットして、月に一度は新しい事業をしていたように記憶しています。起業家を呼ぶイベント、ロジカルシンキング研修、iOSアプリのプログラミングスクール……当時ニーズがありそうだったものは一通りやりました。しかし、続かない。そこで既存サービスの改善版をやってみたらどうかと試すと、これがうまくいって売上も伸びていきました。具体的にはFacebookページの制作とSNSを使った採用支援をやり始めて、順調に事業を伸ばしていました。

しかし、ここで「この延長線上では、歴史に名を残せない」とふと気づいたのです。4年で年商数億円規模に事業を成長させたものの、限界を感じて、心機一転したいと思い、事業売却を決めました。

このとき、初めてM&Aの情報を集めようとしましたが、なかなかネット上に情報がない。結果、M&Aで競合他社よりも低い価格で売却決着という悔しい思いをしました。この経験から、M&A業界における「情報の非対称性」の課題に気づきます。

それがM&Aクラウド立ち上げの原体験なんですね。

はい。事業譲渡後は、父の会社を継ぐか、自分で再度起業をするか悩みました。売却にあたりロックアップはありませんでしたが、PMIを1年ほどサポートし、並行して父の会社も手伝いました。父の想いを引き継いであげたい気持ちはありましたが、手伝う中で、父の想いややり方をそのまま引き継ぐことは難しいとも感じ、起業を選択しました。

M&Aクラウドの立ち上げは、事業承継に関して自分が見えていたペインと、過去に会社の事業譲渡で苦戦した経験を元に起業すればいいんじゃないかと考えた結果です。共同代表の前川も事業承継で痛い思いをしており、結果として共同創業に至っています。

時価総額10兆円企業を目指して、自ら動ける人材を求める

事業について簡単に教えてください。

ミッションは「テクノロジーの力でM&Aに流通革命を」、ビジョンは「時代が求める課題を解決し時価総額10兆円企業へ」。日本産業の持続的発展という巨大な課題に対し、そのソリューションの一部となる、事業承継とスタートアップM&Aを、テクノロジーでもっとスマートにして、貢献していこうとしています。

サービスは現在四つ。一つ目は「M&Aクラウド」。いわゆるM&Aの売り手と買い手をマッチングするプラットフォームです。売り手企業は9,000社以上が登録(2023年8月時点)。買い手として登録する企業は、上場するIT企業の約35%が登録をしています。二つ目は、M&Aのアドバイザリー事業を手掛ける「M&A Cloud Advisory Partners(MACAP)」。20名ほどのM&Aアドバイザーが大型のスタートアップM&Aのアドバイザリーを担当しています。2022年にINITIAL社が発表した”注目のスタートアップM&A”上位10件のうち3件が弊社が手掛けた案件です。三つ目は「資金調達クラウド」。弊社はM&Aの支援だけではなく資金調達の支援も行っており、2022年11月には「事業会社」からの資金調達に特化したマッチングプラットフォームを立ち上げました。これまでに、4億円の大型調達も決まっています。そして、四つ目が「M&Aクラウドエージェント」。こちらは、スタートアップM&Aではなく、全国の「事業承継M&A」を対象とするサービスです。

事業をされてみて、日本市場でM&Aのニーズがあるという実感はありますか。

日本はアメリカに比べて、創業後のM&A割合が非常に低いため課題が顕在化していないように思われますが、私が経験したように、M&Aをしたいが困っているという人は本当に多いです。特にスタートアップでは上場が一つのゴールとして捉えられますが、経営者のプライベートの事情や、市況を鑑みた企業価値の合理性など、事業を譲渡・売却したい局面は少なくないものです。一方、買い手と売り手のマッチングにおいては、その時々の特殊条件も多く、上場ほど公開情報が多くないためノウハウも普及しにくい。スタートアップ育成5か年計画も発表され、これからスタートアップがさらに増加していく中、EXITの多様化は急務であると感じています。

特に大変だった出来事はありますか。

やはりシリーズAの調達でしょうか。直近では2021年10月にシリーズCでの10億円の調達を発表しましたが、初期の調達は大変でした。よくある話かもしれませんが、リードで出資すると言ってくれていた先の決裁が急に止まってしまい、キャッシュバーンまであと数ヶ月というピンチを経験しています。当時は契約締結がまだ紙ベースだったので、先方の捺印が終わる日に、経営陣が全員揃って待ち構え、ハンコリレーをしたりしました。

組織風土、採用について伺えますか。

バリューは「企業価値最大主義の1・2・10」にしています。喜怒哀楽をみんなで共有し一つのチームでチャレンジする「1 Team」、顧客を第一に据える「2nd Priority」、T型を突き破って十型となる「10 Player」、この三つを表します。時価総額10兆円企業を牽引するプレイヤーに必要なバランスと考えています。

