「世界一楽しいショッピング体験を実現させる」
創業2年で爆発的な成長をとげるシェア買いアプリ「カウシェ」を手がける門奈 剣平(もんな・けんぺい)氏はこう語る。
世の中の生活様式が一変し、オンラインが日常と切り離せなくなった今、シェア買いアプリで目指す世界について、株式会社カウシェ 代表取締役CEOの門奈氏に話を伺った。
「モノ余り・モノと情報の流動性」の解決に挑む
カウシェの事業概要を改めて教えてください。
一言でいうと、一人では買い物ができないECアプリです。カウシェのアプリ上で他のユーザーと共同購入すると、あらゆる商品が通常価格から10〜30%、最大70%もお得になります。ユーザーとしては、お得に購入できる点と、誰かを巻き込む買い物体験ができることがメリットです。既に購買意欲がある人が、他の人に商品をおすすめしてくれる形になるため、広告を出稿するよりも低コスト、かつ口コミに近い形で集客できるのが事業者のメリットです。カウシェを通じて、モノ余り・モノと情報の流動性の問題を解決したいと考えています。
「モノ余り・モノと情報の流動性」の問題に着目したきっかけを教えてください。
カウシェを創業したのは2020年4月と、ちょうど新型コロナウイルスの影響が出て、世界的に小売業界が冷え込んだ時期です。カウシェが実現したいことは、Eコマースを盛り上げることで多くの事業者に良い影響をもたらすこと。世界を見渡しても売れ行きが伸びずに廃棄される食材はまだまだ多いです。カウシェ上での買い物体験が盛り上がれば、商品の情報がより拡散され、多くの事業者を助けることが可能だと感じ今に至っています。
創業してから大変だったことを教えてください。
何事も楽しんでいるので、大変だと思う瞬間はあまりないです。ただ、事業が加速度的に成長しているので、成長痛のような大変さは感じています。ありがたいことに、アプリをローンチして1年半ほどですでに60万ダウンロードを突破しており、数百万ユーザーに使用されるアプリとなる道筋も見えてきています。私の前職のスタートアップでも、インターンから海外法人の代表まで、スピード感の溢れる事業成長を経験してきましたが、その時よりも今の成長スピードの方が早いですし、早く成長しないといけないと思っています。
前職のスタートアップに第一号社員として入社した時から起業の意思は固かったのでしょうか。
ちょっとした小さな思いではありましたが、いつかは起業したいなと思っていました。その小さな思いが、スタートアップでの経験を元に具現化され起業につながりました。実は私の実家は自営業でして、大変な部分もありつつ日々楽しんで働いている両親の姿を横で見てきました。それもあり、自ら事業を立ち上げることへの心理的ハードルは低かったと思います。また、前職のスタートアップでの経験も生きています。特に、社員が一桁の初期から200名規模になって日本の大手企業に売却するところまでを経験し、各フェーズで起こる組織課題について一通り経験をしたこともあり、組織作りなどについては再現性も感じています。起業したい方には、スタートアップに参画し、しっかり修行した後に羽ばたくという選択は、メリットもあるのかなと思います。
中国語しか話せない中で飛び込んだ日本での学生生活
門奈さんは、週末はどのように過ごしていますか?
最近は、サウナにハマってます。主に仲の良い経営者やスタートアップ仲間と行ったり、最近は一緒に働きたいなと思う人をお誘いしたりすることもあります。サウナで体温の急上昇、急降下を繰り返すことで、交感神経が研ぎ澄まされる点がとても良いです。創業2年目のスタートアップのCEOとして、やることが山積する中で常に優先度を決めないといけないのですが「これは自分が考え抜いて実行すべきだ」という点をサウナで整理して、翌朝の月曜日に仕事へ戻っています。
門奈さんは、10代半ばまで上海におられたと聞いていますが、どのような学生生活を過ごしていましたか?
生まれてから15歳まで上海で生まれ育ちました。中学2年生頃まで日本語が話せませんでしたが、高校から日本の学校に進学しました。多感な思春期の時期に、日本語に慣れていない中で日本語だけのコミュニティに飛び込み、マイノリティになる経験をしました。自らの原体験もあり、カウシェを経営する中でも、静かにマイノリティになってしまう人々を無くしていきたいという思いは強いです。
大学も日本の学校に進学されていますが、その後、中国とはどのような関わりを持っていましたか?
