「どんな時もやりたいことに全力投球」
日本発サイバーセキュリティスタートアップとして世界に勝負を仕掛ける株式会社Spider Labs CEO 大月 聡子(おおつき・さとこ)氏が大事にしているスタンスだ。
拠点を東京からポルトガルに移し、3児の母として奮闘する傍ら、「The best anti fraud company ever(史上最高のアンチフラウドカンパニー)」を目指し、アドフラウド(広告詐欺)対策サービスを成長させる彼女に話を伺った。
顧客のニーズ起点のアドフラウド対策
Spider Labsが取り組む「アドフラウド対策」とは、あまり聞きなれない単語だと思いますが、改めて事業概要を教えてください。
Spider Labsは、不正な手法によって広告報酬を詐取するアドフラウド(広告詐欺)に対抗するソリューションSpider AFを提供しています。どんなユーザーでも気軽に、悪意のある広告トラフィックをブロックできる点が特長です。
Spider Labsは2011年に起業されていますが、創業のきっかけを教えてください。
きっかけは学生時代の飲み会です。当時、私は大学院生として物理学の研究に打ち込んでいたのですが同じ研究領域の仲間を誘い、大学院卒業と同時に勢いで創業しました。
創業してから大変だった点を教えてください。
創業初期が一番大変でした。就職せず卒業後に起業したので、ビジネスの基本が全く分からず、また、最低限の資金しか手元になかったので、大学の研究室を間借りし、昼も夜も受託開発をしていました。創業して1〜2年が経過した頃から、受託開発で得た余力資金を活用し、自分たちのサービスを考えて検証していました。
自社サービスを検証している際、アドフラウド対策のアイデアはどのように着想したのでしょうか?
自分たちの事業アイデアを探している初期の頃は、自分たちが興味がある事業領域から着想しようとしていました。しかし、国内最大級のアドフラウド対策ツールに育った「Spider AF」は、私たちが初めて顧客のニーズ起点で考えたサービスです。Spider AFをリリースしたのが2017年ですので、創業してから6年ほどは自分たちが本気で勝負できるサービスを考えている期間だったと言えます。
学生時代からやりたいことに全力投球
学生時代の大月さんについて教えてください。
非常に活発な学生だったと思います。スタートアップの経営者である今も変わらないですが、好奇心が強くさまざまなことを経験したいと考えていました。大学に入ってすぐの頃は海外旅行にのめりこみ、複数の国を旅しました。ふとしたきっかけで学問の面白さを知った後は大学院に進学し、ひたすら研究に没頭していました。フェーズごとに心からやりたいことに集中して取り組むという姿勢は学生時代から変わっていません。
大月さんは、常にやりたいことに全力投球なのですね。スタートアップのCEOとして常にハードワークをされていると思いますが、週末はどのようにリフレッシュされていますか?
私は3児の母なので、週末は子供の世話に全力投球です。平日は経営者として脳をフル回転しているので、週末は子供と一緒に公園に行ってアイスクリームを食べたりすることで、私自身が一番リフレッシュしています。
ただ子供の世話をしながらもやはり経営者なので、週末の夜、子供が寝た後に、お茶を飲みながら翌週の仕事のプランをゆっくり考える時間も確保しています。
採用は妥協しない。候補者に課題を出して評価
Spider Labsの採用において工夫されている点はありますか?
以前の採用は、業績が拡大し人手が足りないから採用するというスタンスでしたが、ミスマッチを数回経験したことで採用方針を変えました。今はやみくもに社員を拡大するのではなく、Spider Labsとして何のポジションで、どのような役割を任せるために、どのような人材を採用するかを検討し、また、カルチャーフィットも重視して採用をしています。
Spider Labsのようなスタートアップでは、ポテンシャル採用はあまりマッチせず、明確な役割を持って主体的に動ける人材がマッチすると考えています。
それでは、エグゼクティブ人材の採用はどのように進めていますか?