もう少し抽象化すると「気合い入ってていいやつ」ですかね。企業価値最大化のためにやれることを全力で考えていて、かつ人間的にも信頼ができる人。会社の強さは背中を預けられる人の数で決まると思っています。これに当てはまる人を集めていけば、必ず会社は成長すると信じています。

弊社は経営陣も共同代表制ですが、各自ができることを考え、個性を活かして動いていく文化です。私は大きな画を描くタイプ。共同代表の前川は詳細を設計するのが得意。性格もスキルも違うけれど、社長が二人いると補い合うことができます。

職種やポジションに関わらず、自分の向き不向きを知り、できることを考えながら、自ら進んでいける人が向いている社風だと思います。

広報戦略について伺えますか。

サービスが軌道に乗り、広報に力を入れようと2022年に広報チームを立ち上げました。まずは、「スタートアップM&Aといったら、『M&Aクラウド』」と第一想起をしてもらえるように、オピニオンリーダーを目指すことを目標に掲げました。そこで、スタートアップM&Aに関する発信を強化。ユニークな施策をつくりプレスリリースを出したり、noteで「UPDATE M&Aクラウド」というオウンドメディアを立ち上げたりし、スタートアップM&Aの有識者として毎月記事を発信しています。さらに、メディア掲載については、BRIDGEなどのスタートアップメディアや、日本経済新聞や東洋経済などの経済系メディアを中心に掲載を獲得。ほかにも、ICC、B Dash Camp、IVSといったスタートアップ向けカンファレンスでのスポンサードや登壇をすることで、徐々にポジションを高めていっています。

事業貢献に一番効果的だったものは、「デュアル・トラック・プロセス(IPOとM&Aを同時に進める手法)」のプレスリリースです。プレスリリースを見て問い合わせをくれたスタートアップが、そのまま大型のM&A成約につながりました。これは大きなインパクトです。最近では、スタートアップ支援プログラムや、全国の自治体開催のセミナーなど、数多くの場で「スタートアップM&Aの講師」として登壇の機会をいただくようになりました。

大切なのはFounder Company Fit、事業にも自分にも納得感を

プレシード期からシード期のスタートアップへメッセージをいただけますか。

Founder Market Fitならぬ、Founder Company Fitが大事だと思っています。経営者本人のやりたいことと、経営方針の間にギャップがあると、どうしても歪みが出る。我慢をすることはできても違和感は残り、やがてどこかに影響が出てきます。

例えば私がやりたいことは、会社を10兆円企業にすることです。そのために、外部から積極的に調達を行い、リスクを取った事業投資を行っています。これに対し、会社の経営方針を「家族経営」「自己資本ベース」にすると、取れるリスクが限定されますので、企業価値も上限が自ずと決まり、結果的に自分の思想と会社が違う方向を向いていることになります。どちらが正しくて間違っているということではありませんが、教科書的に「こうあるべき」というものにするより、常にFounder Company Fitしているかという問いを立てることをおすすめします。自分自身としても、努力が望む成果につながる設計になっていたほうが、経営のモチベーションも持続しますしね。

最後に、これからつくりたい世界観と、読者へ一言お願いいたします。

M&Aの「件数」と「取引総額」で見ると現在のM&Aの市場規模は、例年15兆円規模と言われており、今後さらに市場拡大が見込まれています。特に、スタートアップM&Aは日本でもスタートアップの有効なEXIT手段として、見直す動きが広がりはじめています。PayPalが日本のスタートアップであるPaidyを3,000億円で買収したケースが大きな話題になったように、IPO一択ではなくポジティブなM&A EXITの可能性が注目されているのです。事業承継M&Aも同様です。中小企業庁が発表した「M&Aの2025年問題」(2025年までに70歳を超える中小企業の経営者が約245万人となり、そのうち約半数の127万人が後継者未定)も相まって、事業承継M&Aの必要性が年々高まっています。

M&Aの件数は近年増加し続けているものの、まだ多くの介在余地が残されています。特に、大手仲介会社のアドバイザー不足や業務のDX化が進んでいないことは大きな課題です。そんな中で当社は、日本で初めて「買収検討情報をネット上に公開する」という求人広告型のM&Aプラットフォームを実現させ、人が介在せずにネット上でM&Aを完結させることに成功しています。今後は、更なるDX化に向けてデータベースの高度化を進めていき、ゆくゆくは四つの事業領域のデータを全て一元化し、シームレスなM&Aサポートを実現したいと考えています。

M&Aクラウドは「時代が求める課題を解決し時価総額10兆円企業へ」というビジョンを掲げており、採用も積極的に行っています。このビジョンに共感をし、日本経済の発展を一緒に推し進めていける方には、ぜひ仲間になっていただきたいと考えています。