コロナ禍も開始から2年以上が経過し、たまの出勤が再開されている人もいるだろう。久々の外出で人の多い電車にうんざりする朝、その日を少しだけ楽しみにしてくれるのは、今日のお昼は何を食べよう、ということだったりする。
社食には飽きた。せっかく外に出てきているのに、コンビニというのも何だかつまらない。外食はちょっと高くて、頻繁に行くのは手控えてしまう。そんなときにおすすめなのが、キッチンカーだ。ライブクックで出来立てを食べることができ、メニューもシェフオリジナルのものが多く、新鮮な気持ちを味わえる。
そう言われて考えてみると、キッチンカーは近所のどこかにあった気はするが、何曜日にどんなメニューが展開されているのか、そういえば知らない……そんな人も少なくないのではないだろうか。
時にオフィスの空地、時に近くの広場とさまざまな場所に出現するそれらが、どうやって予約を行って、出店しているか、ご存じだろうか。それらを支えるシステムの一つが、キッチンカーと空きスペースのマッチングプラットフォーム「SHOP STOP」だ。場所のオーナーや、キッチンカー事業者だけでなく、エンドユーザー向けにもアプリを提供しており、近所のキッチンカーを検索することができる。
「SHOP STOP」を運営する株式会社Mellowは一体どうやってこの事業にたどり着き、どんな未来を描いて経営をしているのだろうか。代表の森口 拓也(もりぐち・たくや)氏に伺った。
学生起業の事業を売却後、人に惹かれてキッチンカーの道へ
これまでのキャリアと、起業のきっかけを教えてください。
実は、Mellowの設立の前に別の事業で学生起業をしておりまして。早稲田大学に在学中であった2013年、20歳の時に、ALTR THINK(アルター・シンク)株式会社を設立したのですが、その前には「CALM LUMP(カーム・ランプ)」という音楽レーベルを友達と立ち上げています。音声ファイル共有サービス「SoundCloud(サウンドクラウド)」上でデモ音源を聞き、よいアーティストを発掘してリリースさせるなど、インターネットレーベルのような活動をしていました。元々、学生時代からギターが好きで、自身も作曲をしていたこともあり、音楽に絡んだ何かをやりたいと思っていたのがきっかけでした。作品のリリースにあたっては色んなアプローチを仕掛けていまして、まず写真を用意し、そのイメージにあった楽曲を複数のアーティストがつくるコンピレーション・アルバムを公開するなど、音楽のメディアとしての新しい側面を探求する取り組みを行っていました。
その活動の延長線上で出てきた音楽系アプリのアイデアを元にALTR THINKの立ち上げをしたのですが、趣味の活動の延長線上のような形で起業してしまったため、きちんとした経営体制が出来ておらず、1期目の使途不明金が数十万円存在したり、主要メンバーが音信不通になり、時を同じくして会社の備品がどこかに消えたりと、シード・アーリー期のスタートアップにありがちな苦難は一通り経験した気がします(苦笑)。私もまだ若く、メンバーのモチベーションをアップさせられるような経営者ではなかったなと振り返って思います。ただ、そんな困難を経験する中で、自分はレジリエンスが強くて、何が起こってもめげないタイプであるという自覚が持てました。ALTR THINKでは、音楽レーベルの運営から生まれた「写真と音楽でコミュニケーションを取るアプリ」のアイデアを事業にしていく構想を持っていて、孫 泰蔵(そん・たいぞう)氏が主宰するMOVIDA JAPAN(モビーダ・ジャパン)に採択され、出資を受けました。しかし、先程お話したようなゴタゴタもあり、アプリのリリースに至ることができず別の事業にピボットしています。
音楽と写真でコミュニケーションをとるSNSは今の時代でもニーズはありそうですが、当時はリリースにたどり着けなかったのですね。ピボット後はどういった事業を手がけられたのでしょうか。
