「創る人と使う人がダイレクトに繋がることで、情報・モノが平等に流通し、全ての人が主役になれる世界を創造する」をミッションに、東南アジアで生鮮食品の産地直送オンラインプラットフォームをつくるという壮大な構想を掲げた日本人がいる。SECAI MARCHEを創業した早川周作(はやかわ・しゅうさく)氏と杉山亜美(すぎやま・あみ)氏だ。
「毎日あり得ないことが起きるんですよね」と笑う二人は、農業生産事業や食品流通事業への深い知見と経験を持つと同時に、逆境を乗り越えるベンチャーマインドとタフでしなやかな精神力、熱い志を持ったとにかく素晴らしい経営者だ。
二人が挑戦する東南アジアは人口ボーナス期が続き、EC市場の規模は2025年に2,400億ドルを超えると予想される。両氏にこれまでの挑戦と見据える未来についてのお話を伺った。
ニーズがあるのに誰もやらないなら、自分たちがやる
現在の事業内容について教えてください。
早川氏:マレーシアに拠点を置き、生産者と消費者をダイレクトに繋ぐ東南アジア産直ECプラットフォームを運営しています。受注から配送まで独自の仕組みを構築し、生産者のこだわり食材を新鮮な状態のまま消費者に届けています。現在はBtoB、特にマレーシアのレストランがメインの顧客で、生鮮食品(野菜、果物、肉、魚など)やデイリー食品(牛乳、卵、お茶など)を中心に、コロナの影響で要望の多い消毒液等の商品も併せて取り扱っています。
日本でも産直スタートアップが急成長を遂げました。東南アジアを舞台に事業を行う貴社ではいかがですか?
早川氏:東南アジアでも生産者がECを介して直接消費者に生鮮食品を販売するケースは増え、弊社も成長をしています。しかし、日本と違って東南アジアでは生鮮食品などの低温管理が必要な物を運ぶためのコールドチェーンや小口の集荷配送などの物流環境が未発達であることが障壁となり、消費者と生産者のニーズに対応できている状態とはいえません。そのため、私たちはECプラットフォームの開発だけでなく、自社でロジスティクスの開発も併せて行っています。
物流網が未発達な国で行う事業としては大変チャレンジングであると思いますが、どのようにして実行されるに至ったのでしょうか?
早川氏:優れた物流環境の存在がECの成長に寄与することや、産直の生鮮食品が生産者と消費者双方を幸せにすることを体感している日本人の私たちだからこそ挑戦できる事業であると考えています。日本と東南アジアでないものとあるものを両方比較できることは私たちのアドバンテージで、「今やっていることが完成すればこうした世界になる」というゴールが明確に見えている中で事業をしていますので、軸がぶれません。タイムマシン経営の発想で、30年くらい前の日本をベンチマークにロジ周りを整えつつ産直ECを立ち上げました。
お二人は共同創業という形でSECAI MARCHEを始められていますが、出会いと創業のきっかけについて教えてください。
早川氏:前職のコンサルティングファームで上司と部下の関係でした。当時はシンガポールにいて、日本の生産者がシンガポールで生鮮食品の生産から販売を行う際のコンサルティングなどを行っていました。その中でシンガポールは隣国のマレーシアから生鮮食品を仕入れることが多いと知り、マレーシアで産直ビジネスができないかというアイデアを持ちました。仕事を通じて農業や漁業、飲食などの業界や市場を俯瞰して見ることができ、その中で現地の方々に必要とされる未解決の課題が産直サービスだったのです。この課題は日系企業にもシェアさせてもらったのですが、興味を持つ企業があっても実際の事業化への動きはなくて。当時の会社はコンサルティング企業で新規事業を行うような会社ではなかったのもあり、自分でやるしかないなと。マレーシアで事業経験を持つ杉山とビジョンが一致したこともあり、創業に至りました。
杉山氏:早川から構想を初めて聞いた時、ほぼすべてのポイントにおいて共感しました。私はマレーシアで起業をして飲食店を経営した経験があり「欲しい食材がなかなか見つからない」「手に入らない」という原体験を持っていました。そのため、中間業者ではなく、生鮮食品の生産者とレストランなどの卸先に還元できるサービスをつくりたいという思いを持っているのですが、思いの部分や方向性は構想当初から早川との共通認識としてあり、また、変わっていません。また、バリューチェーンの課題はチャレンジングであると認識していましたが、お互いのビジョンが一致したので、一緒にビジネスで解決していこうと共同創業での起業を決めました。
海外での共同創業ということで、よりチャレンジングかと思います。意見がぶつかる時などに先んじて決めているお二人の間のルールがあれば教えてください。
早川氏:私たちのやりたいことは、生産者とユーザーを繋ぐことで、とてもシンプルです。そのシンプルなビジョンを共有できているので会社の方向性を決めるような大きな判断を行う際に、二人の意見が食い違ったことはこれまでありません。また、私たちは得意な領域も違うので、エンジニアの私が土台をつくり、杉山は土台の上でモノを売ったり運ぶ、というように棲み分けを明確にして、互いに行っていることを尊重しています。たまに役割の違いで、例えば、エンジニア側の意見とユーザー側の意見がぶつかるということはありますが、最終的には生産者とユーザーのことを考えてやってきました。
共同創業のメリットを感じることはありますか?
