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「電話」が日本の生産性向上の鍵になる。SaaSで電話業務のDXに挑むIVRy・奥西 亮賀氏インタビュー

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多くの企業が煩雑さを感じながらも、電話業務は長い間アナログなまま、資金に余裕のある大手企業以外はなかなか業務効率化に至れていなかった。しかし、電話自動応答SaaSで、どのような企業でも簡単に電話DXができるサービスを生み出した企業がある。株式会社IVRy(アイブリー)だ。

今回、株式会社IVRy 代表の奥西 亮賀(おくにし・りょうが)氏にインタビューを実施。サービス誕生の背景や創業ストーリー、事業検証の秘訣、資金調達のエピソードなどについて、詳しく伺った。

起業後の電話体験から生まれた電話自動応答SaaS「IVRy」

まず、IVRyの事業内容について教えてください。

弊社は中小企業やスモールビジネスをメインターゲットとした電話自動応答SaaS「IVRy(アイブリー)」を開発・運営しています。具体的な機能としては、電話をかけた方のニーズ別に分岐点が設定できる自動応答や電話転送、通話内容の自動文字起こしなどの機能があり、電話業務をなるべく自動化できるように設計しています。

電話業務が煩雑なのは、大手企業も中小企業も同じです。弊社はより多くの企業にサービスを提供できるクラウド型SaaSのメリットを生かしつつ、誰もが直感的に使えるUIにこだわってオンボーディングコストを下げることで、システムを安価で提供しています。最安のプランであれば、毎月3,000円で利用可能です。

IVRy(アイブリー)サービス画面
Credit:株式会社IVRy

UIの特徴について、もう少し詳しく教えていただけますか?

UIは現在、特許も出願しているところなのですが、二つのポイントにこだわって設計しました。

一つ目が、カスタマイズ性の高さです。「多くの企業の電話DXに貢献したい」という想いを実現するためには、どの業界の企業でも使いやすいUIを目指す必要があります。そのため、電話応答の分岐ルールをできるだけ自由度高く設定できるようにするなどの工夫を行いました。

二つ目が、ITリテラシーがあまり高くないお客様でも直感的に使っていただけるよう、管理画面のUIにもこだわりました。誰でも理解しやすいように工夫されているAppleのガイドラインなども参考にしながら、文字の読みやすさや操作の容易さを実現しています。

電話の自動応答SaaSという事業アイデアは、何がきっかけで生まれたのですか?

大きなきっかけは、起業後に経験した電話対応の面倒くささと、それにまつわる失敗でした。

というのも、僕は会社を立ち上げたとき、自分の携帯電話の番号を代表電話に設定してしまい、非常に多くの営業電話がかかってくるようになってしまったんです。それらに対応するのが面倒くさくて、かかってくる電話をすべて無視していたところ、それが原因で銀行の融資の審査に落ちてしまいました。僕が無視していたものの中に、銀行から本人確認を行うための電話がきていたようなんです。

そこで初めて、法人の電話対応業務の大切さと煩雑さに気づきました。企業にかかってくる電話の7〜8割は受けなくても困らない電話ですが、一部は非常に重要な電話がかかってくる。そのような状況なのだとすれば、電話を受ける企業側がもう少し受電そのものを効率良くコントロールできたほうが良いと感じました。

そこで市場を調べてみると、中小企業やスモールビジネスを行う方のほとんどが電話業務に課題を抱えていることが分かりました。それで、電話対応SaaSをつくることに決めたのです。

映画『ソーシャル・ネットワーク』をきっかけに起業に興味を持つ

そもそも奥西さんは、いつ起業を考えたのでしょうか。

たしか大学4年生か大学院1年生のときだったと思います。映画『ソーシャル・ネットワーク』を観たことがきっかけで、自分のキャリアの中に起業という選択肢が生まれました。

この映画は、当時日本でも流行し始めていたFacebookの創業ストーリーを描いたもの。でも、僕には単なる創業ストーリーではなく、学生たちが優れた技術で世の中の役に立つものをつくり、それが進化していったという「サクセスストーリー」に見えました。

映画を観た後、情報工学を学んで「ものづくり」と向き合っている自分にも、同じようなことができるのではないかと感じたんです。それで、いつか起業するのもありかもしれないと意識するようになりました。

大学では情報工学を専攻されていたのですね。

そうなんです。情報工学を専攻したのは、得意な数学を活かせて、細かな作業はしなくていい学部だからです。とても褒められた理由ではなかったのですが、それでも大学4年生で研究室に所属してからは、必死で勉強や研究活動に取り組んでいました。

特に大学院に進学してからはエナジードリンクを飲みながら、徹夜で30〜35時間ほどプログラムを書き、12時間寝るという生活をしていたこともあります。そういう日々を3ヶ月ほど続けていたら、体からそのエナジードリンクの臭いがしてきたこともありましたね……(笑)。

学生時代、起業に向けた取り組みは何か行っていましたか?