エグゼクティブ人材の採用段階では、Spider Labsとして課題を出しています。例えば営業部門のエグゼクティブの場合、あなたがSpider Labsに入社した後、1年間でどの程度の売り上げをどのような戦略で獲得するかといったプランを、英語でプレゼンテーションしてもらっています。
このような手法をとるきっかけはありましたか?
具体的なきっかけはありませんが理由を挙げるなら、経歴と本人の自己アピールだけではSpider Labsを成長させられる人材かどうか判断できないからです。
エグゼクティブ人材は年収がある程度高いので、私がCEOとして、この人を採用するとSpider Labsにどんなメリットがあるかをしっかり検証したいという思いがあります。
Spider Labsは海外のエンジニアも多数おられると思いますが、組織づくりで現在困っていることはありますか?
現在、日本とポルトガルにオフィスがあり、またアメリカにもメンバーがいるのですが時差の関係で全員が同じ時間に集まるMTGを開催することができません。現在は同じMTGを複数展開して社員に共有していますが、限界があります。今後MTGを設定しなくても全員が同じ目標に向けて努力できる仕組みを導入していく点が課題です。
海外のマーケットで結果を出していく
今後、海外市場での成長はどのように検討されていますか?
サイバーセキュリティスタートアップとして、日本のマーケットに閉じるつもりはありません。北米をはじめとする英語圏の市場や、先進国と発展途上国の中間程度の経済規模の市場へ積極的に参入していきたいです。
海外の顧客とやりとりをしている際に、課題に感じていることはありますか?
クライアントが求めているものが、日本の顧客と海外の顧客で異なることを最近感じています。今後マーケティングファネル(購買までのプロセス)を改良していき、Spider AFをどのようにクライアントに示し、売り上げにつなげていくかの解像度を上げていきたいと考えています。
Spider Labsが特に恩恵を受けたイベントやプログラムがあれば教えてください。
様々なピッチに登壇し、その度に応援者を得ましたが、一つだけ挙げるならIVS LaunchPad(日本最大級のピッチコンテスト)にはとてもお世話になりました。2020年冬に出場したIVS LAUNCHPAD SaaSにてピッチの機会をいただくだけでなく、資金調達に繋がり、その後のコミュニケーションから多くの事を学びビジネスに活用できました。さらに顧客も紹介いただき、IVSには本当に感謝しています。
Spider Labsはこれまでに数回資金調達を行っていますが、大事にしている観点を教えてください。
投資家とコミュニケーションする上でビジョンやパッションも重要ですが、投資家からお金を預かる以上、根拠のある数字をしっかり示していくことが大事だと考えています。投資家に安心して出資頂くために、マーケットの伸びとSpider Labsが成功できる根拠をしっかり事業計画書に落とし込むことを大事にしています。
Spider Labsの事業を通じて実現したいビジョンを教えてください。
日本のマーケットでSpider AFの価値を感じてもらえている今、海外のマーケットでもしっかり価値を提供していきたいです。Spider Labsの顧客である広告主の方々は、自社サービスの購買をはじめ、何かしらの狙いがあり広告を出稿します。広告主の皆さんの最終的な野心、目指しているゴールをしっかり分析して、サービスとして提供していくことで「The best anti fraud company ever(史上最高のアンチフラウドカンパニー)」を目指し実現していきたいです。
大月さんが描いている10年後の未来を教えてください。
日本のスタートアップとして、しっかり外貨を稼ぐ産業を作り上げていきたいです。変化が激しい昨今ですが、日本の経済成長に数字で貢献する企業になる未来を見据えて、世界に進出しています。
ありがとうございました!
編集部コメント
インタビューを通じて印象的だったのは、好奇心が強く大月さんの真っすぐな視線だ。
近年重要性が高まるサイバーセキュリティ分野で海外市場に参入し、躍進を遂げていくSpider Labsから目が離せない。
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