コロナ禍の影響により日本のフィットネス業界は転換点を迎え、オンラインフィットネス事業が加速した。その中で、実際のスタジオにいるかのような臨場感や2タップでレッスンが受けられる手軽さでユーザーの支持を集め、急拡大を続けるオンラインフィットネス・スタートアップがある。「SOELU(ソエル)」だ。
2019年にSOELUにジョインし、同社の会員数を7倍に伸ばしたCPOの越塚麻未(こしづか・まみ)氏に、SOELUのこれからとスタートアップの中で役員として働くキャリアについて伺った。
オンラインフィットネス業界でSOELUが急伸した理由
SOELUとはどのようなサービスなのでしょうか?
お家でヨガやトレーニングのレッスンを受講できるオンラインフィットネスサービスです。朝5時から深夜2時まで、15分〜60分間のライブレッスンを毎日200クラス開講しています。200人以上の専門インストラクターが在籍し、150種類以上のプログラムをご提供しています。また、双方向型でインストラクターにポージングをチェックしてもらったり励ましてもらったりといった臨場感を楽しまれたいか、ご自分の姿が見られないようインストラクターの先生だけが画面に映った状態で受講したいかをレッスンの予約時にご自身で選べる仕組みになっています。
SOELUでの越塚さんの肩書きは「CPO」とのことですが、役割を教えてください
CPOの「P」はProduceの頭文字のPで、経営メンバーの一員として、オンラインフィットネスのマーケティングやクロスセルブランドの事業責任者をしています。現在は、プロテインブランドを立ち上げ、事業を軌道に乗せるためのプロデュースをすることが多いです。
越塚さんのキャリアとSOELUにジョインしたきっかけを教えてください。
大学を卒業後、株式会社ユーザベースを経て、Aiロボティクスに創業メンバー兼COOとしてジョインし、約3年で数千本という数の動画コンテンツをディレクションしていました。しかしHow Twoの事業が成長していくにつれて、一緒に創業したメンバーと方向性が違うと感じて会社を卒業して、フリーランスの道を選びました。またチャンスがあれば自分で事業をしたいと考えながら仕事をしていたのですが、そのときの一社がSOELUの創業者兼CEO、蒋(しょう)でした。仕事上でつながりがあった方からのご紹介で、確か恵比寿のカフェでお会いしたのですが、彼の初対面の印象は「論理的でいい意味で飾らないフレッシュな人」でした。「事業価値」が評価の一つとなっているスタートアップ業界において、その実態を実際以上により良く見せようとすることが当たり前と考える方も多くいる中で、真っ直ぐにユーザーと向き合ってきた姿や、正直に現状課題を話してくれた姿勢から、この人と一緒に働いてみたいとその場で思いました。
はじめは週数時間の稼働からスタートして、一緒に働く中で少しずつ事業の解像度が上がっていき、創業メンバーやスタッフの方と接していく中で「働く環境が心地いい、カルチャーに合うな」と思っている自分に気がつきました。また、事業の成長性や事業そのものの魅力を感じていたことや、自分の役割を考えた時に今のボードメンバーと補完関係になれそうだと思っていたところ、蒋(CEO)と白土(COO)の2人から役員として一緒に働かないかと誘いを受け、入社を決めました。
すでにプロダクトができている会社にCXOとしてジョインするにあたって、どのような目標設定があったのでしょうか?
2019年10月に執行役員としてジョインして、SOELUのために私ができることを定量化したKPIをCEOとCOOとともに設定しました。具体的な項目としては、入会率の向上やPRアライアンスに関すること、動画広告のCPA改善などでした。KPIを3ヶ月で達成したことを評価いただき、2020年2月に取締役になりました。
ジョインされて2年半が経ちますが、SOELUにはどのような変化がありましたか?
ここ2年半で、会員数は約7倍になりました。取締役になった直後、日本でコロナの影響が出始めたのですが、自宅でのフィットネスを当時の政権が推進したことなどで、オンラインフィットネス事業への注目度が一気に上がったのです。コロナ前は、例えば「子供が小さくて自分一人でジムに行くことができないからオンラインでレッスンを受ける」など、オンラインレッスンであることの必然性が高い会員様が多かったのですが、コロナ禍でSOELUを体験いただいた会員様からは「家でオンラインでフィットネスするのも十分楽しいし、移動しなくていいのは便利!」と感じていただき、選択肢の一つとして選んでいただけるようになりました。
コロナ禍を契機にSOELUは急進しましたが、他のオンラインフィットネス企業との差は何だったのでしょうか?
