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カブトムシで地球を救う。環境スタートアップ大賞で入賞したTOMUSHIが挑むユニークな事業とは Supported by 一般社団法人産業環境管理協会

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3月12日、環境省が主催する『令和5年度環境スタートアップ大賞』の授賞式が開催された。2023年度は、株式会社Gaia Visionが「環境スタートアップ大臣賞」を、株式会社TOMUSHIが「環境スタートアップ事業構想賞」を受賞。今回、JP Startupsでは、環境スタートアップ大賞の受賞企業に対してインタビューを実施した。

本稿では、カブトムシの力で有機廃棄物の処理を実現する株式会社TOMUSHI 代表の石田 陽佑(いしだ・ようすけ)氏を取材。世界的に見ても非常にユニークな事業内容の全貌と、創業経緯を伺った。

「カブトムシのすばらしさを世界中の人に知ってもらいたい」と語る石田氏の瞳には昆虫少年だったころの光が宿っており、カブトムシへの深い愛情と圧倒的な熱量があるからこそ実現できた事業なのかもしれないと感じた。

カブトムシで資源の循環を実現。TOMUSHIの事業内容とは

改めて、TOMUSHIの事業内容を教えてください。

弊社は、「カブトムシを活用した資源の循環」に挑む企業です。具体的には、農業や畜産業などで発生する有機廃棄物をカブトムシに食べさせ、フンを肥料として利用しています。また、育てたカブトムシの幼虫や成虫をペットとして販売したり、昆虫食や魚の飼料、薬などの新たな原材料として活用する事業も手がけています。

ビジネスモデルについても、教えていただけますか?

イメージとしては、農業協同組合のビジネスモデルに近いかもしれません。我々がすべてのカブトムシを育てているのではなく、農家に虫と生育ノウハウを提供することで、各農家で発生する有機廃棄物を処理しながら、カブトムシそのものを新たな収益源の一つとして育ててもらっています。成虫まで育ったカブトムシは、弊社が販路を確保してペットや原材料として販売。その収益の7割を農家に還元しています。

Credit:株式会社TOMUSHI

これまで処分に困っていた有機廃棄物を、新たな収益源に変えることができるのですね。環境負荷も抑えられ、農家にとっては一石二鳥のビジネスモデルだと感じました。

そうなんです。初期のころは自社ですべてのカブトムシを育てていたのですが、有機廃棄物に関連した法規制の関係と、CO2排出量削減の観点から、弊社に廃棄物を一極集中させるモデルは早々に手放しました。我々がノウハウを提供し、廃棄物が出た場所で資源の循環に取り組むビジネスモデルとすることで、この事業を全国の農家へと広げていければと考えています。

具体的にどのような有機廃棄物を処理できるのですか?

きのこ農家から出る菌床のゴミや、放置竹林の竹などをカブトムシに食べさせることが可能です。

Credit:株式会社TOMUSHI

カブトムシは、意外と何でも食べることができるのですね。

一個体が何でも食べるのではなく、用途ごとに改良を加えたカブトムシでそれぞれの有機廃棄物を処理しています。例えば、放置竹林を処理するカブトムシであれば、竹林に生息しているカブトムシをサンプリングし、生育の早い個体と掛け合わせることで、一定の量とスピードで竹を処理することが可能なカブトムシ群が出来上がります。

この「生育の速い種類」も弊社で独自に開発しており、改良したカブトムシは、3倍ほどの短期間で成長します。

成長速度の早いカブトムシは、どのように改良したのでしょうか。遺伝子操作など、独自技術を用いたのですか?

遺伝子組み換えのような人工的な品種改良は行っていません。弊社ではこれまで、天然のカブトムシを何度も掛け合わせることで、目的とする特徴を持った品種を生み出す「累代」と呼ばれる方法で改良を加えてきました。

生育スピードの速いカブトムシも、同じ方法で改良したものです。寒い地域に住み、3ヶ月ほどで成長する個体をサンプリングし、それを掛け合わせていくことで成長速度の速いカブトムシを実現させることができました。

「カブトムシ好き」が多い日本だからこそ実現できる事業

競合他社はいますか?

いえ、世界を見渡してみても、カブトムシを使って資源の循環に挑戦する環境系スタートアップには出会ったことがありません。この先も、特に海外では、弊社と直接競合する企業は出てきづらいのではないかと考えています。

どうしてですか?

文化的な背景やワシントン条約(CITES)の影響があるからです。まず、日本は昔から「カブトムシ好き」がたくさんいる社会でした。それゆえ、ワシントン条約などの動植物を保護する国際規制が成立する前に、多くのカブトムシファンが世界中から珍しいカブトムシを日本に持ち帰り、国内で育てていたんです。

一国の中で多様なカブトムシを入手できる日本は、世界でも非常に珍しい環境だと思います。弊社のような品種改良を実現できるのは、多様なカブトムシが存在している日本だからこそ。他国ではそもそも掛け合わせる種類が少ないために、目的を達成できるような品種改良が難しく、カブトムシを対象とした事業を創出しようとは思いづらいのです。

石田さんはなぜ、カブトムシをテーマとした事業を立ち上げたのでしょうか。

TOMUSHIは双子の兄と立ち上げた会社なのですが、二人とも物心ついたときから、アーケードゲームの『甲虫王者ムシキング』の影響を受けてカブトムシが大好きで。カブトムシのすばらしさを世界中の人に知ってもらいたくて、事業を立ち上げました。

Credit:株式会社TOMUSHI

カブトムシのどのようなところが好きなのですか?

