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ペットを家族として愛せる世界を目指して。難易度高い事業展開と市場変革に挑むPETOKOTO・大久保 泰介氏

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近年、国内においてペットに関連した市場が拡大している。経済産業省HPによれば、コロナ禍でペットと触れ合う時間や飼育する人が増え、家計のペット向け支出額が大きく増加していることが明らかになった。

「家族」の一員としてペットを迎え入れ、ペット用品やペット・クリニックにお金をかける人が増えている一方で、ペットに関連する課題はいまだ多い。売れ残った動物や捨てられた犬猫の殺処分問題、飼い主が全額自己負担しなければならないペット医療、長生きするペットが増える中で増加している看取りの問題など、さまざまな問題が残されている。

そのようなペット市場で、経営者自らがペットを深く愛し、市場の課題解決に本気で向き合っているのがPETOKOTO(ペトコト)代表・大久保 泰介(おおくぼ・たいすけ)氏だ。PETOKOTOは「ペットを家族として愛せる世界へ。」をミッションに掲げ、ペットの一生に寄り添うサービス展開を目指している。今回、大久保氏にインタビューを実施し、創業の経緯から事業への想い、これまでのキャリアなどについて話を伺った。

長年の「犬猫嫌い」から、ペット市場で起業

改めて、PETOKOTOの事業内容について教えていただけますか?

弊社は「ペットを家族として愛せる世界へ。」をミッションに、保存料無添加のフレッシュペットフードや、ペットの一生によりそう情報メディア「PETOKOTO MEDIA」、保護犬猫と未来の飼い主をつなぐ審査制のマッチングサイト「OMUSUBI」を運営しています。

代表の大久保さんは、もともと犬や猫が苦手だったと聞きました。

そうなんです。実は、起業する3年前までは犬や猫が苦手でした。実家が京都の田舎のほうにあるため、小学生のときは近所の川でカニを捕るなどして、生き物に対しても全く抵抗がなかったはずなんですけどね。

小学1年生のとき、同級生の女の子の家に産まれた子犬を迎えたくて、両親に犬を飼いたいと相談してみたことがありました。でも、両親としては3人の息子がいて、いろいろと大変だったのでしょう。犬を飼うことは結局認めてもらえなくて。その後も犬や猫などのペットとは疎遠な生活でした。

現在は創業直後に保護犬猫の譲渡会で出会った愛犬・コルクと妻と共に暮らしているので、ペット嫌いは克服しています。むしろ、コルクが死んでしまったときの喪失感を今から心配しているくらいです。

起業した背景には愛犬の存在があるのかと思っていたのですが、コルクくんとの出会いは創業直後だったのですね。ではなぜ、犬猫嫌いだった大久保さんがペット市場で起業を?

きっかけは10年ほど前、付き合っていた彼女の家に、ペットとしてトイプードルがいたことでした。その子と触れ合ううちに、私は犬や猫を「触らず嫌い」していたことが分かって。一緒に暮らして世話をしているうちに、次第にペット産業の課題のほうが気になり始めました。

動物病院の支払いはまだ現金のみのところも多かったですし、病院の予約もアナログ。同じ犬であっても犬種ごとの特性の差が大きかったりするのですが、自分の飼っているペットの種類にあった正確な情報を得づらいといった課題が山積していたんです。また、捨てられたペットやペットショップで売れ残った動物たちの殺処分も問題になっていました。

当時の私はインターネットの力で社会のさまざまな領域の変革に挑むグリー株式会社に勤めていたこともあり、ペット産業の課題をITの力で解決できないかと考えたことで、起業を決意しました。

ペット市場は特有の難しさがあるように思うのですが、そのようなフィールドで起業することに迷いはなかったのでしょうか。

起業する際、私が本気で取り組めるテーマは「ペット」か「サッカー」しかないと思っていたため、ペット市場で起業することに迷いはありませんでした。ただ、おっしゃる通りペット市場はとても難しい市場です。ペットの種類や品種によってかかりやすい病気やニーズは異なりますから、市場自体が非常に細分化されています。その難しさから、投資家に「10年踏ん張ることができるか」と私の覚悟を問われたことがあるくらいです。ビジネス的な成功を重視する起業家なら、この市場は絶対に選ばないと思います。

そのような市場の中で、PETOKOTOは現在拡大しています。その理由はどこにあると思いますか?

