「真の建設DXを目指す」
大阪弁を交えながら、軽快な口調でこのようなビジョンを語る、松枝 直(まつえだ・ただし)氏と北山 太志(きたやま・たいし)氏。
63兆円という巨大な市場である建設業界におけるDXを進める、株式会社ArchのCEO松枝氏、COO北山氏のお二人に話を伺った。
トラブルが日常的に起こる建設業界の現場
Archの事業概要を改めて教えてください。
松枝:建設会社とレンタル会社をつなぐ、プラットフォームのサービスをしております。建設業というのは、年間63兆円を超える巨大市場で、 建機レンタル市場も1.2兆円を超えて、ここ10年で約2.5倍の成長をしている、大きな成長産業です。両者のやり取りはまだまだアナログなので、そこをつなぐようなデジタルプラットフォームを我々は展開してます。
そのような巨大市場に対して提供する建機レンタル品オンライン発注ツール「Arch」の特徴を、具体的に教えてください。
北山:発注のプラットフォームだけでなく、建設機械のレンタルに関わるありとあらゆるものをデジタル化していき、そこの間で生じているトラブルを限りなく、ゼロに近づけると、そういったようなサービスになってます。
どのようなトラブルが起きているのでしょうか。
北山:一つは見積もりです。ゼネコンさんや建設会社さんが、現場が始まるごとに複数の企業に建機レンタル品の見積もりを行っていくのですが、実はこれは口頭でやり取りが行われています。そのため、見積もりの比較が正確にできなかったり、依頼したはずの見積もりが入っていなかったり、といったことが起きています。レンタル会社によって商品の呼び名も違ったりして、正確な比較は非常に困難で、手間が掛かっていました。
また、発注においても課題があります。実はレンタル品の発注は電話発注が主になります。一つの現場で数千点から数万点のレンタル品を扱い、金額も数千万から大きい所だと数億にまでになるのですが、そのやり取りを今まで全て口頭だけでやり取りをしていました。口頭でのやり取りだと、記録に残っていないため、言い間違いや聞き間違いは常日頃から発生しています。
現在、多くの業界でDX化が進んでいますが、建設業界でDX化がまだ限定的なのは何故なのでしょうか。
松枝:理由はさまざまですが一つあるのは、工期が圧迫されていたり、予算が限られている中での工事になるので、どうしても現場監督一人にかかる業務負荷が、かなり高いものになってきているという背景があります。その中で、新しい技術やサービスを導入する余裕がなく、どうしても今までの慣れたやり方でやってしまっているというのがあると思います。
2022年9月の正式リリース後、顧客からは具体的にどのような声が届いていますか?
北山:今まで、紙のやり取り、電話のやり取りだったものが、デジタルでやることによって工数が削減された、というお声をかなりいただいています。今までは、各社からもらった見積書を自社のエクセルに転記してから比較・交渉するようなステップを踏んでいました。それが、我々のプラットフォーム上だと、わずか数クリックで比較・交渉ができるので、その部分が非常に楽になったというお声をいただいています。
また、オンライン発注の方でいくと、今までだと、営業担当が電話に出ないと発注できなかったり、営業時間外だと発注できないといったことが起こっていましたが、オンラインになったことで、いつでもどこでも発注できるようになったというお声をいただいています。あとは、正確に価格を比較して発注できるので、一番安いところで発注できるようになり、現場全体でのコストダウンにつながりました、という声をいただいてますね。
建設業界だから必要な部分をしっかりプロダクトに落としこむ
創業してから大変だったことを教えてください。
北山:実は我々結構ポジティブで、とても運が良いのですよ。資金調達もそうですし、ロイヤルユーザーが見つかりパートナーづくりも奇跡的にうまくいった。そこ経由でレンタル会社様への導入が一気に進みました。エンジニアを始め、人の採用も、運よく優秀なメンバーが集まっています。
松枝:プロダクトをつくるというところでいうと、建設業界特有の習慣や書類の残し方、法令など色々ある中で、その辺をエンジニアと機能設計していくのが大変でした。普通のユーザー向けのアプリケーションとは違うような機能を実装することが多かったです。建設現場の方は忙しい中で少しでも面倒くさいUIだと、使わずにすぐ離れてしまうことが多いので、その辺をケアしながら開発するのが大変でした。
松枝さん・北山さんは、週末はどのように過ごしてリフレッシュされていますか?
北山:僕はピザづくりですね。一度ピザの生地からつくってみたら、思い通りにできなかったので、これを極めてみようと思って、毎週つくっています。一度に6枚くらいつくるので週末はピザ地獄になっています(笑)。釜も松枝に協力してもらって、この夏につくろうと思っています。
松枝:私は週末は子供と遊んでいます。あとは今年始めたキックボクシングに行ったりして日々のストレスを発散していますね。ずっとスポーツをやってきていましたが、格闘技は初めてなので、とてもやりがいを感じています。
松枝さん・北山さんは、学生時代は、どのようなことを考えながら過ごしていましたか?
