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スウェーデンのEQT Foundationが、日本で初めてImpact Pitchを開催!Takeoff Tokyoサイドイベントでの取材レポートをお届け

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Photo courtesy of Shaun Chee/Takeoff Tokyo

2023年6月8日、寺田倉庫で行われたTakeoff Tokyoのサイドイベントとして、Impact Pitch Night by EQT Foundationが行われた。「EQT Foundation」は、1994年にスウェーデンで設立された投資会社であるEQTの傘下にある慈善事業だ。EQTは、過去5年間の資金調達額でグローバル第3位の、スタートアップから成熟企業まで企業の発展過程の全てに投資する異例のPE(Private Equity)企業で、「企業をFuture-proofする(持続的な成長軌道に乗せる)ことで社会にポジティブな影響をもたらす」というパーパスに基づいた投資を世界中で行っている。EQT Foundationは、EQTのそのような価値や思想を体現する慈善事業としてアーリーステージで社会的価値のあるスタートアップへのインパクト・ファースト投資に重点を置いている。

EQTは2006年から日本への投資を行っているが、EQT Foundationにとっては、日本に本社を置くスタートアップ企業への投資は、今回のインパクト・ピッチ・コンテストが初めてとなる。今回のピッチコンテストはどうだったのか、そして、EQT Foundationは、これから投資を通してどのような社会を目指しているのか。同社のCEOであるCilia Holmes Indahl氏に、詳しくお話を伺った。

EQT Foundationについて簡単にご紹介いただけますか。

EQT Foundationは、投資と助成を通じたEQTのグローバルな慈善活動を行う事業として、2019年に設立されました。アーリーステージのインパクト・スタートアップに対するインパクト・ファースト投資を中心に行うほか、インパクト・エコノミーへの転換を加速させる研究プロジェクトも支援しています。

EQTとEQT Foundationは、どういった先へ投資しているのでしょうか。

開会挨拶の様子

EQTは、ヘルスケア、テクノロジー、サービス、産業技術の四つの主要セクターに重点を置き、幅広い企業に投資しています。日本では、インフラ、PE、不動産に対し、部門を設けて投資しています。

EQT Foundationは社会問題を解決するための革新的なソリューションを提供するスタートアップに対して投資をしています。グローバルで出資しており、アメリカ、ドイツ、北欧など、14社への投資実績があります。ブレイクスルーしているスタートアップを対象に、年に8から10社へは投資できたらと考えています。日本本社のスタートアップへは初めて出資することになりますが、日本にはすばらしいスタートアップが多くて驚きました。APACへの出資は今後も増やしていきたいです。

良いスタートアップが多かったとのことで嬉しく思います。​​御社はパーパスドリブンとのことですが、投資を通じて、どういった世界を目指していますか。

パネルディスカッションの様子

世界を良くするためのテーマは多様に存在しますが、我々は、各テーマで、どういったインパクトを実現すべきか、そして各スタートアップがそれを実現できるかを、細かく管理しています。環境の観点であれば、CO2などの温室効果ガスをどの程度削減・回避できるか、ヘルスケアの観点であれば、より高い水準のサービスをどの程度提供できるか、または多くの人々が利用できるようにどの程度まで安価にするかなど、定量目標を設定しています。

我々は、このようなインパクト指標を、投資先全体だけでなく、各スタートアップにも用意し、各社がどのように発展し、我々がどれだけ各社のインパクトの最大化を支援しているかを把握できるようにしています。

インパクトと投資収益の両立については度々課題にあがりますが、どうお考えでしょうか。

投資を行う際、EQT Foundationは、まずはどのくらいのインパクトが期待できるかを重視しますが、我々は長期的投資家として技術育成を通じた投資収益にも自信を持っています。中長期的回収が目標の一つである場合、初期の苦境を乗り越え、最終的にはリターンとも結びつきます。特に新技術は初期に多額の資金を必要とするので、我々はペイシェント・キャピタルを提供し、より大きなリスクを取ることをいといません。

資金に余裕があるため、ソフトウェアだけでなく現実世界を変えていく(ハードウェアやDeep Techの)アプローチへも出資可能です。技術については大学との協業、研究開発型が多いですね。今後リリースを出していければと思いますが、技術プレゼンスの高い各大学と連携してきています。

特に注目している技術はありますか。

今回優勝した企業のコア技術である核融合等の低炭素エネルギー技術には注目しています。他には、気候変動、合成バイオロジー、土壌関連技術といったクライメイトテックは環境貢献度が高いのでやはり気になりますね。

ヘルスケアも大切にしています。今回のピッチにもありましたが、妊活など多くの人に影響を及ぼすソリューションはより多くの人へ届けたいと考えています。平等性の観点から、これまで富裕層しか利用できなかったような高額治療へのアクセス向上や、地方や恵まれない地域に影響を及ぼしている健康問題や病気の解決策の提供を目指すスタートアップへは積極的に投資していきたいです。例えば、マラリアの蔓延を食い止めるために、蚊が人間の血液よりも好む化合物を製造する「Molecular Attraction」という企業に投資しています。

足元ですとAIの話題が多いですが、我々が注目するサイエンスを助ける技術として追っています。今回のピッチコンテストに出場していた、AI技術を使って農地のマッピングを行うSkysenseがその一例です。AI技術に注目すると、使用事例とセットになっていることが多く、実際に投資したVaraという企業は、乳がん検診の画像をAIで見て、医師が乳がんを早期に診断できるように支援しています。

今回、Takeoff Tokyoのサイドイベントとして開催された「Impact Pitch Night by EQT Foundation 」でピッチした企業はいかがでしたか。

Cilia Holmes Indahl, Tetsuro Onitsuka, Noriaki Sakamoto

はい、日本で開催した「Impact Pitch Night by EQT Foundation 」では6社がピッチし、3企業が受賞となりました。いずれも社会的インパクトと先進技術の両輪を持ったすばらしい企業だと思います。

ピッチの勝者であるEX-Fusionには、EQTの投資プロフェッショナルからの専門的知識やEQTネットワークを活用したサポートとともに、EQT Foundationから100,000 ユーロの直接投資が与えられます。また、2位と3位になったTOWINGとDioseveも、EQT Foundation の投資委員会によって、再度投資検討の機会を得ることになります。

1. EX-Fusion

    2035年までを目標に、クリーンで持続可能な発電の新時代を切り開く、画期的なレーザー動力の商業用核融合炉の建設とエネルギー供給に特化したフルスタックレーザー核融合技術会社。

    EX-Fusion Inc.