それはおそらく私たちがペットを深く愛していること、そしてミッションにも掲げている「ペットを家族として愛せる世界」を本気でつくりたいと、覚悟を決めてこの市場に腰を据えているからだと思います。今日に至るまでの5年間、決して平坦な道のりだったわけではありません。ペット版の家族SNSを立ち上げてはクローズしたり、預貯金残高が10円になったりと、さまざまな困難があり、そのたびになんとか耐えながらPETOKOTOを続けてきました。

これまで、ペット産業を大きく変えたプレイヤーは本当に少ないんです。大手企業が参入してもうまくいかずに撤退することもよくありますから、やはりこの市場はビジネスセンスだけでは勝てなくて、ペットへの想いや愛情、そしてビジネスとしての巧みさを両立させる必要があると考えています。

なるほど。一方でペット市場は国の経済状況の影響も大きく受けると思うのですが、実際のところはどうなのでしょう。

おっしゃる通り、ペット市場には、経済成長が大きくかかわってきます。経済成長が起こると、中間層が増えてペットを飼う人が増え、市場は拡大します。中国や東南アジアの市場がまさにこのパターンで拡大していますね。

一方で「ペットの家族化」が進むと、また違った市場の動きを見せます。飼育数は頭打ちとなり、1匹・1頭あたりにかける支出額が増えることで、市場規模の拡大が起こるのです。アメリカは今まさにこのパターンですし、少子高齢化の進む日本もペットを家族として迎える人が増え、年間支出額が増えている傾向にあります。

ペットと暮らす日々をより良いものに。PETOKOTOの事業とは

PETOKOTOの事業内容について、もう少し詳しくお聞かせください。現在は三つのサービスを展開されていますよね。

そうですね。どの事業も私たちのミッション「ペットを家族として愛せる世界へ。」を追求して、「ペットと暮らす幸せを提供する」「ペットを家族として受け入れられる社会をつくる」という二つの価値観をもとに展開しています。自分たちがペットと「家族」として過ごす中で疑問を感じる体験があれば、その体験の理想形から逆算してビジネスをつくりあげることが多いですね。

例えば、獣医やトリマーなどの専門家が実名で発信する「PETOKOTO MEDIA」は、ペットの情報について匿名で誤った内容を掲載するキュレーションメディアが散見されたことから、正しい情報を届けたくて始めた事業です。また、「OMUSUBI」は保護犬猫からペットを迎える文化を根付かせること、ペットと人間のミスマッチを起こさず「一生の家族との出会い」を創出する場所をつくりたかったことから開始しました。

三つ目の事業である「PETOKOTO FOODS」は、2020年にスタートしたサービスです。もともと創業時から、マネタイズしやすいペットフード事業をいずれは手がけようとイメージしていたのですが、実際に本腰を入れて取り組み始めたのは、愛犬・コルクの食事に疑問を感じたことがきっかけです。それまでドライフードをあげていましたが、自分が犬だったらああいう無機質な食事を取りたくないなと感じたんです。人間が食べても安心で、栄養豊富なペットフードをつくることができないか。そう思ったことがペットフード事業へとつながっていきました。

「PETOKOTO FOODS」(Credit:株式会社PETOKOTO)

「PETOKOTO FOODS」は食品ロスなどに配慮したサービス設計をされているように感じたのですが、サービスを開発するにあたってこだわったポイントはありますか?

「PETOKOTO FOODS」を開発するにあたっては、二つのポイントにこだわりました。まず一つ目が高品質な食事を安定的に提供できる生産ラインの構築です。私たちのつくるペットフードは、新鮮な食材を使用し、保存料も無添加。人間が食べたとしても安心な状態の食事を冷凍してお客様のもとにお届けします。そのため、生産はドライフード工場ではなく、人間の食べる冷凍食品を扱う工場で行う必要がありました。しかし、ペット用の冷凍食品まで対応してくださる工場は本当に限られており、ようやく見つけた1社とともに生産体制を構築しています。人間の食事と同じクオリティのペットフードを、安定的につくれるようになったことは、このサービスのポイントであり、私たちのこだわりですね。

二つ目が、使用する食材です。人間が食べない素材は一切使用せず、私たちが食べる食材と同じ品質の肉や野菜のみを使用しています。また、通常はペットフードに使わないお米を原材料として使用するなど、この事業を通じて日本の農業に貢献することも強く意識しています。

そもそも、一つの事業に集中する戦略もある中で、なぜ次々と事業を展開されているのでしょう?

今後の展望にも結びつくのですが、弊社はペットの一生に寄り添う、インフラのような存在になりたいと考えているんですね。ペットの一生に寄り添うなら、現在手掛けている食事や情報に関するサービスだけでなく、保険や医療、洋服、住まいなど本当にさまざまな部分に関わっていかなければならないと思います。ペットの生活圏が、経済圏になっているという状態をつくりたいんです。そのためにも、ペットは平均寿命が15年ととても短いですから、さまざまなサービスを最速でつくっていかなければならないと考えています。

ペットを迎えてから看取るまでの循環型ビジネスをつくっていきたいですし、飼い主さんや動物の保護団体との共助関係をつくってコミュニティベースのビジネスを生み出していきたいですね。そして、いずれはアジア地域へと展開させていきたいと考えています。

大手企業の内定を断り、サッカーのためにイギリスへ

ここまでペットに真摯に寄り添う企業はなかなか存在しないように思います。そんなPETOKOTOをつくり上げた大久保さんのこれまでのキャリアについても、ぜひ教えていただきたいです。大学を卒業後は一般企業に就職したのですか?

