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グローバルで挑戦を続けるデジタルコンサルティングファーム モンスターラボ代表インタビュー

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「多様性を活かし、テクノロジーで世界を変える」

一年の半数ほどを海外で過ごし、日本発のグローバルコンサルティングファームを経営する鮄川 宏樹(いながわ・ひろき)氏はこう語る。

あらゆるビジネスにおいてデジタルが活用され、DX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が叫ばれる中、デジタルコンサルティングファームとしてグローバル展開を目指す、モンスターラボホールディングス代表取締役社長兼CEOの鮄川 宏樹氏に話を伺った。

クライアントと同じ目線に立ちイノベーションを起こす

モンスターラボグループの事業概要を教えてください。

大きく二つあり、一つは企業向けのデジタルコンサルティング・プロダクト開発事業です。世界中のエンジニアを活用し、クライアント企業のDX変革に取り組んでいます。DXの必要性が高まり日本ではエンジニア不足が深刻になる中で、海外を見渡すと若い優秀なエンジニアが多い国もあります。海外の人材を積極的に活用し、デジタルを軸に据えたエコシステムを作っていきたいと思い取り組んでいます。もう一つは、自社のプロダクト事業です。例えば、子会社化したモンスターラボオムニバスでは、中小企業や自治体向けのRPAツールや、飲食店チェーン向けのセルフオーダリングシステム等を展開しています。

モンスターラボのコンサルティングサービスの強みは何でしょうか?

DXの中でもモンスターラボが得意なのは、ビジネスモデルの変革や新規事業創出などを伴い、中長期的に売上を伸ばしたり、顧客の体験を変革するようなデジタル化です。

現在、ビジネスモデルを再定義し、デジタルで変革を実現していくことは、あらゆる産業・企業で求められています。クライアントとチームを組み、デジタル戦略からプロダクトの企画・設計・開発、プロダクトローンチ後のグロースハックまで一気通貫で支援するのがモンスターラボの特長です。

DXという単語は至る所で耳にします。様々な意味で活用されていますが、モンスターラボとしてのDXの解釈を教えてください。

モンスターラボとして、DXは手段であるというスタンスを大事にしています。DXに取り組む前に、BX(ビジネストランスフォーメーション)やCX(カスタマートランスフォーメーション)が重要です。世間で注目されているからデジタル化するのではなく、中長期的にクライアントが目指す姿をまず定義します。「顧客体験価値やビジネス自体の変革をデジタルでどう実現するか」が、モンスターラボとしてのDXの解釈です。

音楽配信事業からのピボットでDXコンサルカンパニーへ

モンスターラボは2006年に創業されていますよね。創業に至った経緯を教えてください。

2006年に創業した際に取り組んでいた事業は、音楽配信事業でした。しかし当初は事業が思ったように立ち上がらず、企業として生き残っていくための手段として受託開発を始めました。2013年までは受託開発は稼ぐための事業であり、得た資金を音楽配信事業に投資していました。

ただ、モンスターラボは早くから日本と中国で開発をしてきたため、中国や東南アジアに目を向けると優秀なエンジニアが多数いることを実感していました。そして、音楽配信事業に取り組むための受託開発の位置づけだったデジタル領域のサービス開発が、日本の活力を取り戻しアジアなどの新興国に雇用を生み出すことができる事業に発展させられるのではないかという想いが、日に日に強くなっていきました。

そこで、デジタルコンサルティングサービス立ち上げに至るのでしょうか?