私自身、学生時代にインターネットで人と出会う楽しさを感じてきていたこともあり、匿名チャットアプリをいくつか構築しました。「(出会わない系チャット)ひまチャット」と「Hit Me Up!(ヒット・ミー・アップ)」というもので、合わせて500万ダウンロード以上まで成長させています。いわゆる出会い系サービスが多い中で、そういった目的での交流を望んでいない人にも安心して使っていただけるよう、チャットテキストの中でNGワードを検出し、ユーザーを規制する仕組みや、コミュニケーションそのものを楽しんでいただくための仕掛けづくりなど、サービスづくりの楽しさを存分に味わったと思います。ただ、サーバーサイドエンジニアがなかなか集まらず開発に課題を感じていました。そんな中、資金調達をしている段階で、株式会社イグニスからバイアウトのお声がけをいただき、2014年10月に同社へ企業売却しています。その後は、マッチングアプリ「with(ウィズ)」の初期グロースや、BI(ビジネスインテリジェンス)基盤構築、アメリカでのSNS立ち上げなど、いくつかのプロジェクトに従事しました。うまく行かなかったことも含め、とても濃密な経験を約1年半でさせていただきました。
ひまチャット、withいずれもオンラインのコミュニケーションサービスですが、一貫してインターネット上でのマッチングというものへの興味がお強いのでしょうか。
あとで詳しくお話しますが、自身の原体験もあり、そうなのかもしれません。インターネットには、オンラインの世界に関心が深い人たちが先行して入ってきましたが、インターネットが普及するにつれてより幅広い人たちがネットに入ってきて、カルチャーミックスが進んでいると感じています。どの時代においてもサービスの普及に伴うユーザの多様化は常に起こりますが、現代のインターネットビジネスの世界でもダイバーシティやパーソナライズは加速度的に進んでおり、複雑性は増していく。そんな世界で、誰と誰をどうやって効率的にマッチングさせるかを考えるのは面白いと思っています。
なるほど。Mellowはご自身が起業されたというよりは、創業参画とのことですが、ご参画のきっかけをお伺いできますか。
はい、2016年3月に株式会社Mellowの創業に参画しています。当時代表を務めていた柏谷 泰行(かしわや・ひろゆき)氏は元々イグニスのメンバーで、取締役プロデューサーとしてスマホ向けソーシャルゲームアプリを開発し、累計3,000万ダウンロードを記録、2014年に東証マザーズへの上場を経験しています。ALTR THINKを同社に売却する時にファーストコンタクトを取ってくれたのも柏谷さんでした。柏谷さんは、イグニスの次は、人を幸せにする事業を創ろうとMellowを創業し、私はその時に声をかけてもらっています。一方、柏谷さんは創業期の基礎を築かれた後、体調を崩されたことをきっかけに、2018年11月20日付でMellow代表を退任、創業メンバーであり取締役であった石澤 正芳(いしざわ・まさよし)氏と共に、私が共同代表に就任しています。
そのような経緯だったのですね。Mellowに入られる際には、キッチンカー事業に可能性を感じていらっしゃいましたか。
入社時は、キッチンカーの市場に可能性を感じていたというよりは、社風や会社そのもの、創業時のメンバーへの興味が先行したというのが本音です。柏谷さんとは以前からつながりもありましたし、石澤さんも自分とタイプが違って、この人と経営したら面白いなと興味を持ちました。
特に印象的だったのは、柏谷さんから「森口は優秀だし成果も出せるけれど、今の延長線上だと、動かせる人間の種類が広がらない印象がある」と言ってもらったことです。当時、私はひまチャットも育てて、コンシューマ向けITサービスのグロースハックであれば自分はそれなりにやれるという自負がありました。でも柏谷さんから見たらまだまだ視野は狭かった。だから、20代のうちにタイプの違う人たちと一緒に過ごし、意見を交わし、色んな影響を受けた方がいいというアドバイスでした。そもそも、売れるサービスをつくるためにはそれを使うユーザーを深く理解している必要があります。だったら、どんなサービスをつくるにしてもどのみちいろいろなタイプの人を知っていないといけない。だからこそその言葉がすごく腑に落ちて、自分と異なるタイプの人たちが経営しているMellowにも参画してみようと思うようになっていきました。