ユーザーからの需要が高まった時にSOELUではすでにサービスの土台ができていたことはかなりの優位性があったと思います。これは私がジョインする前に蒋(CEO)や白土(COO)、それから片岡(CTO)がユーザーの声を聞きながら自社システムの開発をしていたおかげですね。オンラインフィットネスは、例えばZoomなどのオンライン会議システムを使えばオンライン配信ができるなど、参入障壁の低い業界でもあるのですが、SOELUではコロナ前からユーザーの利便性を考えてZoomに画面遷移せずに一つのブラウザの中でレッスンに参加できる機能を作っていました。そのため、Zoomなどのオンラインツールを使い慣れていないユーザーの方にも負担をかけずに使っていただくことができ、ユーザーの定着に繋がったと考えています。新規参入の事業者さんの場合、システム構築にあたってのユーザーヒアリングや優先順位付けをすることが難しかったのではないかと推測しています。また、SOELUは会員数以上にレッスンの枠が多い状態で提供をしていたので、いつでもレッスンが多数表示され、「選ぶ」という体験をユーザーに提供できる状態にあったこともチャンスを掴めた理由だと思います。
これからさらに会社を成長させていくにあたって、大事にしていることは何ですか?
ユーザーの声を聞くことは会社として本当に大事にしていることです。各チームがユーザーの声を聞くためにそれぞれでアンケートメールなどを配信しているのですが、アンケートを出しすぎてCSに「多すぎる」と止められたくらい、ユーザーの声を聞く文化が根付いています。ただ、自身を含めてスタートアップで働く人たちは行動力がある人が多く、良さそうな施策があるとすぐに動くことが多いのですが、リソースが限られる中でその行動の方向性は正しいのか?適切な課題がそこにあるのか?やり方は合っているのか?など、事前検証する冷静さやロジカルさも必要です。一度立ち止まって考えることを私自身大事にしていますし、チームのメンバーにも大事にして欲しいと思っています。
ここから少し資金調達についてのお話を聞かせてください。投資家からSOELUのどのような点を見られ、評価されていますか?
まずは市場性です。医療ほどではないですが、ヘルスケア市場の事業は景気に左右されにくい点はありますね。また、海外のオンラインフィットネス事業と比較されることもありますので、中国のフィットネスアプリのKeepなどの事例は私たちもウォッチしています。具体的な部分では、直近の会員数の伸びについては評価ポイントだったかと思います。また、LTV(顧客生涯価値)の長さや、チャーンレート(解約率)の低さは他のtoC向けビジネスと比較しても評価が高いと言ってもらえています。
資金調達での苦労はありましたか?
今の日本の環境であれば資金調達にもいろんな選択肢がありますが、私たちはその中でも攻めのマーケティングをして市場シェアを取るべく、VCからの資金調達を選択しています。ただ、実際にエクイティでの資金調達をする上で、私たちが譲れないのは何か?調達金額なのか?株式放出のパーセンテージなのか?評価額なのか?など、自分たちの中で整理しておく必要があると感じましたし、内部ですり合わせていく難しさもありました。ただ、資金調達では世界観やビジョンよりも数字の方が重要度が高いのですが、投資家の中には世界観への共感を示してくださる方もいらっしゃったので、大変励みになりました。また、強い共感がなくとも、私たちと同じくらいSOELUを理解し、高い視座でブランディング戦略上のアドバイスをしてくださる方などもいて、資金調達の活動を通じて投資家の方が仲間になってくださったことは心強いですし感謝しています。
海外への進出予定はありますか?何か準備していることなどあれば教えてください。
まずは国内でシェアを拡大し、日本での上場を目指していますので、海外進出はまだ少し先ですね。ただ、海外に駐在している日本人の方がSOELUを使ってくださっていたり、インストラクターの先生が海外に住んでいたりしますので、海外からのアクセスに耐えうる仕様にはなっています。SOELUはそもそもオンラインサービスなので、先生と生徒さんが国境を超えて、レッスンを通じて繋がる機会を今後も提供していきます。
SOELUが事業を通して実現したい世界とは?
SOELUでは「続く健康を当たり前にしたい」という想いから、会員数100万人を一つの目標に掲げています。フィットネスジム通いはなかなか続かなくてやめてしまうという人は多いですが、ジムで運動したら気分が良くなったり体の不調が改善したりと良い効果を感じたという方は少なくないはず。しかしSOELUでは、移動の手間、着替える手間、化粧する手間すらいらないんです。すっぴん、パジャマ姿で寝る前にストレッチができたり、起きてすぐにヨガに参加できたりするこの手軽さで、サービスを通じてより多くの人が運動を習慣化できるようなお手伝いができればと思っています。
CXOの道は、成長と選択、レジリエンスの繰り返しの先に
越塚さんはスタートアップ業界でのキャリアに関心のある方にとって、ロールモデルのお一人だと思います。どうしたら越塚さんのようなキャリアを歩めるのでしょうか?
