子ども達が日中のほとんどの時間を過ごす保育施設。働きながら子育てをする人たちにとって社会インフラともいうべき存在だが、保育者不足が深刻な社会課題だ。保育者の業務は、子ども達との関わり以外にも非常に多岐にわたり、特に連絡帳や帳票等の書類作成の業務はICT化が進んでおらず、保育者の多忙に繋がっている。
これを解決するのが、2013年5月に創業したユニファが提供する「ルクミーⓇ」だ。ルクミーⓇは、医療機器届出済である体動センサーやIoTやAIなどのテクノロジーを駆使し、保育関連業務のDXによって、保育者の時間と心のゆとりを創出し、保育者が本来行うべきこと、つまり、子どもと向き合うこと・触れ合うことに専念できる環境を創り出している。
ルクミーⓇシリーズを全導入した「スマート保育園・幼稚園・こども園」のモデル園の中には、1ヶ月あたり60%以上の業務時間削減を実現した園もあるなど劇的な成果が出ており、全国の保育施設における累計導入数は2021年11月時点で13,000件を超え、30ヶ所以上の地方自治体へ導入されている。
この社会課題に向き合うことに決めるまで、どういった経緯があったのだろうか。
ユニファ代表取締役CEOの土岐泰之(とき・やすゆき)氏にお話を伺った。
やりたいことを探し続けた結果、出会った”家族”というテーマ
これまでのキャリアと起業のきっかけについてお伺いできますか。
2003年に新卒で住友商事に入社し、リテール・ネット領域におけるスタートアップへの投資及び事業開発支援を行いました。その後、外資系戦略コンサルティングファームであるローランド・ベルガーやデロイト トーマツにて、経営戦略・組織戦略の策定及び実行支援を経験。その後、2013年にユニファを起業しました。
大学生時代にスタートアップでインターンをしていてその雰囲気を知っていたこともあり、自分も起業したいという気持ちはありましたがこれというテーマが見つかりませんでした。ただ、自分も事業の現場で働きたいというのはありましたので商社に入社を決めました。当時、住友商事は小売業界を変革すると宣言していたので、それをやりたかったというのもありました。入社後に人事の方にかけあって、なんとかリテール部門に配属はしてもらえたのですが、その後ベンチャー投資部隊へ異動になりました。希望とはやや違ったものの、自分も最終的に起業するのであれば、これもまた勉強になるだろうと思いました。やがて、経営の力をもっと磨きたいと思い、修業の場として経営コンサルを選んで転職をしました。
我が家は共働きなのですが、子どもが生まれたことをきっかけに自身のキャリアを中断し、妻の仕事を優先して縁もゆかりもない愛知県に引っ越した経験をしています。家族を大切に思う一方、自身のキャリアを諦めたというような気持ちを持っている自分もいました。それまでは、いつか起業をしたいと考えつつもどうしても向き合いたいテーマに出会えないままだったのですが、自分ごとであると強く認識できたのが、家族と自己の幸せや自由、選択肢を両立できないという課題でした。ずっとテーマを探してきた中で「家族の幸せ」をテーマにすれば、自分らしい挑戦ができるのではないかと考え、生涯をかけてこのテーマに向き合おうと、ユニファの起業に至りました。
起業してから特に大変だったことを伺えますか。
起業するときは大変でした。何もかも結局、やってみるしかなかった。ただ、何にも知らない状況で飛び込んでしまったので、何を聞かれてもそれらしく打ち返せるというサラリーマンとしての基礎的なスキルは事前に身につけておいてよかったなと思いました。そもそも起業自体、実は家族に最初は止められたのです。しかも保育施設については妻のほうが詳しい中で、どうして貴方がそれをやるのかと。それでも家族を説得し、創業期はむしろ妻が会社を手伝ってくれて、彼女自身も東京に転職してくれて、色々と支援をしてくれました。現在は彼女自身も介護業界でビジネスをやろうとしていますが、夫婦でユニファを、家族を、支えてこれたということにとても感謝をしています。
強いて挙げるならば、東京以外で起業したことにより、人脈が周囲になく、エンジニアの確保が特に苦労したことでしょうか。とりあえず手近なシェアオフィスに入居し、そこで作業している方にお声がけをして業務委託をお願いしても、なかなか継続いただけなく、当初は本当にやれることからやっていたという状況でした。営業先が保育施設ということもハードルが高く、男性が一人でいきなり連絡をしても不信がられてしまいますし、信頼を得るまでのステップが長かったんですね。経営資金もなかなか続かず、手弁当で1000万円程度を拠出したものの、すぐに溶けました。
