ライブドアやサイバーエージェントが全盛期だったころは、まだまだ一般には遠い存在であったスタートアップ企業。それが今やCMを放映したり、toC向けに目新しく面白いサービスを提供したりと、話題になるサービスも多く登場してきた。そして、サービスそのものだけに留まらず、資金調達の金額や上場時の株価にも注目が集まるようになり、スタートアップ企業そのものへの興味が高まってきているといえるだろう。
そんな、未上場のスタートアップ企業の株を購入できたらどうだろうか。個人投資家の方の中には、株主優待などをもらいながら株式投資をしている人もいるが、これが、自分も使っているサービスを運営する未上場企業でも可能になったら……。金銭的なリターンへの期待だけでなく、自分の出資で、少しでもこのサービスが成長してほしい。そんな応援の気持ちがこもることだろう。
そんなことを実現する「株式投資型クラウドファンディング」という仕組みがある。法改正を経て許認可制度となったこの仕組みで、第一号の許可を得て国内シェアトップでサービス運営をするのが、株式会社FUNDINNO(旧・株式会社日本クラウドキャピタル、2022年2月に社名変更)だ。国内での株式投資型クラウドファンディング「FUNDINNO」を運営するだけでなく、スタートアップの株主管理・株主総会・財務管理をサポートするクラウド経営管理ソフト「FUNDOOR」、株主コミュニティ制度、新株予約権、セカンダリーマーケット「FUNDINNO MARKET」の導入といった周辺サービスも拡充させ、日本のベンチャー投資の総和を増やすために尽力する。
FUNDINNOが描く未来はどんな世界なのだろうか。代表取締役COO 大浦 学(おおうら・まなぶ)氏に伺った。
大学院で出会った同志と創業、法改正をきっかけに自社サービス開始
これまでのキャリアと、起業のきっかけを教えてください。
私の父がシステムエンジニアとして独立開業をしていたので、企業や経営者という働き方自体には馴染みがありましたが、私自身は特に最初から独立志向があったわけではありませんでした。意識したのは就職活動のころです。
学生時代はごく普通に過ごしていて、高校、大学とバンドを組んでギターとベースをやっていました。とはいえ音楽を職にしていこうとは思っていなかったので、大学3年生のころから就職活動を開始。コンサルティングファームを見ていましたが、コンサルタントの業務内容を知っていくにつれ、自分で事業をやってみたいと感じるようになりキャリア転換。起業を目指して、MBAの取得を決意しました。2011年に明治大学の商学部を卒業し、明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科へ進学、研究テーマはマーケティングでした。
大学院で共同代表CEOの柴原氏と出会われていますね。在学中に法人設立し事業を開始していらっしゃいますが、どういった経緯だったのでしょうか。
柴原とは、MBA取得のために進学した大学院で出会い、何か事業をしたいという話になりまして、システム開発・経営コンサルティング会社を設立。二人ともエンジニアのバックグラウンドではないのでシステムに詳しいわけではなかったのですが、まずは会社経営をしてみるというモチベーションで、システム開発の受託事業をしていくことにしました。私が通っていたのはいわゆる夜間MBAといわれるコースだったのですが、学生の中には大手企業の職員、役員の方々も多く、彼らからの仕事を請けることができたのが大きかったです。プログラミングも不慣れながらも少しずつ覚えていき、電鉄系の会社の役員から地方創生関連のWEBマーケティングを受託するなど、案件が徐々に増えていきました。
その後2015年に株式会社日本クラウドキャピタルを設立されていますね。この事業に参入するまでの経緯をお伺いできますか。
受託だと売上がクライアントありきになってしまうため、自社サービスをつくりたいという話は元々していたんです。何をやるか考えるにあたっては、ビジネスモデルが先行しているアメリカで何が流行っているのかリサーチをしました。当時、アメリカはマッチングサービスの最盛期。マッチングサービスと起業文化を醸成したいという我々二人の思いをかけあわせた結果、株式投資型クラウドファンディングにたどり着きました。一方、当時の日本では非上場株式市場への民間事業者の介入は金融商品取引法上、認められていませんでした。法改正については2011年から会話が進んでいたのですが、ちょうど私たちが自社サービスを検討していた2015年に法改正が行われて、それをきっかけに現在のFUNDINNOを設立。2016年10月には、日本で初めての第一種少額電子募集取扱業者となりました。
改めて事業について簡単にお伺いできますか。
未上場企業の株式を個人投資家が購入可能なマーケットプラットフォーム「FUNDINNO」や、その周辺DXサービスを提供しています。2022年11月現在で300案件が成約、1社あたり平均3,000万円強の調達に成功しており、累計成約額は約92.4億円。株式投資型クラウドファンディングの国内市場規模は20~30億円といわれる中、おかげさまで成約額では国内事業者の中でトップとなります。