そうです。グローバルソーシング事業を行うグループ会社として、Sekai Lab Pte.Ltdを2013年12月にシンガポールに設立しました。その後徐々に業績も成長し、アジアで事業展開を進める中、モバイルやUXの領域では世界トップレベルの企業が作れるのではと思い、ヨーロッパ及びアメリカ市場への参入を決意しました。その後数回のM&Aを経て、ヨーロッパ・中東・アメリカの法人を含む合計30社程度の企業を傘下にもつグループカンパニーとして今に至っています。

世界20の国と地域・32都市に拠点を展開するモンスターラボですが、現在はどのような体制なのでしょうか。

アジア・ヨーロッパ・中東・アメリカの4地域に分かれています。各地域の中で、コンサルタント、PM、UXデザイナー、ソリューションアーキテクト等を中心とした営業拠点とエンジニアを中心とした開発拠点を構えており、ヨーロッパを例にとると、デンマークやイギリス、ドイツ等に営業拠点を持ち、開発はチェコやポーランドなどの東ヨーロッパで担っています。

海外に複数の拠点を構える中で、どのような経営体制をとっていますか?

各国にはMD(Managing Director)を中心としたリーダーシップチームがいますが、グループ(モンスターラボホールディングス)としては私とCFO(最高財務責任者)が日本におり、COO(最高執行責任者)とCPO(最高人事責任者)はイギリスにいます。また、CTO(最高技術責任者)は、アメリカ・デンマーク・日本と各地域に一人ずつ配置するなど、グローバルカンパニーの経営として最適な経営体制を整えています。

創業後、一番大変だったことを教えてください。

企業のフェーズに応じて大変なことがありました。資金が枯渇しそうになったり、組織がバラバラになりそうになった時期もありました。この数年の話でいくと、グループ企業としてのオペレーションの統合やカルチャーの融合です。2017年にヨーロッパの企業、2019年にアメリカの企業をM&Aしました。アジア・アメリカ・ヨーロッパ・中東とそれぞれ違う企業のカルチャーや価値観を融合しモンスターラボという一つのブランドで経営していくことは、一筋縄では行かず今でも挑戦中の領域です。

大学生の時に実感したチームで戦う面白さ

鮄川さんのもっとパーソナルな部分も伺いたいです。どんな学生時代を過ごされたのでしょうか?

学生時代は本当に普通でした。島根出身で大学で神戸に行きましたが、大学卒業間際まで海外にも行ったことがありませんでした。学生の頃から数学が好きだったので、数学の教師になりたいと考えていました。しかし、実際のビジネス経験や世界の動きを知らずに教師になって何を教えることができるのだろうという疑問が残り、大学卒業後はコンサルティング企業に就職しました。

学生時代はどのような部活動に取り組んでいましたか?

大学生の時はアイスホッケー部に所属し、副キャプテンを務めていました。私たちのチームには監督やコーチの方針ではなく、学生の自主性を大事にしている特徴がありました。自分たちで戦略を立て、結果を積み上げていく。このようなカルチャーの下でチームをまとめ、チームで勝っていくという体験を経験できた点は、非常に自分の中で大きかったです。

アイスホッケー部時代の経験が、今のモンスターラボの経営に繋がっていると思われることはありますか?

直接的ではありませんが、組織作りやチームワークという点では関連があると思います。例えば、モンスターラボで提唱している「ラボ型開発」はチームワークがどう機能するかを考えた上で出てきた手法です。一般的な受託開発の場合、請負契約で先方からの要求をもとに仕様が決まることが一般的です。しかし、この「ラボ型開発」では、発注者と受注者の垣根を超え、クライアントとモンスターラボでともにチームを組み、様々な要件や仕様を確定していきます。チームでリリースのマイルストーンを設定し、プロダクトの改良を繰り返していくのですが、最近のプロダクトはサービスインした後にユーザーの反応を見てUI/UXをはじめとする仕様を変えることも多いです。そのため、ラボ型開発が現在の市場によくマッチしていると考えています。

上場できる準備を進めつつ、成長を重視

モンスターラボは2013年以降、多数の資金調達を発表しています。投資家の皆さんにはどのような点を評価されているのでしょうか?