大学院1年生のとき、修士論文に向けた研究が早めに終わったため、仲間と一緒に当時流行っていたスマートフォン向けのアプリ開発に取り組んでいました。つくったのは、観光ルートを最適化するアプリです。

自分たちとしては良いものをつくったと自負しており、周囲の人からも「いいサービスだね」という感想をもらえていたので、ビジネスコンテストにそのアプリを出してみたんです。ところが、そこで気づかされたのはマネタイズやマーケティングの設計不足でした。いくら世の中の役に立つようなものをつくっても、その後のプロセスまですべてデザインできていなければ、多くの人に使ってもらえるようなサービスにはならない。ビジネスコンテストでは、その後の進路につながる大切なことを学べました。

このコンテストでの経験をきっかけに、ビジネスについてしっかりと学ぶべく、起業前に一度就職することに決めました。

どんなに考えても、失敗するときは失敗する。リクルートの新規事業で学んだこと

大学院卒業後は、どちらに就職されたのでしょう?

新卒で株式会社リクルートホールディングス(現・株式会社リクルート)に入社しました。インターンに呼んでいただいた2〜3社から内定が出ていたのですが、より歴史が長く、事業開発に関するノウハウも蓄積されているであろうリクルートを選びました。

リクルートに入社するころには、起業の意思は明確になっていたのでしょうか?

そうですね。そのころには明確に起業しようと考えていて、リクルートで3年ほど修行した後に起業するつもりでした。そのことは面接でも率直にお伝えして、「3年間で新規事業ができるようになりたい。自分の給料分の利益は絶対に出すので、入社させてほしい」とお話しした記憶があります。

そうしたら、そのときの面接官(今はリクルートの取締役)が「俺も5年で辞めると言っていたけれど、気づいたら23年も会社にいるよ」とお話してくださって。その方は、自分のリスクを最小限に抑えながら、よりスケールの大きい挑戦と失敗ができる環境がおもしろくて、リクルートに残る道を選んだそうです。

その話を聞いたときに、そういう考え方もあるのかと目から鱗でした。そういう道に行くのもありだなと思えたこと、スケールの大きい挑戦を楽しめる方がたくさんいる面白い会社だなと感じたことも、リクルートへの入社の決め手になりましたね。

リクルートでは、どのような仕事を担当されていたのでしょうか。

ビジネスとしてはまだまだ成立し切っていない、立ち上げ2年目の保険関係の新規事業に携わっていました。役割としてはUI/UXの部分を担っていたのですが、新規事業の担当は30名ほどしかいなかったため、新卒2年目からプロダクトマネージャーも兼任し、営業やマーケティング担当者の仕事内容も間近で見ていましたね。自分の職務とは直接関係のない会議にも出席して、ビジネスの立ち上げについて積極的に学びに行っていました。

リクルートでの学びは、起業後に活かすことができましたか?

起業に失敗したのと同じくらいの経験をさせてもらったので、リクルートでの経験は今も大きく役立っています。

僕は四つの新規事業に携わったのですが、そのうちの三つは失敗して、四つ目に手がけた事業でようやく成功し、ある程度の規模まで伸ばすことができました。三つの事業に失敗したことで、どんなに頑張って考えても、失敗するときは失敗するのだという学びを得ることができました。とても貴重な経験だったと思います。

また、リクルートで身につけたスキルも役立っていますね。どのようなUI/UXにすれば人が動くのかといった知見や、さまざまな検証を重ねて獲得したマーケティングチャネル戦略に関する知識、事業成長に向かうための戦略の描き方など、幅広い知識や知見、スキルは起業後に自分の事業と向き合う中で活かせているように思います。

一方で、ファイナンスや人事、組織開発の部分は全くのゼロからのスタートでした。あとはお客様とのコミュニケーションの取り方についても、リクルート時代に身につけたものを一度捨てて、IVRyとしてどうアプローチすべきかを模索していきました。大企業の看板がない分、とりあえず話を聞いてみようと思ってくれるお客様は少ない。どのように興味を持っていただき、話を聞いていただくか、最初の半年から1年間ほどは試行錯誤していたように思います。