実際に参画されてみて、キッチンカー業界の可能性についてはどう感じましたか。
現在小売業のリアル店舗市場は150兆円、EC市場は19.3兆円。30年前にはなかったEC市場がこんなに伸び、消費者ニーズに応じてサービスをパーソナライズさせていく流れがある中で、初期・運用コストを抑えてリアルの世界でニーズをマッチングさせていくキッチンカー市場も今後伸びていくだろうと考えました。
キッチンカーの良さは、コンビニとレストランの中間にあること。安く、手軽で、選択肢が多く、出来立てで美味しい。加えてキッチンカーのオーナー自らがシェフであるため、量産品よりもこだわりのある一品。そんなキッチンカーを効率的に提供できる、マッチングから管理まで一貫して行えるサービスをリリースしました。
現在はいろいろと手がけられていますが、初期はキッチンカーのランチがメインコンテンツでしたね。現在のサービス名は「SHOP STOP」ですが、リリース当初は「TLUNCH(トランチ)」という名前でしたね。
はい、TLUNCHはトラックランチから想起した合成語でした。そこから、ランチ用キッチンカー以外の用途でのモビリティ領域にも拡大するようになったこと、モビリティマッチングだけでなく、それが集まった「場」をつくるサービスとしてブランディングしていきたいことから、バスが停まるバス・ストップではなく、ショップ・モビリティが集まって停まるショップ・ストップになってほしいという意味を込めて名称変更に至っています。
日本最大級のキッチンカー・プラットフォームとして、ビルの空きスペースとキッチンカーをマッチングし、約700か所でサービス展開しています。他にも、提携する約1,720店舗のキッチンカーとともに、音楽フェスなどのイベント飲食エリアの運営も手がけます。初期メンバーはIT企業での新規事業担当、飲食店の経営者やキッチンカースペースの運営担当など。2019年当時で20名ほどでした。2019年9月にキッチンカー運営企業であるmobifacを子会社化し、創業4年で月次の流通総額は1億円を突破しています。
自分のnoteにも書いたのですが、Mellowに参画した当初、キッチンカーについては「こんなにもITが活かされておらず、そこに対して挑戦しているスタートアップも知る限り居ない。そんな業界がまだ残っていたのか」と思ったんです。そして市場に触れてみて感じたのは、ただただ、生活や時間が少しでも豊かなものであってほしいと思い合う人たちの優しさ、笑顔、コミュニケーション。これを、ITを使ってもっと広めて行きたいと考えるようになりました。
コロナ禍にめげず大型調達を実現、地方にもモデルを拡大
SHOP STOPの独自性、競合優位性はどこにあるとお考えでしょうか。
3点あると思っています。一つ目が、これまで獲得してきているデータの量です。キッチンカーを介して提供しているミールは月間40万食までになり、その提供地域も東京に留まりません。このデータをキッチンカー事業者の売上げアップにつながるサポートや、最適なマーケット運営といったカスタマーサクセスに活かしています。
二つ目が、スケールし続ける出店場所や出店事業者、膨大な出店実績データ等の情報を集約し、規模の拡大を支えるシステム基盤です。また、キッチンカーを営業する上では、道路交通法、食品衛生法、消防法など複数の法律を守る必要があるのですが、業界拡大に伴って衛生管理に対するレギュレーションや規制は変化していきます。こうしたルールに対応するための書類や期限の管理もシステムに集約しています。このようなコンプライアンス遵守によるスペースオーナー様や地域行政への信頼醸成についてもSHOP STOPが一躍を担っていると考えています。
