通販でモノを買うのに、すぐに壊れてしまわないか不安になったことはないだろうか。
特に、パソコンやスマートフォンといった高価な家電。うっかり落として壊してしまった時には、保証期間を過ぎていた……などという痛い思いをしたことがある読者も少なくないだろう。修理代は安くない。もはや買い替えたほうが早いと思ってしまうほどに。こんなことなら、あと少しだけお金を払って、保証期間が伸びるオプションをつけておいたらよかった。
そんなサービスを、「延長保証」と呼ぶ。
購入時にポチッと選択するだけで、あなたの大切な持ち物に万が一の事があった時に、迅速に製品交換・修理をお願いできる延長保証オプションをつけることができる。そんなサービスの一つが「proteger(プロテジャー)」だ。交換・修理といった「保証」に関して過去に後悔した経験があるので延長保証がつけられるならつけたい、そういう方も多いのではないだろうか。しかし、今までECでモノを買う際に、その選択肢を見たことがどれだけあっただろう。
実は、この市場、提供されたら利用する層がいるにも関わらず、そのニーズに気づいている人がほとんどいなかったのだ。protegerを提供する株式会社Kivaの代表取締役である野尻 航太(のじり・こうた)氏は、いったいどうやってこの事業に行き着いたのだろうか。
北海道から飛び出してきた24歳、突撃の先にたどり着いた延長保証事業
これまでのキャリアと、起業のきっかけを教えてください。
1998年生まれで、北海道の出身です。2022年現在で24歳になります。新卒と同じ年代なので学生起業かと聞かれることがありますが、厳密にいうと、大学在学中に営業代理店である合同会社Puenteeを設立後、大学を中退して2019年からウリドキ株式会社でEC事業を立ち上げ、別会社に事業売却を経験。その後に2020年12月に株式会社Kivaを設立しています。
起業を意識したのは高校生の時。北海高校という高校野球で有名な高校で、卓球部所属でした(笑)。両親、親戚は教師や士業といった保守的なバックグラウンド。他の選択肢を知らなかったので将来は公務員かなと思っていましたが、18歳のころにビジネス本を読み始めたのがきっかけで、起業を意識しました。また、友人にメルカリを教えてもらい、不要になった iPod touchを出品したら30分ほどで売れたのが面白くて、その経験から需給の関係性や何かを売るということにも関心を持つように。そこから自分で事業をやりたいと考え始めて、大学では経営学を専攻しました。
そして実際に大学在学中に会社設立に挑戦されたのですね。
はい。きっかけの一つは、大学在学中に参加した「Hult Prize(ハルトプライズ)」という社会起業家向けイベントです。米国ボストンに本社を構えるハルトプライズ財団が運営しているグローバルイベントで、日本代表としてマレーシアで開催された世界大会にも出場しました。ここでの経験から事業立ち上げへの自信を持つことができ、Puenteeを設立しました。最初の起業では、手元資金もないので在庫がなくてもやれるモデルにしようと考えました。当時たどり着いたのは腕の良い鍛冶職人が打った包丁などの製品を日本料理店に卸す営業代理店でした。つながりが全くない状態で、代理店をやらせて欲しいと鍛冶職人の方に直談判しにいったことを覚えています。
この経験は勉強になった一方で、自転車操業である怖さや、スケールするビジネスへの憧れも感じるようになりました。事業に向き合うためには学校に行っている場合ではないと考え、当時は親に反対されながらも上京を選びました。東京に来てからは、時流を捉えていて安定的な売上が確保できる事業で経験を積みたいと考えて、売りたい人と査定士のマッチングなどを運営しているウリドキにエンジニアとして入社。実はインターンの枠がない中で直談判して採用いただいたのですが、先程の代理店事業の時の経験と同じで突撃するクセがあるかもしれませんね(笑)。
ここでは、自身は開発よりも事業開発の方が向いていると自覚しました。優秀なエンジニアの方と組むのがベストだと相方を探し始め、SNSで出会ったのが、共同創業者の磯崎です。彼のQiitaを読み、面白いと思ってTwitterをフォローしていたところ、これからカフェで開発をするという呟きを見て、会いに行き話をしました。
磯崎とは、当初は飲食店向けの事業を検討していましたが、レストラン予約のトレタが大型調達をしたのを見て、片手間でやっていては勝てないなという話に。では専業で事業をするとして何をしようかと海外事例を調べる中で、EC向けの延長保証システムに行き着きました。最悪は受託でも糊口をしのげるからまずは法人設立をしよう、この事業を一緒にやろうと口説いて始めました。本気で事業にコミットするにはいろいろと楽なので、実は磯崎とは同じ家に住んでいて、当時は来る日も来る日も夜遅くまで事業プランについて議論していました。その後、会社設立の約半年後となる2021年5月にprotegerをローンチしました。
