2023年6月2日から2023年6月8日に発表されたスタートアップニュース、資金調達情報のうちJP Startups(ジャパスタ)が注目する案件をピックアップしてお届けいたします。
編集部コメント
今週は約20社の資金調達情報があり、各社の資金調達の動きが目立った印象で、特に医療分野のDeep tech(ディープテック)企業による調達が目を引いた。
がんやアルツハイマー病などの疾患において、発生や悪化に関わるとされるフェロトーシスに注目し、治療薬の開発を進めているFerroptoCureはシードで資金調達を実施。また、うつ病を中心とした精神疾患で、VRとスマートフォンアプリを用いた新たな治療方法の開発を行うBiPSEEもプレシリーズAで資金調達を行った。
さらに、目の疾患に関する治療方法の研究開発を行うDeep tech 2社が資金調達を実施。そのうちの1社であるレストアビジョンは、遺伝子治療による視覚再生の早期実用化を目指すスタートアップで、シリーズAで12.7億円を調達した。もう1社のセルージョンについては、本稿の中で詳しく紹介する。
今週はそのほかに「超聴診器」を開発するAMIなど全4社をピックアップ。グロービスが主催するアクセラレータープログラム「G-STARTUP」の募集情報も紹介していく。
スタートアップニュース
アクセラレータープログラム「G-STARTUP」が第7期の募集を開始。一次締め切りは6月19日まで(2023年6月6日発表)
学校法人などを手がける株式会社グロービス主催のアクセラレータープログラム「G-STARTUP」。ユニコーン企業を100社輩出するプラットフォームの構築を目指して、2019年4月よりスタートした同プログラムの第7期の募集がスタートした。一次締め切りは6月19日(月)23時59分までで、最終締め切りは7月3日(月)23時59分までとなる。
「G-STARTUP」は将来性のあるスタートアップを支援する目的で行われ、プログラムにはファカルティやメンターとして、ユーザーベースやスマートニュースの代表らのほか、グローバル・ブレインやニッセイ・キャピタルのキャピタリストなどが参加する。また、ユニコーンを目指すために必要な視点と最新の経営知を学ぶ講義を受けることもできる。
さらに、MainTrack採択企業全社とIncubateTrackのうちDemo Dayでの「特別ピッチ権」を受賞した企業には、500万円程度の出資を確約。プログラム終了後もグロービス・グループより継続的な支援を受けることができ、過去には合計172社の採択企業から、25社以上がG-STARTUPファンドより投資を受けている。
第7期も前期に引き続き、企業や大学・研究機関などから生み出された先進技術を活用するディープテック企業に優先枠を設け、最大5社を採択予定。募集するスタートアップの事業テーマとしては、社会課題の解決につながり、経済的なリターンはもちろん、社会や地球環境へのポジティブなインパクトを及ぼしうる事業を求めているという。プログラムは8月より開始予定で、11月上旬には、国内有数のVCやエンジェル投資家らが参加するDemo Day(成果発表会)を開催予定。応募詳細はG-STARTUPの公式HPより確認できる。元リリースはこちら。
資金調達情報
【シリーズB】医師の診断をアシスト可能な「超聴診器」と遠隔聴診の仕組み構築を行うAMIが総額9.1億円を調達(2023年6月6日発表)
人間の聴覚によって診察を行う道具として、これまで200年以上にわたって多くの医師に使用されてきた聴診器。その聴診器を技術活用で診断アシストツールへと進化させるための研究開発を行っているAMI株式会社が、シリーズBで総額9.1億円の資金調達を実施した。引受先は、リアテックホールディングス、肥銀キャピタル、テレビ熊本を含む計7社。
AMIは、聴診器のDXに挑み、人間の可聴域を超える音を取得しながら、心音と心電の同時計測を行い、独自アルゴリズムによるデータ処理で医師の診断をアシスト可能な「心疾患診断アシスト機能付遠隔医療対応聴診器(超聴診器)」の研究開発を行う。2015年より開発を続けてきた同プロダクトは、2022年10月12日に厚生労働省より薬事承認を受けた。同社はこの承認を事業の新たなスタート地点と捉え、今回調達した資金を活用し、プロダクトの社会実装を目指す上で必要なAIエンジニアや事業開発、営業人材の採用ならびに海外展開を進めていくという。また、薬事承認済の「心音図検査装置AMI-SSS01シリーズ」の販売拡大や、心疾患診断アシスト機能の薬事承認取得、心疾患の早期発見と重症化予防に寄与するデジタルバイオマーカーの実現と臨床応用に向けた研究開発にも注力する考え。
聴診DXが進めば、遠隔医療の充実化も期待できる。同社は今後のビジョンとして、クラウド上に医師が集まり、全国どこでも一定水準の医療が受けられる世界の構築を目指している。元リリースはこちら。
【シリーズB】現場業務のDXを支援するFairy Devices、総額およそ21億円の資金調達を実施(2023年6月6日発表)
