2023年3月10日から2023年3月17日に発表されたスタートアップニュース、資金調達情報のうちJP Startups(ジャパスタ)が注目する案件をピックアップしてお届けいたします。
編集部コメント
今週は堅実な成長を遂げているスタートアップの資金調達が多かった印象。Web3.0や自動搬送ロボット、ダイヤモンド材料による半導体デバイスなど、次世代技術を活用した製品・サービス開発を行う企業の調達も目立った。
その中でも今週は、製品開発データベースをノーコードで構築可能な「PRISM」を運営するThings、自動搬送システムを開発するLexxPluss、「アイミツ」を提供するユニラボ、貸付投資プラットフォーム「Funds」を運営するファンズ、排泄予測デバイス「DFree」を開発・提供するトリプル・ダブリュー・ジャパンの5社をピックアップ。
特にトリプル・ダブリュー・ジャパンの資金調達は久しぶりの発表だ。超音波によって排泄のタイミングを予測する画期的なデバイスを開発・提供しており、これまで数多くのメディアに取り上げられてきた。2022年2月には東京都中小企業振興公社「第14回医療機器産業参入促進助成事業助成金」に採択されたほか、同年4月には介護保険が適用となり、介護施設等で導入しやすい環境が整えられた。シリーズDとなる今回の調達で、同社が今後どのような展開を見せるのか期待がかかる。
各社の調達内容は、本稿で詳しく紹介していく。
資金調達情報
【プレシリーズA】ノーコード型製品開発プラットフォームを開発するThings、総額2.2億円の資金調達を実施(2023年3月15日発表)
ノーコードで自社の部品データモデルを構築し、製品開発情報を一元管理可能なクラウド型製品開発プラットフォーム「PRISM(プリズム)」を開発する株式会社Things。同社はプレシリーズAで、総額2.2億円の第三者割当増資を実施した。グローバル・ブレインをリード投資家として、引受先はSMBCベンチャーキャピタル株式会社、静岡キャピタル株式会社、新生企業投資株式会社、PKSHA Capitalおよび既存投資家のANRI。
新型コロナウイルス感染症の拡大や世界的な半導体不足をひとつのきっかけとして、日本の製造業では解決を急ぐ課題が明らかになった。「サプライチェーンの強靭化」と「不測の事態からの復旧力向上」だ。そこで現在、多くのメーカーではサプライチェーン全体の最適化を図るため、ITへの支出を増やし、部門間のデータ連携などに力を入れ始めている。
一方、「2025年の崖問題」に象徴されるようなレガシーシステムの弊害が、製造業でも同様に発生している。Thingsはこのような製造業の課題に対し、中堅規模の加工組立製造業向けにノーコード型の製品開発プラットフォーム「PRISM」を開発。部品表や図面、原価の管理など、製品開発に必要なデータベースをノーコードで、誰でも簡単に構築できるようなクラウドサービスとして実現している。
「PRISM」の正式リリースを5月に控える中、開発の加速が急務と判断し今回の資金調達の実施を決定。同社は調達した資金をもとに、システム開発の加速と顧客支援体制の強化を行い、製造業の基幹システムとなりうるプラットフォームの早期構築を目指すという。元リリースはこちら。
【シリーズA】次世代自動搬送システムを開発するLexxPlussが約14.5億円を調達。米国法人を設立し、海外事業拡大を目指す(2023年3月15日発表)
次世代の産業インフラとなるロボティクス・オートメーション製品を開発・販売する株式会社LexxPlussは、DRONE FUND株式会社やSBIインベストメント株式会社を含む全11社を引受先として、第三者割当増資により約14.5億円の資金調達を完了した。今回の調達で、同社の累計調達額は18億円に達した。
少子高齢化により、日本の労働力人口は今後も大きく減少することが予想されている。その影響は社会の根幹を支える製造業や物流業にも及ぶと考えられ、両業界の生産現場では人手不足に対する抜本的な解決策として、自動化設備への投資を急いでいる現状がある。
さらに、物流業界では「2024年問題」が深刻だ。全国的なドライバー不足が見込まれる中で、各社は輸送の効率化に向けた取り組みを推進し、物流センターでの搬送工程の自動化ニーズも高まっている。
同社はそのような課題に対し、自立走行ロボットや無人搬送車の技術を併用した独自開発の自動搬送ロボット「Hybrid-AMR」や、ロボット統合制御システム「Konnectt」を手がける。ハードウェアからソフトウェアまでを一気通貫で開発・提供することで、製造・物流の現場における各工程の自動化に貢献。既に佐川急便株式会社での実運用も開始している。
同社は今回調達した資金をもとに、2023年2月に設立した米国法人を足掛かりとして、コロナ禍以降ニーズの高まる米国の自動搬送ソリューション市場で事業拡大を狙う。現在同社が行っている技術のオープンパートナーシッププログラムについても実施規模をグローバルに拡大させ、今後2年間で100社の参加を目指すという。また、市場拡大を見据え、国内の製造・試験拠点も3カ所に増やし、2年間で自動搬送ロボットの生産規模を年間1,500台へと拡大する計画。元リリースはこちら。
【シリーズC】BtoB受発注プラットフォーム「アイミツ」を運営するユニラボ、25.8億円の資金調達を実施(2023年3月15日発表)