三つ目は、二つを可能にしているリアルのオペレーションとエンジニアリングの高度なコンセンサスを可能にする組織風土です。オペレーションとエンジニアが同じ組織にいて意思疎通が闊達であり、ステークホルダーとの信頼の積み上げもあります。表面的なサービスリプレイスを思い付いたとしてもそう簡単な業態ではないので、競合にまで成長するのは難しいでしょう。
会社に溜まってきたアセットがあるからこその強みに加え、キッチンカー市場そのものについても勝機があるとお考えなのですね。
人々のニーズが多様化する中で、マッチングのメッシュサイズそのものが小さくなってきていると感じていて。それにあわせて小売のチャネルは次のように変化していくと考えています。一つ目がEC化。不動産の固定コストを排し、オンデマンド発送により余分な在庫コストも削減できます。二つ目は、テナントの細分化と時間貸し。例としては、DtoCブランドの展示ショップ「b8ta(ベータ)」はこのモデルですね。そして三つ目が私たちがやっているモビリティ化です。小さな経済圏をつくって、その中できちんとコミュニケーションをとっていれば成立する環境になってきているなと。
エンドユーザーの購買行動はコロナ禍を通しても大きく変化したのではないかと思いますが、どういった影響がありましたか。
資金調達の話とも絡むので併せてご説明すると、2020年2月にトヨタファイナンシャルサービス、PKSHA SPARX アルゴリズム1号ファンドからシリーズAで5億円を調達しました。コロナ禍が到来したのはその直後でした。
せっかく調達ができたのにステイホームで出社が制限され、オフィス近辺へのキッチンカーの出店も減少しました。その影響で弊社の売上は半分近く減少し、対面での法人営業もできず苦戦。ただ、ここで止まってはいけないと意識を強く持ち、自宅でも美味しい物を食べられるという方向に振り切りました。具体的には、マンションエリアにキッチンカーを派遣する「おうちでTLUNCH」や、withコロナでも安心してちょい飲み忘年会ができる「フードトラックNIGHT MARKET」を展開したりと事業の多様化を続けました。やがて、コロナウイルス感染者数もアップダウンがある中、オフィスへの出社が段階的に復活してきて現状のステータスまで持ち直したという経緯になります。また、コロナ禍中に進めた自治体連携が功を奏し、関西エリアでの事業も伸びてきました。キッチンカーで地方を元気に、というコンセプトで大都市圏以外への拡大を進めていきます。
2022年6月には、引き続きトヨタファイナンシャルサービスをリードとし、PKSHA SPARX アルゴリズム1号ファンドにも参画いただきながら、新たに、損害保険ジャパン、東京海上日動火災、三菱地所の“BRICKS FUND TOKYO”、清水建設、東急不動産ホールディングスの出資ファンド、電通ベンチャーズ2号ファンド、HAKUHODO DY FUTURE DESIGN FUNDを加え、シリーズBで10億円を調達しています。デッドファイナンスも含めると調達総額は22億円となりました。
苦難を乗り越えようとする姿勢に投資家も熱意を見たのかもしれませんね。御社はイベントでの露出も少なくありませんが、広報戦略で大切していることはありますか。
PRチームでの共通理念がありまして、「事業の本質的価値を強化する」ことです。PRに対してはチームのメンバー間でも主義に違いがあって、とにかく露出をして認知を取るべきだという人もいれば、事業の方向性に合致しているものだけにピンポイントに出ていくべきという人もいる。でも主義が違うのは当然のことだと思っていて、だからこそ、動きがぶれないように共通理念を掲げるようにしています。
まだ柏谷さんが代表のころではありますが、2017年9月には、700名以上が参加する経営幹部向け交流イベントICCサミット FUKUOKA 2018内で行われた「STARTUP CATAPULT -スタートアップの登竜門-Supported by IBM BlueHub」で優勝。ここでの人脈は「オンラインに強みを持つ企業×店舗型モビリティ連携」として、食べチョク、オルビス、「Marché Bakery〜人気店のパン、集めました。〜」のPoC実施にも繋がっています。
