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手のひらサイズのデバイスで胎児心拍をお医者さんと共有、世界中のお母さんに安心な出産を届けるMelody(メロディ)

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急に訪れる陣痛、不安な出産。一方、いつ来るかもわからない陣痛を待つ医療機関。
誰もが安心して出産をしたいが、医療体制にも限界がある。

これを解消しようとしているのが「世界中のお母さんに、安心・安全な出産を!」を企業理念とするメロディ・インターナショナル(以下、メロディ)だ。胎児の心拍を計測する妊婦用IoTデバイスの開発と、そのデータを用いた健康管理プラットフォーム 「Melody i」を運営し、妊婦と医師による遠隔診療を可能にしている。

これまで、胎児の心拍を計るには病院に設置されている大きな機械を使うしかなかった。しかし、これが小さなデバイスになり自宅で計測ができれば、心拍計測のために病院に行く必要もなくなる。
メロディが産婦人科領域での2度目の起業となる、代表取締役の尾形優子(おがた・ゆうこ)氏にお話を伺った。

需要があっても供給が絞られる産婦人科医療

これまでのキャリアと起業のきっかけについてお伺いできますか。

京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻を修了、生涯において2度目の起業となります。1度目は日本初の産婦人科電子カルテの事業化に成功し、Japan Venture Awards 2009 中小企業長官表彰を受賞しました。他の電子カルテと異なり、産婦人科のカルテというのは胎児データも取り扱うため項目が特殊なんですね。やりがいもありつつ、医師の待機状況など、業務の大変さを目の当たりにしました。このままでは、少子化や病院の集約も相まって、産婦人科をやろうという人は減ってきてしまうのではという危機感を感じました。実際に、2006年から14年間で産婦人科施設数は15%減少し、分娩を取り扱う施設となると更に少なくなっています。そのため、遠隔医療も取り入れ、安心できる環境を整えようと、2015年にMelodyを起業しました。こちらでも、ものづくり日本大賞2019をいただいています。

起業してから特に大変だったことを伺えますか。

たくさんあります。まず、モバイル胎児モニタの開発です。起業前から、大きなメーカーが存在するだろうと踏んでいて、そこと提携しようと考えていたのですが、蓋を開けてみるとそもそも医療機器とIoT機器の両方を開発出来るメーカーがありませんでした……そこで、自分たちで開発することにしました。1974年に胎児モニタの原理を発明した原量宏(はら・かずひろ)教授が香川大学にいらっしゃるのですが、その方に顧問になっていただき、技術指導を受けました。また、原先生から、当時鹿児島大学にいらっしゃった(現在は香川大学に在籍)世界初の胎児モニタ開発者である竹内康人教授を紹介いただいたりもしました。こういった方々にお力添えいただいて、モバイル胎児モニタ製作に取り掛かることができました。実際の利用に耐えうるかどうか、タイでプロトタイプの実証実験を行ったのですが、改善が必要な点が大量にあり苦労しました。使いやすさと性能、両方を兼ね備えたIoTデバイスを作るのがこうも大変なのかと、心が折れそうでした。一方で、現地の方の期待を一心に受けていた実感も持てたため、絶対に実現したいと、改善に取り組みました。

プロトタイプを重ねて型が定まってくると、今度は医療機器の認定を取るというハードルがありました。現在は日本での認定も取得していますが、その取得のためにはそもそも業務許可も取る必要があり、ベンチャーには難しいといわれる製造業、製造販売業といったライセンスも取得しました。医療機器認証が取得できたのは2018年5月。なので開発と認証で、製品化まで足かけ3年くらいかかっていますね。

credit: Melody International

資金調達はいかがでしたか。

2016年に日本政策金融公庫から資本性ローンで4,000万円を調達しています。そこからは地元の名士の方々にプレゼンを行い、2018年まではエンジェル投資で資金調達してきました。総務省の「I-Challenge!」にも応募し、総額5,000万円程度の助成金を頂いて開発費用に充てました。このプログラムは、事業化を支援するアクセラレーターとのマッチングもしてくれるというものだったのですが、ここでSARRの松田さんと出会い、後に出資もしていただいています。医療機器認証を取得後最初に出資いただいたのが栖峰投資ワークス。Deeptechやハードウェアのプロダクトは投資家の方でも知見が深い方がまだ少ないこともあり、手あたり次第相談するのではなく、理解のある投資家へのアプローチに徐々に絞っていっています。2020年にはCESのJ-startupブースに出展、その時に知り合ったMonozukuri Venturesにも出資をいただきました。その間、70社近く投資家回りをしたもののなかなかマッチングしづらい時期もありましたが、売上が立つようになってぽつぽつと決まっていきました。直近では京都大学の京都iCAPに1億5,000万円を出資いただいています。