この質問、いろいろな方からよく聞かれるのですが、正直に言うとカブトムシの好きなところは言語化できません。カブトムシを好きではない方の気持ちが分からなくて……とにかくカッコよくて、大好きなんです。弊社の社名も「カブトムシ」にするくらいですから。

社名は「TOMUSHI(トムシ)」ですよね?

株式会社を略して読むと(株)TOMUSHI、つまり「カブトムシ」になります。

なるほど!石田さんご兄弟のカブトムシ愛の深さが伝わってきました(笑)。

大学の学費をつぎ込んで起業するも、創業チームの崩壊で失敗に

TOMUSHIを起業するまでの道のりもお聞きしたいのですが、石田さんはもともと起業志向を持っていたタイプでしたか?

いつか自分で事業をやり、身を立てていかなければならないという思いは、ずっと持っていましたね。

というのも、僕は中学2年生のときに家出をして以来、母方の祖父母と養子縁組をして「石田家」の人間として育ってきました。石田家は、もともと初代が事業を、2代目が政治家をしていた家系で。僕の祖父のころにはその影響力や財力が薄れつつあったものの、それでも代々の土地を受け継ぎながら家を守ってきました。

僕は養子として途中から石田家に入った身ですが、その脈々とつながれてきたバトンを受け取って、家を初代のころのように再興させたいと感じました。また、僕の中に石田の血も流れているのなら、自分にも先祖のように事業ができるのではないかと思ったんです。そのため、いずれは自分で会社を立ち上げようと、心の中で決意していました。

その思いを持ちながら、高校、大学と進学されたのですか?

いえ、実は高校時代も反抗期がひどく、素行が良くなかったこともあり、高校は1年で退学しています。もともと祖父母と秋田で暮らしていましたが、高校は青森県の学校に進学したため、当時は青森県で一人暮らしをしていて。退学後は、周囲の人から紹介してもらった青森県のタイル施工会社に就職しました。

そういえば、この会社で社長の姿を間近で見られたことも、自分で事業をやることに意識が向くきっかけの一つになったかもしれません。社長は本当に面倒見が良く、朝起きられない僕のことを毎日家まで迎えに来てくださるような方でした。そんな社長の後ろ姿を見ながら、会社経営は大変そうだけれど、とても楽しそうでもあると思えたのは本当に良い経験だったと思います。

でも、残念ながら、その会社でアレルギーを発症してしまい、タイル施工の仕事はできなくなってしまいました。そのため、再び勉強を開始して、猛勉強の末に青山学院大学に入学。そのまま大学で勉強するはずだったのですが、兄と兄の仕事仲間、僕の友人と意気投合して会社を立ち上げることになりました。そこで、僕は大学を休学。祖父母からもらった4年分の学費をすべて資本金につぎ込んで、Web・SNSマーケティング事業を行う会社を設立しました。

TOMUSHIの前にも、一度起業されていたのですね。なぜ、Web・SNSマーケティングの事業を立ち上げたのですか?

兄が合同会社DMM.comの経営企画室で仕事をしていたこと、私自身も実は大学の勉強に身が入らず、個人でIT起業について学んでいたことから、IT関係の事業をやろうと思った次第です。

でも、この会社は組織構成の問題で結局失敗に終わってしまいました。実は創業時、周囲の方々から「うまくいかないからやめなさい」と止められていたにも関わらず、創業メンバー5名で会社の株式を等しく分けてしまったんです。これがかなりの原因となって、方向性がバラバラになってしまい、会社もダメになってしまいました。

大学の学費を資本金につぎ込んだ会社が失敗してしまったとあっては、その後の身の振り方に関しても相当悩まれたのでは……?

このときばかりは、さすがに祖父母に対しても申し訳なさが募りましたね……。せっかく良い大学に入れたのに、事業に失敗して学費をすべて溶かし、卒業もせずに地元に帰りましたから、祖母も泣いていました。

そんな祖父母に「もう一度学費を出してくれ」と言うわけにもいきません。大学に戻る道は断ちました。

帰省後のモラトリアム期間で行った「虫捕り」が再起業のきっかけに

そこからどのような経緯を経て、TOMUSHIの創業に至るのでしょうか。

秋田に帰省後、しばらくはお付き合いのあった会社などから受託の仕事をいただくなどして稼ぎつつ、まるで夏休みのような自由気ままな生活を兄と二人で過ごしていました。そんな中、夜中に仕事をしていた際、ふと気分転換がしたくなって「虫を捕りに行こう」と思い立ったんです。

兄と二人で車を走らせ、山の中で雄のカブトムシを捕ろうと頑張ったのですが、1週間ほど昆虫採集を続けても全然捕まえることができませんでした。そこで、悔しさを紛らわすために、オークションサイトでカブトムシを買うことに。せっかく買うのなら、昔から飼いたいと憧れていたヘラクレスオオカブトにしようと決めて、兄と共に1匹35万円のカブトムシを入札したんです。

カブトムシ1匹で35万円とは……!

