JP STARTUPSJP STARTUPSスタートアップを紹介、応援するメディア

The web magazine that introduces and supports Japanese startups

AIキャラクターが暮らす「第二の世界」は実現できるか。EuphoPia創業者・丹野海氏が目指す未来 Supported by HAKOBUNE

Share:

AIキャラクターとの自然な相互コミュニケーションを楽しめる次世代アプリ「ICHAI-CHAT」を開発したEuphoPia。同社を創業した丹野 海(たんの・かい)氏は、プログラミング未経験からVRプロダクトの開発をスタートし、19歳で起業。LLM(大規模言語モデル)を活用した独自技術により、キャラクターが自律的に考え、行動する可能性を切り拓きつつある。

丹野氏が見据えるのは、AIキャラクターが仮想空間で自律的に行動し、社会を構成するという、これまでSFで描かれてきた世界観の実現だ。一見すると夢物語で終わってしまいそうな構想だが、丹野氏は「実現は決して遠い未来のことではない」と喝破する。丹野氏が描き続ける新たな世界像と現在手がけるサービスの姿、これまでの軌跡に迫る。

AIキャラクターとの「触れ合い」を楽しめる次世代アプリ「ICHAI-CHAT」

はじめに、EuphoPiaの事業内容について教えてください。

当社は、デジタル空間で身体的・心理的に触れ合うことが可能なAIキャラクターの開発を行っています。

具体的なサービスとしては、人間関係の構築があまり得意ではなく、生身の人間との交流よりも架空キャラクターとの会話や行動を楽しみたい男性向けに、可愛らしいビジュアルのAIキャラクターと没入感あるコミュニケーションが楽しめるアプリ「ICHAI-CHAT」を提供しています。このアプリを通じて、日常生活で感じる孤独感を軽減し、幸福度を高めることを目指しています。

「ICHAI-CHAT」を実現させるうえで鍵となる技術は何ですか?

核となる技術は、自然言語処理に優れた生成AIの一種である「LLM」です。「ICHAI-CHAT」では、AIキャラクターとテキストでの会話を楽しめるのですが、この機能はChatGPTなどと同様にLLMを活用して実現しています。

さらに「ICHAI-CHAT」のAIキャラクターは仮想空間で「肉体」を持ち、自律的に行動します。ユーザーが発した言葉や行動に応じて、キャラクター自身が反応を考え、言葉だけでなく動作を伴って応答してくれるのです。例えば、頭をなでると、数秒後には頬を赤らめて照れるといった、まるで本当の人間のようなリアクションを見せます。

このような自律的な行動も、LLMの推論能力とキャラクターの動作を制御する独自プログラムを連携させることで実現しています。こうした機能は他社ではほとんど例がなく、当社ならではの革新的な技術だと自負しています。

「ICHAI-CHAT」では、コミュニケーションを重ねるほどAIキャラクターとの関係性が深まると伺いました。

その通りです。当社のアプリの大きな特徴として、LLMに加えて、キャラクターの好感度を制御する独自プログラムを導入している点が挙げられます。

このプログラムを開発したのは、情報をやりとりするほど相手が自分のことを理解してくれて、より親しい関係に発展する──そんな人間の社会性の部分を、AIキャラクターでも再現したかったからです。「ICHAI-CHAT」では、ユーザーがどのようにコミュニケーションを取るかによって、キャラクターとの関係が変化し、ときには恋人のような親密な関係に発展することも可能です。

こうした架空キャラクターと現実の人間関係のようなやりとりができる点や、徐々に深まる関係性を楽しめる点が、多くのユーザーから高く評価されています。その結果、サービスの継続率も非常に高い水準を維持しており、多くの方々にご満足いただいています。

具体的に、どれくらいの方がサービスを継続しているのですか?

