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日々のイライラ降り積りをデータで解決、優しい社会を目指すVACAN

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お店やお手洗いがどこも混んでいて困る……
どこが空いているか事前にわかれば、こんな思いをしなくていいのに。
そんな経験をしたことは誰にでもあるだろう。

子どもを連れて大型商業施設に訪れた際に、自らも感じたペインを解決しようとするスタートアップがある。センサーやカメラなどで取得した人やモノの混雑・空きデータを元に、様々な機能を提供するVACANだ。他にも、指定のエリアの飲食店などの空き状況が調べられる「VACAN Maps」では、ミッションである「今空いているか1秒でわかる」を体現すべく、アイコンで簡単にどこが混んでいてどこが入りやすいのかがわかる。

元々は金融データ解析のバックグラウンドを持つ創業者の河野剛進(かわの・たかのぶ)氏。日常の困難は誰しもが感じつつも、起業まで至るケースは多くはないだろう。彼は、いつ、どうやって、どのようにVACAN起業に至ったのか。

これまでのキャリアと起業のきっかけについてお伺いできますか。

1社目はシンクタンクの三菱総合研究所でした。研究員として、市場リスク管理やアルゴリズミックトレーディング等の市場解析を担当しました。当時、リアルタイムで変動していくマーケットを相手にしていたことが、今、VACANで行っている、リアルタイムデータの配信というコンセプト設計につながっています。2社目はグリーで、事業戦略、経営管理、新規事業の立ち上げ、ならびにアメリカでの財務・会計を経験しました。その後、スタートアップの経営企画室長や、シンガポールでの合弁会社設立に携わり、起業に至りました。

元々、起業については、いつかしようと検討をしていました。学生時代に起業家の方々に出会い、彼らが生き生きと働く姿を見て、仕事は義務という価値観が強い日本においても、そういった挑戦を楽しむ環境や文化が浸透してほしいと感じました。けれど、思い立っただけでそれができるわけではない。機が熟したら起業しようと思っていました。

私は宮崎県の出身なのですが、都心の人だけではなく、どの地域の出身の人であっても、誰もが夢を持てる環境を作りたいということも思い続けてきました。ただ、起業をして事業を続けるには、「自分の中に本当にやりたいことがないと難しい」とも感じまして、まずは10年、社会人をやってみよう。そうしたらやりたいことも見つかるだろうと考え、就職の道を選びました。最終的に、自分自身も欲しいサービスとしてVACANの事業を始めることにしました。私は結婚しており子どもがいるのですが、週末に家族で商業施設でご飯を食べようとお店に行くとどこも混んでいて子どもが待ちきれずに泣き出してしまい、親の方も外出へのやる気が削がれてしまうということがあって。一瞬、一瞬ではありますが、少しの負が降り積もっていくと、やがて望まない結果を引き起こしてしまうことがある。私は、VACANを通じてこれを解消し、幸せな社会を作りたいと思っています。

指定のエリアの飲食店等の混雑状況が簡単にわかる「VACAN Maps」

起業後、特に苦労されたことは。

たくさんあります。初期は特に、何もかも手探りですよね。オフィスを探すところから始まり、サービスのブラッシュアップ、資金繰り、バックオフィス……どれもこれも初めてのことばかりです。起業したての経営者同士で会話をしていても、お互いに何が正解なのかわからないんですね……(笑)。きっとどこかに答えを知っている先輩たちはいると思うのですが、そもそもその人への辿り着き方もわからない。そういった初歩的なところからとても苦労しました。

スタートアップに華やかなイメージを持っている人は少なくないと思います。例えばハードウェア事業を開始しようとしたとき、「何かの物体にセンサーをつけて、データを売ったらそれで終わりなんでしょ?」というイメージを持つ人は少なくないでしょう。しかし、実態は異なる。ハードウェアの故障もあれば、取得するデータが、日程、気温、湿度で異なってきて、使えるデータにすることがまず難しい。考えるべきことは大量にあるんです。今のはあくまで例で、対象がハードウェアでなくても同じこと。どの事業を相手にしても、想像よりもずっとハードであるという現実があるのです。だからこそ、それを事前に知っておくことが大切だと思っています。覚悟がなければ心が折れます。大企業が事業をスムーズにやれているのは、これまでの経験に基づく洗練されたオペレーションがすでにあるから。スタートアップはそれを1からやるのです。

新型コロナウイルスの影響はありましたか。

コロナ禍は、私たちにとっても転機でした。私たちのクライアントの一つである百貨店やデパートは休業に入ってしまうことも増え、自分たちに何ができるのかを考えました。出た結論としては、改めてお客様に来ていただいて安心してご利用いただけるような設計。それまではなかった自治体との連携。今の「安心・安全」というコンセプトにたどり着くまで、導入先とも一緒に対話しながら事業開発を進めてきました。

コロナ前に起業した人たちは特に、いつ、何が起こるかわからないという気持ちを体感したのではないかと思います。一方で、変化があるというのは、ピンチでもあり、チャンスでもある。何ができるかを考えて変わっていけばいい。ただ、投資家というのは、投資時のビジネスを信じて出資してきてくれていますので、ビジネスをピボットさせるときはとても緊張します。投資家に対しては、これからの情勢をふまえて、事業をこのようにしていきたいという熱意やビジネスモデルについてきちんと説明していくという姿勢が大切だと考えています。

資金調達はいかがでしたか。

調達も、起業後に苦労したことの一つです。大きな転機になったのは、エンジェル投資家で現在取締役もしていただいている元DeNAの春田真(はるた・まこと)氏にジョインいただいたことです。ご経験のある方々に参画いただけるというのは、起業家にとって大きく成長するきっかけになると思います。おかげさまで2021年秋には、JICベンチャー・グロース・インベストメンツとScrum Venturesに出資いただいて、レイターステージまできました。春田さんとの出会いはご紹介。「こういう人に会いたい」と、周りの先輩起業家などに相談をしつづけることが大切です。人を介した紹介は、自然に自分との相性もスクリーニングもしてもらえますし、紹介者本人のレピュテーション・リスクもあるため信頼できる方を紹介していただけることが多いです。