前職のスタートアップで中国の子会社の代表を務めていたので、実はビジネスで中国に戻り再度マイノリティとしての生活を送りました。ビジネスマンとして中国に住むと、中国でのビジネスのスピードや商習慣などの違いを実感しました。二つの国を客観的に観察する中で、自分の常識は当たり前ではないし、絶対的な価値観なんてないという点を理解でき、自分の認識の前提がアップデートされる経験でした。
独自の人事制度「KAUCHE de WORK」を発表
カウシェが発表した独自の人事制度KAUCHE de WORKについて教えてください。
(参考:シェア買いアプリ「カウシェ」運営のX Asia、副業メンバー向け昇給制度等を定めた人事制度「KAUCHE de WORK」を制定)
昨今は働き方が多様化し、数年前と比較すると副業やフルリモートで仕事をする人も圧倒的に増加しました。そこで、正社員のみならず副業としてカウシェに関わるメンバーにもより活躍できる場を提供したいと考え策定したのが「KAUCHE de WORK」です。具体的には、副業メンバーに対しても、半期ごとに行われる目標設定・評価振り返りに基づき、昇給・昇進などを実施しています。
KAUCHE de WORKについて、正社員や副業メンバーからどのようなポジティブな声が届いていますか?
カウシェのメンバーは、関与の形も住んでる場所も多種多様でインクルーシブな組織になっています。「パラレルワークで、自己実現や成長を感じられる」「ライフステージが変化してもスタートアップでチャレンジできる機会になっている」など、多面的にポジティブな意見をいただいています。
その中でも、2021年11月にKAUCHE de WORKの追加制度として発表した「退職してもSO(ストックオプション)権利保持できる制度」は大きな反響を集めています。発表に至った背景を教えてください。
(参考:シェア買いアプリ「カウシェ」、役職員向けストックオプションに関する新制度を発表)
実はあまり大ごととは考えておらず、絶対的に今の世の中の当たり前(退職時に権利を放棄しなくてはならないSO)より、良さそうだからやってみよう、というくらいの考えで決めました。我々はスタートアップであり、ある種、世の中に新しい価値観や文化を作っていく集合体といえます。私は、事業だけでなくカウシェが実現する働き方も同じ効果があると思っていますので、「こんな制度があるといいかも?じゃ、カウシェが実験してみよう」といった思いで設計し、発表しました。
実際、カウシェの従業員の皆さんのキャリアにとっても、カウシェにとっても、世の中にとっても良い制度だと思っています。優秀な方でも、ご自身のスキルセットや特性を考えると、合う会社のフェーズ、逆に合わない会社のフェーズがあります。しかしSOを保持するためには、会社が自分とは合わないフェーズになってもIPO(新規株式公開)するまで働き続ける必要があります。それでは手段と目的が逆転してしまいます。また、今まで企業にとっては優秀な社員に辞めてほしくないからSOを付与することが多かったと考えていますが、カウシェとしては本当に働きたい人にはちゃんとオファーを再提示し、お互いが気持ちよく働けることを大事にしたいと考えています。
Enjoy Workingの理念で雪だるま式に組織を育てる
カウシェは素敵なGather(近年利用者が増加しているバーチャルスペース)をバーチャルオフィスにしていると聞きました。
ありがとうございます。気づいたら社員がすごく凝ったスペースを作ってくれました。
こういった遊び心もカウシェとして大事にしているのですか?
会社のバリューとして「Enjoy Working」を掲げています。長い人生において大きな割合を占める仕事の時間を楽しんでいこうというものです。また、私が過去に出会ったプロフェッショナルの方々は、仕事を楽しむのが上手だと感じています。仕事の時間を楽しめる、そんなチームを目指しています。
2022年第一四半期に25名の採用を決めていますが、採用において重視している点を教えてください。
今のフェーズのカウシェでは、成長ポテンシャルが著しく高い方とご一緒した場合が、お互いにやりたいこともでき幸せであると考え、採用時にご一緒する方が、次の3年でどのくらい成長するかという点を重要視しています。なぜなら、カウシェはスタートアップとして指数関数的な成長を遂げたいと考えていますので、個人の成長も指数関数的であってほしいからです。3年経過した際に、会社の成長以上に成長してくれる人がカウシェを牽引してくれると嬉しいですね。貪欲に成長したくて、当事者意識を持って事業に取り組みたい人には今のカウシェはとても合うと思います。
今後、より強い組織にしていくために、CEOの立場で大事にしていきたい点を教えてください。
CEOとして組織と採用に向き合う上で「雪だるま式にスケールさせる」というのを一つのキーワードにしています。最初の初期メンバーがまず輝き、初期メンバー自身も成長しながら素敵な方を巻き込んで、大きな雪だるまにしていく。雪がこぼれ落ちることはなるべく防ぎつつ、多様性を持ち、それぞれ輝いている人がどんどん参画していくことで組織の魅力が倍増していくと考えています。
「雪だるま式」素敵なキーワードですね。思い立ったきっかけはありますか?