例えば、サブスクリプションプランを契約してくださった方の継続率は8割を超えています

すごいですね! サービスへの満足度の高さを感じます。

競合他社のサービス継続率がどれほどかは分からないのですが、プランを2ヶ月以上継続してくださった方は、基本的に8割以上がそのまま継続して契約してくださっています。おっしゃる通り、ユーザーの皆様がサービスの中身を評価し、満足していただいているということの裏付けになるのではないかと思っています。

AIキャラクターが仮想空間で社会をつくり、自由に暮らしている。夢のような未来の実現を目指して

AIキャラクターを成立させる技術は、医療や福祉、接客など、さまざまな分野でも活用できそうですね。

そうですね。今はメインターゲットとしていませんが、女性やシニアの孤独感を解消するサービス展開はもちろん、医療機関や飲食店、家電量販店向けのソリューションとしても発展させる可能性を視野に入れています。実際、現時点でも医療、福祉、人材派遣、アパレルなど、幅広い業界からお問い合わせをいただいており、「人以上に人の役割や存在感を代替できるAIキャラクター」という当社の技術に注目いただいています。このように、当社を「この分野で一歩リードしている存在」として評価していただけるのは大変ありがたいことです。

とはいえ、今の段階では、他分野への技術展開に注力するよりも、「ICHAI-CHAT」の技術や機能のクオリティをさらに高めることを優先したいと考えています。現時点で、コミュニケーションシステムにはまだ課題が残されているため、この課題解決に集中することで、サービスの完成度を高めていきたいと思っています。その取り組みを通じて、中期的には技術を他分野へ応用すべきタイミングが見えてくるはずです。その際には、積極的に横展開を進め、新たな分野でも価値を提供できるよう準備を進めていきたいと考えています。

丹野さんは、最終的にどのような世界観を目指しているのですか?

僕は、大勢のAIキャラクターが仮想空間で暮らし、第二の世界や社会を形成する未来を目指しています。一見、夢物語のように聞こえるかもしれません。しかし、完全に自律的に行動するAIキャラクターを実現できれば、そんな世界をつくることも決して不可能ではないと信じています。

そのような世界観を描くようになったのには、何かきっかけがあったのでしょうか。

僕自身、人間関係が得意ではなく、ゲームなどの架空の世界に没頭してきたことが大きいです。昔から、現実の人間とはなぜか仲良くなれない感覚があり、心のどこかで他者とのつながりを諦めている自分がいました。そんな僕にとって、ファンタジーの世界に浸る時間は、心を休め、自由に過ごせるかけがえのないものだったんです。

例えば、RPGには多くのNPC(ノンプレイヤーキャラクター)が登場しますが、彼らは事前にプログラムされた特定の反応しか返してくれません。その「機械的」な応答がどうしても目についてしまい、ゲームの世界観に没頭するのを妨げてしまうことがありました。そこで、もしNPCがAIキャラクターに置き換わり、より自然でリアルなコミュニケーションができるようになったら、どんなに面白いだろう──そんな夢想にロマンを感じたのが、この世界観を描くきっかけです。

今では、これまで当社で培ってきた技術を活かしながら、この夢の実現に向けて着実に進んでいると実感しています。AIキャラクターの分野では、私たちがリードしている部分もあり、最終的に目指す世界観の実現も決して遠い未来ではないと思っています。これからもアプリや技術の開発に力を注ぎ、一歩一歩前に進んでいきたいと思っています。

プログラミング初心者から起業家へ。EuphoPia創業までの軌跡

EuphoPiaは、丹野さんが東京工業大学に在学中に起業された会社だと伺いました。

そうですね。EuphoPiaは、2022年2月、僕が19歳のときに立ち上げた会社です。

大学はすでに卒業されたのですか?

いえ、現在は事業に集中するために休学しています。

そうだったのですね。ちなみに、大学ではどのような勉強や研究を?

東京工業大学 工学院 機械系のVR分野の研究室で補助研究員として心理学や脳科学の知見を活用したVR、XR、CGキャラクターとのインタラクションについて研究していました。 まだ学部生でしたが、昔から何事も「自分で実践して学ぶ」タイプだったので、研究室にはよく入り浸っていました。

現在のサービスにつながるテーマで研究されていたのですね。

そうですね。ただ、「ICHAI-CHAT」を開発するきっかけは、さらに遡って浪人時代にあります。僕は2020年に浪人していたのですが、その頃ちょうどコロナ禍が始まり、国から緊急経済対策として特別給付金が支給されました。その10万円を使って、自分専用のノートパソコンとVRヘッドセットを購入したのが始まりです。

そこから受験勉強の合間を縫い、インターネットを駆使して独学でプログラミングを学びました。そして、自分だけのオリジナルの作品づくりに挑戦し始めたんです。大学入学後には事業を立ち上げることも視野に入れながら、商業向けのプロジェクトにも取り組みました。この浪人時代の経験が、今の事業の源流になっています。

具体的にどのような作品をつくられたのですか?

