世界25都市で展開するグローバルベンチャーキャピタル、Antler(アントラー)。そんなAntler(アントラー)が展開する起業支援プログラム「Antler Cohort Program(アントラー・コホート・プログラム)」の日本版がついに開催されました。
今回編集部は、WeWork 虎ノ門で開催中のプログラムに潜入取材。当日の様子、プログラム責任者へのインタビュー、実際に参加した起業家の声をお届けします。
起業家のDay zeroを支援する「Antler Cohort Program(アントラー・コホート・プログラム)」とは
Antler Cohort Program(アントラー・コホート・プログラム)とは、世界25都市で展開するグローバルベンチャーキャピタル、Antler(アントラー)が展開する起業支援プログラムです。
全世界で累計700社以上のスタートアップを輩出してきたプログラムが、ついに日本に初上陸しました。ベンチャーキャピタル主催のアクセラレータープログラム自体は日本でもお馴染みですが、Antler Cohort Program(アントラー・コホート・プログラム)はグローバルで見ても全く新しい取組みとのこと。実際に何が行われているのか、興味津々の編集部チームが現場に向かいました。
編集部が会場に到着すると、すでにすごい熱気です。
話を聞くと、今回の日本版プログラムでは、約60名の方が参加されているとのこと。
そして起業済みの参加者は全体の2割ほどで、残りはまだ起業前ですが、本業を退職・休職するなどしてフルタイムでプログラムに参加しています。
意外に年齢層が高い。20代だけでなく30代の方が多そうだな。
参加者の出身国は14ヶ国と海外の方の割合も多く、参加者層はかなり多様性に富んでいます。ちょうどこの日は、プログラムの開始後三日目で創業メンバー探しの期間でした。会場には、緊張感と高揚感が入り混じった空気が流れています。皆さん積極的に自己紹介をしたり意見を交換し合ったり、自分の共同創業者になり得る人を探しているようです。
編集部が取材を続けていると、何やらピッチ動画がスクリーンに映されて参加者全員がじっと見つめています。
実はこれも一つのプログラムです。単純な自己紹介やアイスブレイクですと、お互いのことを深く知ることには限界があります。一つのピッチを視聴し、その後4人1グループでピッチの内容やピッチで話されていたビジネスについて意見交換を行います。
アイスブレイク一つとっても、しっかりプログラムとして練られているのだなぁ。とても勉強になります!
このような小グループでの対話をひたすら繰り返すことで、参加者が他の参加者のバックグラウンドやビジネスの捉え方、考え方の特徴などをより深く知るきっかけとしているようです。
起業家と投資家、両方の経験を持つ梅澤氏の心をつかんだ革新的な起業支援プログラム
現地取材を終え、今回は特別に代表パートナーの梅澤さんにインタビューを行いました。
Antler Cohort Program(アントラー・コホート・プログラム)の特徴について改めて教えてください。
梅澤:Antler Cohort Program(アントラー・コホート・プログラム)は、これまでに世界25都市で展開してきた起業支援プログラムです。毎回1,000名程度の応募があり、その中から100人弱を選抜します。学生の応募もありますが、一番多いのは社会人経験が5〜15年程度の方でバックグラウンドもさまざまです。すでに起業している人、アイデアはあるけど起業に至っていない人、共同創業者を見つけるのに苦労している人など、参加の動機も千差万別です。
今回の日本版プログラムでは約60名の参加者のうち、約8割が創業前の方です。参加者のうち約4割がエンジニアなのも特徴です。まさに今プログラムの様子を見学してもらいましたが、ちょうど今は共同創業者を探しているフェーズです。チームメンバーは奪い合いなので、アイスブレイクを通して相手のことを見極めながら自分のアピールもたくさんしてもらいます。
参加者の選抜においてどんな点を重視しましたか?