組織風土、採用方針についてお伺いできますか。

我々のミッションは「世界中のお母さんに安心、安全を届ける」ことです。先ずは足元からと思い、社員各自の家庭に対する価値観を大事にするようにしています。ベンチャーというと24時間働いているイメージですが、逆に福利厚生の充実、時短勤務、子どもの送り迎えへの配慮なども積極的に行っています。

グローバル展開についてお伺いできますか。

医療従事者や妊婦さんから求めてもらえるところがあればどこでも行きたいな、と思っています。一方で、妊娠から出産、そして育児というのは、その土地のカルチャーが如実に反映されるライフイベントでもあります。その場所、コミュニティでの文化をしっかり理解し、慎重にローカライズを進めていきたいと考えています。2021年にはタイでFDAライセンスを取得し、チェンマイ大学のスタートアップ向け施設にオフィスも開設し、現地スタッフを1名採用しました。東南アジア向けのMelody iのクラウドサーバーも運用しはじめたので、タイを拠点に東南アジアへ展開を始めます。また、中東を拠点とする事業会社とも提携し、中東・アフリカ諸国での展開を進められればと考えています。

研究職の女性就職が難しかったことが逆に起業につながった

学生時代、どう過ごされたかお伺いできますか。

実験室にこもっていました。机に向かって勉強するというよりも、研究室で研究をしている時間が長かったです。私の専門は原子核。加速器で粒子を飛ばしたりするのですが、その加速器を作ったり、放射線治療に向けた実験をしたり。外科医にもちょっとなりたかった時期もありました。明確な終着点があったというよりも、とにかく何かを創り、生み出されるものを見るというプロセスそのものが面白かったです。この時はノーベル賞を取りたいと思っていました。部活やアルバイトは少々失敗続きで、餃子の王将でアルバイトをしようと挑戦してみたのですが……なかなか続きませんでしたね。

就職活動も一応しました。大学の研究室ではとあるメーカーと一緒に実験をしていたので、その企業への就職を希望していたのですが、当時は女性の採用枠がなくて行けなくて。実験系の会社を探す中で、ガスや電力といったインフラ系は可能性があるかなと思いましたが、そういったところも採用が若干名だったので諦めることにしました。色々と悩んでいたところ、ご縁があって四国へ行くことになり、いくつかの会社に勤めたり、塾の講師をしたりする中で、先述した原先生との出会いがきっかけで1社目の起業に至っています。

プレシード期からシード期のスタートアップへのメッセージをいただけますか。

もし、モノづくりのプレシード期からシード期のプレイヤーの方がいらっしゃるのであれば、私が苦労したことを教えてあげたいです。気になるという方がいらしたらぜひご連絡ください。とにかく言えることは、自分がやろうと思ったことはどんどんやった方がよい、ということ。出資を受けると出資者が色んなことをおっしゃいますが、それに惑わされることなく、これをやりたいということを伸び伸びとやってもらうのがいいと思います。私は運が良く、偶然にも2社起業できていますが、なかなか起業のチャンスがない方もいらっしゃるでしょう。せっかく起業するならば、ぜひ思い切り、そしてコツコツと続けてほしいなと思います。

モノづくりは大変なのですが、実際にプロダクトを使うエンドユーザーの喜ぶ顔を見ることができるのが一番のモチベーションアップの材料です。すべては自分ひとりの力だけではなく、社員、顧問、すべての方の努力の結晶。それが実を結んで誰かのためになったという実感は、利益以前に何ものにも代えがたいと思います。

最後に、これから目指す世界観と、読者へ一言お願いいたします。

スタートアップとして、四国だけでなく、日本中、世界中のお母さんたちへ、安心、安全を届けたいと思っています。我々が作ったプロダクトが優しい世界を創っていく一助になることをうれしく思いますし、必ずデリバリーするという責任感を持って事業を進めていきたいです。また、妊婦さんが自分の状態をより正確に理解できるようになると、もっと自分を守る方法を考えられるようになります。そうすると医師の負担も減り、やがて産婦人科に携わる医師も増え、お互いにバランスの良い世界になっていく。世界を変えて支えていくということに情熱、志を持つ方々にぜひジョインしていただいて、大きなビジョンを描いていけたらと思います。