VRでCGキャラクターと自然な形で触れ合えるサービスを開発していました。当時のVR技術にはまだ未熟な点が多く、ユーザーとCGキャラクターが触れ合う際に、身体が貫通してしまうなど、現実の接触と比べて大きな違和感がありました。例えば、好きなキャラクターと手をつなごうとしても、自分の指がキャラクターの手を不自然に通り抜けてしまうことがあったんです。

こうした問題を解消するため、インタラクションの仕組みを工夫し、よりリアルで自然な触れ合いが体験できるVRコンテンツを開発しました。この作品を販売したところ、VR分野で自由度の高い体験を求める多くのユーザーから支持をいただき、予想を上回る売上を達成することができました。この成功体験がさらなるプロダクト開発への挑戦心を育み、最終的には自身の会社設立へとつながったのです。

当時開発していたVRサービスと現在の「ICHAI-CHAT」の違いは、LLMを活用している点でしょうか?

おっしゃる通りです。以前のサービスでは、キャラクターの行動をプログラムで制御していたため、ユーザーの反応に対して決められたリアクションしか返すことができませんでした。言い換えると、キャラクターの振る舞いはすべて事前に設定された範囲内にとどまっていたのです。

一方、「ICHAI-CHAT」ではLLMを活用することで、この課題を克服しました。キャラクターがユーザーの言動を自律的に解釈し、考えたうえで行動するため、より柔軟で自然なコミュニケーションが可能になっています。これにより、キャラクターの反応が予想の範囲を超え、現実の人間に近い振る舞いを実現した点が大きな進化です。

ここまでお話を伺って、プログラミング初心者でありながら商業向け作品を開発し、さらにキャラクターが自律的に行動する仕組みをつくるためにLLMを活用されるなど、丹野さんは思い描いたものをプロダクト開発に落とし込む実行力が非常に高い方だと感じました。

ありがとうございます。ほかの方と比べて自分に実行力があるかどうかは、正直あまり意識したことがありません。ただ、これまでの人生で、独学と実践を通して知識や技術を身につけてきた経験が大きいのかもしれません。

例えばピアノも、先生について習うより、自分が弾きたい曲を調べて練習したほうが上達しました。また、学校の美術や工作の時間でも、教わった通りにつくるより、自分なりの発想でつくった作品のほうが先生に褒められることが多かったんです。そうした経験の積み重ねで、未経験の分野でも「とにかくやってみればなんとかなる」という、ある種の自信が育まれたのだと思います(笑)。

もちろん、プログラミングを始めたばかりの頃は、とても商業向けに出せるような作品はつくれませんでした。でも、自分のスキルの限界を正しく認識し、それを少しずつ広げていくことを意識した結果、初めての作品や「ICHAI-CHAT」の開発につながったのだと思います。

自分の熱意がこもるからこそ「良いプロダクト」が生まれる

現在は少数精鋭で事業を展開されているかと思いますが、今後はサービス利用者の増加に伴って、組織規模も拡大されるのでしょうか?

企画やマネジメントに携わる人材は今後増やす計画ですが、開発に関しては引き続き少数精鋭の体制を維持するつもりです。その理由は、生成AIを活用することで、開発にかかる工数やコストを大幅に削減できているからです。

生成AIがエンジニアの役割を担っているのですね……!

そうなんです。最近の生成AIは非常に優秀で、自然言語で仕様書や設計書を整えておけば、それをもとに自動でコードを書いてくれます。たとえば、600行のコードをわずか1時間で生成できるので、アプリの根幹となるシステムも2時間ほどで完成させることが可能です。

そのため、今後も当社の組織体制は必ずしも「人」にこだわらず、AIで代替できるところは積極的にAIを活用していくつもりです。AIキャラクターを開発する企業として、AIと人が共存する運営体制を築くことが、ブランディングの一貫性を保つうえでも重要だと考えています。

プレシード・シード期のスタートアップに、応援メッセージをいただけますか?