クレジットカードを貸してくれた祖母も、同じように驚いていました(笑)。 でも、このときカブトムシを手に入れたことが、TOMUSHIの事業につながっていきます。

僕らはカブトムシが大好きでしたから、自分たちで育てていく中で、どんどん個体数を増やすことができたのですね。兄弟二人では育てきることができないほど増えてしまったことから、販売に手を出してみたところ、35万円で手に入れたカブトムシが半年弱ほどで数百万円の売上になったんです。

好きなことで稼げるのなら、これほど幸せなことはありません。僕ら兄弟は、カブトムシの飼育事業を立ち上げようと、祖父母に先祖代々の土地を売って事業資金をつくってもらい、TOMUSHIを設立しました。

先ほども少しお話しましたが、石田家が大切にしてきたものをお金に変えて、それを事業資金として使わせてもらったからこそ、僕は簡単に諦めてTOMUSHIを失敗させることができません。ここで踏ん張って、頑張らなければという気持ちが、心の奥底にずっとあります。

なるほど……。貴社は最初、カブトムシをペットとして販売するところから事業がスタートしたのですね。

そうなんです。現在の有機廃棄物をカブトムシに食べさせて資源を循環させる事業は、カブトムシの販売事業を通じて秋田銀行とつながった結果、実現したものです。

ビジネスコンテストで優勝し、銀行からいただいた融資を元手にさまざまな種類のカブトムシの飼育に挑戦したことがあったのですが、餌に害虫が発生してしまい、資金が一瞬にして水の泡になってしまいました。もう会社をやっていけないかもしれないと思ったとき、起死回生を目指す唯一の手段として目を付けたのが、有機廃棄物を餌とする飼育方法でした。これならばなんとか会社を持ち直せるかもしれないと銀行に相談したところ、担当者が銀行のネットワークを総動員して、有機廃棄物を無償で譲ってくれる会社を多数見つけてきてくださいました。

そのとき送られてきた廃棄物をもとに実験と研究を繰り返して出来上がったのが、現在のTOMUSHIの事業です。

カブトムシで「地球にやさしい未来」を実現したい

3月12日には、環境省が主催する『令和5年度環境スタートアップ大賞』で「2023年度 環境スタートアップ事業構想賞」を受賞されました。改めて、受賞時の気持ちをお聞かせください。

2023年は外部発信を強化する1年にしようと思っていたため、さまざまなビジネスコンテストに応募していました。そのうちのほとんどのコンテストで優勝をいただいていたのですが、今回は官公庁が主催するコンテストで初めて受賞できたということもあり、カブトムシ冥利に尽きるというか、やはり喜びは格別でした。公的な機関からも僕らの事業にお墨付きをいただけたことで、世の中にカブトムシの魅力が少しずつ広まっているのかなと期待しています。

貴社は2022年度も同賞に応募されていたと伺いました。今回受賞に至ったポイントはどこにあると考えますか?

昨年に比べて実績をしっかりと積み重ねられていたことが、大きかったのではないでしょうか。今年は昨年以上に技術を成熟させていきましたし、自治体との連携で地方創生につながるようなビジネスモデルの構築にも力を入れてきました。特に福岡県大木町では、町の予算もいただきながら、カブトムシ好きに刺さる観光メニューをつくったり、カブトムシ好きが仕事に就ける場所をつくり、移住を促進したりと、さまざまな新しい取り組みに着手しています。

そうした取り組みを評価していただき、カブトムシのすごさや魅力が改めて伝わったからこそ、受賞することができたのかなと。

今回の受賞を経て、今後どのようなことに挑戦していきたいですか?

僕らはこれから、会社をさらに大きく成長させていき、最終的にはカブトムシで世界を変えたいと思っています。

そのためにも、今は日本を変えるべく、自治体のみなさまとの連携を強化していきたい。今回の受賞が弾みとなって、さらに多くの自治体とカブトムシで地域おこしをすることができたら嬉しいです。農業が盛んで、有機廃棄物を環境に負荷の少ない形で処理したいと考えている自治体がありましたら、ぜひ一度お話をさせていただけたら幸いです。

昆虫で新しい産業をつくりだし、官民でみなさまの地域を盛り上げていくことができたらと願っています。

Credit:株式会社TOMUSHI

最後に、今後の展望をお聞かせください。

今後は、現在の事業をさらに拡大させ、カブトムシを使って資源を循環させる仕組みを地球全体に広げていきたいと考えています。カブトムシのおかげで地球の環境が守られ、弊社のビジョンとして掲げている「地球にやさしい未来」を実現できたら。そうすることで、世界中の人がカブトムシのすごさとすばらしさに気づいてくださったら嬉しいです。