杉山氏:私は会社を起業したのは二度目なので、一度目との比較でお話をすると、今回はより事業を楽しめていると感じています。一度目の起業もマレーシアで、本当に一人で会社をつくって、そこから人を雇って経営をしていました。海外なので予期せぬことが色々起きながら、それでも自分でやりたかったことを楽しんでやっていましたが、二度目の起業ではより自分がやりたいことが実現できているという実感があります。
異国で起業することのリアル
起業して特に大変だったことをお伺いできますか?
早川氏:つらかったという感覚はなく、嫌だったという想いも全然なく、まぁ楽しくやれています。チャレンジングな部分を一つ挙げるとすると、現地のスタッフとともに日本品質の物流の仕組みをつくっていくことは今も大変ですね。日本と比較して仕組みが整っていないのは当たり前なのですが、現地スタッフにとっての当たり前のハードルを上げていかないといけないのです。例えば、日本だとお客様からお預かりした農産物を投げるなんてありえないことですが、こちらでは投げるのがまだ普通なのです。デフォルトが全然違うところから、なぜトマトを投げてはいけないかを説明し、納得してもらって私たちの考える当たり前を浸透させていくことが肝となりますが、いまだに、そんなこと起こる?という私たちにとってありえない事件、驚く出来事が起きています。東南アジアで長く働いてきたので一辺倒にはいかないことをわかっているつもりでしたが、毎日がチャレンジですね。
杉山氏:起業をしてから、振り返ると全部が大変でしたが、あえて挙げるなら人集めです。現地スタッフ(ローカルのオペレーション)も日本側のスタッフ(エンジニア)も採用に苦戦しています。まだプレシリーズAの段階で、会社の知名度が低いのですがオペレーションをつくっていくための人材が必要です。さらに、今までマレーシアになかったサービスをつくっているので、そもそも経験者がいません。ただ、カンパニーコアバリューを三つ設定していて、チャレンジ、リスペクト、クリエイティビティ、これらに共感してくれる方かどうか、わからないことでも挑戦し続けられる方かどうか、面接で判断するのは本来難しいのでしょうけれど、類似経験があるかどうかもヒアリングしつつ採用活動を行っています。なんとか日本側のスタッフが正社員で3名、マレーシア側のスタッフは20名と拡大しつつありますが、実際のところは全然足りていません。採用は今年1年で2倍の規模になることを目標としています。
聞けば聞くほど大変そうですが、改めてよく起業を決意されてここまで事業化をなさっていますね。
早川氏:実のところ、創業当初はロジスティクス領域については日本の運送系大手と提携できればと思っていました。しかし、彼らは東南アジアで日本ほどの深度で事業をしていなかったので、事業を開始して数ヶ月くらいで、自分たちでつくるしかないと腹を括りました。そして、今、彼らにもできないことをスタートアップの私たちがやっているということが結果強みにもなっています。ゼロの状態からアジャイルでロジをつくることは、1年足らずではできません。ただ、物流網の構築の大変さを知らなかったからこそ挑戦しようと思えたのかもしれません。日々「だから他のプレイヤーがやってないんだ」と思うような、超えなければいけないハードルが見えてきます。ただ、私たちが目指す世界に物流網の構築はマストですので、挑戦を続けます。
Beyond Next Venturesや楽天ベンチャーズから出資を受けていらっしゃいますが、投資家から評価されているポイント、期待されているポイントはそれぞれ何でしょうか?
早川氏:2社からは独自性を評価されていると思います。生鮮食品向けロジスティクス機能を持ち、フルフィルメントでサービスを提供していることは、日本では当たり前かもしれませんがアジアでは新規性・独創性があります。当初、日本在住の投資家の方々に向けて、私たちが取り組もうとしている事業の成長性を伝えるのに非常に苦戦しました。東南アジアのロジスティクスの実態をご存知ない方がほとんどで「食べチョクの東南アジア版?どこがユニークなの?」とよく言われていました。その点では、楽天ベンチャーズさんやBeyond Next Venturesの担当者の方々は海外の物流事情をよくご存知で「素直にすごい、尊敬します」という応援をいただきました。また、市場性などの将来性や必要性などを見込んでいただき出資していただきました。
EXITについて、また今後の戦略についてはどのようにお考えでしょうか?