いえ、実は私は大学を卒業する前に3年ほど休学してイギリスに渡り、ロンドン8部リーグのユースチームでサッカーをプレーしていました。小学生の頃からサッカーに熱中していたのですが、怪我をして大学1年生のときに辞めていたんです。でも、いざ就職活動を始めると「やはりサッカーをやりたい」と思う気持ちが強くなりました。そんなときにイギリスのチームから声をかけてもらって。就職活動も済ませて大手商社や広告代理店から内定をいただいたのですが、全てお断りして渡英しました。

そうだったのですね。現地ではどのような生活を?

ロンドンではサッカーをプレーする傍ら、渡英前に内定をもらっていたユニクロUKのプロモーションをお手伝いしていました。内定辞退の相談をしようと状況をお話ししたら、ちょうどロンドンで店舗を再出店されるタイミングだったこともあり、業務委託で大手広告代理店と仕事をしないかと声をかけていただいたんです。

ユニクロでの仕事も含めて、現地では本当に多様な人と出会いました。その中で改めて日本を客観視することができ、日本の価値観の強みや世界に誇れる部分を再発見できたように思います。そして、先ほどもお話ししたように、PETOKOTOとしてアジア展開も視野に入れていますが、「日本からグローバルスタンダードをつくりたい」という気持ちが強くなったのもロンドンで3年間を過ごしたからだと思います。

帰国後はどのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。

帰国した後は、2012年に大学を卒業してグリー株式会社に新卒で入社しました。1年半ほどグローバル採用のマーケティングチームに所属した後、その頃には起業という選択肢が視野に入っていたこともあって、会計を学ぶために経理部門で1年半ほど仕事をしていました。その後、2014年末に新規事業の社内公募にアイデアを応募。複数のアイデアを提出したのですが、その中の一つだったPETOKOTOの事業アイデアを基に、2015年初頭には退職と起業の手続きを進めていました。

「起業」が身近になったグリー時代。PETOKOTO創業までの道のりとは

帰国後の就職先として、グリー株式会社を選んだ理由について教えてください。

グリーを知ったのは、ユニクロUKでお世話になった人事部長が転職したことがきっかけでした。そこから興味が湧き、日本でグリー代表の田中さんの講演会を聞いたところ、「日本からGoogleをつくる」という志に強く惹かれて。入社するなら「ここしかない」と感じたことで入社試験を受け、ご縁をいただきました。

先ほど社内公募に応募したとのお話もありましたが、もともと起業志向がおありだったのですか?

いえ、起業するつもりは全くありませんでした。でも、グリーに入ってみると、起業して戻ってくる人がいたり、メガベンチャーの創業期にジョインしている人がいたりと、それまでハードルが高く感じていた起業がより身近な選択肢になっていたんです。「自分にもできるかも」と思えたとき、友達を誘って夜な夜なアイデア出しをして、社内公募に応募しました。アイデア数を出すことを重視していたので、通常は1~2個のアイデアで応募する方が多いところ、私は10個ほどのアイデアを提出していましたね。

その中の一つがPETOKOTOの原点だったのですね。

そうです。PETOKOTOの事業アイデアは最終審査である経営陣面談まで進むことができたのですが、当時のグリーの経営陣にはペットを飼っている人がいなかったんです。私の考えたアイデアの意義や市場ニーズが上手く伝わらずに、最終審査に落ちてしまいました。

ただ、そのときサポートしていただいた役員に「それなら自分で起業してみたら」と、サイバーエージェント・キャピタルを紹介してもらって。プレゼンに行ったところ、法人をつくる前から投資のオファーをいただくことができたため、その日中に退職の意思を上司に伝えて、すぐに起業に向けて動き出しました。

投資のオファーを受けてから、非常にハイスピードで起業に向かって進めたのですね。

PETOKOTOの事業アイデアは心からやってみたいことでしたし、グリー時代に起業が身近になったため、失敗しても良いかと思えるようになったことがスムーズに行動できた要因かもしれません。

なるほど。そして創業から7年が経った今年、7月に起業家の登竜門ともいわれている「IVS2022 LAUNCHPAD NAHA」で優勝されました。その後、反響はいかがですか?