もう一つ大切なのは、自分たちの事業はこれでいく、このラウンドではこういうことをする、と固執しすぎないこと。ラウンドに合わせて変化していくことが資金調達を成功させる鍵かと思います。

組織風土についてお伺いできますか。

オープンであることを大事にしています。スタートアップは基本的にEXITを目指す中でどうしてもIPOを意識し、実際に上場3年前あたりになってくると、上場準備に向けて社内での非開示情報は増えていきます。しかし、弊社では、社内の情報格差がない状況にしたいと考えています。対峙して本音を言えるような心理的安全性のある組織にしていきたいな、と。互いをリスペクトできるようにしたい。弊社ではValueを三つ掲げているのですが、一つ目が「Pride &Respect」、プライドを持ちながら相手も大切にすること。二つ目が「Trust &Lead」、信じて任せること。三つ目が「Delight &Integrity」、自分たちがワクワクしながらも誠実であること。採用においても、この三つに共感いただける方に仲間になっていただきたいと思っています。

グローバル進出についての方針を伺えますか。

既に中国の上海に拠点があり、台湾の一部でもサービス展開をしています。自分が起業するならば、グローバルにも通用するサービスをつくりたいと考えていたこともあり、メンバーにも海外の方々をお迎えしています。まずは台湾をフックにAPAC進出をしたいなと。弊社が考える「時間をどう大切にするか」というコンセプトは世界でも共通だと考えており、世界中で喜んでもらえることを届けていければと思っています。これから成長していく市場に向けても、日本発でサービスを作っていくという姿勢でいけたらと。

学生時代はどのような方でしたか。

とある財団のイベントに参加して、起業家の方々と出会うことがあり、「自分は今これをやっていていいのだろうか、自分の時間の使い方はこれでいいのだろうか」と思ったのが大学2年生の頃。多くの人に夢を与えたい、影響を与えられるような人になりたいと考えるようになりました。そこから勉強にも力を入れるようになりましたね。子どもの頃から大学1年生まで武道を続けており、武道家になることも面白いと思っていましたが、プレイヤーとしてより、経営に携わることで影響範囲を拡大できるのではないかと考えました。グリー在籍時に実際にシリコンバレーに行きピッチイベントに参加し、日本との温度感の違いも感じました。日本に起業家文化を根付かせることにも貢献したいなと感じて、さらに起業家になりたいという気持ちが高まりました。私の実家は農家なのですが、農家とIT起業は実はとてもよく似ているなと思っています。農業とは、天災という管理できない要因にさらされながら、耐え抜いてプロダクトを生み出し続けるもの。そして、そんな大変なことでも、先駆者がいれば、我も我もと挑戦しようとする者が現れる。実家を見てきたからこそ、自分もこういうことをしようと思えたところはあるかもしれません。

最初の入社先を三菱総合研究所に決めたのは、日本全体を俯瞰する事業ができるのではと思ったからでした。就職の面接時に「いずれ事業会社へ転職するつもりですが、それでも入社させていただけますか」というお願いをしたにも関わらず内定をいただけたという懐の深い企業であったことも決め手の一つでした。toC事業を展開する他の会社への就職も考えましたが、クライアントを民間に絞らず、自治体などまで幅広く事業展開しているところも加点ポイントでした。市場で起こりえる全ての課題に、まず触れてみたかったのです。

週末や空き時間は何をしていらっしゃいますか。

週末は子どもをダンス教室に連れて行ったり、一緒に勉強したり料理をしたり。子どもが生まれるまでは武道にいそしんでいたり、勉強会の開催をしたりしていました。何かを企画運営することで自分にも情報が集まってくること、他の皆さんのモチベーションが上がって相乗効果を生み出せること、と何かを企画して巻き込んでいくこと自体に、良い影響があるかなと思っています。

プレシード期、シード期のスタートアップに向けて一言お願いいたします。

起業してみて一番悩むのは調達局面かなと思います。そして、その際に、VC(ベンチャーキャピタル)からの調達を躊躇するスタートアップというのは多いのではと感じていますが、実際にVCにジョインいただけると、そのあととても強い味方になってくれます。ぜひ検討をしてみてください。また、プロダクトを作りきることに向き合うことも大切です。シード期はプロダクトを作り切れずに人が離れてしまったりすることもあります。それを乗り切るためにも、つらい局面でも信頼しあえる仲間を見つけること、その上でプロダクトに向き合い続けることが求められると感じています。

最後に、日本発のグローバルスタートアップとしてコメントをお願いいたします。

私は、自分を育ててくれた家族、地元の皆さん、日本そのものに「恩返しをしていきたい」とずっと思っています。大人になって改めて、幼少期に色んな人に支えてもらいながら育ったのだと気づきました。この輪やバトンが続いていけば、社会全体が優しいものになっていくと信じています。だから私は自分の事業にやりがいを見出していますし、スケールする意義も感じ続けられる自信がある。

とはいえ、スタートアップシーンにはまだまだプレイヤーが不足しています。私たちと一緒にチャレンジしていける方々がもっと増えてほしいと思っています!簡単なことではありませんが、どんなこともまずやらないことには成功事例というのは生まれてきません。グローバル展開も難しく感じますが、日本以外の国においても、その国でローカルに事業を展開している人達も存在しているわけで、であれば、私たちにもできないことはないのです。ぜひ、一緒に世界を目指しましょう。