    2. TOWING

    名古屋大学発の農業スタートアップ。通常3〜5年かかる土づくりをわずか約1ヶ月で可能にする。植物の炭等のバイオ炭(多孔体)に微生物を付加し、有機質肥料を混ぜ合わせて管理した人工土壌の技術「高機能ソイル技術」を活用した、高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」を開発・販売している。

    株式会社TOWING

    3. Dioseve

    不妊治療スタートアップ。皮膚細胞を卵子細胞に変換する技術の開発を行う。

    株式会社Dioseve

    4. Skysense

    農業効率化技術の開発。自社のディープラーニングモデルによる植物の検出、病害の特定、作物の生育段階のシミュレーションや、自動飛行ドローンによる環境状態の検出により、農業関連コストの大幅な削減を目指す。

    Skysense Inc.

    5. xCura

    バーチャルリアリティ技術を活用し、治療を変革する 「XRセラピー」 を提供。没入型催眠療法を通じて、治療を受けている患者の痛みや不安を軽減する。

    株式会社xCura

    6. MIG

    非侵襲的な検査法をベースに、アルツハイマーの検出と予防を目指す。バーチャルリアリティを使用して初期段階で病状を検知、予防サービスを提供する。

    MIG株式会社

    日本に期待することはありますか。

    Peggy Poon, Cilia Holmes Indahl, Rika Yoshida

    ピッチのクオリティはとてもよかったですし、日本でもインパクト・スタートアップの数は増えていますね。製造業など伝統的に取り組んできた技術には日本固有の強みがありますし、国としては少子高齢化対策に取り組んでいますから、先駆的にソリューションを打ち出していってくれればと期待しています。また、若い起業家のチャレンジを、日本の経験豊富なシニアがアドバイザーとして支えることもできると思います。

    今回は大成功だったので、また来年、日本でEQT Foundation Impact pitchイベントを開催できることを楽しみにしています。

    優勝した核融合スタートアップEX-Fusionへもインタビュー

    優勝したEX-Fusionのお二人

    優勝おめでとうございます。今回はどういったことを期待しての登壇だったのでしょうか。

    EX-Fusion・最高収益責任者の増田です。私は幼少期からアメリカで過ごしました。学生時代に、大学では核融合の研究をしたいと考え進学したものの、物理学の複雑さに環境政策学へ専攻を変え、4年次にスウェーデンへ留学しました。その後、大学院で核融合の法整備、エネルギー政策、原子力の経済性について研究。核融合はどのようにソーシャル・インパクトを生み出せるのかと考えるようになりました。

    弊社はANRIグリーンファンドの1号案件なのですが、投資家経由で今回のイベントを知りました。グローバル進出を考える中、長期投資であること、著名なEQT Foundationからの出資を受けられる可能性があることは非常に魅力的でしたし、事業成長の大きな後押しとなるだろうと考えて登壇しました。EX-Fusionではすでに、オーストラリア国内におけるレーザープロジェクトの案件を進めており、グローバル進出も具体的に進み始めています。

    どういった点が評価されたと思いますか。

    表彰時の様子

    数点あり、グローバル・インパクト、ビッグ・スケール、オリジナル技術といったところでしょうか。日本が世界に誇れる独自技術を活用しながら、勝機を見出せるということがうまく伝わったかなと思います。

    我々はレーザー核融合発電だけでなく、そこに至るまでに高められる周辺の技術、例えばレーザー開発においても、そのレーザーを他の産業へ応用するといったことにも挑戦しているため、ターゲットとなる市場は複数あると考えています。先日特許を取得したのですが、カーボンファイバーなどの難加工材を加工するのにもレーザーは向いています。他にもがん治療用の重粒子線治療にレーザーを用いたり、宇宙デブリの削減を補助したり、一つの技術で多くのユースケースに対応が可能です。こういった汎用性の高い技術をアピールできたことが良かったのではないかと思います。

    今後に向けて、どういったイベントが増えると良いと思われますか。

    表彰時の集合写真

    日本のスタートアップ・エコシステムは過渡期にあると思います。我々のようなDeep Techが増えると日本の強みが行かせる一方でロングタームを受け入れられるリスクマネーが不足しているという現実もあります。今回のように、技術は日本が提供し、資本を海外から受け入れたり、日本企業が海外の課題を解決するといったタイアップの座組みが機能するのではないかと思っています。今回のようなイベントは象徴的なので、もっと増えていくと良いと思います。

    海外マネーと日本のスタートアップの連携加速に期待

    英語でのピッチやグローバル展開となると、言語障壁も相まってなかなかハードルが高く感じられてしまうと考えられてきた日本企業。一方、今回のイベントでレベルの高い登壇企業が複数あり、海外投資家からも高い技術評価を得られることが実証された。

    JP Startupsでもすでにグローバル進出している日本のスタートアップの取材も行ってきている。今はまだ割合が少ないだけで、これからメジャーになっていく。これからも彼らの成長を追っていきたい。