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南米の駐在経験から気づいた超小型人工衛星の可能性。アークエッジ・スペース福代氏インタビュー

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「目指すのは、超小型人工衛星を通じた基礎インフラの提供」

JICAや外務省における海外での人工衛星の利活用や宇宙基本計画の策定などを経験し、現在は超小型衛星を活用したさまざまなミッションを手掛ける福代 孝良(ふくよ・たかよし)氏はこう語る。

近年注目を集める、小型衛星ビジネス。その市場で勝負を仕掛ける、株式会社アークエッジ・スペース 代表取締役の福代 孝良氏に話を伺った。

超小型衛星の設計から運用までお客様の幅広いニーズに対応

アークエッジ・スペースの事業概要を改めて教えてください。

私たちは、超小型衛星を打ち上げたいお客様のニーズの掘り起こしから、衛星の設計、開発、運用に加え、衛星システム全体の効率的な管理、運用を実現するソフトウェアやサービスの提供といった事業を展開しています。

元々東京大学の研究室からのスピンオフと伺ってますが、創業のきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

元々、世界で初めてキューブサット級の超小型衛星の打ち上げに成功した東京大学の中須賀・船瀬研究室の技術が核になっています。創業当初は、3U級キューブサット(※)と呼ばれるサイズの超小型衛星を開発していました。その後、東京大学のメンバーも加わり、6U級キューブサット(※)も開発できるようになりました。人工衛星の構造の基本となる「バス部分」に活用するコンポーネントはモジュール化しているので、多用途への対応や量産化にも対応可能です。私たちが現在メインターゲットにしているのは50kg以下の超小型衛星です。

#3U級キューブサット
30cm×10cm×10cmのサイズの超小型衛星

#6U級キューブサット
30cm×20cm×10cmのサイズの超小型衛星

アークエッジ・スペースの開発する、超小型衛星の「バス部分」、具体的にどのようなものか教えてください。

超小型衛星の基本機能として必要な機器及び構造をバス部分と呼びます。これに対してその衛星がミッションを遂行するにあたって必要な機器及び構造のことをミッション部分と呼びます。バス部分には、標準化された通信機器、電源、太陽光パネル、姿勢制御ユニットなどのモジュールがあり、組み合わせを替えることで機能や価格が異なる衛星を提供することができます。

お客様が超小型衛星を使って取り組みたいミッションによって、バス部分に求められる性能が変わってきます。私たちが提供するバス部分は、さまざまなミッションに対応できるラインナップになっている点が特徴です。

ただ、バス部分を開発すること自体が私たちの事業の目的ではありません。事業の一番の目的は、宇宙を通して地球上の人類の生活を豊かにしたり、安全にしたり、基礎インフラが整っていない地域に情報網を提供したりすることです。あるエリアにサービスを提供する際、ニーズに応じて、どのような衛星が必要なのか、どのような電力や通信帯域が求められるのかを、個別のミッションごとに検討し、対応策を用意します。衛星製造の会社ですが、ソリューションプロバイダーのようなことをしていると私は考えています。

現在は、地球周回衛星を中心に事業展開していますが、今後は研究開発中の月面の基礎インフラ向けの超小型衛星サービスの開発をさらに進めるとともに、その実装にも着手していきたいと考えています。

2022年11月に2機目の超小型衛星として打ち上げたOPTIMAL-1のような3U級キューブサットは、具体的にどのようなことができるのでしょうか。

一番活用先があると考えている部分は、地上とのIoT通信です。その他にも、宇宙用部品等について、軌道上での実証試験用途での利用が可能です。OPTIMAL-1は、開発中の推進機、カメラ、センサーなども搭載していますが、今後同様の衛星を用いて、お客様が独自に開発した宇宙用の部品が宇宙の過酷な環境下で動作することを検証するためにもご活用いただけます。

衛星が役に立つのは、陸域のインフラが成立しない領域

超小型衛星から取得したデータを活用したいというお客様は、どのような業界が多いのでしょうか。

一番多いのは海運・船舶・漁業・海洋保険といった海洋産業です。実は宇宙が一番役に立つのは陸の基礎インフラが役に立たないところです。ですので、地上インフラが十分に展開されている地域や業界では、衛星データから受けられる恩恵は限定的かもしれません。

一方、インフラが整備されておらず、現地にたどり着くのも難しいアマゾンの奥地や砂漠などに関しては、宇宙インフラを活用するからこそ情報網の展開が可能になることもあります。海も同様です。その他、例えば災害時で地上のインフラが使えなくなった際にも、超小型衛星による情報網は活用いただけると考えています。

海洋産業においては、海上のさまざまな情報をデジタル化するためのシステムとして、衛星VDESコンソーシアムも立ち上げています。こちらは、AIS(Automatic Identification System:船舶自動識別装置)の次世代版という位置づけであり、洋上を航行する船舶同士が航行情報を相互に交換することを実現するほか、物流効率化や安全管理などさまざまなサービスにつなげていくことも期待されています。

今後、海外の顧客をどのように獲得していくのでしょうか。

私は元々、アマゾンでの森林調査や国際協力、外交などに関わってきました。そういったこれまでのつながりから、現在はブラジル、チリ、アフリカ地域で現地の団体や企業と一緒に事業開発に取り組んでいます。ただ、海外展開をしようと思ってそのような取組みが生まれているのではありません。私がそもそも起業しようと強く思ったのは、そういった地域の方々の困りごとを超小型衛星で解決できると感じたからです。