私が共同代表に就任してからは、2021年、Forbes Asiaの「Forbes 30 Under 30 Asia」(アジアを代表する30歳未満30人) に選出いただきました。がっちりマンデーなどのテレビに出ていた時期もありましたが、今のフェーズでどの層の認知を取りたいかをしっかり認識し、チャネルを選定していくことを大切にしています。
例えば、トレンドに合わせるという意味では今話題のWeb3やNFTについて未来を語ってメディア露出をすれば認知は拡大できるのだとは思いますが、私たちには当然ながらそれは難しいですし、やろうとしていることはどちらかというとモビリティというハードに寄り添った産業の創出。まずはそこをぶらさずに事業を展開していきたいと考えています。
目的意識やゴールがしっかりされているのですね。Mellowで働いてみたいという読者もいるかと思いますが、組織風土や採用について伺えますか。
パーパスは「それぞれの豊かさを、それぞれの想いで。」、昨年8月に改訂したもので、それまでは「人を元気にする」という前提のもと、「愛・信頼・自立」というキーワードを掲げて組織づくりをしていました。営利事業である以上ROIも求められます。事業性と多様性重視のちょうど良いバランスを模索して今のパーパスになりました。
ビジョンは「会いたいお店がやってくる。」、バリューについては、1Value/3Mindとしていまして、「それぞれの強みを発見し、価値にする。」というバリューに対し、学習、成果、対話という三つのマインドを意識してほしいポイントとして言語化しています。
以前、給与を自分で決める取り組みもやっていました。この仕組み自体はとてもユニークな一方で営利事業、株式会社、スタートアップというスキーム上、給与基準の設定はやはり行うべきということで現在はベストな施策ではないと考え廃止しています。全く違うモデルのビジネスをやることがあれば、また試してみたい取り組みの一つではありますね。
採用については拡大フェーズにあるため、この人に入社してもらえると組織が筋肉質になるか、という点に気をつけるようになりました。バリュー、パーパス共感は前提として、入社後にどうパフォーマンスを上げるか言語化してもらっています。経営当初は入社いただいてから、その人の強みを引き出し、組織への溶け込みはOJTで補強していく方針でしたが、最近は両方並行して進めていますね。面談では、私からは「これまでの経験の中で最もパフォーマンスを出せた時のこと、その上で今の自分ならどうするか」を必ず聞くようにしています。
Mellowは、知らない人同士であるキッチンカーのオーナーと、スペースのオーナーを結びつけます。仲介する弊社への信頼がないと成り立ちません。私たちはサービス提供者としてステークホルダーのみなさんと信頼関係を築き、さらに彼らをつないでいかないといけない。だからこそ、理念への共感、具体的なコミットメントに対する決意が必要と考えています。
グローバル展開を含む今後の展開については、どうお考えでしょうか。
まずは国内市場かと思っています。日本全体でみると一極集中構造となっていて、東京都単体のGDPがオランダのそれよりも大きいが、それ以外の都市単位のGDPは伸び悩んでいるという状態です。私は日本という国で生まれ育ち、この国全体にどう恩返しができるかをいつも考えています。都市部以外の経済活性化ができれば、日本全体のGDPの底上げにも繋がります。移動することでコンパクトに商圏が形成できるのが、キッチンカーをはじめとした店舗型モビリティの強み。その強みを活用した地方活性化の支援は続けていきたいなと思っています。
実際に2021年10月には、秋田県で地方創生モデルを開始しています。例えば、地方にイオンモールのような商業施設をいきなりドカンとつくるのではなく、土曜日の夕方だけ郊外の街に10台のモビリティ店舗が訪れるという活性化の仕方があると考えていて。実際にローカルエリアでの実績は昨年より徐々に積み上がっており、現在では全20都道府県にてSHOP STOPプラットフォームの展開が始まっています。併せて、飲食以外の業態にも拡大していきたいと考えています。