ところで、リクルートの面接の際に「この先会社に残る道もあるかもしれない」と感じていた奥西さんは、なぜ実際に起業を選択したのでしょうか。

大企業の中では新規事業の創出に純粋な気持ちで向き合えないなと感じたことが大きな理由です。

リクルートで働いてみて、僕はやはり新規事業や事業開発が好きだと改めて感じました。自分の事業が誰かの課題を解決し、「このサービスがあって良かった」と言ってもらえることが、何よりも面白いし、やりがいになっている。

そういう課題解決と真正面から向き合うためには、大企業ではベクトルが異なってしまうんです。そもそも企業側の視点から事業の方向づけが行われてしまう上に、「自社でやる意味」を問われてしまい、顧客にとって本当に意味のあるサービスやビジネスモデルでの提供ができなくなったりしてしまいます。

大企業の制約条件をすべて取り払って、本当に良いものをつくれたとき、どんな世界が広がるんだろう。そんな興味が湧いたことで、起業を決意しました。

七つの事業開発を経て電話DX「IVRy」のアイデアにたどり着く

起業後は、すぐに電話自動応答SaaSを開発されたのですか?

いえ、最初は人材のデータ分析サービスを手がけていました。エンタープライズ向けに事業を展開し、実際に契約も獲得できていたのですが、何か自分の肌に合わないなと感じてしまって。事業を一緒にやろうとしていたメンバーが途中で抜けてしまったこともあり、人材のデータ分析事業は終えて、そこから新たな事業創出に取りかかりました。

「自分の肌に合わない」とは、どういうことでしょうか。

僕の思想として、ソフトウェアをつくるのであれば、その便利さを特定の企業が享受するのではなく、より多くの人がメリットを共有し合えるようなものにしたいんです。中小企業やスモールビジネスなど、大規模な自己投資や自社でのソフトウェア開発が難しい方々でも、みんなが少しずつお金を出す形で非常に便利なサービスを使うことができる。SaaSだからこそできることに挑戦したかったのです。

でも、人材のデータ分析サービスは、中小企業には需要がありませんでした。企業規模が小さい企業では、サービスを導入しなくても自分たちで分析ができてしまうからです。一方、社員数の多い大企業には需要があり、1件の契約で数千万円を支払ってくださることもありました。

大企業向けの人材データ分析を続けるか、新たな事業に挑戦するか。自分の思想と照らし合わせたとき、僕は後者を選んだんです。

その後、電話自動応答SaaSのアイデアには順調にたどり着けたのでしょうか。

いえ、1ヶ月に1個のペースで事業をつくり、7個目のころにたどり着いたアイデアなので、少し時間はかかりました。「IVRy」以外には、その日の気候に合った服装を画像で提案するメディアや、副業の検索サイトなど、いろいろな事業をつくっていましたね。

7個の事業の中で、「IVRy」は上手くいくだろうと思えたポイントはどこにありましたか?

テストマーケティングを行った際、お客様の反応が良く、PSF(プロブレムソリューションフィット)しているなと感じられたことが「IVRy」に集中しようと思えたきっかけです。

テストマーケティングでは、LPだけを制作してリスティング広告を回していたのですが、お問い合わせのあったお客様とお話する中で「お金も支払うので、プロトタイプでいいから使わせてくれ」とおっしゃる方が多かったんですよ。

なるほど。テストマーケティングの時点で反響が良かったことが、「IVRy」の本格的な事業化に結びついたのですね。ちなみに、「IVRy」の導入企業数は現時点でどれくらいなのでしょうか?

累計でアカウント数は5,000アカウントを超えています。累積の着電数は500万件以上です。

「電話」の持つ古いイメージがネックとなった資金調達

ここからは、貴社の資金調達や社風について、お話を聞かせてください。まず、これまでの資金調達はいかがでしたか?