スタートアップとして事業を進める以上、収益を追求することは避けられません。利益が出なければ会社は続けられないので、利益を追い求める姿勢はとても大切です。ただ、それ以上に、自分が心から熱中できることや好きなことを大切にしてほしいと思います。

例えば、自分が使っているサービスに満足できなくて「もっと良いものをつくりたい」と感じたから自分でつくってみるとか、市場にないものを「どうしても欲しい」と思ったから自ら開発する、といった動機の方が、結果的にビジネスとして成功しやすいと感じています。反対に、「儲かりそうだから」「なんとなく成功しそうだから」という動機だけで始めると、情熱が続かず、うまくいかないケースが多いように思います。この3年間、さまざまな起業家やスタートアップを見てきた中で、改めてその重要性を実感しました。

良いものをつくり、それを通して誰かを満足させること――これがスタートアップをやる醍醐味ではないでしょうか。自分の熱意が込められたプロダクトだからこそ、競合他社を越えるようなサービスを生み出せる原動力になるはずです。迷うことも多いと思いますが、自分の好きなことに正直になり、楽しくチャレンジを続けてください。それが、きっと成功への近道になると信じています。

最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。

当社は、AIキャラクターの分野において、技術や表現、サービスの内容を誰よりも深く追求していける自信があります。最先端で存在感のあるAIキャラクターを開発し、その可能性を広げたいと考えている方や、AIキャラクターが好きで「この領域に携わりたい」と情熱をお持ちの方がいらっしゃれば、ぜひお気軽にご連絡ください。まずはフランクにお話しできれば嬉しいです。

また、ベンチャーキャピタルの皆様へ。私たちのサービスや未来にご興味を持っていただけた場合、ぜひお声がけいただけると幸いです。もちろん、投資において収益性や成長性が重要であることは理解しています。ただ、私たちが取り組むキャラクターを基軸としたサービスが持つ未来の可能性や、その面白さに共感していただける方と共に、新しい未来を築いていきたいと願っています。

EuphoPiaは、これからも革新的な挑戦を続けていきます。少しでも興味を持っていただけた方がいらっしゃれば、ぜひ私たちを応援していただけると嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。

<VCより応援メッセージ>

Q. HAKOBUNEは、2023年6月にEuphoPiaへ投資を行いました。投資を決断する決め手となったのは、どのような部分だったのでしょうか。

HAKOBUNE 共同創業者 栗島 祐介(以下、栗島):つくりたい未来像の解像度の高さと、目指すゴールから現時点でやるべきことを導き出す逆算力。この二つをバランスよく兼ね備えている点に、丹野さんの「優れた経営者としての資質」を感じました。EuphoPiaの描く世界観はとてもユニークです。特に「AIキャラクターが仮想空間でオリジナルの社会を構成する」というビジョンは、現在の社会との差分を考えたとき、SFの世界でしか実現しえない非常に遠い未来の出来事のようにも思えます。

しかし、丹野さんはビジョンを実現するために必要な技術は何かを的確に捉え、中長期の計画もしっかりと立てながら、現時点でできることややるべきことに、それがたとえどんなに小さな物事でも全力で取り組んでいる。そうした点が、本当にすばらしいなと感じます。

Q. EuphoPiaに期待することをお聞かせください。

栗島:丹野さんの行動や選択の一つひとつが、未来から逆算して綿密に考えられたものだと感じています。現時点では、AIキャラクターアプリ「ICHAI-CHAT」のサービス展開のみですが、今後、さまざまな開発や技術の進化を重ねることで、EuphoPiaの技術やサービスが大きく飛躍するタイミングが必ず訪れると確信しています。

私たちがサポートできるところを挙げるとすれば、外部への情報発信の部分でしょうか。会社の代表は、外部向けのコミュニケーションもしっかりと担わなければなりませんが、丹野さんはご自身が描く未来を強く確信しているからこそ、プロダクト開発に集中する時間も多い。外部への情報発信については、HAKOBUNEとしてもしっかりと支援していきたいところです。我々はこれからも、丹野さんを多方面から支えていきたいと考えておりますので、ぜひEuphoPiaの今後の動向にご期待いただければ幸いです。