近年、アプリケーションの開発が急速に拡大する中で、品質と効率性の確保がますます重要となっています。その中でも特に、アプリケーションの品質を担保する自動テストツールの役割は欠かせません。
そんな自動テストツールは、複雑なアプリケーションや多様なプラットフォームに対応する必要があり、その要件を満たすソリューションの構築は決して容易なものではない中で、AI(人工知能)技術の導入によるスマートなテストケース生成や、クラウドベースのテスト自動化によるリソースの最適化など、新たな可能性が広がっています。
そこで今回は、自動テストツールの分野で最先端を行く、株式会社MagicPodの伊藤 望(いとう・のぞみ)氏を相手に、自動テストツールの重要性、その開発を支えるMagicPodのミッションなどを幅広く伺いました。
社内で行っていた自動化を世界中の人に体験してもらいたいと起業を決意
これまでのキャリアについて教えてください。
これまでのキャリアとしては、ワークスアプリケーションズという会社で4年ほどソフトウェアのエンジニアをやっていました。
その後、現在行っている自動テストツールの分野で起業しようと思い、10年ほど前に起業しました。しかし、現在のメインプロダクトであるMagicPodを立ち上げるまでの創業から5年ぐらいは鳴かず飛ばずでした。苦戦しながらではありますが、MagicPodに徐々にユーザーさんがついてくれるようになって、だんだん事業が拡大していき、現在に至るという感じです。
起業に至ったのはどういった経緯だったのでしょうか。
ワークスアプリケーションズでは、会計システムのパッケージの開発をしていたのですが、社内の開発業務を見ていて、開発においてはソフトウェアのテストが一番ボトルネックになっていると感じていました。
早くリリースしようとするとテストする時間がなくなって、品質が良くないままリリースしてしまうこともあります。その結果、不具合が多く見つかり、その調査や修正に時間がかかってしまう。さらには、そういった予定外の業務のせいでまた時間がないからテストができない、といった悪循環が起きてしまうんです。
そこで、ソフトウェアのテスト自体を効率化するのが良いのではと考え、ワークスアプリケーションズで社内向けの自動テストのツールを開発しました。そのテストツールが評価もよく手応えがあるものでしたので、次は社内向けだけではなく、世界中の人に使ってもらえるようなサービスをつくろうと「テストの自動化」という分野で起業した運びです。
「ソフトウェア開発の常識を一変させる」について。
現在もHPなどでミッションとして掲げていますが、「一変させる」というよりは「ソフトウェア開発の新たな常識をつくる」という表現が正しいかなと思っています。ソフトウェア開発のトレンドは、一夜にしてひっくり返るということはあまりありません。日々開発していった先にプロダクトが生まれ、MagicPodのようなテストツールで誰でも簡単にテストができる。そういったことが日常になれば良いと思っていて、それが実現できれば人間は同じような作業をしなくてもよくなり、もっと効率的で有意義な時間の使い方ができるようになります。そういった状態を新たなスタンダードにしたい。そして、そのためにMagicPodをテストツールのスタンダードにしたい、という意味でこのミッションを掲げています。
三つのValuesについて教えてください。
MagicPodには、「Be Sincere」「Take Initiative」「Think Rationally」という三つの行動指針があり、中でも「Be Sincere」が、ベースになっていると感じています。例えば、うちの会社は真面目な人が多いと自負しており、ユーザーに対して誠実に向き合うのはもちろん、チームメイトに対しても真面目に向き合い、誠実である人がすごく多いです。
会社のビジネスモデルとしてもユーザーの成果が上がれば我々のビジネスとしても収益上がるようになっているので、ユーザーの課題に誠実に向き合い、同じ方向を向きながら協働することを意識しています。
「Take Initiative」というのは、ワークスアプリケーション時代から引き継がれている部分です。やはり仕事においては誰かに言われてやるよりも、自分で考えて創意工夫しているときが一番パフォーマンスを発揮しているというのは昔から感じており、自分自身も意識してきた部分です。そのため、MagicPodでもメンバーが最大限のパフォーマンスを発揮できるように、初期のころから全員に主体的に考えてもらうようにしていましたし、その後入ってきてくれたメンバーも自然とその考え方が身につくようになり、社風として馴染んでいるのかなと思います。
三つ目の「Think Rationally」は、自動化の会社だからというのはあるんですけど、狭義的に言うと自動化しましょう、ルール化しましょうというところです。やはり同じことを何回も行うのは非効率ですし、人間がいくらチェックしても結局どこかで間違えることが多いです。僕自身も手作業でのテストをやったことがありますが、すごく注意深くやらないと駄目で、神経をすり減らしますし、あまり楽しくないんですよね。目指すのは自動化を進めること、そして何か問題があったときに業務をする人の不注意が悪いとするのではなく、仕組みがないことが悪い、というふうにしていきたいと思っています。また、弊社自体が自動化の会社なので結果そういうことが好きな人が集まってきていて、自然と文化として根付いてるという側面もあります。