まずは、世界中で成長著しいDX領域の一丁目一番地に挑戦していることを評価頂いています。そのほかの点としては、海外に事業展開して10社以上のM&Aを実施するなど、グローバルでの成長意欲が高い経営陣である点も評価を頂いています。

可能な範囲で、モンスターラボのExitへの展望について伺いたいです。

モンスターラボグループとして、世界に通じるデジタルコンサル企業になれると考えており、売却は考えてないため、IPO(新規株式公開)が選択肢になると思います。しかし、あくまで上場は企業の一つの通過点と捉え、上場後も含めて中長期的にどう高い成長を維持していくのかを重視しています。私たちはM&Aも毎年のように行っており、一般論としてはM&Aを実施すると組織が複雑化し、企業監査やガバナンス等の面から上場のハードルが上がります。しかし、中長期的な成長の為にはM&Aも重要な手段との経営判断をしており、既存株主の方々にもこのような戦略に賛同頂いてきました。

モンスターラボは海外拠点で多数の社員を抱えていますが、強固な組織とするために工夫している点を教えてください。

2021年7月にモンスターラボを持株会社制に移行した際に、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の刷新に取り組みました。

2006年に私が起業した時に掲げた「多様性を活かし、テクノロジーで世界を変える」というコーポレートミッションの根本は変わっていませんが、全社員に伝えることを考え、英語で再定義しました。また、MVVを根底においた上で組織として工夫していることが2点あります。1点目は、グループ横断的に知見を共有する点です。モンスターラボは各国単位でMDを置き、それぞれの国で財務的な目標管理をしていますが、ベストプラクティスの共有など、国の垣根を超えてグループシナジーを生み出す仕組みを作っています。2点目は、「Internal communication」という組織を作り、四半期ごとに全社員が経営陣へどんなことでも質問できる全社会議を地域別に開催したり、社内報を発行するなど、グループ内コミュニケーションに力を入れている点です。

そのような工夫は、具体的にいつ頃から取り組んでいますか?

本格的に取り組み始めたのは2021年からです。2017年のヨーロッパ、2019年のアメリカでの大きなM&Aの後、暫くは急に組織を変えることは意図的にしませんでした。人材とカルチャーは非常に重要なので、買収した企業のブランドやオペレーションも大きく変えずに緩やかな融合から始めていきました。M&Aから3〜4年が経過し、ある程度落ち着いてきたタイミングで、世界的なデジタルコンサルティングファームを目指すためにブランドを統合し、そこからグループ横断的なナレッジ共有の仕組み、プロセスやシステムの統合、そしてカルチャーの浸透に力を入れていきました。

鮄川さんが起業された2006年と2022年を比較して、日本のスタートアップエコシステムに対して感じていることを教えてください。

資金調達の環境は、格段に改善したと思います。私が起業した時期と比べると透明性も高まりました。また、日本の大手企業や外資系企業と並んで、優秀な方のキャリアの選択肢として、スタートアップが上がってきたことも大きな変化だと感じています。

日本のスタートアップが海外市場に参入し、着実に成長していくために必要なことは何でしょうか?

まず、日本の環境は恵まれていると強く感じます。市場も大きいしお金も集まりやすい割に競争率は低い。利点の大きい日本のスタートアップ市場で実績を作り資金を調達しながら、海外市場を目指したり海外の人材を活用する戦い方があると考えています。日本企業の利点を最大限に活かして、世界市場への進出に挑戦する企業がもっと増えると良いのではないでしょうか。

最後に、事業を通して実現したい世界を教えてください。

テクノロジーを活用して世界をより良い場所に変えていくことが、我々の本質的な価値だと考えています。今まで、デジタルは一部の人が恩恵に与るだけでしたが、IoTやスマートシティなど、現在の社会ではデジタルがより当たり前に存在する状態になっていきます。テクノロジーを手段として有効活用し、イノベーションを起こしていける企業にしていきたいです。また、グループに所属する仲間が国を超えて協力し合い、より良い世界をつくっていけるような存在でありたいと考えています。

ありがとうございました!

編集部コメント

淡々とした口調で語る鮄川氏だが、開口一番、飛び出してくるのはスケールの大きな話ばかりだ。言葉の独り歩きを感じることもあるDX。日本発のグローバルDXコンサルティングファームが、世界をupdateさせる未来はすぐそこまで来ている。