北山:私は何も考えていませんでした。普通の大学生でした。今とちょっと考え方が違って、世界の大人たちってきっと合理的で生産的で頭がいいなと思って過ごしていました。就職したら自分もそうならないといけないと不安にかられていた記憶があります。
松枝:私も起業しようとは思っていなくて、もともとはお寺や重要文化財のような伝統建築が好きだったので、伝統建築の保護に関わるような仕事に就きたいと思っていました。
過去の経験からくる感覚が、プロダクトの強みに直結している
2022年に、インキュベイトファンドからの資金調達に成功しています。どのような部分を評価されましたか?
松枝:正式リリース前ですが、ロイヤルユーザーも既におり、エンジニアを始め組織組成もできていました。パートナーの赤浦さんには、そういったところからチームとプロダクトの成長性を評価いただきました。ファウンダーマーケットフィットが素晴らしい!とのお言葉をもらいました。
お二人とも、業界の知識がとても深いですよね。過去に大手のゼネコンにいた時の経験はどのように活きていますか?
松枝:その時の経験は、要件定義や現場に対して提案する内容で活きていると思っています。「現場員はこういうの困っているだろうな」が、解像度高くわかります。
北山:現場が困っていることやルールを知っているから、無意識的にプロダクトに反映することができているんだと思います。おそらく、建設業の現場を全く知らない人が同じようなプロダクトをつくったら、現場の人にとっては使いづらいものになるんじゃないかなと思います。
我々は合理的なものだけをこのプロダクトに落とし込んでいる訳ではないんです。非合理的であったり、感情論的なものも介在できるような余白が残るような仕組みとしています。合理的に考えるなら一番安いところに発注すると思うんですけど、建設業の人は価格以外のところ、例えば、営業が何回訪問してきてくれているのか、とかそういったところで決めたりする。現場で困ったことがあった際に助けてくれそうかとか、トラブルになった時に親身に対応してくれるのか、といった部分を推し量っているんですよね。
こういったことが他にもたくさんあって、それを我々は知っている。実際の現場の方々への共感力の高さが我々の強みとなっていると思います。
お二人の出会いはどのようなものだったのでしょうか。
松枝:私が大手の工務店にいたときに、建機レンタルの会社から北山が出向してきたんです。そこで、約2年弱同じ現場で働いていました。
現場の課題を解決したいという思いから、在籍していた会社内でレンタル品を扱ったり業務効率化するようなサービスをつくろうとしました。しかし、予算や期間的な理由から結果的に上手くいきませんでした。そこで、私自身がプログラミングができたので、自分でつくってみようと思い、レンタル側の知識がある北山に声をかけて、今に至ります。
Win-Winを大切にして業界をアップデートさせる
過去に恩恵を受けたイベントやプログラムがあれば教えてください。
北山:調達につながったのはIncubate Fundが運営しているインキュベイトキャンプですね。ほかだと、大阪市が展開するトップランナー制度にはお世話になっています。大阪市や産業局の方からハンズオン支援を受けることができるもので、ここ半年間専門コーディネーターの方にサポートいただいています。
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まだまだ余地があると言われているレガシー産業のDX化ですが、既存の業界構造に変革を起こすうえで、お二人が特に大事にされている点を教えてください。
北山:我々のプロダクトはよくある「既存業界をぶっ壊す」という方向性とは全く異なるものです。大切にしているのは、Win-Winを目指すことだと考えています。建設業界と建機レンタル業界が共栄する、そんなプロダクトにしたいと思っています。なので、いきなりDX化しましょうという大きな旗を掲げるのではなく、一回少しデジタルにしてみる?といったくらいの温度感も私たちは大事にしています。いかにこれまでの歴史と先人の知恵をリスペクトしながら、スタートアップとして成長させるかが重要だと考えています。
最後に、松枝さんと北山さんが、Archの事業を通して実現したい世界を教えてください。
北山:真の建設DXが実現されれば、建設業界は圧倒的に合理的で、だけど人間味もしっかり残っている。そんな、多くの方が興味を持ち、憧れてくれる業界になるはずです。私たちの事業でそんな未来の実現を後押ししていきたいです。
松枝:本当はかっこいいこと言おうと思っていたのですが、全部北山に言われたので、僕はなしで(笑)。建設業界を少しでも良くしよう!と思ってくれる方は、ぜひお話ししましょう!
ありがとうございました!
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