改めてMagicPodというサービスについて教えてください。
MagicPodは、AIテスト自動化プラットフォームです。Webサービスやモバイルアプリなどをつくるときは、つくったものが正しく動いてるかチェックする作業が必ずあり、これをテストと呼んでいます。例えば、Webサイト上のボタンを押したときにエラーが出ていないかとか、名前を入力して次のページに移ったときに、入力したデータが引き継がれているかとか、さまざまな項目を網羅的にチェックする必要があります。
従来はそれを実際に人間が触って目で確認してというのをひたすらやっていたのですが、そのテスト作業をコンピュータで自動化して効率化するというのが、我々が取り組んでいるサービス「MagicPod」です。
MagicPodはクラウドのサービスであるため、セットアップは簡単です。また、自動テストでは手順を自動化するとスクリプトというプログラムみたいなものが出来上がるのですが、本来はウェブサイトが変わるごとにその手順も直さないといけません。しかし、MagicPodにはそれをAIで自動的に直してくれる機能が入っています。「ノーコードであること」「クラウドであること」「AIによる自動メンテナンスがあること」が我々のユニークな特徴です。
また、Webサイトとモバイルアプリ両方の自動テストを高いレベルで行えるツールは、国内でもグローバルでも非常に限られてきますが、MagicPodでは可能です。その点も特に競争力があるところといえます。
自由な働き方とValuesを体現した組織風土
皆さんどのような働き方をしているのでしょうか。
うちはかなり自由度が高く、昔からフレックスタイム制を敷いています。
基本的に合理主義なので、必要ないことは排除していくという感じでして、出勤時間についても時間を決める必然性を感じなかったので自由になっています。例えば今日も朝10時に朝会はありますがそれ以外は自由ですので、途中で病院に行くために抜けて足りない分は夜に再開、というように臨機応変に調整しています。
社内の読み書きは全て英語ということですが、どういった背景があるのでしょうか。
私たちが扱っているソフトウェアテストという業界は海外のマーケットがすごく広いんです。もちろん海外のマーケットは狙っていきたいですし、日本語が話せずに英語しか話せない人材も採用しつつあります。
また、英語の問い合わせなども届きますので、社内でもできるだけ英語で仕事ができる体制にしておく必要があるかなと感じていて、創業初期のころから話し言葉はともかく、読み書きぐらいは英語にしよう、ということで英語での読み書きを行っています。
それによって、ときどき意味がよくわからないとか、面白いことを言うことの難易度が高かったりとか一定の不便さはありますが、海外の人と仕事したらそうなるはず、というところで許容しています。エンジニアの方とかは、本当に一日中アルファベットしかタイピングしてないんじゃないか、みたいな人も結構いると思います。
どのような方が多く働いていますか。
割合でいうと、6〜7割ぐらいがエンジニアやデザイナーで、かなりエンジニアが多めの会社ではあります。どういう人が多いかというところでは、例えばマーケティングや営業の人でもエンジニアを相手に話すので、IT素養が必要になります。そのためエンジニア以外のメンバーも含めて、IT的な素養があるとか、マニアックな部分に突っ込んでいろいろ調べるのが好きな人たちが割と多いかなと思います。
また、Valuesの「Take Initiative」でもあるとおり、自分で創意工夫される方は多いです。例えば、「ソフトウェアテスト関係者くらいしか使わない絵文字」というのを提供しているんですけど、こちらは広報の方が提案してくれて、「面白いね、やろう!」という感じでスタートしたプロジェクトです。実際にデザイン会社に発注して、出来上がったら結構いい感じになっていて、反響も非常に大きくて、思っていた以上に喜ばれたプロジェクトになりました。
社員のアイデアを聞くような仕組みがあるのでしょうか。
MagicPodでは金曜日が出社推奨日となっていて、毎回出社したメンバーとお昼ご飯を食べに行くので、週に少なくとも一回は社員とご飯を食べながら話す時間を設けています。また、一般の会社であれば何かアイデアがあっても、まず企画書にしないといけないとか、直属の上司に許可を取ってとか、何かと手続きがあると思うのですが、MagicPodでは口頭で「伊藤さんこんなんやりたいんだけど」と直接相談されることも多いです。私も良いと思ったら「やってみたらいいんじゃない」という感じなので、もうその翌日からプロジェクトが走り出す、といったようなスピード感で動いていきます。そこはうちならではの魅力だと思います。
実はValuesも、社員の方からつくりたいという声が上がったことをきっかけに、メンバーで集まって話し合いをして決めていったという経緯なので、まさに「Take Initiative」を発揮してできたものなんです。
今後どのような人に入社してほしいですか。
やはり会社のバリューに沿っている人が向いていると思います。誠実な人で、自分から主体的にアクションをする人。そして合理的な発想をする人、というところは基本的な採用の軸になっていますね。