これらがひと段落したころにグローバルが見えてくるかと思っています。特に東南アジアは元々屋台文化。国の発展に伴ってシンガポールや上海のように屋台規制が強くなってくると、店舗側の経営手法にも影響が出てきます。この時、キッチンカーで参入する隙ができた時、進出を考えられると良いかなと考えています。
中学生時代にチャットサービスで知った、オンラインで出会う楽しさ
学生時代はどのように過ごされましたか。
神奈川県の相模原市で生まれ、生後7ヶ月で埼玉県の朝霞市へ引越しています。小学校は公立学校に通っており、学校環境は割と普通。今思うと家庭環境がやや特殊だったかもしれません。特に、母は子どもに自律思考を求めるタイプで、私は幼少期から「おまえはどうしたいの?」的な、リクルートの新卒のような質問を受けて育ちました(笑)。自分で考えさせる、意見を述べさせる。それが当たり前で育った分、周囲に合わせることも大切な小学生時代は、むしろクラスメイトと合わせることが難しく、誰とでも仲良くするというよりは意見の合う子たちと一緒にいるタイプでした。いじめられたこともありましたね。中学は受験をして中高一貫の男子校へ。これも実は、小学6年生の時に行くはずだった中学校が気に入らず母親に頼んで受験させてもらいました。
自分で内省し意見にして伝える訓練を子どものころから積んでこられているのですね。部活など勉強以外でしていたことはありますか。
幼少期から空手やサッカーなど、スポーツは結構やってきています。中学校ではハンドボール部に入部。体脂肪率が3%になるレベルでキツかったです(笑)。一方、私が中学生のころは、ガラケーが全盛期でモバゲーが流行り始めた時期。私自身はクラスの中心にいるようなタイプではなかったこともあり、人脈構築の方向は学校外の人に向いていました。
インターネットを通じて、物理的な場所を超えた人とつながっていく楽しさを感じ、このころとても流行った、ロシアの中学生がつくった「チャットルーレット」という、ランダムでビデオチャット相手が選ばれるサービスをよく使っていました。グローバルサービスなのでチャット相手は英語圏の人が多く、私もカタコトの英語を使って、日本のアニメが好きな海外の面白い人との会話を楽しむ日々でした。両親ともにシステム会社勤務で昔から家にパソコンが置いてあり、私も早いうちから自分のパソコンを買ってもらっていたという環境も良かったのかもしれません。ギターもやっていたので、パソコン上で作曲をすることもありました。チャットルーレットでマッチングした相手にギターを演奏してみせるとすごく喜んでくれたことが印象に残っています。取材前半でも少し言及していますが、インターネットサービスで起業したいという気持ちは、こういった原体験からきているかもしれないです。
元々起業をしようという心構えではなくとも、自分が面白いと思ったインターネットを通した交流体験を自分も何かで再現し、同じように誰かに感動してほしいと思ったのかもしれませんね。
そうかもしれません。私は、本当に直前まで起業するつもりはなかったんですよね。母の実家が福岡県にある関係で飛行機を見る機会が多く、高校生まではパイロットになりたいと思っていたくらいで。その後はギターや作曲にハマっていき、飛行機よりは音楽に関心が寄っていきました。大学に進学する時も、結果としては早稲田大学の社会科学部を選びましたが、ギリギリまでサウンドエンジニアリング系の学部への進学も検討していました。音楽と、インターネットと、新しい人脈。相手がロシア語で何を言っているかわからなくても、ギターで弾くオリジナル曲をいいねと言ってくれる。そんな体験がすごく好きだったから、それで何かしたいと思いました。
スポーツもインターネットもされていたとのことですが、現在の休日の過ごし方やリフレッシュ方法は何かありますか。
人と音楽とスポーツと花と緑が好きです。最近気に入っているスポーツはスカッシュ。週1〜2回は練習していて、どうせやるならと大会にも出たりしています。