梅澤:選考プロセスの中で特徴的なものとして、私たちがドライブインタビューと呼んでいる面接があります。簡単にいうと、候補者の方に自分たちの事業への知識の深さ、事業への愛情を語ってもらいます。このドライブインタビューを通じて、候補者の方のモチベーション、本当に成し遂げたいのは何か、そして「やり切る力」を見極めました。
梅澤さんは、Antler(アントラー)創業者兼CEOのMagnus Grimeland 氏とはどのようなご縁で知り合ったのでしょうか。
梅澤:LinkedInでAntler(アントラー)の幹部候補採用責任者から連絡が来たのが最初の接点でした。私は複数企業のカントリーマネージャーを歴任していたので、まずは情報交換の一環として話をすることにしました。最初は特別な興味を抱いていなかったのですが、「Day zero(創業前)から起業家を支援するプログラムだ」と聞いて、興味が湧きました。私は起業家の経験も投資家の経験もしていますが、これは両方の目線から見てもすごいプログラムだと驚き、どのようにこれを実現しているのかを知るために、色々なAntler(アントラー)のスタッフに話を聞くことにしました。気づけばAPAC(アジア太平洋)の責任者をはじめ5〜6人と会話をし、最後にMagnusと話しました。声をかけてもらった当初はまさか日本での立ち上げを自分がやることになるとは思ってもみませんでしたが、それだけこのプログラムの魅力を感じ、話を聞くうちに心を動かされました。その後2022年2月からAntler(アントラー)に参画することになりました。
日本版「Antler Cohort Program(アントラー・コホート・プログラム)」第一回の立ち上げで大変だったことを教えてください。
梅澤:Antler(アントラー)は、グローバルの各都市では認知され始めていますが、日本ではまだまだ知名度はないため、”Day zero”から支援するというコンセプトを広めながら、リクルーティングをすることがチャレンジングでした。去年は何百人ものスタートアップ業界のプレイヤーの方々と対面、オンラインの双方でお話の機会をいただきました。このAntler(アントラー)を運営するメンバーの採用、ファンドレイズ、Cohort Program(コホート・プログラム)の参加者の集客という3軸で動いていました。「”Day zero”から起業家を支援する」という考えに共感し、Antler Japan(アントラー・ジャパン)に参画した各分野のエキスパートであるメンバーと一丸となって応募者を募り、最終的に、大変多くの方にCohort Program(コホート・プログラム)に参加いただけることになりました。
表面的な会話で終わらず互いを深く知るコンテンツ
続いて、プログラムをローカライズし、日本版プログラムの中身を実際に作り上げたディレクターの中山さんにもお話を伺います。
プログラム開始後1〜2週は創業メンバー探しのフェーズとお聞きしました。そのフェーズで特に力を入れて準備した点を教えてください。
中山:最初の2週間のゴールは、誰と一緒にやるのか、共に戦っていけるチームメンバーを見つけることです。意識的に設計したことが三つあります。
① 参加者全員のプロフィールを知ること
自分を全員にアピールする機会になるので、参加者には自己紹介スライドをしっかり作成いただいています。また、プログラム参加者同士やメンターをつなげるプラットフォームであるHubを活用いただくことで、気になる参加者のプロフィールをいつでもオンラインで見ることができるシステムになっています。
② 全員と話す
オンラインではなく、対面で話す場にすることを重視しました。こちらは参加の条件としてもこだわりました。平日に、メインの業務として2ヶ月間コミットできるかどうか。休職や退職を必要としますので、参加のハードルが高くなりますが、やはり対面でのコミュニケーションが大事だと考え、必須条件としました。プログラムの設計も実際に開催場所に来て参加いただくことを前提としています。
③ 表面的な会話で終わらせない
参加者同士、さまざまな側面を見ることができるアクティビティを用意しました。特に4〜5人のグループでやるようなものが多いです。本人の興味領域以外のものに対しても、他のさまざまなビジネスに対してどう考えるかは重要な観点です。また、グループワークを通じて、限られた時間でどんなクオリティのものを用意するのか、準備を通じてどんな役割を率先して担うのか、どんなユニークな考えを持っているのかを見ることができます。擬似的な共同作業を行うことで、ビジネスに関するセンスや価値観、感性を深く知ることができる場になるのです。このような機会を体験していただくことで、包括的に「自分にマッチする共同創業者」を見つけてもらうコンテンツに仕上げています。