また経営陣が現在僕しかいないので、今後その部分も内部からの登用や、外部からの採用で強化していきたいと思っています。あとは最近グローバル営業をやり始めているので、日本以外に住んでる方も採用していこうと考えています。
学生時代はどのように過ごされましたか。
あまり人の言うことを聞かない子でした。塾に行くのが嫌で、意地でも行かないぞみたいな(笑)。結局一度も塾には行かずに、勉強は大体自分で考えてやっていましたね。
大学に入ってからは理学部で数学をやっていたんですけど、最初の1〜2年ぐらいは数学の基礎のおもしろさにハマって、ずっと勉強していました。その際の物事を体系的に考えるという部分は、今もプログラムを書く際に役立っていると感じます。3年生になってからは、数学の先の部分を掘り下げたいなと思い始めるようになりました。自分は他の数学の人たちとは思考が違うなと感じていたんです。
そんな思いがありつつ基礎数学を掘り下げていくうちに、気づいたらコンピュータ系の研究室にいて、プログラムをやることになって、そして今に至るという感じです。
ITには結果興味を持った形なので、それまではむしろパソコンに全然触れなくて、大学1年生の時に親がパソコンを買ってくれるって言ってくれたことがあったのですが、「こんなもんいらん」とか「俺は紙か鉛筆なんだ」みたいな感じの学生でした(笑)。
スキーサークルにも所属していて、スキー大会の運営とかもやっていたりしてたんですけど、そこにワードで書類をつくる人がいて、確かその時にパソコンを使い始めました。
実は大学院にいってもまだパソコンの電源ボタンとかどれかよくわかっていなかったくらいで、大学院からやっても追いつけるんだなと思いました。
休日のリフレッシュ方法を教えてください。
休日は家族と出かけたり、美味しいものを食べたりとか、お酒を飲んだりとか、そういう感じが多いですかね。あとは、多摩川の近くに住んでるので河川敷でランニングしていることもあります。基本的には家にこもっていると飽きてしまうので、先週もハイキングに行ったりと、割と外に出るのが好きです。
リフレッシュという意味合いだと、毎日通っている道と違う道を試しに通ってみたりとか、定期的に何かをちょっと変えるということをしています。日常生活において、飽きてしまわないように、あえてルーティーンじゃないことをするとかはあるかもしれないですね。
諦めずにメンバーと挑み続けてきた10年間
シード期からプレシード期のスタートアップへメッセージをお願いします。
プレシード期くらいですと、プロダクトを少し試して駄目だったらピボットして新しいものを試して、という感じで進めていくこともあると思うのですが、うちの会社は結構真逆なんです。創業時から自動テストのことをやり始めて、はじめは全く売れなかったのですが、その後5年ほどは本を書いたり市場の開拓を進めて、10年ぐらい経ってようやく花開いたんです。弊社みたいなパターンもあるので、一つのところで粘るか粘らないかという見極めはすごい難しいなと思います。セオリーにはまらないからこそ成功できる場合もあるので、必ずしもスタートアップの王道のようなものに従う必要はなくて、自分なりの正しいと思う道を見つけ出すのも大事かなと思っています。
これまでの中でご自身や事業の成長に寄与したものはありますか。
やはり優秀なメンバーの存在は大きいですね。MagicPodを始めて最初の1〜2年ぐらいは、僕ともう1人、フリーランスのメンバーで取り組んでいたんですけど、やはりリソースが限られてしまいなかなか機能改善などが進まなくて。そのタイミングで優秀な人たちが何人か入社してくれて、事業としてすごくスピード感が出るようになりました。優秀な人が仲間になると驚くほど事業成長に影響があるんだなと感じたできごとです。
エンジニアは複数人で開発すると、一人の天才がやるときに比べてクオリティが下がったりすることもありますが、やはりスピードを上げるためにはいろんな人を巻き込んでやる必要があります。弊社ではそこを実現できたから製品としても成長するようになり、クライアントのニーズを満たせるプロダクトが開発できるようになったのだと思います。
IPOなど、今後の展望を教えてください。
IPOについては、具体的に定めているわけではないですが3年から5年ぐらい先にはできていたらいいなと考えています。やはり資金調達などもしていますし、何かしらのイグジットは必要と考えていて、IPOもそうですし、海外のチャネル開拓や、海外への販路拡大という意味では海外企業によるM&Aなども視野に入れています。
プロダクトの展望としては、まずはグローバル展開を考えています。やはり海外は日本の市場よりも圧倒的に大きいですし、直近は海外企業による日本市場への参入も増えているので、グローバルの市場で戦えるような規模でないと、国内でやっていくのも厳しくなってきていると感じています。そのため、国内での競争力強化という意味でもグローバル展開は進めていきたいです。
最後に、読者に向けて一言お願いします。
スタートアップは、日々いろんなことが変わっていき、大企業とは違うスピード感で物事が変化していきます。環境として面白いと思いますし、スタートアップでしか学べないことも多いのではないかなと思います。そのような環境に興味がある方は、ぜひチャレンジしていただけたら嬉しいです。
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