AIの進化により、我々はビッグデータを活用した革新的なソリューションを生み出すことができるようになりました。今日でも、多くの企業がAI技術を利用して自社のビジネスプロセスを改善し、成長を加速しています。しかし、データを取得できる人、データを整備できる人、データ解析をする人、実際の業務フローに落とし込める人など、データ活用に必要なリソースがそろっておらず、技術進歩の恩恵を受けられていない企業が存在しているのも事実です。
そんな中、本記事ではデータ活用プラットフォーム「Conata(コナタ)」を提供する株式会社フライウィールの代表取締役 横山 直人(よこやま・なおと)氏を取材しました。フライウィールは、GAFAM出身のエンジニアが多く所属しており、多様な業界に対応できる幅広い知識と経験、高度なAI技術を駆使し、ビッグデータを活用したソリューションを提供しています。
GAFAMでの経験から起業を決意|データ活用を社会全体に
ご自身のキャリアについて教えてください。
初めはNTTドコモでガラケーでの動画配信サービスの国内普及に関わっていました。同社ではオランダやフランスに赴任して、iモードの海外普及プロジェクトを5年ほど行いました。その後、2009年にGoogle Japanに転職し、クラウドビジネスの立ち上げに関わりました。当時はまだクラウドという言葉も一般的ではなく、4人か5人ほどのチームで働いていましたが、スマートフォンが登場した後はAndroidの日本および東南アジア5カ国での事業立ち上げに関わり、最終的にはAndroidのビジネス開発責任者として勤務していました。
そして、2014年にFacebook(現・meta)に転職し、執行役員として新規事業開発とパートナーシップに携わりました。Facebookでは、FacebookやInstagramなどのプロダクトに限定されず、バーチャルリアリティの分野にも進出し、非常にエキサイティングな日々を過ごしていました。
起業のきっかけを教えてください。
Facebookに入社後、2014年から5年ほどの間にFacebookのサービス上でAI技術が次々と活用されていく様子を目の当たりにし、データとAIの活用による事業成長の可能性と技術成長のスピード感を実感しました。
そんな中、同社では資材の調達も担当していたのですが、そこである日本の会社から相談を受けました。その会社は技術力が優秀なメーカーなのですが、以前は技術力を活かして1個の製品をつくっていたそうで、ビジネス上で十分な利益を得ていたのですが、中国企業のコピー製品などが市場に出回ってしまった影響で求められるプロダクトライフサイクルが短くなっていき、ビジネスとしての成立が難しくなっていたそうです。
そこで、データを活用することを考えたのですが、自社のデータだけでは不十分なのでFacebookのデータなどを使えないかとご相談いただきました。しかしFacebookはプラットフォーマーなので、企業ごとにソリューションを提供することは難しいという話になりました。
私自身も面白い取り組みだと感じたため社内で頑張りましたが、やはりそこは難しく、代わりにパートナー企業を探すことになりました。しかし、データの分析をできる人たちがいても、日々の業務の中に溶け込んだ仕組みをつくったり、データを活用しきるノウハウを持った会社が日本には存在しなかったのです。
そのタイミングでたまたま話をしたのがフライウィール共同創業者で、当時はマイクロソフトに勤めていた波村です。彼と話してみるとマイクロソフトでも同じような課題感を抱えていることが分かりました。そこで、それだけ探してもいないなら自分たちで起業して日本社会に価値貢献するのがいいのでは、と起業の可能性を考えました。
「データを人々のエネルギーに」というミッションはどのような意味が込められているのでしょうか。
やりたいことの世界観は起業のきっかけでお話しした通りなのですが、ミッションの中で価値提供の対象を「人々」にしたことはこだわった部分です。データをエネルギーにするというアイデアは最初からあったものの、当初は企業向けに提供するものとして考えていました。しかし、このビジョンを実現するためには、社会全体に浸透する仕組みを実装していかなければいけません。そして、社会は企業よりも大きなものですが、最終的に誰がその恩恵を受けるかと言えば、日本に限らず世界中の全ての人々であると考えこのミッションになりました。
現在は企業にフォーカスしていますが、今後はより広く、政府や個人にも私たちのサービスが価値を提供できるようにアプローチしていく予定です。最終的にはフライウィールの技術やノウハウを活かして信号などの社会インフラ部分をより良くすることができたらと考えています。
