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「複業の社会実装」で日本の雇用に維新を。先人に学んだ経営哲学で、未来の当たり前をつくり続けるAnother works・大林尚朝氏

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働き方の多様化に注目が集まって久しい。中でも複数の仕事に同時並行で従事する「複業」は、個人の柔軟なキャリア形成を可能にしながら、今後日本各地で深刻化するであろう人手不足の解決策ともなりうる働き方だ。

そんな「複業」 を日本社会に広めるべく、株式会社Another works大林尚朝(おおばやし・なおとも)氏は「複業クラウド」を立ち上げた。今回はそんな大林氏に創業経緯や経営哲学、影響を受けた人物、今後の展望など幅広い話題についてお話いただいた。

「複業」で日本の雇用に維新を起こす

Another worksの事業について、改めて概要を教えてください。

Another worksは「複業」をキーワードに、企業と人材をマッチングするプラットフォーム「複業クラウド」を開発・運営しています。

サービス名に「複業」という言葉を使ったのは、日本では単一的になりがちな仕事との関わり方に、多様な選択肢を提示したかったからです。近年関心の高まる「副業」は、本業収入を補填するための仕事というニュアンスが強いのですが、これからの時代は本業以外の場所で好きな物事に携わって「やりがい」を得たり、目指すキャリアに向けて「経験」を積んだりすることも大切になるはずです。

私たちは日本社会の働き方をアップデートし、複業の社会実装を実現するために、「挑戦する全ての人の機会を最大化する」をミッションに掲げながら日々事業と向き合っています。

「複業」という切り口で創業するに至った経緯について、教えていただけますか?

「複業クラウド」のアイデアを思いついたのは、新卒で入社した株式会社パソナで、業務委託人材に関する新規事業に携わったことが大きなきっかけです。パソナでの新規事業は大手企業をターゲットとしていましたが、私は業務委託・複業人材こそ、中小企業や地方企業の課題解決につながるのではないかと考えていました。

中小・地方企業はスキルのある方を採用したくても、人材会社などに依頼する予算が限られているために、優秀な人材に出会いにくい現状があります。また、そもそも人材を正社員で雇用すれば、ランニングコストが膨らむためリスクも抱えることになります。しかし、業務委託人材なら、スポットでプロジェクトに参加してもらうなどして、自社のリソースの範囲内で優秀な人材と仕事をする機会が持てるのです。

さらに、日本は今後、少子高齢化によってますます働き手が不足します。地方企業や中小企業の抱える課題と、将来必ず訪れる労働人口減少の問題を解決するためには、業務委託人材活用に関する事業をさらに推進する必要がある。そう考えたことで、「複業クラウド」の事業アイデアにたどり着きました。

事業アイデアは、新卒で入社した人材会社で育てたものだったのですね。

そうですね。ただ、パソナでの経験だけではなく、私のこれまでのさまざまな経験が結びついて「複業クラウド」ができたと思っています。

地方企業や中小企業の課題に気づけたのは、私の父が地元・大分県で会社を経営していたからですし、そもそもパソナという会社に入るきっかけは、大学時代に新卒採用向けの人材会社でインターンをしていたからでした。大学で労使関係を学んでいたことも、広い意味では事業アイデアにつながっていると思います。

これまでのご経験が有機的に結びついて、事業アイデアにつながっているということですね。ぜひ、大林さんのご経歴についても教えていただけますか?

私はこれまで、一貫して「起業」に向けたキャリア形成を行ってきました。そもそも起業を志した大きな理由は、経営者である父に影響を受けたからです。自宅に従業員が訪ねてくるような家庭環境の中で、父と従業員のやり取りを目にしたり、父が仕事に向き合う様子を見たりしているうちに、次第にその後ろ姿を追いかけるようになりました。

高校生の時に起業を決意してからは、大学も父の母校である早稲田大学の法学部を選びました。大学で追究したテーマは労使関係。父と従業員の関係性に興味を持ち、学ぼうと思った分野でした。勉強以外の時間は、起業に一歩でも近づこうと、Twitterでご縁をいただいた新卒向けの人材会社でインターンとして働きました。

大学卒業後は、新卒でパソナに入社して新規事業に2年半ほど携わりました。事業アイデアを見つけてからは、知人からいただいたご縁で株式会社ビズリーチに転職。「複業クラウド」の実現に役立つよう、インターネットビジネスを学びたくて入社しましたが、結果としてビジネスモデルのつくり方や仲間の集め方、経営者のあり方など、多くのことを学びました。1年1ヶ月在籍して退職し、2019年5月にAnother worksを創業しました。

大林さんのキャリアは、良いご縁がつながったことも大きなポイントなのですね。要所要所でご縁を得る秘訣は、何かあるのでしょうか。

まず、いろいろな場所に足を運ぶなど、行動し続けることはマストだと思います。ご縁は自らつくるものですから、直感で良いなと思った方には、積極的に声をかけるようにしていますね。あとは、日々徳を積むようにしていることも、ご縁に影響しているかもしれません。

徳を積むとは、どういうことですか?