私自身がピッチイベントに苦手意識があって、このイベントにも出場するか申し込み締め切り日まで悩んだのですが、弊社の株主の後押しもあって出場することに決めました。「IVS2022 LAUNCHPAD NAHA」では、私が心から伝えたいことをピッチの中で表現できたと思います。ピッチの動画を見ていただくことで、資金調達が決まったり、採用が成功したりと、良い影響もたくさんありました。今では弊社のことをより深く理解していただくために、まずはピッチイベントの動画を見ていただくようにしています。

リブランディングで10年先まで見据えた想いやあるべき姿を言語化

2022年3月にはブランドをリニューアルされましたが、その背景と苦労したことについて教えていただけますか?

リブランディングすることに決めたのは、対外的なコミュニケーションに課題があると感じたからです。弊社の手掛ける各サービスにファンはついたものの、ペットとの体験をつくるPETOKOTOという企業のファンはそう多くありませんでした。そのため、社内で長きにわたって愛されてきた「人が動物と共に生きる社会をつくる」というミッションも含めて、対外的に発信するメッセージやブランドロゴを作り変えました。リブランディングにあたっては、第三者にも関わっていただくことが必要だと思い、株式会社GOに入っていただきました。

ブランドリニューアルにあたって苦労したことはほとんどありません。基本的には私が提案したものを、株式会社GOにブラッシュアップしていただき、ミッション、ストラテジー、ストレングス、ルール、ビリーフとしてまとめていきました。

10年先まで見据えた想いやあるべき姿を言語化できたため、採用の場面でもミスマッチが減ったように思います。私がいなくても回るような、会社としての人格をつくることができたのは、リブランディングの大きな成果です。

なるほど。PETOKOTOのルールも拝見しましたが、「輪の外を想像しよう」という項目があることが印象的でした。ペット関連の事業を行う企業で、「動物が好きな人ばかりではない」という点をしっかりと念頭に置いているところは少ないのではないでしょうか。

私自身がもともと犬や猫が苦手だった時期があるからこそ、「輪の外を想像しよう」という項目をつくることができたのだと思います。

全部で三つの項目をつくった「ルール」は、弊社メンバーの行動指針です。「短い命に届けよう」では、平均寿命の短いペットたちが亡くなる前に良いサービスで幸せを提供すべく、スピード感を重視したくて設定したものです。「ペットを愛するプロでいよう」という項目は、弊社の全メンバーがペットを飼っているからこそ、顧客視点で自分たちの欲しいものをお客様に届ける姿勢を確認すべくつくりました。

最後の「輪の外を想像しよう」は、最終的に弊社の目指す「ペットを家族として受け入れてもらえる社会」を実現するためにも、ペットを苦手とする方への配慮が必要だと考えているためつくった項目です。

例えば今年の春、JR東日本と日本で初めてのペット専用新幹線を走らせたんですね。その際、ペットが苦手な方やアレルギーのある方に配慮するためにも、パナソニックに協力していただいて、清掃面や乗車オペレーションなどの検証も行いました。そういった全ての方にとって良い環境をつくる努力は、目指す世界の実現のためにも本当に大切にしていますね。

PETOKOTOの社風についても教えてください。

性善説をベースに置きながら、オープンなカルチャーがあると思います。また、弊社は創業8年目にしてすでに3事業を手掛けており、今後もペットの短い一生にいち早くサービスを届けるために、さらに事業を展開していきたいと考えています。事業が複数あるだけでなく、ゼロイチの事業とともに拡大フェーズの事業があるなど、非常にカオスな環境なんです。弊社の中で生き生きと仕事をして、活躍しているメンバーは、そのようなカオスな状況を楽しみながら、自ら打破できる力のある方だなと感じています。

プレシード期からシード期のスタートアップへ応援メッセージをいただけますか?

私はPETOKOTOを7年前に創業して、最近ようやく、芽が出始めてきたと感じています。ここに来るまでに、大変な状況を幾度となく乗り越えてきました。プレシード期からシード期のスタートアップの皆さんも、本当に実現したい世界に向けて、どんな状況も耐え抜いていくことで、きっといつか花開く時が来ると思います。ご自身の使命に従って、行動していただけたらと思います。

最後に、読者に一言お願いいたします!

ペット産業は本当にレガシーで、業界に大きな変革を起こしたプレイヤーが存在していません。そのような難しいながらも可能性を秘めた市場と向きあって、新しく大きなチャレンジがしたいという方とぜひ一緒に働きたいです。私自身は0から1をつくるタイプの経営者ですが、今後は1を10や100に育てていく必要があり、そこを担っていただける方も積極的に採用していきたいと考えています。我こそはと思う方はぜひ、一度お問い合わせいただけたら嬉しいです。真の家族としてペットとともに暮らす人が増え、それを誰もが受け入れられる社会の実現に向けて、これからも頑張っていきたいと思います。