近所にコートができたのがきっかけで始めたのですが、サイバーエージェント・キャピタルでシニア・ヴァイスプレジデントをしている北尾 崇さんと一緒にプレイをしていたら、隣のコートの人と仲良くなり、それが偶然、株式会社Buffという営業支援のスタートアップの経営者である中内 崇人さんで、その縁からBuffのサービスを自社に導入をしたりと、意図しない行動が人脈につながることもあるんだなと思っています。
プレシード期からシード期のスタートアップへメッセージをいただけますか。
この時代に起業している若い人たちはすごいなと思っています。僕が今20歳だとして、最初の起業アイデアを実現しようとしても、おそらく当時ほどうまくはいかないでしょう。ということは、当時の自分と比べると、今の環境で同じように事業を成長させている人たちの方がレベルが高いわけです。一方、起業しやすくなった変化もあって。起業家がnoteを書き、Twitterで情報発信し、イベントで登壇し、スタートアップのデータベースも存在していて、起業に関する情報量はこの数年で格段に増加しています。それは、インプットの努力さえ怠らなければ、他人の経験からもうまいやり方を学ぶことができるということで、自分でわざわざ失敗しなくてよいので、圧倒的に学習スピードを高めることができます。ある意味、他人の技を模倣しやすくなっている今、競争は激化していくが、起業はしやすくなっているとも言えるでしょう。
では、どんなサービスをつくればいいのかという点ですが、時代は変わっても人の身体的な仕組みは同じ。好きな食べ物は美味しくて、面倒なものは面倒で、友達と一緒にいると楽しくて。根本的に人類が持っているものは変わっていないんです。情報量がただただ肥大化しているだけで、何もしなくても、何かしても、時間は経過する。ちゃんと目の前のことを捉えて、認識して、本質から逃げずに、自分の頭を使って何をするのが良いことなのかを考える。ごくシンプルですが、これはとても大切で、とても難しいことです。日本に生まれている時点で人生ガチャには成功しているようなものなのですから、その恩恵を噛み締めて、しっかりと、やるべきことを積み上げていけばいいのだと思います。
最後に、これからつくりたい世界観と、読者へ一言お願いいたします。
Mellowという単語は直訳の日本語がないのですが、変化に富んだ、豊かな、滑らかな、といったニュアンスの英語です。私が描くのは、Mellowな街と、そこから生まれるMellowな生活。トラックが集まることでできたコミュニティが、集落に、街に、生活にMellowを届けていく。この文化が日本中に広がって行き、ゆくゆくは海外にも。
そんな大きい絵を描きながらも、日々の経営では、やれバーンレートだ、テイクレートだ、と悪戦苦闘しています。それでも私たちのサービスを誇りに思っています。SHOP STOPのモデルは、低コストの開業を支援し、小回りの効く状態で、望む人のところへさまざまなMellowを届けることを実現しています。一見して不動産業に見えながらも、個人の開業支援を応援しながら街を豊かにしていく、とても合理的なシステムです。私たちと同じようにMellowを広めていきたいと思える人に、ぜひ参画いただければ嬉しいです。
注目記事
新着記事
防災テックスタートアップカンファレンス2024、注目の登壇者決定
大義と急成長の両立。世界No.1のクライメートテックへ駆け上がるアスエネが創業4年半でシリーズCを達成し、最短で時価総額1兆円を目指す理由と成長戦略 Supported by アスエネ
日本のスタートアップ環境に本当に必要なものとは?スタートアップスタジオ協会・佐々木喜徳氏と考える
Antler Cohort Programで急成長の5社が集結!日本初となる「Antler Japan DEMO DAY 2024」の模様をお届け
世界を目指す学生が集結!Takeoff Tokyo 2024 VOLUNTEER TRAINING DAYの模様をお届け