シリーズAの資金調達に関しては、比較的スムーズに進めることができた部分と、そうではない部分があったかなと思います。

スムーズではなかった部分に関して言えば、弊社が昔からある「電話」を対象に業務効率化を図るサービスを行っていたため、そのイメージから投資家によって評価が大きく分かれてしまったんですね。「夢がない」という言葉をもらったこともあるのですが、あまり目立たない市場ゆえに、縮小しつつある市場だと勘違いされている投資家さんも多かった。電話DXには伸びしろがあることを、いまいち伝えきることができませんでした。

でも、コロナ禍で状況は一変しました。医療機関への電話が急増したことで、「IVRy」のトラクションも大きく伸び、投資家さんにも市場の存在が伝わるようになったんです。シリーズAで投資家として入っていただいたフェムトパートナーズさんも、当初は僕らの事業に懐疑的だったそうですが、事業内容を見ていく中で非常に良いサービスだと感じてくださって、投資を決めてもらうことができました。

シリーズAでは2020年にIPOした株式会社プレイドからも出資を受けていますが、どのような経緯だったのでしょうか。

実は、もともとはプレイドさんのほうが先に僕らを見つけてくださって、ご支援いただくことになりました。フェムトさんもプレイドさんに紹介いただいたVCです。プレイドさんは「このプロダクトであれば、IVRyは伸びる」と考えてくださって、システムの導入や連携も検討いただきました。

プレイドさんに株主となっていただけたことは、本当にありがたいことだなと感じています。プレイドさんのプロダクトである「KARTE(カルテ)」のデータと電話データを自動で連携できるような機能開発を一緒に行ったり、他社には聞きづらい困りごとも先輩企業としていろいろと教えてくださったりと、本当にお世話になっていますね。

2023年3月に発表されたシリーズBの資金調達は、どのような方針で行ったのでしょうか。

今回も、弊社の可能性をきちんと評価してくださったVCさんから資金調達を行いました。次回以降にもフォローで入っていただきたいVCさんや銀行系のVCさんにも新たに入ってもらっています。

しかし、今回の資金調達は昨今の不況の影響を感じました。投資家さんからも「1年前ならもっとたくさんの金額を出せた」というお話をいただくことも多かったです。

社内にボルダリングの壁も。 “Work is Fun”を大切にする社風とは

貴社の社風についても教えてください。

一言で言語化するのが難しいのですが、 “Work is Fun”という価値観はとても大切にしています。僕らは「IVRy」というサービスを通じて、中小企業やスモールビジネスを行う方々に、やりがいのある仕事をしながら、楽しく働いていただきたいと考えています。そのような世界観を実現するためには、自分たち自身が楽しく働けている必要があると思っていて。そのため、「ワイワイ楽しく働ける環境づくり」には意識して取り組んでいますね。

ただ、楽しさばかりを追求してしまうと、それは会社組織ではなく、「サークル」になってしまいます。自由には責任が伴うように、楽しく働くこととセットで、それぞれがプロフェッショナルとして責任ある働き方をするという点も大切にしていますね。

貴社で活躍されている方は、やはり “Work is Fun”の価値観を体現されている方なのでしょうか。

そうですね。仕事も遊びも本気で楽しむ人が活躍しているように思います。

あとは、弊社の三つのバリューを体現するメンバーも、非常に優秀で活躍していると感じます。弊社のバリューは、「To-Be Oriented “べき論”に向けて、一歩ずつ進んでいく」「Feel Special 相手を想い、リスペクトを持ったコミュニケーションをする」「Simplify x あらゆることを、簡素化する」というもの。この三つが弊社メンバーの中に根付いているかという点も、弊社のカルチャーとして大切にしているポイントです。

今後入社してほしい人材像は、やはりバリューの要素を兼ね備えている方でしょうか。

いえ、入社時点ではバリューの要素を持っていなくても良いと考えています。むしろ、素直で責任感のある方、そして弊社のカルチャーを受け入れる意思があって、自走力のある方であれば、ぜひメンバーとして迎え入れたいです。バリューとして設定している項目をすべて達成できている人はなかなかいません。バリューはある意味で、困ったときの指針にするための目標のような存在です。

ちなみに、貴社のオフィスに入ってからとても気になっているのが、あのカラフルな石のついた壁なのですが……。

これはボルダリングの壁です。これからの社会はリモートと出社のハイブリットな働き方が広がっていくと予想しているのですが、メンバーが自然と出社したくなる「遊び場」のような空気のあるオフィスをつくりたいと考えた結果、ボルダリングの壁を導入することに決めました。

オフィスに設置されているボルダリングの壁
Credit:株式会社IVRy

社内にボルダリングの壁がある企業に訪れたのは、初めてです。

そうですよね。この壁は、実は採用活動時のフックにもなっているんですよ。僕らは電話という渋いイメージのものを扱っていますから、いくら面白い技術を使ってサービスづくりを行っていても、なかなか話を聞こうと思ってもらえないことが多いんです。採用候補者向けにもアピールしやすいものとして、ボルダリングの壁を活用していますね。