その後3〜9週目にはアイデアブラッシュアップに取り組むとのことですが、その段階において特に力を入れて準備した点を教えてください。
中山:私と梅澤、グローバルや日本のアドバイザー、そしてアドバイザー以外にも本プログラムに賛同し協力してくれる各分野の有識者から日々メンタリングを受けながら事業開発に取り組んでもらいます。
今回は日本プログラム独自の支援も用意しました。弁護士・社労士・税理士・弁理士などの士業の方に無料で相談できる体制にしたのです。新しいビジネスの立ち上げにおいては、法的制約や取得が必要な免許の確認、税務や労務などのバックオフィス業務、そしてそれらに必要な手続きの方法など、士業の人たちに相談すべきことが多くあります。しかし創業初期は、資金の問題で士業の人たちに相談できる機会が多くありません。時に事業に関してクリティカルな問題を抱えたままサービスやプロダクトの開発を進めてしまい、当初想定していたビジネスモデル自体が成り立たないことに後々気づくというようなこともあります。初期のフェーズ、それも法人の設立前から無料で士業の人に相談できること。この環境を整える点には特に力を入れました。
プログラムの最後には、2,000万円のプレシードラウンドの投資判断が行われます。この時点で参加スタートアップにはどのようなことを達成していてほしいと期待されていますか。
中山:少し一般論になるかもしれませんが、解決する課題とペイン(顧客の課題、悩み)の定義ができていて、どう解決するのかというアイデアの検証がある程度できていてほしいですね。仮説検証のためのプロトタイプまでできていれば100点です。加えて必須の条件にしているのは、チームができていることです。Cohort Program(コホート・プログラム)の参加者でなくても良いので、共同創業者はぜひ見つけておいてほしいです。
参加者へ一言インタビュー
今回は特別に、プログラムの参加者に一言インタビューをさせていただきました。
今回のプログラムに期待している点を教えてください。
二つあります。
一つは、起業家精神を持っている方と出会うこと。もう一つは、プログラムの最後で資金調達ができるチャンスがあることです。
プログラムが開始して間もないですが、既に手応えを感じている点を教えてください。
素敵なエンジニアの方と出会えたことです。可能ならそのエンジニアの方と事業を進めたいと考えています。
今回のプログラムに期待している点を教えてください。
自分はエンジニアの立場なので、グローバルなビジネスを創出したいと考えている方に出会い、共同創業することです。
このプログラムならば、切磋琢磨しながら、自分のビジネススキルも向上させることができるのではと考え参加しています。
プログラムが開始して間もないですが、既に手応えを感じている点を教えてください。
さまざまな領域でのビジネスの立ち上げを経験している方や、すでに数字を詰めたアイデアを持ち寄っている方が多いことです。
また、将来のイノベーションにつながるようなアイデアを持っている方とも話ができていて、非常に感性が刺激されている点です。
今回のプログラムに期待している点を教えてください。
一緒にスタートアップを立ち上げることができる人になかなか出会えなかったので、このプログラムを通じて共同創業者を見つけたいと思っています。
プログラムが開始して間もないですが、既に手応えを感じている点を教えてください。
自分のアイデアを話した時にフィードバックをくれる起業家仲間がいる環境自体ありがたいのですが、意外と「それ面白いね!」と言ってくれる方が多くて、自分のアイデアに少しづつ自信を持てるようになってきました。
最後に、梅澤さんから今回のプログラムに参加している起業家候補の方へメッセージをいただきました。
梅澤:今はスタートアップ冬の時代といわれています。しかし、AirbnbもSlackもUberも、冬の時代だからこそ誕生したユニコーン企業です。確かに数字を見ると資金調達の環境は難しくなってきているように見えますが、実は今から起業する方にとってはチャンスです!ぜひ、皆さんが心の底から挑戦したいと思えるアイデアで、頑張っていただきたいと考えています。
ありがとうございました!
編集部コメント
「Day zeroからの起業」をコンセプトに展開する、Antler Cohort Program(アントラー・コホート・プログラム)。アイデアしかない状態から支援すると同時に、2,000万円の資金調達のチャンスまで用意している、既存の取組みとは一線を画する起業家支援プログラム。
10週間後に、Antler Cohort Program(アントラー・コホート・プログラム)からどのようなスタートアップが誕生するのか、楽しみだ。
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