早川氏:5年後までにはIPOをしたいです。上場する取引所はビジネスの場所と親和性のある国か、日本か……まだ未確定です。また、今はマレーシアで事業をしていますが、同じ課題を持っている国は多いと見ていますので、アジアでの横展開は必ずやっていきたいです。そのため、次のシリーズA、Bと進むにあたって、海外投資家にも入っていただきたいと考えています。
組織風土、採用について伺えますか。
早川氏:マレーシアではベンチャー企業は多くないため、ベンチャー企業で仕事をした経験がある方もそう多くはいません。そのため、メンバーには私たちが考えるベンチャーマインドを日々伝えながら組織づくりをしています。マレーシアの他の企業の当たり前や普通を変えた先の世界を見て事業開発をしているので「これが当たり前だから、できない」というのではなく「どうしたらできるか」を考えて行動してもらっています。その際に「ベンチャーは大手がやらないことにチャレンジするもの」と、その場で行動指針を伝えています。思考停止した状態をつくらないためにも、ベンチャーマインドは全員に持ってほしいと思っています。また、全方位で採用をしていますが、シリーズA到達以降は、CXO層の人材募集にも力を入れる予定です。特に、私たちではまだまだ知見が足りないと感じている部分はロジスティクス部門なので、事業を加速させるための同部門のトップを探しています。運送会社や倉庫会社の経験者の方などがご活躍いただけるのではと思います。
採用拡大中とのことですが、どういう方に入社して欲しいですか?
杉山氏:まずビジョンに共感してくれる方、この一言に尽きます。私たちは、後世に残る社会インフラをつくりあげるという意気込みでビジネスをしてます。また、東南アジアで働いていると、意思決定も現場も双方がスピードをもって動くことで、ものすごい速さで事業を成長させている方たちに出会います。ビジョンと気概を持って周りを動かし、スピードをもって働くことができるハングリー精神の強い方々と一緒に働きたいですね。国籍は問いません。また、プラットフォーマーの立場で農家さんやレストランの店長、物流会社の方など、とにかく多様な人々と関わりながら働くことができますので、ダイナミックに仕事をしたい方であればよりマッチするのではと思います。
社会に貢献したいと思えることが見つかったなら、まずはやってみて!
グローバルで起業家としてチャレンジを続けているお二人ですが、学生時代はどのように過ごされましたか?
早川氏:学生時代は、ほとんど勉強もせず、アルバイトをしたり、テニスサークルでキャプテンをしたりしていました。大学院にて航空宇宙技術研究所NAL(現在のJAXA)にて次世代ロケットエンジンの開発に携わり、卒業後はロケットを飛ばすことに関わりたくてアメリカに渡り、ロケットの制御機器メーカーに就職しました。好きなことをさせてくれた親に感謝してます。
杉山氏:私はずっと女子サッカーをしていて、そこから健康科学で社会貢献がしたいと考えるようになり、日本より研究が進んでいたアメリカで糖尿病や食事健康管理の勉強をしていました。当時は図書館が閉まるまでとにかく勉強をしましたね。卒業後は、当時日本で唯一、健康経営のサービスを提供していたスポーツクラブ運営企業に就職をし、人が健康に働くことを考えながら仕事をしていました。今の事業も食にまつわる分野なので、根っこは大学時代から繋がっていたのかもしれません。
リフレッシュ方法について教えてください。休日は何をされていますか?
両氏:食べることが好きなので美味しいものを食べにレストランへよく足を運びます。また、農家さんなどの生産者さんを訪問することは活力に繋がります。ただ、一番のリフレッシュといわれると、家でとにかく眠ることです。
プレシード期からシード期のスタートアップへ応援メッセージをいただけますか?
早川氏:スタートアップである自分たちが社会において何を為し遂げるのか、社会にどのように貢献するのか、明確に言えることが非常に大事だと思います。弊社はプレシリーズAラウンドでの資金調達を経験しましたが、この段階ですとお客様がいること、売上実績があることを求められます。ここに辿り着くまで、自分たちが何のために、もしくは誰のためにビジネスをするのかを言語化してきました。そして今も、経営陣がやっていること、やろうとしていることをお客様、メンバー、投資家にも伝えています。どのようなインパクトを社会に与えるのかが決まれば、どのように周りを巻き込み行動するのかも決まり、資金調達や売上といったお金の話はその後についてくるものです。本質でない部分で焦ったり迷ったりしないためにも、スタートアップをすることの意義を言えるようになることです。
杉山氏:やりたいことがあって、それを自分でどうしてもやりたくて起業をするのですから、まずはやってみる、何かしらサービスをつくってみる、このくらい気軽にとりあえず起業をしてみるのもいいのではと思います。日本だと会社をつくるのは大変なことと思っている方が多いかと思うのですが「やりたいことをやってみる」、この気持ちがあれば十分なのです。そしてプレシードやシードの頃は、そうした気持ちの強い時期ですよね。弊社はおかげさまで事業が成長してビジョンに近づいていると同時に、ステイクホルダーも増え、会社として追うべき経営指標を多岐にわたって設定する段階にいますが、初期の頃に持っていた気持ちは忘れずにいたいと思います。
また、投資家に振り回されすぎないこともお伝えしたいです。スタートアップも資金調達も手段ですので、エクイティ調達をせずに事業が進められるのであれば無理にしなくてもいい。弊社は素晴らしい投資家に出会うことができ、事業を進められています。
最後に、一言お願いいたします!
両氏:SECAI MARCHEは日本に本社を置く日系企業として、東南アジアで新しいサプライチェーン、バリューチェーンをつくっている会社です。私たちが掲げるビジョンを共につくり上げたいと思っていただける方を募集しています!マレーシアでお待ちしていますのでHPからぜひお問い合わせください!
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