事業を選ぶにあたっては、BtoB事業であること。そして海外発のビジネスモデルで日本でも事業展開しうるものという2点を重視しました。あまり意識していたわけではないですが、自分自身がEC事業をやってきていて一定の知見があったこともあり、EC関連のビジネスにはつい目が行ってしまって(笑)。日本でも伸びそうなものをただ選んだというより、今までの自身の経験があったからこそprotegerに行き着いたのだと思います。
protegerについて教えてください。
無償の修理期間を延長させる「延長保証」を手軽にECに搭載できるシステムを提供しています。これまで、延長保証というものは大手企業や家電量販店の自社EC、あるいは損害保険会社が、上位1%レベルの一部の高価格帯の製品に付帯させることが一般的でした。従来、延長保証を付帯させるには、保険会社と組んで商品一つずつに対し保険料を決め、オペレーションを考え、といった煩雑なフローが必要でした。これを非常にシンプルに自社のEC上に導入可能にするのがprotegerです。
日本のECサイトは年々増加傾向にある一方、自社ブランド製品を販売する直販ECへの集客や購買率の向上に課題感を持っています。protegerは、延長保証サービスを始めたい販売事業者に対し、保証APIから申請対応まで一気通貫でサービス提供し、販売事業を支援しています。
よくprotegerが使われている商品はどういったものになるのでしょうか。
製品自体の価格が高いと保証料もそれに比例して高くなります。数千円で延長保証をつけることができる、1〜3万円程度の価格帯の家電が最も相性がよく、実際にスマートウォッチのECでは購入者の半分近くが延長保証を合わせて購入するというデータがあります。
海外だとEC普及率が高いこともあり、どんな製品でも延長保証があることのほうが多いのですが、日本は家電でしかその認知がありません。不思議な話ですが、エンドユーザーから「延長保証を追加してほしい」という声がそんなに多いわけではないのに、実際に延長保証を選択肢として追加すると売れるんです。欲しい自覚はないけれど、目の前に提示されるとつい選んでしまう。隠れた強いニーズがあったようです。
実は日本は保険大国であり、心配性な国民性と相性は良いのかもしれません。購買層を性別で見ると、女性70%、男性30%。購入前の不安を拭いたいというニーズのほか、特にパソコンなどは本体価格も修理代金も高額ですが、一度故障を経験し、買い替えたほうが安いくらいの修理代金になることを知っている人も多い。その場合は保険に入らない0円と比較しているのではなく、修理費用と比較して保証を購入いただいているようです。商品は今後も拡充予定でして、現在は以下が対象となっています。
proteger対象商品(2022年12月現在)
家電 / 家具 / 時計 / アウトドア用品 / ジュエリー / 楽器 / オーディオ製品 / 電動工具 / 自転車用品 / カー用品 / オーディオ機器 / スポーツ用品 / メガネ / サングラス などの耐久消費財
家電は自分たちでも絶対にニーズがあると感じていましたが、家具やスーツケース、その他にもまだ拡大余地があるか探っているところです。対象サービスとしては交換が多いですが、修理部隊の組成を進めて、交換と修理の両方に対応していけるようにしたいと考えています。
社会を変えるプロダクトを次々生み出す会社にしたい
起業して特に大変だったことをお伺いできますか。
まだプロダクトがなかったころは、最初の顧客獲得にかなり苦戦しました。私は社会人としての営業経験がないので人脈がなく苦労はしたのですが、伝手がない中で営業活動を行っていたため忌憚のない意見をもらえることが多く、プロダクトのブラッシュアップにもつながりました。
起業して2ヶ月後の2021年2月にALL STAR SAAS FUND、East Venturesならびに個人投資家から4,100万円を調達。ALL STAR SAAS FUNDでは、SmartHRなども担当された前田 ヒロさんにアポを取ってお話ししたら次の日には決めてくださって。East Venturesでのご担当は金子 剛士さんで、金子さんも決断まで一瞬でした。プロダクトはまだありませんでしたが、海外市場の説明をしっかりしたのでイメージを持っていただきやすかったのだと思います。2022年12月にはSBIをリードにシリーズAで4.5億円を調達しています。市況の変化もありますが、やはりシードラウンドとシリーズAは求められることが全然違いますね。プロダクト開発、人材採用などに資金を使っていく予定です。