上場株でもその事業将来性を判断することは難しい中、証券取引所の審査をまだ受けていない未上場企業の将来性を判断することはさらに難しい。一方、複数の投資家の判断という集合知でそれを行うことで市場が形成されるのが株式投資型クラウドファンディングです。投資家ユーザー数114,000人のうち(2022年11月25日現在)、金融資産3,000万円以上の人たちが多数を占めており、その多くが経営者・経営層となっています。エンジェル(個人投資家)として未上場企業に直接投資をされている方々もいらっしゃいますが、一般的には将来有望な未上場企業に出会うのも難しいし時間もかかる。個別企業と対話をする時間を持ったり、まとまった金額の投資はなかなかできないが、成長株を応援したいという方々に最適なサービスです。
競合他社に対する優位性はどのあたりにあるのでしょうか。
先行者利益もあるとは思いますが、「フェアに挑戦できる世界を作る」というビジョンに共感いただき、FUNDINNOのファンになっていただける方がいることが何よりの優位性かと考えています。結果として多くの個人株主の方に参加いただいており、だからこそ法人側にも入ってきていただけている。効率的な株主管理ができる周辺サービスの開発提供も行っているので、ワンストップで調達管理ができるのも魅力の一つかと思います。投資家が投資する目的は二つ、投機性と共感。ベンチャーキャピタルはどうしてもその背後にLPの存在がありますから、投機性を重視せざるを得ない局面が多くありますが、FUNDINNOは個人の価値観で投資判断ができる。社会を良くしていく活動そのものへの共感で投資をする人も多く、本当に応援してくれる人に株主になってもらえる点にも価値を感じていただけているのかと。
ソーシャルグッドで評価をしようとすると、どうしてもデフォルト率がこれまでのハードルになってきたかと思いますが、そこはどのようにお考えでしょうか。
倒産自体は融資の世界でもあるので、デフォルト0%が現実的でないことは金融に詳しい方にはむしろご理解いただけるかと思います。その前提がある中でいかにデフォルト率を下げるかについては2点対応をしています。
まず、強固な審査体制。公認会計士を中心とした計7~8名でチームを構成しており、対象企業の売上高・販管費を因数分解し審査しています。オペレーションもできるだけシステム化し、どうしても属人化が必要な作業にのみ人的リソースを集中した結果、これまでのデフォルトは12件(2022年10月現在)に留まっています。成長支援は、投資、成長、出口と3フェーズ存在しますが、現在は入口部分の支援が中心なので、今後はバリュエーションを上げていくハンズオンについても対応を強化していきたいですね。
続いて、マーケットによる自発的な判断です。案件として成立はしても、マーケット集合知がこれは厳しいと判断した場合は、その案件は不成立となる。これはある意味自然な淘汰でもあります。一方で、実力は十分なのにPR不足という企業もその中にいると考え、システムを通じたIR支援は今後も強化していく予定です。
東京証券取引所と一緒に社会的インパクト評価を行うための取り組みを進めていました。環境配慮などの非財務データと同様、インパクト評価は監査上の難しさも含めてなかなか高いハードルではありますが、まずはユニーク性と成長性を認めること、そして投資家による事業理解を促進するための仕組みを我々が整備していくこと。そうすることで足切りの概念を変え、もっと気軽にスタートアップに投資していただき、そしてそれらが成長するという成功体験のサイクルを回すことが重要と考えています。
実際にEXITする案件も出てきていますね。
はい、琉球アスティーダという球団運営の企業が上場に至りました。スポーツはファンの応援を受けて事業が成立するものなので、まさにFUNDINNOの理念とも合致します。証券取引所の審査を突破できる案件が出てきたのは、投資への心理的ハードルを下げる大事な要素。他にもセカンダリーマーケットのサービスを通して投資家にEXIT機会を提供できた案件としては、イノベーションファームの事例もあります。起業家も投資家も、一度調達してしまうと、大きく上場しなければというプレッシャーがあるものなので、もっと柔軟な世界観を提供できたらとは強く思っていますね。
弊社としても、おかげさまで三菱UFJ信託銀行様、野村証券様、パーソルホールディングス様、第一生命保険様、東急様などから累計約35.9億円を調達しています。これらの資金をもって、さらにサービス成長につなげたいですね。
金融を民主化しファンダムで事業成長を促す様は、まさにWeb3の文脈とも迎合するかと思うのですが、DAOやトークンファイナンスへの参入はご検討されているのでしょうか。
文化としては合致していると思います。金融はプロの主観によって管理されてきた世界。それを、どの事業がどう伸びるかの判断を民主化していきたいというのが我々の理念です。Web3参入についても検討はしていますが、現在は日本の投資家と日本の企業のマッチングを前提にしており、金融事業は国別の法制度の違いも大きく、マネーロンダリングの規制も昨今はより一層厳しくなっております。まずは現在の事業を固く運営することに注力したいと考えています。