日ごろから悪いことをしないように、なるべく良いことができるように心がけているんです。例えば先日、街を歩いていたら、インドの方が銀行口座の開設で困っているところに遭遇しました。その後の予定が詰まっていたため、別に見過ごしても良かったのですが、私はスケジュールをすべて調整して、その方の口座開設に使う印鑑づくりから銀行での手続きまですべてお手伝いしました。雨の降る日だったので傘もプレゼントして、交差点でハグをして別れるという、なかなか珍しい一日を過ごしました。

これは少し極端な例かもしれませんが、日々良い行動を心がけて深みのある人間になろうとする中で、自然と引き寄せるご縁もあるのではないかと思います。

起業家・大林尚朝をかたちづくるもの

現在の大林さんをかたちづくったものについて、もう少し詳しく聞かせてください。起業を志したきっかけはお父様だったそうですが、大林さんにとってお父様はどのような存在なのでしょうか?

父は超えるべき存在です。私の人生において、父の影響は本当に大きいです。例えば、私が今心がけている「妻や友人の前で努力を見せないスタンス」は父から学びました。父は経営者として大変なことがいろいろとあったはずなのに、大変な様子や必死に努力する姿は、決して家族の前では見せませんでした。そんな父の姿は、今でも憧れです。

大林さんはこれまで、起業を目指して着実に進んでこられました。目的を確実に達成するために、日ごろ意識していることはありますか?

逆算思考ですね。小学生の時、父から野球を通じて「逆算思考の大切さ」を教わりました。少ない打席で確実に結果を残したいなら、打席に立っていない間に、結果を出すために必要な準備をしておくしかない。野球で身についた逆算思考は、いつしか私の強みになりました。起業後の今も、「複業の社会実装」というゴールに向けて、今どのようなビジネスを仕掛けるべきか、逆算思考でよく考えています。

なるほど。事業を行う上で、大林さんは「複業の社会実装」という明確な世界観と自社の存在意義をとても大切にされていますよね。なぜでしょう?

これらを大切にするようになったのは、幕末の偉人・吉田松陰とビジョナル株式会社の南壮一郎さんの影響です。

吉田松陰は高校時代に家族旅行がきっかけで興味を持ったのですが、彼は江戸時代末期に日本の変革を本気で志し、さまざまなことを学び考え、行動してきました。松陰は松下村塾をつくっただけでなく、欧米のことを知るために、黒船に乗り込もうとしたこともある人なんです。そんな吉田松陰のように、私も本気で日本の課題に向き合いたい。彼の生き様を強く意識して、自分の人生を考えるようにしています。

松陰は20代のときに黒船に乗り込もうと行動して、私も26歳のときに雇用に変革を起こしたいと起業しました。松陰が亡くなったのは29歳のときですが、私は現在、ちょうど29歳。高い志を持って多くの人に影響を与えた吉田松陰のように、私も事を成し遂げられるよう、実現したい社会像と今行うべきことを常に考えています。

影響を受けたもう一人の人物・南壮一郎さんは、ビズリーチを創業された方ですよね。

そうです。私の経営哲学や行動指針は、南さんに影響を受けている部分が多くあります。南さんは事業を行う上で「大義と王道」を大切にしており、間違ったことをせずに王道をいくことを重要視している方です。また、高い志と自社の存在意義をぶらすことなく、そこに合う人材を集めるのが経営者の仕事だと日ごろからおっしゃっていました。南さんのこの哲学を信じて、私も実現したい大義「複業の社会実装」を事あるごとに口にしながら、採用と広報、資金調達に力を入れています。

大林さんは高い視座をお持ちの方だなとも感じたのですが、その点はいかがですか?

経営者として良質な意思決定をするためにも、視座を高く持つことは意識しています。ただ、常に高い視座でいられるかというと、難しさを感じることもあります。そのため、他の人の考えを想像して自分をコントロールすることを心がけています。父ならどう考えるか、南さんや吉田松陰ならどう考えるかと想像することで、目線を入れ替えるのです。これを続けてきたおかげで、最近は視座を自由に行き来できるようになってきました。

覚悟を持ち、本気で「複業の社会実装」を目指せる人を仲間に

採用活動においても、やはり「複業の社会実装」はキーワードになるのでしょうか?

