2023年5月12日から2023年5月19日に発表されたスタートアップニュース、資金調達情報のうちJP Startups(ジャパスタ)が注目する案件をピックアップしてお届けいたします。
編集部コメント
今週の資金調達情報は「DX」と「持続可能な社会の実現」がキーワードとなった印象。
DX領域では、イベントDXや取締役会DXなど、さまざまなサービスを運営する企業の資金調達が行われたが、本稿では特に建機レンタルDXのSORABITOと、店舗情報の一括管理システムを開発・提供するカンリーを紹介する。また、DXとは少し異なるが、デジタル社会の実現に向けてオンライン本人確認プラットフォームを運営するTRUSTDOCKも取り上げる。
持続可能な社会の実現に資するスタートアップでは、京都フュージョニアリングとTOWINGをピックアップ。京都フュージョニアリングは、次世代エネルギーとして世界で大きな期待が寄せられているフュージョンエネルギーを扱う。TOWINGは循環型農業の実現に貢献する土壌改良材を開発している。どちらも詳細は記事内で詳しく触れる。
また、今週のスタートアップニュースは2件。研究成果の事業化推進プログラム「BRAVE」の事前登録がスタートしたほか、スタートアップ投資で数々の実績を上げているDIMENSIONが2号ファンドの組成を完了した。BRAVEやDIMENSIONからどのようなスタートアップが輩出されるのか、大きな期待がかかる。
スタートアップニュース
研究成果の事業化推進プログラム「BRAVE」を2023年も開催。事前登録の受付がスタート(2023年5月17日発表)
独立系VCのBeyond Next Ventures株式会社は、研究者を対象とした事業化推進プログラム「BRAVE」を2023年度も開催することが決定し、参加者の事前登録を開始したと発表した。2023年度は9月下旬から12月初旬のスケジュールで実施し、過去最大規模での開催を予定しているという。
BRAVEは2016年より開始した、研究成果の事業化を目指す研究者向けのピッチコンテストだ。同コンテストに採択されれば、Beyond Next Venturesが当該研究にふさわしい経営人材をマッチング。研究者は事業立ち上げに向けて、経営チームを組成する機会を得ることができる。また、同社は経営チームのチームビルディングの支援を行うほか、国内有力VCのキャピタリストや研究開発型スタートアップの経営者などがメンターとなり、事業成長や資金調達の実現に向けた支援も実施。さらに最大1,000万円の資金提供や、JST START、NEDOなどの助成金獲得支援もあり、研究成果の社会実装に向け、事業化を一気に加速可能な環境が用意されている。
そんなBRAVEでは、これまでに累計125の研究チームを採択した実績がある。プログラムの卒業後に起業したスタートアップの数は52社、起業率は64%で、1億円以上の資金調達を実現したスタートアップは40社以上にのぼっているという。
BRAVEの本エントリーは8月1日より開始予定。本年度の詳細や過去に開催されたコンテストの模様は、BRAVEの公式サイトより確認できる。元リリースはこちら。
スタートアップ投資を行うDIMENSION、総額101.5億円で2号ファンドを組成完了(2023年5月12日発表)
2019年10月より国内ベンチャー投資ファンドを手がけるDIMENSION株式会社は、DIMENSION2号投資事業有限責任組合(以下、2号ファンド)を総額101.5億円でファイナルクローズしたことを発表した。
もともとはドリームインキュベータの100%子会社だったDIMENSION。1号ファンドは子会社時代の2019年10月にスタートし、AIやDX、SaaSなどの先端ビジネスを中心に投資を行いながら、2021年12月に初値248億円で上場した治療用アプリの開発などを手掛けるサスメド株式会社、2023年3月に初値1,070億円で上場したVTuberプロダクション事業を行うカバー株式会社、2022年に国内最大137億円を増資した株式会社LegalOn Technologiesなどを輩出してきた。2021年9月にMBOの形でドリームインキュベータから独立。2022年5月に2号ファンドを立ち上げ、100億円規模のファンドを目指していた。
2号ファンドは機関投資家の産業革新投資機構と上場企業創業者11名、海外機関投資家、事業会社などがLP出資を行い、大型スタートアップの育成と創出に向けて活動を行っていくという。元リリースはこちら。
ファンド概要
名称: DIMENSION2号投資事業有限責任組合