組織風土、採用について伺えますか。
ビジョンは前述の通り、「フェアに挑戦できる世界を作る」というシンプルなものです。面接でもこのビジョンへの共感を最も重視しています。既存の金融業界の世界観からの変革を主導したいと考える人にご入社いただきたいのですが、金融出身者でなくてもご活躍いただけると思っていますので業界未経験でもご興味を持っていただけると嬉しいです。
最初の段階では金融機関出身のミドル層を中心に採用していました。バックオフィスは外資系金融出身者、フロントはVC出身者、審査は会計士中心と、経験豊かな即戦力の方々です。最近は骨子固めが落ち着いてきたので、エンジニアと新規事業開発を中心に若い方や異業種の方が増えてきています。金融事業ではありますが、挑戦できる風土があるので、新しいことが好きな人には向いているかと思います。
エンドユーザー向けにはCMも打たれておりますが、それをきっかけに認知が広がって採用につながったということもあったのでしょうか。
はい、リード獲得のCPAと比較し迷いはしたのですが、知名度や信用獲得を重視しCMを打つことを決めました。ノバセルに依頼し、時間がない中ではありましたが、男性の個人投資家へのアプローチを目的に企画を推進。候補は複数いましたが、ハゲタカ、家政婦のミタでの出演歴から大森 南朋さんにお願いすることとなりました。反響は大きく、様々な方からご連絡いただきました。やはりCMや新聞での露出の影響は大きいですね。我々は都心以外の企業にも認知を広げたいと考えているので、新聞、テレビといった媒体は相性がいいと考えています。地域の中小企業は、調達といえばまだまだ融資の世界ですから、調達手段が色々とあることを知っていただけると嬉しいですね。
プレシード期からシード期のスタートアップへメッセージをいただけますか。
どこの会社もそうだと思いますが、我々は金融ライセンス取得前にも資金調達をしなければならず、実績が積みあがる前の苦しい調達を経験しています。半年程度成長が停滞すると、伸びない会社として認知されてしまう暗黙知もあるので、アクセルを踏みつつ、キャッシュバーンにも配慮をしつつ、調達も続けなければならない、とやることがとても多いんですよね。
しかし、この局面を救ってくれたのがまさに個人投資家の方々でした。資金もそうですが、そういった案件としての実績、販路開拓が次の調達にもつながっていきます。成長を意識した資本政策を設計し、初期を支えてくれた方々に少しでも恩返しすることが、我々スタートアップにできることかと思います。
最後に、これからつくりたい世界観と、読者へ一言お願いいたします。
日本の総人口約1億人が、起業家であり、投資家であってほしいという構想を実現したいと思っています。スタートアップかどうかというより、誰かの挑戦を誰かが後押しして、そこで成長して伸びた誰かがまた誰かの成長を後押しできるようになれば、成長が連鎖していく。これまでは分かりやすい成長の見込みがないと資金が集まらず、挑戦ができないという環境でしたが、これをITで解決していくという会社でありたいと思っています。スタートアップ、金融、応援投資、エンジェル税制に、エクイティのセカンダリーマーケット。法整備としても文化としても、まさに今FUNDINNOはイノベーションの中心にいる存在かと思います。今このフェーズが一番面白いと思っていますし、そこに共感いただき、金融業界をより良くしたいと思う方にぜひジョインいただきたいです。
注目記事
AIキャラクターが暮らす「第二の世界」は実現できるか。EuphoPia創業者・丹野海氏が目指す未来 Supported by HAKOBUNE
大義と急成長の両立。世界No.1のクライメートテックへ駆け上がるアスエネが創業4年半でシリーズCを達成し、最短で時価総額1兆円を目指す理由と成長戦略 Supported by アスエネ
日本のスタートアップ環境に本当に必要なものとは?スタートアップスタジオ協会・佐々木喜徳氏と考える
SmartHR、CFO交代の裏側を取材。スタートアップ経営層のサクセッションのポイントとは?
数々の挑戦と失敗を経てたどり着いた、腹を据えて向き合える事業ドメイン。メンテモ・若月佑樹氏の創業ストーリー
新着記事
AIキャラクターが暮らす「第二の世界」は実現できるか。EuphoPia創業者・丹野海氏が目指す未来 Supported by HAKOBUNE
防災テックスタートアップカンファレンス2024、注目の登壇者決定
大義と急成長の両立。世界No.1のクライメートテックへ駆け上がるアスエネが創業4年半でシリーズCを達成し、最短で時価総額1兆円を目指す理由と成長戦略 Supported by アスエネ
日本のスタートアップ環境に本当に必要なものとは?スタートアップスタジオ協会・佐々木喜徳氏と考える
Antler Cohort Programで急成長の5社が集結!日本初となる「Antler Japan DEMO DAY 2024」の模様をお届け