工場や物流倉庫などにおいて、現場作業員に熟練工の技術をアシストすることが可能なソリューションを開発・提供するFairy Devices株式会社。同社は、シリーズBラウンドのセカンドクローズとして、ダイキン工業、ヤンマーベンチャーズ、NTTテクノクロスなどから総額約21億円の資金調達を実施した。これにより、シリーズBでの累計調達額は31億円となった。
Fairy Devicesは、産業現場において属人化されやすい熟練の技術を、ウェアラブルデバイスやデータ解析の活用によってデジタル化し、熟練工が減少する現場にソリューション提供を行っている。2019年には「コネクテッドワーカーソリューション」を発表。同サービスは、デジタルデバイスを装着した現場作業員に対して熟練工が遠隔支援を行うことが可能。また、AIで作業記録を作成でき、作業の効率と品質の向上にも貢献できる。同サービスはすでにダイキン工業の空調現場や、ヤンマーエネルギーシステムが参画する南極の昭和基地などで導入されており、インドやベトナムなど18カ国・地域での導入も進んでいる。
日本は少子高齢化により、工場や倉庫などで人手不足が深刻化している上に、熟練工の高齢化による退職で技術の損失が加速している現状がある。「コネクテッドワーカーソリューション」は、これらの課題解決に貢献する。
同社は今後、調達した資金をもとにプロダクト開発やマーケティング、人材採用などに投資を行い、産業現場のデジタル化を推進することで、人類の様々な技能が流通する世界の創出を目指すという。元リリースはこちら。
【ラウンド不明】在庫分析クラウド「FULL KAITEN」を運営するフルカイテン、8億円の資金調達を実施(2023年6月8日発表)
小売企業を中心に導入が進む、在庫分析クラウド「FULL KAITEN」を提供するフルカイテン株式会社は、シリーズBラウンドに続く資金調達として8億円を調達したことを発表した。今回の資金調達は2種類の方法で実施。第三者割当増資では、ジャフコグループ株式会社が運用する投資事業有限責任組合をリード投資家として、三菱UFJキャピタル、FFGベンチャービジネスパートナーズほか4社を引受先とした。新株予約権付社債では、青空企業投資株式会社が運用する投資事業有限責任組合が引受先となった。今回の資金調達により、フルカイテンの累計調達額は20億円に達する見込み。
在庫分析クラウド「FULL KAITEN」は、ECや店舗、倉庫のすべての在庫をAIで予測・分析し、在庫の商品力を見える化できるSaaSだ。同システムは在庫商品を売上貢献度と完売予測日から「Best」「Better」「Good」「Bad」の4種類に評価する。それぞれの評価に合わせた販促施策を行うことができるため、本来は必要ない値引き施策を抑制し、売上や粗利、キャッシュフローの増加につなげることが可能。また、在庫効率の向上は、在庫の大量廃棄問題の解決にも結びつくと考えられる。
同社は今回調達した資金をもとに、プロダクト開発と採用強化を加速させていくという。なお、同社の資金調達は継続中であり、最終的には10億円以上の調達額に達する見込みだと発表している。元リリースはこちら。
【シリーズC】iPS細胞による角膜内皮再生医療の研究開発を進めるセルージョンが28.3億円を調達(2023年6月7日発表)
iPS細胞を用いた角膜内皮再生医療の研究開発を行うセルージョンは、シリーズCで28.3億円の資金調達を実施した。引受先は、既存投資家として東京大学エッジキャピタルパートナーズ、DBJキャピタルなど計4社が参加し、新規投資家としてはJICベンチャー・グロース・インベストメンツ、ニッセイ・キャピタルほか4社が参加している。今回の資金調達により、セルージョンの累計調達額は45億円となった。
セルージョンは、iPS細胞から角膜内皮代替細胞を効率的につくり出す独自の特許技術を有している。この技術をもとに、水疱性角膜症という疾患を対象とした製品開発を進めており、同社の計画では2027年には医療現場で使用可能な製品化が実現する見込みだ。現在の水疱性角膜症の治療は、熟練医師による手術をともなう角膜移植が主流。しかし、角膜移植はドナーが必要である上に、角膜を患者に届けるインフラの整備や手術経験が豊富な医師の存在が必須であることから、世界で1,000万人以上の患者が治療を待っている現状がある。
同社の手がける製品が実用化すれば、水疱性角膜症の治療はより多くの眼科医が実施しやすいものになる。iPS細胞から角膜内皮細胞と同等の機能を持つ代替細胞をつくることで、手術をせずとも、眼球内に細胞を注射することで治療が行える。また、iPS細胞であれば角膜内皮代替細胞を量産できるため、ドナーを管理するインフラも不要。治療方法を革新する画期的な製品として注目を集めている。
同社はすでに中華圏によるライセンス契約を締結して海外展開を進めているほか、2023年3月には同社製品を使った患者への移植治療も実施されている。今回調達した資金は、研究開発などの組織体制強化に使われるほか、国内外での治験開始に向けた準備にも使用される予定。また、後続製品の研究開発も加速させていくという。元リリースはこちら。
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