ファンド規模: 101.5億円
期間: 2032年3月31日まで
出資ステージ: シード・アーリー及びIPO前のグロースステージ(上場企業からのMBO、カーブアウト含む)
出資領域:ALLジャンル(バイオを除く)
資金調達情報
【シリーズA】食料生産システムの課題解決を目指すTOWING、総額8.4億円の資金調達を実施(2023年5月17日発表)
「持続可能な超循環型農業を地球・宇宙双方で実現する」をミッションに掲げ、高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」を開発した名古屋大学発ベンチャーの株式会社TOWING。同社は第三者割当増資と融資により、シリーズAで総額8.4億円の資金調達を実施した。第三者割当増資では、既存投資家のBeyond Next Venturesほか2社に加え、三菱UFJキャピタル、U3イノベーションズほか8社が引受先に。融資では日本政策金融公庫と愛知銀行が融資元となった。今回の資金調達により、同社の累計調達額は10億円に達した。
現在世界で行われている農業は、持続可能性の観点から見ると、温室効果ガスの排出量や化学肥料の使用、大量の未利用バイオマスの残渣処理などに課題がある。例えば、温室効果ガスは世界で490億トン(CO2換算)が排出されているが、そのうち4分の1が農業や林業、そのほかの土地利用によるものだ。日本においても、農林水産省の『みどりの食料システム戦略参考資料』によれば、農林水産分野で約4,747万トンの温室効果ガスを排出しているというデータがある。
TOWINGはそのような食料生産システムの課題解決を目指し、温室効果ガスの排出削減と減化学肥料・有機転換を同時に実現する高機能バイオ炭「宙炭」を土壌改良材として開発。宙炭は、有機肥料に適した土づくりにかかる期間を5年から約1ヶ月に短縮できるほか、農地への炭素固定効果や収穫量の向上などに効果が期待できるという。
宙炭は現在、日本国内の24都道府県で試験導入を開始している。今回の資金調達を経て、2023年度中に47都道府県での導入を目指し、海外展開に向けても活動を拡大させていきたい考えだ。さらに、高機能バイオ炭に関する技術の高度化、量産を担うプラントの開発、事業拡大に向けた採用と組織体制の構築に資金を活用する予定だという。元リリースはこちら。
【シリーズB】店舗情報の一括管理サービスを運営するカンリー、約10億円の資金調達を実施(2023年5月16日発表)
店舗情報の一括管理サービス「カンリー」の開発・提供を行う株式会社カンリーは、第三者割当増資と金融機関からの借入により、シリーズBで約10億円の資金調達を実施した。第三者割当増資では、既存投資家のジャフコ グループをリード投資家として、UB Venturesとディープコア、みずほキャピタル、新規投資家として東芝テックほか複数社が引受先となった。これにより、同社は累計で約15億円の調達が完了したことになる。
カンリーが開発・提供するのは、GoogleビジネスプロフィールやHP、各種SNSの店舗情報を一括管理できるWebシステム。口コミの管理や分析、ユーザーからの質問への対応などもすべてシステム上で対応できることから、Webマーケティングの領域にかかる運用工数が大幅に減らせるため、全国的に店舗を展開する飲食チェーン店を中心に導入が進んでいる。
同社は今後、AIの発展などにより、リアルな店舗の価値が高まると予想。現在のマーケティング領域に関連したサービスだけでなく、採用領域の課題解決につながるサービスの提供など、店舗経営を支える世界的なインフラを目指していく考えを示している。今回調達した資金は、そのような将来構想に向けて、現在開発中の新規事業への投資、既存事業の拡張、採用の強化などに使用する予定だという。元リリースはこちら。
【シリーズB】デジタルIDとオンライン本人確認プラットフォームを展開するTRUSTDOCK、第三者割当増資で15億円を調達(2023年5月17日発表)
業界業種を問わず対応可能なオンライン本人確認プラットフォーム(eKYC)とデジタル身分証サービスを提供する株式会社TRUSTDOCKは、シリーズBで第三者割当増資により総額15億円の資金調達を実施した。引受先は、グロービズ・キャピタル・パートナーズ、みずほキャピタルを含む計6社。