その後、SMBCベンチャーキャピタル、みずほキャピタルからシード期に調達をさせていただいていますが、名古屋にわざわざお越しいただき、園長先生や保育者のいる現場、そして彼らと私のリレーションを見ていただきました。これは投資いただいた後に知った話ですが、実際に現場でエンドユーザーとやり取りする私を見たことが投資の最終的な決め手であったそうです。これだけ信頼関係が築けているのならば、たとえピボットをしても保育施設に向き合って事業をやり切れるだろうと、私を信じていただけたのです。当時はまだ待機児童の問題すら顕在化していなかった時代。そもそも保育施設相手の事業がビジネスとして成立するか疑問視されたこともありました。その後も何度か投資をしていただいていますが、やはり一緒に現場に行ってみて、話していくうちに、現場がどれほど困っているかを生々しく見ていただく中で徐々にご理解を深めていただいているものと思っています。
資金調達のお話が出ましたが、他のラウンドはいかがでしたか。
資金調達は、毎回がドラマです。そのラウンドごとにストーリーがあります。印象的なのは、2017年3月に第1回スタートアップワールドカップで優勝したことでしょうか。全世界から1万社以上が参加し、日本からは著名なスタートアップも参加していました。全編英語でのピッチで、世界大会はシリコンバレーで開催されました。おかげさまで初代チャンピオンに選ばれ、約1億円の投資資金を頂くとともに、NHK等のメディアでも取り上げていただいて認知が一気に拡大、グローバルの投資家にも声がけ頂きました。私も世界でNo.1を目指していいのだという自信をいただくとともに、直近2021年6月に公表したシリーズDでの調達にもつながったイベントであったかなと思います。このシリーズDでは40億円を調達させていただきました。グローバルIPOを見据えたエクイティストーリーになっており、ESG・インパクト投資を意識した投資家陣営になっていることに加えて、初めて海外の機関投資家にも参画いただけました。
組織風土、採用方針についてお伺いできますか。
「家族の幸せを生み出すあたらしい社会インフラを世界中で創り出す」というパーパスを掲げています。行動指針としてのバリューは三つありまして、「One more step」「Play Fair」「Triple Win」です。パーパスドリブンな会社でありたいと考えていて、やがてインフラになる事業づくりにやりがいを感じるメンバーに集まってきて欲しい。そのために、全てのステークホルダーに実直に向き合い、社会のためのユニファを作っていくという志を体現してくれるような方々にジョインいただければと思っています。
グローバル展開についてお伺いできますか。
日本と同様に少子高齢化に伴う社会構造の変化を迎える国々はたくさんあります。中長期的には、ユニファが国内で培ってきたノウハウを海外へ輸出したいと考えています。市場調査をグローバルに行った結果、東南アジアでの適合性が高そうだと見当をつけています。これから子どもを含めた人口増加が見込まれるエリアでありますし、実際にすでにシンガポールの保育施設からお声掛けをいただいています。まずは日本におけるビジネスモデルとサービスの確立を優先的に進めますが、子どもの教育は世界共通で重要なテーマであり、必ずニーズがあるものと確信しています。
商社時代からグローバル投資を担当していたこともあり、起業をしてもグローバルで勝負したいという気持ちは初期からありました。我々のビジネスは、幼少期の健やかな成長という理念に基づいており、この気持ちは世界共通であると思っていますから、グローバルにおいても市場に共感いただけるものと捉えております。教育や保育の環境は国や地域ごとに異なるものではあると思いますが、その土地の保育施設やBtoBプレイヤーと協力しながらサービスのローカライズを進めていければと考えています。
社内にも海外人材をお迎えしており、エンジニアの3割は日本以外の国籍の方々です。インド、インドネシア、バングラディッシュ、イギリス等からお集まりいただいています。