そうですね。弊社のパーパスを採用の軸として、行動指針に沿える方かどうかを選考で見ています。
やはり、「複業の社会実装」にワクワクできる人に仲間となってもらいたいんです。これまでは埋もれてきたさまざまなスキルを持つ人材が、社会のあらゆる場所で活き活きと挑戦できる未来を本気でつくりたいと思えるかどうか。弊社の採用選考では、ここが一つの分かれ目になると考えています。

私は複業クラウドをやる中で、中小・地方企業の課題だけでなく、地方の人材が抱える悩みも解決できたらと思っています。大分県にいる私の親友は、東京でエンジニアになるべく勉強していましたが、家業を継ぐことになり、その夢を諦めてしまいました。でも、複業という選択肢があれば、彼のような人材も長い人生の中でもう一度夢にチャレンジできますよね。

複業が生み出すさまざまな可能性を、社会の当たり前にしたい。そう考える方にこそ、ぜひ弊社に来ていただきたいです。

採用に力を入れている大林さんは、ご自身で人材の見極めも行っているのですか?

いえ、選考のほとんどは、人事担当者と経営陣が担ってくれています。私は最後に、目的に向かって、背中を預けて共に戦える方かどうかを判断している形です。大義を決めて、スタッフが守られる聖域としての行動指針を決めたからこそ、私が選考にすべてコミットしなくても採用が上手くいっているのだと思います。

採用においては仲間に信頼して任せている部分が多いのですね。

そうですね。「権限移譲」という意味でいくと、採用だけでなく、営業や開発、カスタマーサクセスについては、早期にすべての権限移譲を完了させました。

例えば、開発については、迅速に開発・改善を行いたかったため、全権限をCTOに渡しました。機能実装やデザインなどの判断に私は一切関わっていません。私が担うのは、数字の確認と課題解決だけです。

権限移譲に難しさはなかったのでしょうか。

現場の動きに口を出したくなることは多々ありました。そのため、社内で使っているSlackの関連グループから抜けて、そもそも情報が入らないようにしました。営業と開発、カスタマーサクセスについては、個別に相談があったときにだけ対応しています。

ただ、口を出したくなると言っても動きが気になってしまうだけで、現場のメンバーに不安があるわけではないんですよ。弊社の目指すものに共感し、私が「この人なら騙されてもいいや」と思えるような人しか採用していないからこそ、今はそれぞれのセクションを安心して任せていますね。

弊社が今日まで順調に事業を続けてこれたのも、「仲間集め」をうまくできたからかもしれません。

採用において軸がしっかりとしているからこそ、社内には目的意識の高い人が多いのでしょうか?社風についても、教えていただきたいです。

社員には「複業の社会実装」を私と一緒に実現したいと、覚悟を持って来てくださった方が多いと思います。意見闊達で、幕末の志士のような熱気にあふれた会社ですね。堀江貴文さんの『ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく』という本が好きなのですが、その中に書かれている「失敗は部分的成功だ」という話を、社員にもよく伝えています。失敗してもいいから、行動しようとする挑戦志向を大切にしています。

一方で、社員の幸福度も大切にしています。各社員の人となりを知れるよう、社員をゲストに招いて私がパーソナリティを務める「アナザーラジオ」を配信することもあれば、「ハートフルタイム」と称して、バリューに沿った素晴らしい行動をした人に感謝の言葉をSlack上で伝える機会も毎週設けています。また、私自身仕事に専念して家族との時間を削ってしまったことがある経験から、社員には極力残業をしないよう伝えています。残業を1時間するなら、その分を家族とのコミュニケーションに充ててほしい。仕事だけでは、人生の幸福度は上がりません。いかに幸福度高く働けるかという点が、これからの時代は大切になってくると思います。各社員には業務時間内に集中して仕事を頑張り、それ以外の時間は自分たちの幸福のために、時間を使ってほしいです。

「利より信」で社会の信頼を積み重ね、いずれは法改正と海外人材活用を実現したい

起業して大変だったことについて、教えてください。

大変だったのは、これまで一般的ではなかった「複業」という言葉や概念を世の中に広め、当たり前のことになるように事例をつくる過程です。ビジネスの世界でも、メディアでも使われていなかった「複業」の啓蒙活動から始めて、最近になってようやくメディアに取り上げられる機会が増えたと感じています。

社会全体に「複業」を浸透させるなら、民間だけでなく行政の複業人材活用が必須だと感じたため、1年半ほど前から自治体の複業人材活用に向けて、プラットフォームを活用した事例づくりに力を注いできました。今日までに150以上の事例ができましたが、目指す社会の実現に向けて、これは大きな試練だったように思います。

例を重んじる行政の世界で、ハイスピードに事例をつくり続けてこれた理由はどこにあるのでしょうか。

前例主義だからこそ、一つ目の事例づくりに徹底的にこだわったことだと思います。新規事業においては、最初の5事例をいかに高速で、良いものにできるかが鍵だと考えています。だからこそ、自治体での導入1例目・奈良県三宅町の事例では、町長のご自宅まで出向いて、このサービスにかける想いなどを直接ご説明しました。町長の奥様ともお話させていただき、私という人間を信じてもらって、賭けていただいたんです。社運をかけて成功事例をつくりにいったからこそ、三宅町での導入は弊社の代表的な事例になりました。

何か新しいことを始めるとき、最初の事例づくりは経営者自身が手がけなければ駄目だと思います。

行政以外に、今後注力していきたい分野はありますか?