データを価値に変えるオールインワンのプラットフォーム「Conata(コナタ)」
Conataについて教えてください。
Conataは、データを分析するだけではなく、データ活用するソリューションまでが内包されているプラットフォームとなっています。
特徴は大きく二つあり、一つ目は、基盤となるデータを処理する部分と、データを使うためのソリューションの両方がセットになっていることです。二つ目は、マーケティングやレコメンド、検索、広告配信、クーポン配信など、さまざまな領域のデータを扱えることです。さらに、需要予測や在庫管理、物流最適化など、マーケティング以外の領域でも、コスト削減や企業活動全体の最適化を目指しています。このように、バックオフィスやオペレーション部分の業務効率化からマーケティング領域での売上向上を一気通貫で実現し、会社全体を最適化するということを目指しています。
また、Conataはデータ活用で重要になってくる、需要予測の精度向上などの成長も支援しています。需要予測などはモデル作成は簡単だったりするのですが、精度を成長させ続けることはかなり難しく、これを一社でつくろうとすると非常に手間がかかり、既存のソフトウェアを組み合わせたり、精度向上のための新しいモデルをつくったりすることが必要になってきます。しかし、Conataは、それらを一つにパッケージングしたソフトウェアなので、迅速かつコストを抑えてデータ活用ができる点が特徴です。
さらに、データ活用を普段の業務に落とし込むということを目指して、日常業務で使いやすいプラットフォームを意識し、ダッシュボードのアクション性も工夫しています。モデル自体を渡されても中々活用できないと思うので、ダッシュボード上で直感的に、より有益な分析ができることは非常に重要だと考えており、実際に使いやすいという評価をいただいています。
実装方法や、ソリューションを実現している方法を教えてください。
Conataのコンポーネントは、大きく分けると上記の画像のようになっています。データ結合からがConataの領域となっており、データを統合して、パイプラインを組むようなことをやっています。 その後、オントロジー化という共通のデータフォーマットに落とし込むような部分があり、現実の情報を仮想上で再現する「デジタルツイン」をつくるところが一つのレイヤーになって、その上で機械学習のモデルをつくって、ソリューションが再度上に向かってくという四つのステップ構成されています。
また、Conataは他社のマーケティングオートメーションに接続することも可能です。 必要に応じて弊社の提供するソリューションと、他社さんのソリューションのどちらも選ぶことができるというイメージです。
そして、データの統合の部分もConataの特徴です。類似しているソリューションのほとんどは構造化データが必要で、例えばパンというカテゴリーがあり、下層レイヤーに菓子パンと総菜パンがあって、菓子パンの中にクリームパンとあんパンがある、のような構造化されているデータがテーブル上で管理されています。そのため、商品の説明書きやEC上のレビュー文などのラベリングが難しい不定形のデータは、使えるデータではないと判断されてしまうんです。
しかし、弊社ではそれを抽出してきて、どういう意味なのかを自動的に理解できる仕組みをオントロジー化により実現しています。説明書きやレビュー文の情報は分析にあたって本来は重要な情報のはずです。従来の構造化データのみでなく、そういった定性情報に近いデータも用いた分析ができるのが私たちのサービスの強みです。フライウィールには、検索エンジンなどをつくっていたエンジニアが複数人所属しているので、その経験が活かされている結果だと思います。
具体的な事例を教えてください。
今回はコープの事例をご紹介します。コープは主に三つの事業をやっており、お店とEC、そして宅配です。宅配では商品の情報に加えてメニュー提案のような、利用者の注文を促すような情報も併せたカタログを各家庭に配布して注文してもらう方式を取っています。その中で、実は大量に届くカタログを捨てることに利用者の方が罪悪感を感じていて、 なんとかしたいというような声が上がってきたんです。
しかし、カタログの配布量を減らすことはコープとしては決断が難しい。売り上げが下がる可能性があるからです。そこで、デジタルツイン上で、過去のデータを元にシミュレーションを行いました。具体的には、こういう風に紙を減らせば売り上げに大きな影響がでないはずというのを検証し、データから意思決定をできるようにしました。