私自身、スタートアップのCXOになりたいと思って今のポジションにいるわけではないので、難しい質問です(笑)。ただ過去を振り返って考えてみると、自分で望んでチャレンジングな環境に身を置いて仕事をしてきたその延長線上に、今のキャリアがあるのかもしれません。新卒で入社したユーザベースを辞める前、父から長文の手書きの手紙をもらったんです。要約すると「ユーザベースをやめるな」という退職に反対する内容だったのですが、親が私の人生の責任を取ってくれるわけではないので自分でよく考えて退職しました(笑)。
退職後は創業への道を歩まれていますが、ここでは誰かの後押しなどはあったのでしょうか?
特定の誰かの後押しがあったということはないですね。自分の意思で進む道を決めてきました。でも影響があったとすると、環境ですね。東京の最低時給は高いので、毎日アルバイトでもすれば食べていけるのだから、チャレンジして失敗しても何かしら仕事はあると思えたことが自分のチャレンジ意欲を下支えしてくれたと思っています。あとは、スタートアップへの転職は知り合いや友人含めて、SNS経由のことも多いので、SNSで興味のある企業を見ておくといいかもしれないですね。
学生時代はどんな人でしたか?
当時、学生団体が活発に活動していた時代で、私も他大学の女子学生と一緒にイベントを企画したりフリーペーパーを制作したりしていました。それからラジオのパーソナリティなどにも挑戦していて、卒業後はテレビ局のアナウンサーになりたいと思っていました。就活はテレビ局を中心に受けていたのですが、同級生が内定をもらっているのに焦りを感じてメディア以外の一般企業も受けようと気持ちを切り替えて、ベンチャーも大手も関係なく、自分を受け入れてくれる企業を探す中でユーザベースから内定をいただき入社しました。
ここまでお話を伺っていると「強くて自立したスタートアップ経営者」に思えるのですが、挫けそうな時はありましたか?また、その時はどうされましたか?
実は、何度か挫けていて。ユーザベースを退職したのも精神的な理由で突然出社できなくなったことがきっかけでした。本当に忙しいと、自分のことを蔑ろにしてしまうことがあったのですが、自分を取り戻すために自分と向き合う時間を強制的に作れたことは長い人生の中で結果的にプラスに働いています。休んだことで、退職したあとどうするのかといった未来のことを考えられるようになりました。頑張るだけ頑張ったら思い切って休みをいただくという考え方は、実は身近な先輩からの学びです。その人はとても優秀な方だったのですが、十数年の社会人歴の中で半分くらい休んでいるという人でした。その先輩から「お前は俺と似た属性がある」と言われた時は少しショックでしたが(笑)、何十年と続く仕事人生を休みながら歩き続けてもいい、という生きていく上での一つの術を教えていただいたと思っています。ちなみにその方は、現在は有名コンサルティングファームでバリバリ働いています。
SOELUにジョインして苦労されていることはありますか?
参画してから自分個人のことでつらいと思うことは特にありませんでした。ただ、事業の成長とともに、メンバーを急激に増やしチームを作りながら事業を推進していくのは、なかなか難しいと感じています。経営陣には私を含めて経営経験のある人はいますが、今の企業規模での経営経験のある人はいないので、事業を成長させながら視座を高めつつ、私自身もステップアップしていかなくてはと感じています。管掌する事業領域が増え、やることも増えるとなるとこれまでの自分とは思考を変える必要があります。「やったことがないのでできない」とは言えないので、先輩起業家や投資家にお話を聞いてアドバイスをいただきつつ、自分でも考えることを習慣化しています。
ボードメンバーの一人として、難しさを感じられることはありますか?
カルチャーフィットすると思って入社したのでそんなにないのですが、強いていうならボードメンバーのうち女性は私一人だけなので、他のメンバーに理解して納得してもらうために感覚的なことでも言語化して伝えることを意識しています。例えば、プレゼント企画で某有名ブランドのハンドソープを景品にしようと考えたとき、女性スタッフと話していると感覚的に「それいいね!」となりますが、他の役員陣にそのまま話すと「そのブランドって聞いたことないけど有名なの?ユーザーはもらって嬉しいものなの?」という点を説明しないと伝わりません。実は私自身は直感タイプで言語化は得意な方ではないのですが、SOELUにジョインして2年半が経ちますので、だいぶ慣れてきました。そもそも男女も立場も関係なく、相手が誰であれ理解してもらうために説明すること、その準備をすることは大事だと考えています。
新卒からベンチャーで働き、スタートアップの経営に携わる越塚さんから見て「スタートアップで働くことの意義ややりがい」は何ですか?
経営メンバーが圧倒的に近くにいて、意思決定を間近で見ながら事業を作るのってとても楽しいですよ!また、リソースがない分、課題の中でも最も重要なことを洗い出し、インパクトの大きさなどを考慮した上で、会社が今まで着手できていないこと、自分が得意なことなどを踏まえながら、優先順位をつけて着手していくダイナミズムはスタートアップで働くことの醍醐味の一つだと思います。
スタートアップで働くことに興味があれば、SOELUもさまざまな人材を募集していますので候補の一つとして見てみてください。
ありがとうございました!
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