シェア買いアプリ「カウシェ」の事業も同じなのです。元々購買意欲が高い人が、他の購入者を巻き込んで、連れてきてくれる。結果として事業者もカウシェ自身も成長していく。このモデルが、会社としてのカウシェの組織設計にも当てはまるのではないかと考え、思い立ちました。
インタラクティブなECで人の豊かさを生み出す
カウシェが10年後に実現したい世界を教えてください。
カウシェの原点でもある「世界一楽しいショッピング体験」を実現したいです。オンラインでの買い物は、安くて便利でいつでも届きます。一方で、リアルな買い物は、人と人の交わり合いや、日常のささやかな一瞬一瞬の積み重ねがあり、人々の豊かさにつながっています。オンラインでの買い物体験を、便利なだけでなく、人々がより幸せになる体験にしたいです。
リアルの買い物体験も、まだまだ可能性があります。オンラインでの買い物とリアルな買い物が融合し、さらに進化する可能性も感じています。
リアルとオンラインの買い物体験は、今後緩やかにつながっていくのでしょうか?
そうですね。私はとても親和性を感じています。実際、リアルの買い物体験はあまり合理的でなく感覚的です。例えば、買いたいという明確な目的意識はなかったが、店先に置いてある商品やお店の雰囲気などの間接的な情報に触れることで何気なくお店に入った経験、皆さんもありますよね。装飾された陳列棚やポップを見て、商品を実際に手に取ってみて、買うつもりはなかったのについ「良いな」と感じて購入して、お店を出るときには少し幸せな気持ちになっている。
オンラインでも、リアル同様に様々な情報が飛び交っているショッピング空間にしたいと考えており、カウシェのアプリもそのような状態を目指しています。買うつもりがなくても、カウシェのアプリ上で何気ない情報に触れて購入する。例えば、カウシェのアプリ上ではシェア買いを募集する投稿ができるタイムライン機能があり、思いもしない商品が目に入ってくることがあります。思いがけず良い商品を購入できた人が情報をくれた相手に感謝を伝え、またさらにユーザー同士が色々な情報をアプリ上でやりとりする。そんな、エンタメ的なソーシャルコミュニケーションの上に存在する買い物体験を「インタラクティブなEC」と定義し実現させていきたいです。
カウシェとして、日本のスタートアップエコシステムに対して感じていることを教えてください。
基本的に私は、文句を言う性格ではなく「これが良いんだ」というものを自らの行動で証明していく性格です。海外に目を向けると、日本よりもスタートアップエコシステムが盛り上がっている国や地域があります。しかし、私の目から見て、日本がそのような盛り上がりをつくれないとは全く思っていません。目に見える成果を多数輩出し、エコシステムの循環を加速させれば、アジアをリードできるようになるはずです。まずは、カウシェが速いスピードで加速度的に成長していく。リスクをとって働いてくれる従業員や応援してくれる投資家に、「リスクを取って正解だった」と心から感じてもらえるように、自分自身が志高く事業に取り組んでいきたいです。
最後に、カウシェに興味がある方にメッセージをお願いします!
カウシェで一緒に働けることをとても楽しみに待っています。皆さんがどこかで静かに諦めてしまったやりがいや働きがいが、カウシェでは経験できる可能性があります。スタートアップで当事者意識を高く持ち働くということをあまり高いハードルだと考えすぎず、まずはフランクにお話できたら嬉しいです。
ありがとうございました!
編集部コメント
ハードワークな日々を送っている中、とてもさわやかな笑顔を見せながら、ゆっくり言葉を紡いでくれた門奈氏。
現在大きな注目を集めるシェア買い。Enjoy Workingを掲げ組織を育てながら世界に挑戦するカウシェの今後から目が離せない。
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