TRUSTDOCKは、素早く安全にオンライン本人確認が行えるサービスを事業者向けに提供し、生活者向けには自身の個人データを管理可能なデジタルIDウォレットアプリ「TRSUTDOCK」の提供を行っている。犯罪移転収益防止法の各種eKYC手法に加え、マイナンバー取得、リスクチェック、謄本が要らない法人eKYCなど、個人法人を問わず顧客確認に必要な確認業務をAPIで提供。金融サービスやギグワーク、不動産、人材、ECなど幅広い業界で導入が進み、現在は180社以上が導入するサービスとなっている。コロナ禍を経てオンライン本人確認のニーズは高まっており、今後はマイナンバーカードの普及や行政手続きのデジタル化が進むことで、さらに同社サービスの需要が高まることが予想される。
同社は今回調達した資金をもとに、安定したeKYCインフラとしての体制強化や、行政の方針との連携、デジタルIDウォレットの提供など、さまざまなサービスの展開を目指すという。元リリースはこちら。
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【シリーズC】フュージョンエネルギーの実現と産業化を目指す京都フュージョニアリング、総額105億円を調達(2023年5月17日発表)
エネルギー問題と地球環境問題を同時に解決可能な次世代エネルギー「フュージョンエネルギー」の実現と産業化に向け、核融合炉周辺装置やプラントの研究開発を行う京都フュージョニアリング株式会社。同社はシリーズCで総額105億円の資金調達を実施した。引受先は、JICベンチャー・グロース・インベストメンツをリード投資家として、SMBCベンチャーキャピタル、Coral Capital、三井物産、三菱商事など合計17社。今回の資金調達を経て、同社の累計資金調達額は122億円となった。
同社の事業テーマである「フュージョンエネルギー」とは、軽い原子核(重水素、三重水素)同士が融合し、別の原子核(ヘリウム)に変わる際に放出されるエネルギーのこと。太陽や星を輝かせるエネルギーと同じで、①発電の過程においてCO2を排出しない、②燃料が海水中に存在するため、技術さえあればどの国でも使えるうえに、ほぼ無尽蔵に生成可能、③少量の燃料から膨大なエネルギーが発生する、④燃料の供給や電源を停止することで反応が止まるため、固有の安全性がある、⑤発生する放射性廃棄物は低レベルのもののみで、これまでの技術を用いれば処分が可能、という五つの特徴を持つ。
これらの特徴を踏まえると、現在世界が抱えるエネルギー問題と環境問題の両方を同時に解決できることから、世界各国が大きな期待を寄せ、研究開発を進めている。日本でも2022年9月より「核融合戦略有識者会議」が開催されており、2023年4月には政府が「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を決定、産業化の推進と実用化を加速させる方針が打ち出されている。
同社はこのようなフュージョンエネルギーについて、京都大学の研究成果と日本のものづくり力を結集させ、核融合特殊プラント機器の開発を行う。プラズマ加熱装置、水素同位体ポンプなど、先端核融合工学分野において世界有数の技術力を有しており、英国原子力公社をはじめとした世界の核融合研究開発機関・企業を顧客としている。同社は今回調達した資金で、主力製品である核融合炉周辺装置やプラントの研究開発を加速させたい考え。また、米国や英国を拠点とした事業拡大をさらに強化するほか、企業規模の拡大に伴うガバナンス強化にも取り組んでいくという。元リリースはこちら。
【シリーズG】建機レンタルDXを推進するSORABITOが増資。累計調達額が30億円超に(2023年5月19日発表)
建機レンタルDXの推進を目指し、業界向けの各種サービスを展開するSORABITO株式会社は、シリーズGで加和太建設株式会社など複数の事業会社およびVCを引受先とした第三者割当増資を実施し、約8.4億円を調達した。今回の資金調達によって、累計調達額は30億円を超えた。
同社は2014年の創業以来、建機レンタルの営業サポートアプリ「i-Rental 注文」や建設機械の点検業務の効率化サービス「i-Rental 点検」、建機レンタルの受注業務の効率化クラウド「i-Rental 受注管理」などを開発。人手不足など、建機レンタル業界の抱える課題解決に向けたさまざまなサービス構築を目指してきた。
今回の資金調達は、サービスの磨き込みと普及を目的として、建設会社など新規パートナーの参画を目指したもの。同社は今後、既存投資家や新規投資家とともに、複合的な視点でのサービス改善や普及に向けた具体的な連携の取り組みを順次企画・実行していく考え。元リリースはこちら。
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