なるほど。ボルダリングの壁は、貴社の事業内容ならではの採用課題に貢献しているのですね。改めて「電話×SaaS」の事業を行う魅力や可能性について、お聞かせいただけますか。

日本の労働生産性や国際競争力の低下の問題に、大きく切り込むことができると考えています。スイスのビジネススクールIMDによれば、日本のビジネスの効率性は諸外国から大きく後れを取り、55位だったそうです。そのような状況を打破するには、日本の法人数の99.7%を占める中小企業の効率を改善するほかありません。でも、再投資をする余力のない中小企業にいきなり「DX」と言っても響かない。アナログで煩雑な、誰もがその課題に納得するような「電話」だからこそ、業務効率化を目指す一つのアカウントフックになると考えています。

僕らは今後、「IVRy」の事業を通じて取得したデータを活用しながら、マルチプロダクト展開も検討しています。ここはかなり面白いポイントです。弊社に興味を持ってくださった方とぜひ直接お話したいですね。

時価総額1兆円、多くの方に「ワクワク」してもらえる企業を目指して

今後の目標や展望についても教えてください。

資金調達のところでも少しお話しましたが、僕らは上場を目指しており、上場後も伸び続けて時価総額1兆円の企業になりたいと考えています。時価総額が上がるということは、世の中からの期待が高まるということ。IVRyが次に出すサービスはどんなものなんだろうと、多くの方にワクワクしていただけるような会社になっていきたいです。

プレシード・シード期のスタートアップに、応援メッセージをいただけますか?

自分のことを信じる目線と一歩引いて自分を客観的に見る目線、両方のバランスを大切にしていただきたいなと思います。自分にしかやれない事業があるという個人的でアツい想いも大切ですが、一方でビジネスとしてスケールさせていくための戦略は冷静に考える。そのバランスが上手く取れるようになると、事業の成功確率が高まるように思います。

事業の成功確率を高めるために、具体的な検証のコツなどはあるのでしょうか?ここまで貴社のお話を伺って、IVRyはアイデア検証がとても上手い企業であるように感じました。

僕の場合、一番最初にメトリクスをすべて計算します。スプレッドシートなどに、自分のやっている事業はどのようなビジネス構造なのか、どのような数字に分解できるのかを洗い出し、注力すべき指標を見つけ出します。例えば、通常のBtoB SaaSのチャーンレートの平均は原理原則的に0.5〜3%程度に近いものですが、解約を減らそうといくら注力しても一般的な数字に収束するだけです。かなり改善できても3〜5倍の効果程度に落ち着きます。そういった指標ではなく、自分たちのやり方次第で100倍〜1000倍に伸ばしていくことができる数字を探すんです。

ポイントとなりそうな指標が見つかったら、その注力指標を大きく伸ばすことは可能なのか、売上のキャップはどのくらいになるのかという検証を進めていきます。その注力指標を軸にアカウント数や売上の計算をして、うまくいかなそうなポイントがあれば撤退の判断を下してきました。

また、アイデア検証の段階から、中長期的な事業戦略が成り立つのかということを見据えて検討するのも大事だと思っています。スタートアップはニッチトップを狙い、そこから横展開して売上のトップラインを上げていく戦略を取ることが多いのですが、実は事業立ち上げのタイミングで横展開の可否を検証していなかったという事例も多く発生しています。成功確率をあげるためには、最初から将来を見据えてあらゆるポイントを検証していくほうが良いと思っています。

最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。

もしスタートアップへの転職を迷っている方がいらっしゃったら、ぜひ安心して挑戦していただけたらなと思います。最近のスタートアップは「薄給で遅くまで働く」というようなイメージとは大きく異なっています。僕らの会社もそうですが、多様な人材がプライベートと仕事をしっかりと両立させながら働いています。ホワイトな働き方ができるスタートアップは多いと思います。

また、個人のキャリアとしても、市場価値の上がりやすい環境だと思います。スタートアップはあらゆる物事のスピードが速く、3日〜1週間で成果が出て、次の検証に進むということも少なくありません。そのようなサイクルで1年間仕事をすれば、自分の中に蓄積される知見やノウハウも相当なものになるはずです。

興味のある方は、ぜひスタートアップを新たなキャリアの選択肢に入れていただけたらと思います。