理想の社会を作るため、”自分”でなく”事業”を優先
学生時代、どう過ごされたかお伺いできますか。
中高大と、色々とありました。高校生の時は、空手部で主将になったことで、リーダーシップに目覚めたのだと思います。大学入学後は、英会話サークルに入ってディベートに挑戦し、政策の意見を戦わせることの楽しさに目覚めました。大学生活の最後のほうでは、スタートアップでインターンをしていました。私は九州の出身で、大学まで福岡にいましたが、自分なりに行動していた学生生活であったと思います。就職活動以降のお話は冒頭の通りです。
私は、起業のテーマをずっと探してきました。どうしても見つからなかった中で、家族の幸せと個人の両立は本当に自分にとってのペインでした。これがだめならば別のテーマで起業しようとも思えないくらいでした。私がユニファを続けられるのは、そのくらい自分ごと化できるテーマに出会えたというのが一番大きいと思います。実際にユニファの事業を続ける中で、子どもの成長やその周りで頑張る保育者の姿を見ていると、本当にやり遂げなければならないと感じさせられます。
プレシード期からシード期のスタートアップへのメッセージをいただけますか。
大事なことは、人の心を動かすこと。ユーザー、投資家、従業員。そして、人の心を動かすには、まず自分自身の心が大事です。今やろうとしていることを、石にかじりついてでもやりたいと思っているか、その確信が持てるか、自問自答してほしいです。もやもやするならば、それはあなた自身が迷っているからです。
私は一人で起業をしましたが、結果的に良い面も悪い面もありました。ただ、なんとなく共同創業したほうがいいといった程度のモチベーションならば共同創業はおすすめしません。一人だとつらいことも多いですが、自分の責任でスピーディに意思決定をして事業を進めたほうがいいと思います。経営の意思決定を誰とするかはものすごく大事なことなので。よく経営者は孤独であると言いますが、初めから一人なら孤独もあまり感じませんしね。
成長フェーズになってくると、資金調達やチームアップはやはり一人ではできませんから、誰にジョインしてもらうかは本当に悩ましいです。彼らに創業者になってもらうことはできないですが、同じ志を持つチームメイトにはなって欲しいわけです。あとは、事業のフェーズや課題感に応じて自分自身が変革できるか、そしてチームが変革してくれるかということも重要です。言い古されている言葉ですが、創業者の器以上に会社が成長することはないのです。これを肝に明じ、パーパスに向き合って、自分自身のエゴよりも理念や事業を重視して努力できるか、情熱を燃やすことができるか、これに尽きると思います。
人と関わる部分のお話だと、シリーズDは取締役CFOにリードしていただきましたが、これは彼がいなければ決して実現し得なかったと思います。それまでは私が調達をリードしてきました。事業のフェーズに応じて最適なタイミングで必要なポジションへ、最適な方に参画いただく。会社のためを考えて最優先事項を常に変え、自らが変革に対峙していく。それが経営者だと思っています。
最後に、これから目指す世界観と、読者へ一言お願いいたします。
子どもを起点とした街づくりに貢献していきたいと思っています。子どもだけではなく、その周りにいる保育者、園長、家族、地域社会までも巻き込んで。場合によっては小児科医や消防士など、町を構成する人たちも関わっていくでしょう。高度成長期以前には当たり前だった地域のあり方や三世代家庭ですが、現在では核家族化が進み、孤立している家庭には重すぎる負担がかかってしまっているということも増えてきています。核家族を無理に壊す必要はありませんが、家族のあり方を再定義して、みんなが優しい気持ちになれる、新しい世界をつくっていきたいんです。やがては、離乳食、教育などのテーラーメードが実現できると思っています。子ども一人ひとりの個性にあわせて、どんなコンテンツもカスタマイズして当てはめていけるはずなのです。我々の事業はソーシャルインパクトと経済性の両方が成立するものであると信じており、世界中にこれを広められたらと思っています。ご一緒いただける方のご参画をお待ちしております。
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