「複業の社会実装」の実現から逆算して、行政のほかに、地方で欠かせないスポーツ興行、感情報酬・経験報酬のニーズが高い教育機関での展開も現在力を入れています。今後はさらに、観光業や寺社仏閣での展開も検討中です。最終的には法律を変え、公務員の副業解禁を実現していきたいと考えています。日本には職業選択の自由がありますから、公務員も自由に副業ができてしかるべきですし、労働力人口が確実に減っていく未来に、自治体においても人手不足は避けて通れません。地方を盛り上げようと思うなら、自治体での民間の複業人材活用や地方自治体同士での人材シェアも必要です。いずれは法律を変え、これまでの常識を覆すレベルの仕事を手掛けられたらと思っています。

国内で基盤ができた後は、いずれ海外の複業人材活用も手がけていきたいです。日本の深刻な人手不足を回避するには、やはり海外人材に解決の糸口があるように思うんです。日本をマーケットとして見ている国の人材が、自国にいながら日本の仕事に携われるような仕組みをつくれたらと構想しています。「複業」の意味を拡張し、「複数の国をまたいで仕事ができる世界」を目指していきたいです。

「複業クラウド」は成約手数料を取らず、人材業界としては破格のサブスクリプションモデルで運営されています。どうしてでしょうか?

サブスクリプションモデルなら、予算の大小にかかわらず、すべての企業が自社の努力次第で採用活動の結果を出せるからです。

そもそも、人材業界の成約手数料は高い。その金額に設定されているロジックも分かりません。手数料が高いために予算を出せる企業が限られてくるにもかかわらず、人材会社は予算のある企業にそのリソースを注力する傾向があります。努力でどうにもならない部分で、採用がうまくいかない状況を放置したくなかったのです。そういった想いでサブスクリプションモデルを採用することに決めました。

また、パソナ時代にカンパニープレジデントから教わった「利より信」を大切にし、目先の利益に走らないと決めていたことも大きいと思います。多くの企業が導入しやすい仕組みをつくることで、長期的な信頼を積み重ねられると考えたからこそ、成約手数料で収益を得ることは避けました。

隣の芝生が青く見える時期は、自分の組織に目を向ける

2021年に第三者割当増資を実施されましたよね。資金調達はいかがでしたか?

苦労は特になく、投資家から見た弊社の姿を知れて楽しかったです。これから資金調達を行うスタートアップは、投資家からいただいた言葉を経営に生かす視点を持つと、楽しみながら資金調達を乗り越えられるのではないでしょうか。

私の場合、資金調達も採用と同じく「仲間集め」の一環だと思っています。弊社と一緒に事業を前に進めてくださる投資家と出会えると、視点や人のつながりを広げることにつながるのではないでしょうか。

プレシード期からシード期のスタートアップへ応援メッセージをいただけますか?

プレシードからシードの時期は、つらいと思います。もし隣の芝生が青く見えたら、あまり焦らずに目の前のことに集中していただきたいです。私も経験しましたが、そのような時期は前を向けていないんですよね。隣が気になるのは、邪道ではなく王道を進んでいるからです。自分と事業、ここまで一緒にやってきてくれた仲間を信じて、自分の組織に目を向けると、視界が良好になってくると思います。次のステージに向かって、ぜひ頑張ってください。

最後に、読者に一言お願いいたします!

スタートアップに転職を検討している方は、そもそもなぜ転職をしたいのかという部分に改めて立ち返っていただきたいです。スタートアップはキラキラして見えるのですが、実際は「沼」です。熱中できる方は、足が抜けられないくらいにハマってしまいます。カオスを楽しみたいという方は、スタートアップで働くことに向いているのではないでしょうか。

また、スタートアップだからこそ、経営者がどういう人か、その会社はどこに向かおうとしているのかをよく見極めてください。経営者の仲間になるという感覚で、企業を見ていくと良いかもしれません。

もし、弊社の目指す「複業の社会実装」に深く共感してくださる方がいたら、ぜひ仲間になっていただけたらと思います。