実際、地域の方々の課題は、小型衛星を活用することでどのように解決されるのでしょうか。

現地へのアクセスも難しいアマゾンの奥地や砂漠などでは、スマート農業を導入しようとしても、そもそも地上の通信インフラがないことから実現が困難です。超小型衛星を活用すると、水位情報、地盤の移動、気象・農業情報などを安価にモニタリングすることが可能になりますし、トラックやコンテナなどの移動体情報を常に把握することで、ロジスティクスの最適化も可能です。今後も、超小型衛星の導入に意義のある国や地域に展開していきます。

学生時代、アマゾン奥地での研究を通じて感じた課題

週末はどのように過ごしてリフレッシュされていますか?

現在は静岡に住んでおり、アウトドア活動を通じて気分転換しています。また、最近は忙しくて取り組めていないですが、元々バンドをやっていたので楽器もやりたいなと最近は考えています。

東京大学での学生時代は、どのようなことを考えながら過ごしていましたか?

学生時代はアマゾンの研究をしていたので、宇宙のことは全く考えていませんでした。博士課程の途中からブラジルに留学し、アマゾン地域の方々のエコロジカルフットプリントやサステナブルデベロップメントについて、先住民の村などで研究をしていました。当時から、アマゾンの地域の方々の暮らしや環境がどうすれば良くなるかを考えており、情報と通信のトランザクションコストを下げるためのGISデータ(地理空間情報)や衛星データ活用の可能性は少しずつ感じていました。

福代さんの、JICA専門家・外務省・内閣府宇宙開発戦略推進事務局といったご経験が、今の業務にどのようにつながっていますか。

JICAや外務省大使館で業務に取り組む中、さまざまななご縁から人工衛星を活用したプロジェクトを複数経験しました。その専門性を評価され、内閣府で宇宙基本計画を策定したり、宇宙政策委員の方と宇宙ビジネスに関する取組みに関わることとなりました。その中で、宇宙ビジネスに挑戦する民間プレイヤーが少ないという話を聞き、私が公務員から起業家になろうと思い立ち今に至っています。

テックベンチャーで重要な点は、どうやって世の中に影響を与えるかを考え抜くこと

CXO及びエグゼクティブ人材をどのように獲得していますか?

ありがたいことに組織も順調に大きくなっており、これからは外部から良い方に来ていただく必要があるフェーズだと感じています。しかし、いきなりCXOを採用するのはかなり大変です。というのも、宇宙産業はマーケットもまだ限定的ですし、国内で上場している宇宙ベンチャーもまだありません。一方で、他業界で上場を果たした経験があるからといって、その経験が宇宙ベンチャーで必ずしも役に立つわけではありません。

したがって、ゼロから市場をつくってきたような、泥臭い部分も含めて難しい課題を解いてきたような人材が必要ですが、かなり稀少です。結局は色々な人に会うしかないと思っています。そしてスキルだけでなく、自ら成長できるメンタルの部分も大事だと考えています。

今後、どのような人材に参画してほしいですか?

私たちが展開する超小型衛星事業においては、大学での研究や衛星プロジェクトの経験をそのまま生かせるため、実際に大学院生なども社内で活躍しています。ただ、今後は超小型衛星の量産や品質管理が重要になってきます。今の時代、ただ超小型衛星が製造できるだけでは、優位性はありません。今後は、事業開発・問題解決能力・人間力、そういった力を持つ人材が必要です。もし私たちに興味を持っていただけるようでしたらぜひお会いしたいですね。

日本発の研究開発型スタートアップが、世界の市場で勝ち残っていくために必要な観点はどのようなものでしょうか。

難しいですが、勝ち負けよりも、自分たちの事業がどのように世の中に影響を与えるのかという視点が大事です。私たちは、単に超小型衛星を普及させたいわけではありません。健全な市場をつくっていくのに必要なサービスをどうやったら我々が提供できるのか。超小型衛星を単に製造して売るというだけでなく、どのように世界に普及させて、結果的に世界がどのような形になるのか。この視点が大事だと考えています。

最後に、福代さんがアークエッジ・スペースの事業を通して実現したい世界を教えてください。

超小型衛星のサービスは、安全保障や情報・コミュニケーションという領域で価値が発揮されます。つまり、長期的に考えると暴力がはびこる世界をなくすことに貢献可能だと考えています。世の中の分断が加速していく世界で、資金が本当に必要なエリアに流れることが重要です。そのために必要なのが、情報であり基礎インフラです。

超小型衛星を活用してそのような世界を実現していきたいし、宇宙のデータだからこそ成し遂げることができると考えています。

ありがとうございました!

編集部コメント

インタビューを通じて編集部が印象的だったのは、アマゾンでの研究に取り組んでいた時期に感じた基礎インフラの課題から、目指す世界がぶれない福代氏の信念だった。

世界中で引き続き注目を集めている超小型衛星。アークエッジ・スペースの超小型衛星が、さまざまな地域に宇宙を活用した情報インフラを提供する世界は近いかもしれない。