BtoB受発注プラットフォーム「アイミツ」を提供する株式会社ユニラボは、JICベンチャー・グロース・ファンド1号投資事業有限責任組合をリード投資家として、既存株主のモバイル・インターネットキャピタルほか2社が引受先となった第三者割当増資により約13億円の資金調達を行った。今回はさらに、金融機関からのデッドファイナンスによる資金調達も実施。日本政策金融公庫、SBI新生銀行、商工組合中央金庫などから長期デッドで7.8億円、メガバンク2行より短期デッドで5億円を調達した。これにより、今回の資金調達額は総額25.8億円となり、同社の累計資金調達額は46億円に達する見込み。
同社はシリーズB以降、「アイミツ」「アイミツSaaS」「アイミツCLOUD」の3サービスを展開。主力サービスのカテゴリー拡充に加え、発注コンシェルジュサービスも大きく進化させたことにより、リピーターの支持が高まった。その結果、2014年のサービス開始以来、コロナ禍によるビジネスマッチング需要の高まりなども追い風となり、発注・受注における利用企業数を着実に伸ばしている。「アイミツ」による累計発注依頼数は25万件を突破した。
今回調達した資金は、将来的なIPOを見据え、プロダクト強化やマーケティング、組織・人員拡大に使用する予定。また、シリーズB以降、IPOに向けて経営体制を強化している。今後は取締役4名、執行役員5名の9名体制で事業推進に取り組んでいくという。元リリースはこちら。
【シリーズD】排泄予測デバイス「DFree」を開発・提供するトリプル・ダブリュー・ジャパンが総額10億円の資金調達を実施(2023年3月17日発表)
排泄予測デバイス「DFree」の企画・開発・販売を行うトリプル・ダブリュー・ジャパンは、シリーズDで第三者割当増資および長期デッドなどによる総額10億円の資金調達を完了した。今回は実業家の前澤 友作氏や金融機関を中心に資金調達を行い、これにより同社の累計調達額は約35億円に到達した。
同社の手がける「DFree」は、軽量小型デバイスを腹部に装着することで超音波センサーによって膀胱の変化を捉え、尿のたまり具合をリアルタイムで把握できるというサービス。排泄のタイミングを予測して、専用機器やPC、スマートデバイスに通知する。これにより、介護等の現場における利用者に合わせた排泄ケアとQOLの向上、介助者の負担軽減に貢献。在宅介護や医療機関、介護施設から個人まで、幅広い利用が可能となっている。
2022年には特定福祉用具販売の種目として「排泄予測支援機器」が新たに追加されたことにより、「DFree」も介護保険の適用が可能となった。要支援・要介護の認定がなされている利用者は、自己負担1~3割で利用することができる。
今回調達した資金は、法人営業やサポート体制の強化、個人向けマーケティング・広報の強化、機器やアプリの改良、排便予測機器の事業化、IPO準備に向けた組織体制の強化に投下するという。元リリースはこちら。
※今回発表された調達額10億円は過去1年間に実施した第三者割当増資、借入、及び補助金・助成金等への採択の合計金額
【シリーズD】貸付投資のオンラインプラットフォーム「Funds」を運営するファンズ、総額36億円の資金調達を実施(2023年3月14日発表)
貸付投資のオンラインプラットフォーム「Funds(ファンズ)」を運営するファンズ株式会社は、第三者割当増資およびデッドファイナンスにより、総額およそ36億円の資金調達を実施した。第三者割当増資では、ANRIをリード投資家として既存引受先にグローバル・ブレイン、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、みずほキャピタルなど全8社が入り、新規引受先には国内外の機関投資家2名と楽天証券、Cygames Capital、マーキュリアホールディングスが参加した。デッドでは、みずほ銀行と千葉銀行、商工中金が借入先となっている。同社は今回の資金調達により、累計で約68億円の調達を完了した。
株式市場やIPO前後の企業の資金調達環境は、世界的な金融引き締めの影響により悪化傾向にある。そのため、世界ではデッドファイナンスの活用が進む。特に米国ではIPO前後の企業による借入が増加。2010年から2020年にかけてその調達規模は6倍にも拡大したとのデータもある。
日本でも、この数年でエクイティ以外の資金調達額は増加傾向にある。特に政府が2022年11月に公表した「スタートアップ育成5か年計画」では、銀行などによるスタートアップへの融資促進にも言及がなされた。また、レイターステージスタートアップへのエクイティによる資金供給不足、IPO後の資金調達環境の不十分さなど、日本ならではの課題も発生している。
同社はこのような資金調達環境に対し、貸付投資オンラインプラットフォーム「Funds」を提供。企業が資金調達のために組成したファンドへ、一般投資家が匿名組合契約を通じて1円単位で投資可能なサービスとしてつくり上げ、企業の資金調達環境に新たな選択肢を広げた。楽天証券や三菱UFJ銀行など大手金融機関との連携強化も行い、現在ではユーザー登録数が73,000名、累計募集額は300億円を突破している。
今回の資金調達で、同社は成長企業へのデッドファイナンスのサポート拡大を目指し、Fundsの機能拡充や連携パートナー拡大、人材採用・マーケティングの強化を行う予定。事業を通じて家計に眠る預貯金を成長企業に循環させ、経済の活性化につなげたい考えだ。元リリースはこちら。
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