そして、実際にシュミレーションを行った結果、紙の量を50パーセント削減しても売り上げはほとんど変わらないという結果だったんです。紙のコストは宅配業務においてかなりの割合を占めているものなので大きなインパクトを残すことができました。また、コストの削減という結果以外にも、そもそもの課題であった利用者が感じていた紙を捨てるという罪悪感からの開放を達成できたのと、木の伐採量を減らせるという観点でもインパクトを残すことができました。
実際に、具体的な本数として年間で約16万本分の木を切らないで良くなるという結果が出ており、SDGsの観点でも効果的な取り組みとなりました。このように様々な観点で評価していただいており、このようなインパクトの大きなDX事例をこれからも増やしていければと考えています。
データでビジネスにインパクトを起こす。会社における五つのバリューとは
データ及び人工知能について幅広く開発を行っていますが、どのような方が多く働いているのでしょうか。
会社のカルチャーをご紹介するとわかりやすいかなと思うのですが、五つのバリューがあり以下のようになっています。
- Believe in Data
- Focus on Impact and Decide What You Do Not Do
- Move Fast and Break Things
- Respect Open Communications and Feedback
- One for All, All for One Goal
例えば二つ目と三つ目は、早く動いて、なにを行うか判断し、とにかくインパクトを出すということ。そして、四つ目と五つ目ではオープンなコミュニケーションと、フィードバックを尊重するということと、一人がみんなのために、みんなが一つのゴールのためにというバリューとなっています。実際にこういう考え方に共感して、実践している社員が多いと思ってます。
そして我々はやはりテックカンパニーなので、エンジニアリングカルチャーをすごく大事にしていまして、社員も65パーセントがエンジニアチーム。エンジニアが活躍しやすい環境づくりは大事にしていますね。
ただ、誤解のないようにお伝えすると、 うちのエンジニアはビジネスで結果を出すという部分に興味がある方がすごく多いと思っています。技術力を高めるなどの研究的な視点も大事ですが、エンジニアと言えどもどのように目の前のお客さんに価値を提供するのか、どのようにビジネス的な結果を出すのか、という点を重視しています。そのため、プロフェッショナルな結果を出すということにコミットしているメンバーが多いかなという印象です。
プレシード期からシード期のスタートアップへメッセージをいただけますか。
私自身もアドバイスできるような立場ではないですが、過去の自分に言うとしたら、大きく二つあります。一つは、リード投資家になる方が誰かということで、ファイナンスもビジネスそのものも方針が大きく変わることを理解してエクイティ調達を進めることが大切だということです。私自身も、何人ものスタートアップの諸先輩方に相談に乗っていただき、進め方を決めてきました。
もう一つは、デッドファイナンスを含め、さまざまな資金調達方法を活用することが必要ということです。資金調達の方法は時代によって変わってきているので、様々な選択肢から戦略的に設計していくことが重要だと思います。
これまで、ご自身や事業の成長に寄与したものは何かございますか。
「変化を楽しむ」ことです。テクノロジーは日々進歩しています。社会が変化していく中で、企業、特にスタートアップも変化し続けていく必要があります。そして会社のステージの変化に応じて私自身も変化し続けることが必要です。苦労することもありますが、その変化を楽しむことで、会社と自分自身も成長できると考えています。
また、人生のテーマとして「おかげさま」を掲げていまして、人とのご縁と責任を果たすといったように、ご縁を大事にしています。
例えば、創業時に支えてくれた方々だったり、GoogleやFacebook時代のつながりも未だに大事にしていますし、実際に今までのつながりから案件の紹介をしていただくこともあります。そういうご縁が今の我々のベースになっており、成長にもつながっていると思います。
最後に、読者へ一言お願いいたします。
「何のために仕事をするのか」が重要だと考えています。例えば私は「新しい価値を社会に提供する」という目的があるため、できる限り全力のエネルギーで仕事を進められています。そういった方と一緒に仕事をしていけたら嬉しいというのと、スタートアップは自分の成長を飛躍的に加速させられる環境です。成長したいという方はぜひスタートアップに飛び込んでみてください。
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