イベントにも積極的に出場されていますね。
はい、同年11月にはIVS2021 LAUNCHPAD NASU、12月にはTechCrunch Tokyo 2021のスタートアップバトルに出場し、決勝へと進出しています。2022年に入ってからは2月にICCサミット FUKUOKA 2022 スタートアップ・カタパルト、3月に日本経済新聞社主催のFIN/SUM2022でスタートアップピッチ、6月に札幌で行われたB Dash Campの決勝戦Pitch Arenaにも参加しました。7月にはFintech協会主催のFintech Japan 2022におけるピッチバトルのファイナリストにも選ばれ、JP Startups賞をいただき、この記事が出ています(笑)。
最近はIVSが登竜門的立ち位置になっていますが、ご出場のきっかけは。
前職であるウリドキの社長もIVSのファイナリストだったんです。入社して2日目にIVSに二人連れてくぞって言われて、手を上げたけど連れてってもらえなくて悲しかった記憶があったので印象的だったんですよね。ピッチに出るとアイデアを真似される怖さはありますが、当時ステルスでやっていたはずなのに問い合わせも来ていて、時間の問題だと覚悟を決めました。
結論から言うと出てよかったです。YouTubeの再生回数がかなり多いので、認知拡大、採用、調達にとても効きます。シリーズAはほぼIVSで決まりましたね。現地で話した人もいれば、動画を見た人、審査員のエンジェルの人。優勝していないのにこんなに連絡が来るのかと驚きました。
組織風土、採用について伺えますか。
ビジョンは「後世に語り継がれるコングロマリットカンパニーを作る」です。事業領域を問わず成長し、300年後も残る会社でありたい。バリューは「Be Professional」「Do Feedback」「Try」「No rules」の四つ。選考時には「一流」「貪欲」「率直な意見」「ビジョンへの共感」という4点を見ています。
特に、諦めずに結果にコミットする方かどうかは重要視しています。到達の仕方はどういう形でも良い。とにかく逃げない、諦めない。仕事をする上では、嬉しいこともありますが、つらいことも必ずあります。そこを乗り越えられるかが大事。妥協せずに良い方に絞って採用をしていきたいです。
現在は20代後半が多いですが、ダイバーシティが広がりつつあります。採用においては、ブラッド・D・スマート氏著書である『トップグレーディング採用術』を参考にしています。今はポテンシャル枠を採用する余裕はないのでロールへのマッチ度を見ていますが、勤勉さとか素直さはポテンシャル要素として織り込んでいます。
仕事以外ではどう過ごされていますか。
同じような事業フェーズの起業家仲間もいますが、今は自己成長したいのであえて一緒にいて息苦しいような、目線が高くレベル感も高い人と会うようにしています。同じフェーズの人より、先輩から失敗談を聞くほうが勉強になりますし。仕事とプライベートはそんなに分けずに、感情で緩急の波ができないようにしています。
プレシード期からシード期のスタートアップへメッセージをいただけますか。
まだ我々も初期フェーズなのでおこがましいのですが、綺麗に見せたいというプライドは捨て切った方がいいと思います。プライドが邪魔をし始めると事業は歪んでしまう。チャンスがあればすぐに飛びつく。一番に見据えるべきなのは事業の成長です。たくさんトライ&エラーしてほしいと思います。
最後に、これからつくりたい世界観と、読者へ一言お願いいたします。
現在、protegerの取扱保証数は40,000件を超えました。国内BtoCのEC市場は20兆円を超え、ECサイトは400万店舗を超えてきています。エンドユーザーのタッチポイントは確実にオフラインからオンラインに流れてきている。オンライン購買における不安をなくしてあげれば、それはさらに加速する。そうやって好きなモノを長く安心して使える世の中にしていきたいです。
今後はパートナーセールスを強めたいと考えています。カートベンダーや、銀行や保険会社といった金融事業者と一緒にサービスを売っていきたい。海外投資家からの出資も受けながら成長させていきたいですね。
Kivaはどんな会社になってもいい。社名とプロダクト名を分けているのは、Kivaはプロダクトをいくつも生み出していく会社にしていきたいからです。僕は最終的に、ファンドをやりたいんです。会社として社会にインパクトを与えていきたい。そのためにまずはprotegerを成功させてみせます。protegerだけでなくKivaを成長させることにも関心にある方とご一緒できると良いですね。
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